後始末屋の特異点   作:緋寺

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睦月の覚悟

 明石達が艤装人間を解析している間に、日の出を待ちつつ、次の出撃のための準備もしていく。終わった者はゆっくりと休息。あちらからの襲撃を警戒しつつも、英気を養える時にはしっかり養い、次の襲撃で確実に終わらせる。

 海上班と陸上班で戦い方が分かれることになり、海上班はある意味()として戦い、敵の視線を自分達に釘付けにしている間に、本命である陸上班を突入させる。最終目標は叢雲をトーチカに接触させることだが、出来るならば海上班による撃破も狙う。それくらいの意識でなければ、まともな陽動も出来ないだろう。

 

 その重要な役割となる陸上班は少数精鋭。最も大切なポジションである叢雲、その叢雲の護衛のために最上級の力『ダメコン』の曲解を持つ夕立、各種能力に対応出来る特異点である深雪と、その増幅装置となる電。そして──

 

「……頑張るにゃし。睦月だって、うみどりの艦娘だもん。それに、対地攻撃は多分、深雪ちゃんや電ちゃんよりも慣れてるから」

 

 仲間達を陸に導く役目を仰せつかった睦月。いつもは救護班としての仕事に従事し、最前線に出るということは殆どない。睦月自身も、自分の戦闘能力の低さは重々承知している。

 対地攻撃という非常に限られた戦場であれば、確かに他のそれが出来ない者と比べると、かなりリードをしている。深雪と電よりは確実に力を持っている。いわゆる、一日の長というヤツだ。

 

 ただし、睦月が扱えるのは上陸用舟艇、つまりは大発動艇()()。水陸両用である特二式内火艇の運用は不可能。そうなると、基本的に出来るのは物資の輸送と、陸戦が非常に得意な妖精さん達である戦車隊の運用となる。

 

「睦月が4人を遠回りしながら陸まで運ぶのね。ギリギリまで温存してた方がいいにゃし」

「そりゃありがてぇけど、大丈夫か?」

「勿論。()()()()()()、ここで役に立てるのね」

 

 このメンバーの中でも、睦月が特に秀でているところ。それは『燃費』である。

 他の者と同じことをするにしても、消費するエネルギーがかなり小さい。その分火力が出ないと言われてしまったら何も言い返せないのだが、その燃費の良さから、この部隊の中では特に長時間の運用が可能とも言える。

 陸に向かい、戦闘を行ない、そしてうみどりに戻る。この一連の流れを実行したとして、深雪達が大きく消耗したとしても、睦月はおそらくケロッとしているだろう。意識をしていれば、消耗を大きく抑える行動も可能だった。テンパるとそれを忘れてしまいがちなメンタルであることは少し残念ではあるのだが。

 

 睦月が選ばれたのは、この点が非常に大きい。何せ、今回の目的が達成出来たならば、叢雲が確実に倒れることがわかっているからだ。

 最終的に陸からまた海に出てうみどりに戻ってこなくてはならないことを考えると、それが可能である者は、絶対に最後まで生き残らなくてはならない。睦月以外の4人が負傷したとしても、睦月がいればとりあえずはうみどりに戻ることが出来る。最低限、叢雲を運ぶ者にはなれる。

 勝利であっても敗北であっても、撤退出来るルートを確実なモノにするための、戦闘を極限まで行なったとしても、燃費の良さから最後まで動くことが出来るであろう睦月が、仲間達を連れて逃げることが出来ればいい。

 

「叢雲ちゃんは、睦月が絶対にうみどりに送り届けるのね。だから、現場では盛大にやっちゃってほしいのね」

「……ええ、任せて。任せるから」

「睦月にお任せ! と、言いたいところだけど、やっぱり不安はあると思うのね」

 

 睦月自身が理解している、()()()()()の部分。火力が足りない。耐久力が足りない。どうしても生まれている、艦娘としてのスペックの差。艦種は仕方ないとしても、同じ駆逐艦であっても差がどうしても出てくる。

 

