後始末屋の特異点   作:緋寺

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急がば回れ

 高高度からうみどりの様子を監視していた敵偵察機は、空母隊と防空隊の連携によって撃墜された。これによって、一時的かもしれないが敵の監視の目が失われ、こちらの行動が筒抜けではなくなる。

 捕虜の方も、明石の開発した通信妨害を発生させる設備によって、盗聴と盗撮をシャットアウトしているどころか、あちらがやってきたことに対しての意趣返しと言わんばかりに誤報を流していた。

 

 今ならば、出撃も可能だろう。海から攻めるのは当たり前。陸から攻めることを隠して進むことが出来るはずだ。

 

「今のうちに行く。睦月、頼めるか」

「任せてほしいのね。みんなで大発に乗って!」

 

 陸上班はこの隙を見て発進。基本的には体力の消耗を抑えるため、睦月の大発動艇に全員が乗っていくことになる。

 睦月自身は操縦者として1人海上で操縦。自分も乗ればいいのではと深雪や電が言うものの、むしろ操縦はこっちの方がやりやすいとやんわり断り、睦月を先頭にしたほとんど()()()()にしか見えない陸上班がうみどりから出るための準備を終えた

 

 今ならばある程度はあちらに勘付かれずに接近が可能。偵察機が破壊されたことで2機目3機目を飛ばしてくるだろうが、こうなったならば空母隊も先手を取るために動き出すだろう。偵察機を高高度にまで飛ばす余裕なんて与えないように。

 

「それじゃあ、行ってくるのね!」

「ええ、気をつけて!」

 

 伊豆提督からの声援を受け、大発動艇に乗った4人が腕を突き上げる。それを操縦する睦月と、笑顔で腕を突き上げた。

 

 

 

 

 陸上班の行動は非常に簡単である。本来真っ直ぐ鎮守府に向かうところを、大きく迂回して陸に向かい、そこからさらに迂回してトーチカの裏側を取ること。そのためになるべく消耗しないように心掛け、いざトーチカに接近する際に全力を出す。

 海の上では睦月の大発動艇。そして陸に上がった後は──

 

「電、大丈夫か?」

「なのです。ちゃんと操縦出来ているのです」

 

 マルチツールもコントロール出来る電が操縦する内火艇を使用する。睦月は大発動艇は使用出来ても内火艇は使用出来ず、水陸両用の戦車が扱えるのは電のみ。温存のためにはここで役割をしっかり分担して、必要最小限にしなくてはならない。

 

「ごめんね、電ちゃん。睦月、カテゴリーWになってもその辺りは装備出来るようになれなかったぞよ」

「大丈夫なのです。適材適所で行くのです」

「にゃし! 陸でも睦月は頑張れるからね」

「にしても、装備も相当ゴッツゴツになったな」

 

 大発動艇しか装備出来ない分、睦月は完全に対地仕様の装備をしていた。WG42(ヴェーゲー)に加え、対潜迫撃砲も装備することで、万全を期している。

 もし万が一ここで潜水艦の妨害を受けたとしても、対潜を兼ねたこの装備を使うことで、ある程度の撃退を可能にしている。

 

「ただの砲撃だけじゃダメっぽい。夕立達だってロケランは持ってるんだし」

「まぁな。叢雲を押し通すためには、ちょっと地形変えるくらいは覚悟の上だ」

「歩きやすい道にしてくれると助かるんだけれど」

「そこは上手いこと頼む」

 

 深雪や夕立も、睦月と同じようにWG42(ヴェーゲー)を装備している。近づくための露払いも出来るし、トーチカ自体にも多少は牽制出来るはずだと。

 とはいえ、この2人は基本的に通常の攻撃をメインにしている。WG42(ヴェーゲー)以外は普通の装備。深雪は消し飛ばす砲撃を放てるように主砲を装備しているし、夕立も同じように砲撃をメインに戦うつもりである。魚雷は流石に危険であると控えているが、爆雷は念のためと持っている程度。

 叢雲は逆に、身を守ることをメインにしており、主砲以外は回避能力を上げるために缶やタービンを装備。あとは、こちらもまた念のためと、近接戦闘が可能になる武器を持ってきていた。

 

「これは使わないことを祈るわ」

 

 それが、マストのような形状の得物。槍や薙刀のような使い方が出来そうだが、叢雲自身、これを武器のように振り回すことは出来ないことはないという程度であるため、これを使わねばならないような状況に陥らないことを願うばかり。

 

「多分、陸にも防衛線はあると思うのです。トーチカの裏側が弱点ってこと、あちらがわかっていないはずがないと思うので」

「だよな。どんな敵がいそうだ?」

「トーチカ小鬼っていう、ちょっとちっちゃいけど面倒臭いのが定番らしいのね。でも、同じとは思わない方がいいかもにゃ」

 

 睦月も事前に少しトーチカ要塞棲姫のことを勉強してきたのか、手に入れた知識を少しだけ披露した。

 トーチカ要塞棲姫の周囲には、やはりそれを守るような小鬼、いわゆる沿岸砲台型の深海棲艦が複数配備されていることが多いらしい。その一種が、名前もそのままのトーチカ小鬼。防空性能がそこそこ高く、耐久力も地味にあるという、そこそこ厄介な敵がいるとのこと。

 

 だが、今回の敵はそういった定石的なことをしてくるとは考えにくい。それこそ、小鬼どころか、陸戦も可能そうな姫を何人も配置している可能性だってある。これまでのような、艦娘に似せたイロハ級だけでなく。

