話は戻り、再び艤装人間を調査する明石と主任。一度開いた胴体を元に戻した後、調べられそうな場所を、明石の力をコピーしたフレッチャーと共に次々と見ていく。
純粋な深海棲艦を素材とし、生身の部分を整形して艦娘を改造して深海棲艦に変えたと誤認させるような改造をしていることはよくわかった。精神的に追い詰めること、戦いにくくすることで繋がっているのは、実際に受けたことで嫌というほど理解している。
事実、その姿が艦娘とそっくりであることから生かしたまま捕らえ、うみどりへと運び込んだことで艦内で暴れられ、伊豆提督が負傷してしまっている。ムーサやル級がいなかったら、今頃あちらの思惑通りに伊豆提督が始末されていた可能性すらあった。
現在は身体の構造だけではなく、
いくら『工廠』の曲解を得たとはいえ、能力まで解析出来るのは主任のみ。バラしたところで、明石にはどれがそれに繋がるのかは判断出来ない。
「腕、脚、あとはもう一度胴体も確認しましたが、それらしいモノは存在しませんね。後はもう生身の部分になってしまいますか」
一番怪しいのは頭だと、明石は語る。ここまで探して存在しないなら、もう
例えば改造される前、建造された段階で何かが埋め込まれているなんてこともあるのではないかと思い、艤装人間の頭を手で触れる。
「……流石にここを『分解』するのは気が引けますね。触れてわかりましたが、頭は艤装ではないようですし」
明石は例え相手が深海棲艦であっても、そこが艤装でなければ分解は出来ない。勿論、埋め込まれているモノを見つけることすら出来ない。
あくまでも無機物のみが対象。梅の『解体』と効果範囲はほとんど同じである。
そんな中、頭をじっくりと眺めていた主任が、ココだと指を差した。そこは、ヒト型だからこそハッキリとわかる場所、額。
触れたところで、そこには何かあるようには感じない。見た目は誰が見ても普通の額である。しかし、顔を整形するにあたり、そのナニカが見えないように埋め込まれたのだろうと主任は察した。
「骨の中……では無さそうですが、表面を削って埋め込んでいるという感じでしょうか。脳に届いているかは、開いてみないとわかりませんが……かなり危険ではありますね。せめて仕様がわかれば、外部からの干渉とか出来るかもしれませんけど」
主任から意見を貰い、額を重点的に撫でる明石は、どの辺りにその改造箇所があるのかをおおよそ見当をつけるに至っている。少し強く押し込むことで少し違和感を覚えるような場所を見つけたからだ。
脳の付近、しかし骨を削るように埋め込まれたチップのようなモノ。艤装の一部を改造して直接埋め込み、それがこの艤装人間を成立させる何かになっていると確信した。
それが敵の能力のルーターとなり、さらにはイロハ級であるにもかかわらずしっかり制御が行き届いている理由にもなっているのではないかとも考える。あらゆる制御をしながら、都合よく全ての能力の中継地点となる。あまりにも便利な
「施術に失敗したら命を奪うことにもなるでしょう。主任、空いているドックを使って処置なんて出来るでしょうか」
明石に問われ、主任は出来ないことは無さそうと首を縦に振る。現在ムーサが入渠中だが、深海棲艦であっても入渠させられることが証明出来ているので、艤装人間達も処置は出来ると判断した。
入渠であれば、処置として額を切り開き、内部にあるかもしれない装置を取り除くことも可能であろう。主任達妖精さんの技量であれば、事細かく調査も出来る。そこに今や『工廠』そのものと言える明石も加わるのだから、調べられないモノはない。
「よし、では早急に進めていきましょう。こうしていることもあちらには筒抜けかもしれませんが、それでも構いません」
このルーターとしての力で、うみどりの情報を盗聴し、すべて把握しようとしている可能性もある。だが、その程度で明石が止まることはない。むしろ、聞きたければいくらでも聞けばいいとさえ思いながら作業を進める。
「私が貴女を上回りますよ。工作艦の意地がありますから。こんな、敵も味方も利用するばかりの研究なんて、確実に破壊してあげます。これ以上は何もさせない。これ以上は全て打ち砕く。だから、覚悟していてくださいね」
聞こえているかわからないが、それでもこの改造を施した敵に向けて、当てつけのように言い放った。もう負けないと宣言し、むしろ正攻法で上から殴りつけてやると言わんばかりに。
明石が蒼龍型の艤装人間を連れて工廠の奥に入っていってしまったため、それが終わるまでは次の出撃は無いと言えるだろう。すぐに終わるとも思えないため、おそらく夜が明けることも確定。
ここまでは深夜の戦いだったが、次は明るい中での戦い。空母なども全力が出せる。
「なるほどね、明石ちゃんが解析中と。ならその間に次の作戦を伝えるわ」
それを改めて聞いた伊豆提督は、艦娘達を一度食堂に集めた。次の戦い、むしろ本番のために腹拵えを充分に行ない、しっかりと休んでから本番に臨むべき。
