明石による敵の能力を克服した通信機も渡され、ここからが本当の戦いが始まる。
海上班と陸上班に分かれて、挟撃をすることによってトーチカに接近、そして切り札である叢雲の力をぶつけることが今回の目的。
そうするために必要なこととして、まずはこの海域を監視しているであろう敵の偵察機を全て撃破することを優先する。
「まずは私達がみんなのために目的を達成しないとダメよ。確実に偵察機を潰すわ」
偵察機にぶつけるのは、勿論空母の艦載機。それを指揮するのは、やはり加賀である。敵の艦載機のスペックが完全に把握出来ているわけではないが、日が昇ってくれたおかげで、夜間戦闘機ではなく、いつもの艦載機が使えるようになった。ただそれだけでも、これまでとは違う戦いが可能になるだろう。
「撃墜出来なくても、なるべく降下させればいいですよね」
「ええ、むしろその方が確実になるわ。私達が絶対に墜とさなくちゃいけないわけじゃないもの」
「了解です。制空権を取るために、少し偏った編成で……!」
加賀に続き、翔鶴と祥鳳も艦載機を発艦。そのうちの一部は、攻撃すらしない艦上偵察機。敵の偵察機をいち早く発見後、それを逃がすことなく追い詰めることを目的としている。
相変わらず艦載機の妖精さんとの通信には不安があるので、モールス信号での会話となるのだが、今回は最初からやることが決まっているため、妖精さんも指示を仰ぐことなく目的を達成するために突き進むのみ。
「少し過剰とも言える彩雲ですが、偵察機を追い込むため、ですからね」
「より高高度を取られていたとしたら……」
「その時はその時よ。本当なら基地航空隊が使いたいところだけれど、私達には無いモノねだりだしね」
基地航空隊があれば、艦娘では飛ばすことの出来ない局地戦闘機などが扱えるようになり、より敵偵察機に圧をかけられるようになるのだが、うみどりにはそれがない。陸に居を構えていない移動鎮守府の数少ない欠点。
その分、空母隊が頑張るしかないのだが、うみどりの面々はそれを充分に理解し、出来る限りを徹底、無茶をすることなく引き際も考え、あくまでも『いのちだいじに』から作戦は変えない。
「ともかく、追い詰めて、降下するように誘導出来ればこちらのモノよ」
「ですね。
空母隊が目をやる方にいるのは、敵偵察機をどうにかするために待機している防空隊。今は敵偵察機が対空砲火の届かない場所にいるために、じっと空を見上げてその場所を確認し続けているだけなのだが、いざ自身の
むしろ、加減なんてするわけがない。それのせいでうみどりがピンチになっているのだから。
「まだ我々の『防空』が動かん。ならば、射程範囲には入ってきていないということだな」
「そうですね……防空の範囲外からこちらを見ているというのは恐ろしいものですが」
防空隊の居相姉妹が空を眺めながらボソリと呟く。彼女らの持つ力『防空』は、素人であっても一流顔負けの対空砲火が出来る、敵艦載機を自動的に感知して撃退するまで撃ち続ける能力だ。それが反応しないということは、敵の偵察機がかなりの高度からうみどりを監視しているということに他ならない。
雲の上から海上を眺めているとしても、それは目が良すぎるというモノである。それこそ、今海上にいる
「雲を晴らすことが出来たとしても、アレは流石に届きませんね」
防空隊隊長である秋月が目を細め、何かを見つけたかのように指を差す。居相姉妹がその指の方を見たところで、拡がる青い空と、所々に散る雲しか視界に入ってこない。だが、秋月はその姿をその目に捉えていた。
「……隊長、私には視認出来ないんだが」
「すみませんが私にも」
「僅かに動く米粒くらいには見えますよ。空母隊もアレには苦労しそうですが……」
どれだけ目を凝らしても見えておらず、恵理に至っては手を双眼鏡のようにしてより見やすくしてみようと試みたが、やはり捉えることが出来ない。舞亞は秋月の強さを再認識する。視野の広さと共に、視力もとんでもないと理解させられる。
また、それと同時に自分達が力を得ただけの一般人であることを思い知らされる。『防空』の曲解が自動で事を成してくれるタイプの力だからどうにかなっているものの、当の本人の力は深海棲艦の身体を持っている
「単純な攻撃でなければ、私達はサポートにすらなりきれないかもしれませんね……」
少し弱気な発言をする舞亞に、秋月は笑顔を向けた。
「そんなことはありませんよ。あの対空性能は目を見張るものがありますから。全自動かもしれませんが、あるのとないのとでは雲泥の差です。私も『連射』を手に入れたとはいえ、圧倒的な火力の差があります。貴女達のこと、物凄く頼りにしているんですから」
秋月にそう言われると救われた気分になる。舞亞がこれなら、恵理はさらにニコニコである。
「我々にしか出来ないことをしようではないか姉上よ。この力を頼りにしてくれているのならば、それに応えなければ」
「……貴女は楽観的で羨ましいですよ」
「豪胆と言ってくれ」
まだ視界に敵偵察機が入っていないようだが、秋月の指示する場所は常に見続けることにしている。いつその力が発動するかわからない。
「空母隊の方々が、これからアレを追い込んでくれるでしょう。ほら、よく見ていてください」