 何せ、ここまで()()()()()()()()()が1人も現れていないのだ。海上ではなく陸上でその辺りが待機している可能性があり得る。

 

「どうであれ、まずは上陸してからだな」

「ぽい。立ち塞がったら全員ぶっ飛ばすでいいっぽい」

 

 物騒なことを言っているものの、夕立のこの方針は今では最も手っ取り早く、最善といえば最善な策。裏側からとはいえ、真正面からぶつかりに行くのだから、勿論温存は必要ながら、敵が現れたならば正面から全て撃破していくで問題ないだろう。

 それが忌雷に寄生されているのならば引き抜く。そうでないなら気絶させてその場に放置。そもそも()()()()敵でないならば、その場で始末する。

 

「今ならイリスさんとも通信出来るから、敵の彩は判断してもらうにゃし。そこからどうするか決めればいいよね」

「ああ、それでいいな。そういや、陸で深海棲艦を始末した場合、後始末ってどうすりゃいいんだ?」

「あとから回収しに来るしかないぞよ。海の上よりお掃除が大変にゃし」

 

 その経験があるのは睦月のみ。その時の感想を、ただ大変だったと評する。

 海の上なら機動力も込みでガンガン掃除が出来るのだが、陸の上となると話が変わる部分が多すぎる。薬剤散布なども量が変わったり、そもそもその場所が汚染地域になったりもするので、事後処理がそれなりに手間がかかる。

 そんな場所を陣取って、ましてや鎮守府そのものを艤装にしてしまった今回の敵は、後始末屋にとって百害あって一利なし。終わらせた後ですら大迷惑である。

 

「なるべく範囲が広くないといいな……」

「なのです……」

 

 勝利した後も厄介な仕事が残っていることを思い、げんなりしてしまった。

 

「あ、あはは、気を取り直して、そろそろ目的の陸にゃし! 上陸準備をするのね」

「お、おう、もうそこまで来たか。何も妨害が無かったな」

「それだけ遠回りしたぞよ。真っ直ぐ行くところを真横に舵を切ったようなものだから」

「そりゃあ遠回りだ。足でどうにかしなくちゃいけねぇとはいえ、なかなか厳しい道のりになりそうだな」

 

 そうこうしている内に、上陸ポイントが見えてきていた。トーチカは視認出来ないが、陸は見えてきているという、かなり遠い場所。とはいえここからは内火艇を使った進軍である。接近に時間がかかりすぎるということはない。

 しかし、ここから厄介なのは、敵の偵察機などの存在。陸から来ていると先に知られる可能性も無くはないどころか、むしろ最初からそうなるであろうと意識しているレベル。

 

「どっちに行けばいいかは睦月がわかるにゃし。だから、電ちゃんはそっちの方に内火艇を動かしてくれればいいのね」

「了解なのです。睦月ちゃんの指示に従うのです」

 

 道案内は睦月が全てすると胸を張る。ここまでの航路も一切迷わずに来られているため、その辺りも信用に値すると仲間達は全て委ねた。

 

 

 

 

 上陸する際、睦月の装備していた大発動艇は一時的に陸に乗り上げさせて停泊。装備を外しておくというのも考えたが、いざという時に遠隔で操作できる事を考えると、装備状態でそこに置くというのがベストと判断。

 収納出来るなら良かったのだが、大発動艇は()()ようなことは残念ながら出来ない。そもそも今回のような作戦に使うことを想定していないため、それは仕方ないことである。

 

「妖精さんに動かないように固定もしてもらったのね。最悪は、ここで動かせるようにしてもらうから安心してほしいにゃ」

「わかった。なら、あたし達は事が済んだらまたここまで戻ってくることが前提になるってことだな」

「にゃし。遠いから、消耗激しいと結構しんどいけど、安全に行くためにはこれしかないのね」

 

 こればっかりは妥協せざるを得ない。だが、夕立は元気に問題ないと笑う。

 

「引けなくなるまで戦うなってことでしょ? だったら、どれくらいやればいいのかわかりやすいっぽい。叢雲はどうしても倒れちゃうっぽいけど、それは最初から織り込み済みだし、死に物狂いで戦わなければいいだけっぽい」

「……まぁ、私はどうしても最後に迷惑をかけちゃうけど、そこは悪いけど任せるわ。帰り道はお願い」

 

 逆にこれは戦いの限界を見極めやすくなる。無茶をするなが基本方針であり! それがわかりやすくカタチになっただけ。

 

「最悪、ここまで歩いてくるさ。叢雲を運ぶのはあたしがやるから任せとけ」

「流石は大人の姿っぽい。夕立がそれを守るから安心するっぽい!」

 

 撤退の方法もある程度決まったところで、電が内火艇を上陸させた。ここからは陸上の戦車として運用することになる。

 

 基本的には5人が内火艇に()()()()()──というわけではなくて、上に乗りやすく台座などを設置している特別仕様であるため、そこに乗り込んで駆ける。

 上空からの攻撃や監視に注意を払いながら、ただひたすらに大回りしながらトーチカに突撃。あとはそれをするだけとなった。

 

「全員乗ったのです?」

「おう、大丈夫だ。電、よろしく頼むぜ」

「なのです! それじゃあ、行くのです!」

 

 そして内火艇が動き出す。この厄介な戦いを終わらせるため、急がば回れを体現しながら。

 

 

 

 

 こうして陸上班は動き出した。戦いは、これからである。

 

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