また、工廠にはまだ捕虜が磔になっており、そこから次の作戦を聞かれる可能性も考えた。そのため、この作戦を聞かれないように工廠から離れたというのもある。
誰もが伊豆提督の負傷を気にしていたが、当の本人は気にしないでほしいと笑みを浮かべた。無理をしているわけでもない。歩くことは出来ないが、だからといって戦線離脱なんてするつもりはないくらいに体調は悪くないからと。食事も少し多めに食べているほどであり、そこは安心出来た。提供者のセレスも、伊豆提督の早期復帰を望み、精のつくモノを出している。
「明るくなってからになるけれど、次の作戦……巨大トーチカ要塞棲姫攻略戦は、海と陸での挟撃を狙うことになるわ。部隊を2つに分けるけれど、本命は陸になる」
まだトーチカのことを知らない者もいるため、わかる限りの詳細を神風も交えて伝えると、仲間達はそれはもう愕然としていた。鎮守府そのものが敵深海棲艦の艤装だなんて、普通なら考えられない。
「それほど巨大ならば、徹甲弾も効果は薄いか」
それが狙える長門の言葉に、伊豆提督は残念ながらと首を縦に振る。装甲が厚すぎる上に自己修復も兼ね備えているため、おそらくどのような攻撃も通用しない。そして、その内部で何が行われているかもわからない以上、迂闊に近付くことも難しい。
「問題なのは、その艤装にくっついてる大きすぎる腕よ。ただ振り回すだけで風を起こすし、波もすごいことになってた。そのせいで深雪の煙幕も全部吹き飛ばされちゃってる」
神風が実体験も伝えると、特異点の力すら封じられているのかと、また驚く。ここ最近の煙幕封じは露骨ではあるが、攻防一体でありながらも、うみどりにいる曲解持ちの力も基本的には効かないという、あまりにも強力な武器に、どうしたものかと頭を悩ませることになった。
だが、その巨腕にも1つだけ弱点がある。それが、トーチカ要塞棲姫の艤装の形状。巨大化してもそれは変わっていないと神風は見抜いており、それもあるから今回の作戦が成り立つとまで言える。
「陸から本命をぶつける理由は、その腕が
そう、トーチカ要塞棲姫の艤装に接続された巨腕は、艤装から後ろ、つまり
それが陸側であることから、あちらは海上から攻め込んでくる艦娘に対しては無類の強さを持つが、陸戦、対地攻撃として扱われる戦車隊や内火艇などの攻撃は強めに通用する。
本来ならば大本営の陸軍艦娘に応援を頼みたいところだったが、それをも封じるための通信妨害かと勘繰ってしまうほどに敵に都合のいい状態を作られている。特に第百一号輸送艦という陸戦屈指の能力を持つ艦娘の手を借りることが出来ないのは痛手。
「その本命なんだけれど、作戦はたった1つ。叢雲ちゃんを、トーチカに触れさせる。これが今回絶対にやらないといけないこと。そうすれば、一気に攻略しやすくなる」
これもまた知らない者が多い叢雲の能力。使えば倒れてしまうために戦闘中一度しか使えない切り札。代わりに、相手がどんな者であろうとも、優位性をひっくり返すことが出来るほどのとんでもない能力。
今回はそれを使うことで、文字通りのジャイアントキリングを可能にする。ただそれだけのために、叢雲は勇気と覚悟を以て最前線中の最前線へと向かうのだ。
「深雪ちゃん達も、叢雲ちゃんの護衛をしてもらいたい。ただ、特異点が海上にいない時点で、間違いなくあちらにはこちらの作戦は勘付かれる。多分だけれど、陸にも防衛隊は置いていると思うの」
「そりゃあそうだよなぁ。そんな死角があるって気付かないわけがねぇよ」
「だから、海上にはかなり大きめに戦力を割くわ。陸の部隊は少数精鋭。まぁ、いつもの感じと言えばいつもの感じなんだけれど、今回は勝手が違いすぎる。海じゃなく陸の戦いだから、戦力も少し
いつもとはまるで違う戦い。それでもやらねば勝ち目はない。故に、伊豆提督は残り限られた時間で部隊の選定を始めていた。
「今のところ選んでいるのは──」
陸の部隊に呼ばれた者以外は、全員が海上での戦い、巨腕を釣るための囮である。叢雲の力が発揮されるまでの時間稼ぎ。
呼ばれたのは、先程既に言われていた叢雲と深雪、深雪の力を増幅させるための電、叢雲の護衛として最上級の力を持つ『ダメコン』の夕立、そして──
「睦月ちゃん。対地要員として、みんなを陸に導いてあげて」
「えっ、えぇええっ!?」
大発動艇を駆ることが出来る者は何人もいる。それこそ、深雪も電も可能だ。内火艇を扱える者は今のところ特異点の力を得た電のみではあるが。だがあえて睦月を選んだ理由はある。伊豆提督なりの信頼。
「睦月ちゃん、大丈夫。アナタはこういう時こそ真価を発揮する」
「……ハルカちゃん……うん、睦月やってみるぞよ。みんなを陸に連れていく。その後は、艦娘として戦うにゃし!」
「ええ、お願いね」
ニッコリ笑う睦月に、伊豆提督も笑みを返した。
「残りは全員、海上での戦いをお願いするわ。可能ならば海からもトーチカに乗り込んでちょうだい」
内部に入ることが出来るかはわからないが、もし入れるようならば内側からの破壊も視野に入れる。
作戦はもう少ししてから実行する。明石の調査が終わるまでは、それに向けての準備を怠らない。