秋月が言うが早いか、動きを見せ始めたのは、空母隊が発艦させた艦載機達。敵偵察機の姿が見えずとも、そちらはハッキリと視界に入ってくる辺り、まだ高度が足りていないということに繋がる。
「足りていないようだが……あれで追い詰めることが出来るのか……?」
恵理にはそれがうまく行くようには見えていない。舞亞も眺めている限りでは何も出来ないように感じている。だが、秋月はこれでいいのだと自信を持って話す。
「私からも敵偵察機が見えなくなりました。つまり、こちらの艦載機があちらの視界を封じたということです」
「数を並べて、海上を見る邪魔をしていると……?」
「監視をしているわけですし、こんな単純な手段でもあちらのやり方を挫くことが出来れば変わります。それに、これまでは夜でしたが、今は明るい。艦載機もこれまでより動きますよ」
夜戦の際には出来なかった、多くの艦載機による視界封鎖。まるで縄張りに入ってきた余所者を追い返すかのように、周囲を威嚇するように飛び回る艦載機。高度を変え、数を変え、常に真下が見えないように念入りに飛ぶことで、敵偵察機に対して追い込みを始めていた。
こうしている間にこちらは動き出すぞと大胆に動くことで、あちら側に少しずつどうにかしなければという気持ちを植え付ける。これで諦めてくれるならば何も問題はない。諦めずに艦載機を墜とそうとしてくれるなら、尚更釣りやすくなる。
そして、敵偵察機の起こした行動はというと──
「……動いた。少し降下」
あちらの偵察機の方が若干スペックが高いのか、空母隊の艦載機を振り払うように急な切り返しを挟みつつ、高度を下げることで視界の確保をし始める。同時に射撃も繰り出し始め、こちらの艦載機を墜とそうともし始めた。
敵偵察機が深海のモノであることもあり、そのスペックは艦娘の艦載機よりも高い。射撃の性能もなかなかのものであり、避けるのに手一杯になっていた。だが、熟練者揃いの艦載機妖精は、敵偵察機の動きを読むかのように旋回を続け、かろうじて避けつつも、今の位置から上昇させないような位置取りを心掛ける。
「まだ届きませんか。でも、狙おうと思えば狙えます」
「この距離をか」
「はい、見えているなら」
秋月が目を光らせたかのように、前よりはハッキリ見えている敵偵察機に対して、指を差すようなポーズで狙いを定める。群れを相手にしているのではなく、1機だけを相手にしているということもあり、しっかりと照準を合わせて、一発で墜とすという気概も見えた。
「もう少し降りてくれれば……今!」
仲間の艦載機の尽力もあり、敵偵察機がより高度を落とした。それを見過ごす秋月ではない。その一瞬の隙を狙い、対空砲火を放った。
秋月の高角砲の最大の火力を以てすれば、今の高度の敵偵察機ならばギリギリ届く。掠ってしまえばこちらのモノ。直撃なら万々歳。
しかし、敵偵察機はその対空砲火を
これにより、下からも狙われているということをあちらに明確に示してしまったことになる。
「流石に避けますか。ですが……ここからですよ」
掠めることもなく避けられてしまったとはいえ、本来の挙動とは違う行動をしたことにより、付け入る隙を少しでも作ったことにも繋がる。
故に、仲間の艦載機達が一斉に攻撃を開始した。そもそもが対空砲火が届くくらいには高度を下げているので、艦載機の攻撃だって届くようになる。
むしろ、これまでは視界を塞ぐために動いていたが、もう塞ぐ必要もない。全機を使うくらいの勢いで、1機の偵察機を確実に撃墜するために攻撃を開始した。
それでも普通の艦載機には出来ない動きが出来る深海の艦載機は、急ブレーキをかけながらバックすらするため、なかなかに墜ちてくれない。ほとんどドローンのような動きで回避をしながら射撃まで繰り出してくるのだから、厄介極まりない。
「あちらはまだ
「わかっていない?」
「はい。最初の高高度を維持せず降下し、それでも邪魔をし続けていることで少しずつ、本当に少しずつ先程から高度をさらに落としているんですよ。だからそろそろ……」
居相姉妹の艤装が駆動し始めた。自身の防空識別圏の中に、敵機が入ったことに他ならない。
空母隊から発艦した艦載機は、敵偵察機の高度を気付かれないように落ちるように動き回っていたのだ。下を取り続けていたモノ達は、今や上を取り続けている。もう上昇などさせない。そして、少しずつ圧をかけていくことで、全体的に空の戦場を下げて行った。
その結果が、『防空』の曲解の範囲に入るところまで高度が落ちていたのだ。そうなってしまえば、もう逃げられない。
「来たか! ならば、このエレクトラの対空砲火で、完膚なきまでに滅してやろう!」
「はぁ……今回はまぁいいでしょう。仕事をするのなら何も言いませんよ」
ノリノリの恵理が厨二病全開で対空砲火開始。舞亞もそれに合わせる。
ここからが『防空』の曲解の真骨頂。味方の艦載機を判別し、敵機のみを的確に墜とす。防空識別圏に入っている間はそれを止めない、止まらない。
高すぎる場所にいるのだとしても、その対空砲火は確実に敵機を捉え、そして──
「ヒット! ようやく空の目を叩き墜としてやれたな!」
恵理の対空砲火が避け続ける敵偵察機に直撃。ついに撃墜に成功した。
空からの目は、一旦これで封じることが出来た。ここからが進軍の始まりである。