後始末屋の特異点   作:緋寺

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後出しジャンケン

 陽が昇り始めた朝、再出撃の準備を整えたことにより、艦娘達は改めて工廠に集結していた。

 その時には、これまでに捕らえていた捕虜達は明石の力によってより強固に束縛されており、絶対に暴れられないようにされている。『改造』によって()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、いくら全身艤装でパワーアシストも使い放題であっても、何も出来ないと断言出来る。

 

 明石がそこまでやったのも、この艤装人間達の裏にいる者に対しての宣戦布告。艤装人間自体が敵の能力の中継地点になっていることは見抜いているが、盗聴してきているのも見えているから。下手したら盗撮までされている。

 

 これ以上の好き勝手が出来ないように、心を鬼にして、というよりは非情になって処理をした。()()()()()()()()()()と、艤装人間の向こう側にいる者にも言っているほどである。

 

「まだ痛むけれど、少しは落ち着いてきたわ。ありがとうね、酒匂ちゃん」

「ぴゃっ、結構重傷だから、絶対安静だよ、ハルカちゃん」

 

 再出撃を指揮するのは当然伊豆提督。車椅子から降りることなんて出来るはずもなく、酒匂に手当てを続けてもらいつつも、それを押してもらって工廠へとやってきていた。

 どういう状況にあっても、この策を敢行するためにはトップである伊豆提督の指揮が無ければ進まない。

 

「よし、あたし達も準備出来たな」

 

 陸上班である深雪達も準備完了。特機を寄生させたことによる変化で様変わりした睦月の衣装に全員が合わせるカタチとなり、まさにチームと言わんばかりの見た目になった。

 睦月は少し恥ずかしそうだったが、仲間達が思った以上にノリノリ、むしろイリスがその案を聞いて是非やりましょうとニッコニコで妖精さんと共に衣装を作ったので、もう後戻りは出来ない。むしろ、こういうところに賛成してくるようなタイプではなさそうな叢雲ですら、これが良いと言い出した程なので、もう何も言えなかった。

 

「なんか足がいい感じに踏み込めるなコレ。海じゃなくても、うまく動けそうだぜ」

「陸上班は海の上よりも陸の上で自由に動ける方がいいと思うから、脚部艤装は独自にさせてもらったわ。睦月のその靴なら、水陸両用のモノとして扱えるでしょうから、デザインモチーフとして妖精さん達とざっくり合わせてみたの」

 

 他の艤装はともかくとして、脚部艤装だけはオリジナル。陸の上でも戦いやすくなるようにと、グリップを強めにしたり、足に合わせた形状の柔軟性を持ち合わせた、各々のためのオーダーメイド。深雪だけでなく、夕立や叢雲も、床を踏みながら軽く動き、確かにこれは違うと納得していた。

 5人分とはいえ、これを短時間で用意してしまったのが妖精さん達の実力。陸戦を想定しているなんてことは無かったため、イリスの発案なども組み合わせることで、ここまでのことを成し遂げていた。

 

「ドックを使った敵の調査、完了しました」

 

 そして、今回は誰よりも気合を入れて戦いに参加している明石が工廠の奥からやってきた。カテゴリーWとなっていることを知らない仲間達は、今の明石の姿──普段の制服ではなく新たなツナギ姿──を見て少し驚いた。

 そんな視線は一旦置いておいて、明石は伊豆提督に調査結果を報告し始める。

 

「主任が見つけた通り、敵の額、肌の下にチップが埋め込まれていました。顔を艦娘に似せる際に埋め込んだと思われます。むしろ、それを埋め込んだ後に()()()()()()と艦娘の顔に仕立て上げたんじゃないかとも思いますね」

 

 艦娘の顔になっているのは、攻撃を躊躇わせる作戦ではと考えられたが、順序が逆。チップを埋め込むために顔を剥いで埋め込み、元に戻す際についでに顔を整形したと考えられた。明石が話すたびに、主任も同意するようにうんうんと頷く。

 ある意味、敵の陰湿さを見せつけられているかのようだった。何もかもを道具として扱っている。

 

「ともかく、このチップの方はこちらでも調査済みです。艤装の一部と考えてもいいですね。私が弄くり回しているのも、あちらには筒抜けになってしまっているとは思いますが、まぁそこは仕方ないと諦めることにしました。バレているぞとあちらに伝えることで牽制することにしましたから」

 

 それがこれですと、調査済みのチップを見せる。親指の爪程の大きさのそれは、額にしっかり食い込むように鋭利な爪を持っており、それが頭蓋骨に傷をつけながらもガッチリと噛みついていたらしい。簡単には取れなかったようで、ドックで骨そのものを削りつつ、修復しながらどうにか取り外したとのこと。

 

「このチップは、埋め込まれた者の見たモノ聞いたモノを直接あちらに送る仕様になっていました。というか、小型の通信機ですね」

「よくわかったわね……」

「私ではなく主任が調べ上げてくれました。あくまで私は『工廠』なのであって、システムを私経由で簡略化と高速化しているだけなので」

 

 高速化という言葉に伊203が小さく反応したようだが、そこは一旦置いておいて。

 

 明石の力の真骨頂は、自らを工廠として動くことで、妖精さんの力も増幅出来るということでもあった。その効果により、工廠妖精のスペックもアップ。主任も例に漏れず、その力を底上げされていた。