 睦月はうみどりの中では戦闘力に秀でていない艦娘だ。救護班を買って出ているのも、そこを理解しているからこそである。訓練はしっかりと積んでいるおかげで、並の艦娘と比べると実力は同じくらいかむしろ上とすら言えるレベル。

 とはいえ、やはり今回のような特殊なケースに、戦闘員としても参加することになったのは、不安に繋がるものである。絶対に負けられない戦いに投入される緊張感は普通ではない。ましてや、相手が()()()()()()のなら尚更だ。

 

「だから、深雪ちゃん、睦月にも特機……貰えるかにゃ」

 

 それを脱却するため、睦月は埋められない差を埋めるため、そして、何よりも仲間のためになるために、特機の力を欲した。勿論、寄生されるのは怖い。それに、なるべくその力に頼るのは止めた方がいいのはわかっている。それでも、みんなと共に歩くには、今だけでも力は持っておきたいと切に願った。戦う力ではない、()()()が欲しいと。

 

「わかった。あたしとしても、睦月が危険な目に遭うのを見ていたくないからな」

「にゃし! ありがとう、深雪ちゃん」

「『増産』で増やしたヤツ以外って、まだ浮いてただけか。確か磯風のとこから回収したのがあったよな。明石さんに許可貰って、1つ貰うか。1号はあたしの補佐をやってもらわなくちゃいけねぇから貸し出せねぇし」

 

 そんな睦月の心意気に、深雪も快く特機の貸し出しを良しとする。睦月のためにも、その覚悟をカタチにするためには必要だと、その気持ちを汲んで。

 

 実際、特機はまだ数体余っていた。そのうちの1体を借り受けることは容易であり、理由も理由であるため、誰もが睦月のその覚悟を受け入れた。

 とはいえ、調査をしている艤装人間にはなるべく聞かれないように相談し、ある意味()()()()力を得ることになる。うみどりの面々が力を得る方法が、外部に漏れないようにするための処置であった。

 

 

 

 

 実際に特機を寄生させるのも工廠ではない場所で。どのような反応をしてしまうかはみんなわかっているので、今回の陸上班である睦月含めた5人がレクリエーションルームに集まって実施する。

 深雪と電は特異点として、夕立と叢雲は今回のチームであり、先んじて特機を貰った者として、睦月の変化を見届ける。

 

「よ、よーし、じゃあ、睦月もやるにゃ!」

 

 いざ特機を目の前にすると、少しだけ尻込みをしてしまうモノである。だが、電磁波照射装置を以てして敵の忌雷を駆逐する際には、その恐怖をなんとか乗り越えた実績もある。それに、特機はその仕草が何処か可愛らしいところもあるので、恐怖心さえ持たなければ、それなりに可愛く見えてくるモノであった。

 深呼吸で息を整えて特機を見据えると、特機も睦月に顔を向けて、小さく頷くように蠢く。

 

「今日はよろしくね。睦月に、睦月にみんなと一緒に行ける、みんなを守ることが出来る力を、ちょうだい!」

 

 覚悟を決め、睦月は特機を胸に押し当てた。特機は睦月の意志を汲み取り、なるべく刺激を与えないように体内に侵入。睦月に優しく、それでもその願いを叶えるために、その力を発揮する。

 

「頑張れ、睦月」

「頑張って、なのです!」

 

 特異点の応援に、睦月は少し震えながらも笑顔で受け入れた。その瞬間、特機の効果が一気に発現。睦月の身体を駆け巡り、白い靄が溢れ出す。

 

「にゃっ、にゃぁあっ!」

 

 どうしても声は出てしまうもの。夕立は温かい笑みを、叢雲はこうなってしまうよなと苦笑して、睦月の変化を見守った。

 なりたい自分になれる、願いを叶える特機の力。その靄の中で、睦月は優しい願いを胸に秘め、それを外へと溢れさせた。

 

「にゃあいっ!」

 

 そして、強く手を振るうと靄が晴れる。その中から出てきた睦月は、仲間を守ると決めたその心を体現するような、勇ましい姿へと変貌していた。

 