 調査能力も割増し。直感ではなく、その構造からシステムまでしっかり根拠まで込みで確定させている。非常に信用度の高い調査結果となっていた。

 

「通信機を媒介に、あちらの力が発動すると見ています。なので、『通信妨害』ではなく、『通信』そのものの力ですね。こちらには誤報による妨害を、あちらには傍受した情報を届ける。ただし、このチップのような媒介がなければそれが出来ない。そんな感じですかね」

 

 自ら通信するわけではなく、媒介経由であらゆることが実現出来る力であると明石と主任は睨んでいる。おそらくこれから出てくる敵は全てがこのチップが埋め込まれており、その一挙手一投足が全て、うみどりの戦い方を監視しているモノになるのだろう。

 1つ目の裏切り者鎮守府攻略の際に子日が『電探』の曲解を『通信』の曲解だと睨んでいたが、実際の『通信』はここまで応用が利く上に、数まで揃えることが出来てしまえばここまで厄介な使われ方をすることがわかる。

 

「あちらの能力による通信妨害なので、どうにかするためには、ここにいる捕虜全員のチップを無効化する必要があるでしょう。ちなみにこのチップは無効化済みです。今こうやって話している情報すら拾われたら困りますから」

「でも、チップ自体は完全に埋め込まれているのよね?」

「はい。取り除くには、額を裂くしかないですね。なので、手っ取り早いのは……捕虜の頭を全て破壊することです。一番早くて一番効率がいいでしょう。今ならば、イリスさんに彩を見てもらい、カテゴリーRである確証が得られたならば、撃破することにより、その機能を止めることが最善です。ですが、今回は違う手段を使いたいと思います」

「違う手段?」

 

 伊豆提督が問うと、明石がはいと()()()()()()()()

 

「敵の能力を逆手に取ります。艤装人間(カメラマン)には感情がありませんから。ただし、うみどり内部に侵入出来るまで攻撃を抑えていたという事実もありますからね……。遠隔操作でそうしていたのか、それとも薄いながらも意思を持っているのか。後者の場合はもう少し反応が変わるとは思うんですが」

 

 その辺りはまだ確実な答えが出ていないようである。チップが額に埋め込まれていた辺り、『通信』によって簡単な命令を送り込まれていたのかもと思われていたが、そこまで出来るのかは主任は何とも言えないという結果。

 これは深海棲艦、延いてはイロハ級の在り方にも関わってきそうなので、少し慎重に調べる必要があるのではとも考えている。上手くやれば、あらゆるイロハ級に指示が送れるようになるため、悪用出来るような技術に繋がってしまう。

 

「少なくとも、こちらからも情報をぶつける手段を開発しました。傍受するならしてもいいけれど、しっかり誤報を流させてもらいます。自分の力をそのままお返しされると思っていないでしょう。それに、こちらへの通信妨害もキャンセル出来るようにアイテムを開発しましたよ。今の力の賜物ですね」

 

 そう言って取り出したのは、普段とは違う通信機器。うみどりのシステムからは離れており、敵の通信妨害に対してのみ徹底して対抗出来るように設計された、今回のみの対抗策。

 カテゴリーWとなった明石の『開発』だからこそ作り出せた、完全な()()()()()()()()。あちらが『傍受』を達成しようとするのならば、それに『通信妨害』をぶつける。『通信妨害』を達成しようとするのならば、『妨害を妨害する』というシステムを作り出すことが出来る。考えた通りの開発が可能という極端な再現を今ココで見せた。

 あちらがやってくることをそのままお返ししているだけ。今の『工廠』と化した明石だからこそ可能な、非常に極端な開発である。

 

「1つは睦月さんに、あと2つあるので海上班に振り分けてください」

「ありがとう、明石ちゃん。これがあれば1つ苦しい場面は潜り抜けられたわね」

 

 通信が出来るという安心感。これならばより戦いやすくなる。こうなったならば、艦娘達の士気も凄まじい。苦しめられた敵の能力を封じ込め、今だけはいつものように戦えるのだ。ここまで来たら、あとはもう出撃するのみ。

 

 準備も万端となったところで、伊豆提督が全員に行き渡るように声を張り上げる。

 

「海上班は、あくまでも命を優先してちょうだい。巨大トーチカの腕には一番気をつけて、ダメだと思ったら撤退しても構わないわ。とにかく、攻略には無理をしないこと。深追いは厳禁よ」

 

 うみどりのいつもの主軸。これは言わずとも全員が理解していること。

 

「陸上班も勿論同じよ。それ以上に、これまでとは違う戦いになるわ。今回の戦いで絶対に勝たなくちゃいけないというわけでもない。これは威力偵察だと割り切って、行けるところまで行ったら帰ってくるでもいいからね」

 

 勝利が目的ではないと念を押す。だからこそ、伊豆提督には皆がついてくる。無理はしない、させない、許さない。そんな作戦は絶対に立てない。自分で指示が出来なくても、それだけは艦娘達の中に根強く残っている。

 

 

 

 

 

「それじゃあ……行きましょうか!」

 

 鬨の声に艦娘達が声を上げる。そして、一斉に出撃。

 ここからが本当の戦い。攻略をすべく、全員で前を向いた。

 

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