 普段の制服、セーラー服とカーディガンは失われ、より戦いやすいようにと身に付けたのは、ノースリーブのジャケット。その内側にはボディスーツのようなインナーが身体に張り付いていた。

 下もスカートではなく、ハーフパンツ状のボトムス。そして、睦月のトレードマークとも言える黒いタイツはそのまま。

 

 総じて、これまでのどちらかといえばサポーターである睦月とは違った、前衛でも戦えるような戦闘スタイルへと変化を遂げた。

 その姿を見た仲間達は、おおと声を上げるほど。

 

「ど、どうにゃし? ちょっと頑張ってみたんだけど」

「すげぇいいじゃん。様変わりしたけど、なんか戦えるって感じだな」

「なのです! これまで以上にもっと頼りになるって感じなのです!」

 

 深雪と電には好評。褒められるとてへへと少し頬を赤く染めつつも笑顔が出てきてしまう様子。

 

「これなら戦えるっぽいね。動きやすそうだし、夕立もこーゆーのがいいかもしんないっぽい」

「確かに……特に真っ直ぐ進まなくちゃいけないし、私も装いを替えようかしら……」

 

 夕立と叢雲はまた違った反応。睦月の新たな姿に、自分も同じモノを身につけてもいいかと少し悩んでいた。

 2人には特機が既に寄生しているので、やろうと思えば服装も変えられる。夕立は既に自分の望む通りの非常に動きやすい姿を取っているが、叢雲はあくまでも艦娘叢雲としての姿を維持しているため、カテゴリーWであると言われないとわからない姿。

 

 そもそも今回はこれまでと違う陸戦だ。服装も相応のモノを用意した方が動きやすいかと考えてしまう。本来ならばこれで充分なのだが、今回ばかりは全て勝手が違うと言えよう。

 そう考えると、今回の睦月の変化は、陸戦にも適した最善のモノとも言える。動きやすいがある程度は厚着。肌はなるべく見せず、裏側から潜入するには割と持ってこいなスタイルでもあった。

 

「明石さんが調査してる間に、みんなでお揃いにするってのアリじゃね?」

「ぽい! 夕立もこれがいいかも!」

「戦いやすさを考えるなら、これはいいかもしれない。私も賛成」

「なら、イリスさんに頼んでみるのです。妖精さんの力を借りたら、制服とかもすぐに作ってもらえるかもですよ」

 

 あれよあれよと決まっていき、睦月は自分の変化が周りの変化にも繋がって行くことに何処か気恥ずかしさを感じていた。ただ、みんなで一緒の姿で、同じ目的に向けて戦いを挑むというのは、一致団結している感が出て、これまで以上のやる気に繋がった。

 

「っし、そうと決まったらすぐに動こうぜ。今回はいろいろと勝手が違うからな。こういうところでも、あたし達の()()()()を見せつけてやろうぜ!」

 

 戦いに向かうための掛け声とはちょっと違うものの、互いの信頼をカタチにするようなものとして、その準備を進めることになる。

 

 結果として、この案は採用。睦月の身につけた衣装が、海上戦より陸戦に合いそうだと判断され、すぐさま陸上班のための衣装が妖精さんの手によって作られるに至った。深雪はしっかりと深海棲艦としての姿の分まで。

 

 

 

 

 その準備が終わる頃には、明石による最後の調査も終わり、陽も昇ろうとしていた。朝日を受けながら、ついにトーチカ攻略戦が始まる。

 




睦月の陸戦用新規衣装はおおよそ『シグマシスターズパラドクス』です。脚の装備は無し。でもごっつい靴はそのまま。
各々アレンジをかけており、深雪と夕立はボトムスがハーフパンツ状ではなく丈の短いショーパンだったり、夕立と叢雲は腹回りの布地が無かったり、睦月と電はアームカバー部分がついているけど、他の3人はついていなかったりと、そんな感じでイメージしてもらえると。


先日告知させていただきましたが、1/4は投稿をお休みさせていただきます。投稿時現在、艦これ新春ライブに参加すべく、横浜に向かって出撃中であります。
次回投稿は1/5になるかと思いますので、ご了承ください。
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