純粋な艦娘には、共通して特別な力があった。それが、
それがあるからこそ、顔を知らずとも深雪と電は互いが互いを理解し、そしてトラウマを抉られることとなった。夢の中ではぼんやりであっても、顔さえ合わせてしまえば全てが接続されるのである。
純粋な艦娘同士であるならば、艤装を装備していようがしていなかろうが、見てわかる。同じ存在ならではの、一種のシンパシーのようなものだ。
今の艦娘は元人間だ。そのせいか、相手が何者かは聞かなければわからなかった。史実での関わりが強くても、見ただけではその艦娘が何者かわからない。
しかし、姉妹艦となれば話が変わる。自分と同型であるということで、
「えっ、ま、マジかよ……」
「なのです……」
調査隊として現れたのは、旗艦の神通。こちらは良かった。しかし、随伴艦の駆逐艦、白雪と響。こちらがよろしくなかった。深雪の姉と、電の姉である。
これが純粋な艦娘なら、再会を素直に喜ぶことが出来ただろう。しかし、目の前にいるのは、
姉妹なのに姉妹ではない。この感覚が、悪い言い方をしてしまえば
「あ、あの、どうかしましたか?」
ここで深雪達を守るために休息ではなく前に出ることを選択した榛名が様子が変わった二人に話しかけた。その随伴艦の艦娘達も心配そうな表情を見せる。
二人がカテゴリーWであることは理解しているが、この状況で顔色が悪くなる理由はすぐにピンと来ない。
そこに姉妹艦がいることに対して、人間側の感覚では、
人間はあくまでも艤装を借りて力を使わせてもらっているという意識であるため、姉妹艦であったとしても、姉だ妹だという扱いは一切無い。基本的には友達という感覚である。初見でも同じモノを使っているという仲間意識から、仲違いが起きるようなことも殆どない。
中には姉妹のようなロールプレイを望む者や、
「いや、その……なんでもない」
「何でもない顔ではないですよ。その、榛名に教えてもらえませんか?」
深雪達の感情を見透かすようにしゃがみ込み、視線を合わせて微笑む。周りの榛名の仲間達も、同じように自分達を頼ってくれて構わないという趣旨でしゃがみ込んだ。
「アンタ達に失礼な感情だと思う。だから、これはあたし達が胸に仕舞っておいた方がいいと思う。電は?」
「電も……そう思ったのです。多分……皆さんを傷付けるようなことを言ってしまうと思うのです」
経緯はわからないが、何かしらの信念を持って艦娘という過酷な仕事に従事しているのが、今の艦娘達だ。命懸けなのだから、ここにいるというだけでも相当な覚悟も必要。
そんな艦娘達に、
「神通さん、少しいいかい」
そんな深雪達が目に入ったか、神通に何やら許可を貰う響。神通は伊豆提督との話があるようだが、随伴艦はその話に付き合い続ける必要性はそこまで無いため、自分にしか出来ないことをやるために動こうとした。
神通もそれを察したようで、行ってきなさいと指示。響が言い出したことで、白雪も伊豆提督に一礼し、響と共にそこから離れる。
「やぁ、噂には聞いているよ。君達が敵性を持たない純粋な艦娘だね」
あまり表情を変えないタイプの響が、深雪と電の前に立った。榛名達が少し空間を空けるが、大丈夫と手で制する。
「聞いている通り、私は響。電、
ピクリと電が反応した。明確にそれを突きつけられ、目が合わせられなくなる。
「改めて、白雪です。力を借り、その名『白雪』を使わせてもらっている艦娘になります」
「……あ、ああ、よろしくな」
深雪も少し表情が鈍る。目の前の白雪は、深雪の知る
理解も納得もしているが、だからといって思考は騙せなかった。こういうところが、深雪が純粋な艦娘であることを物語っている。これまで感じたことのなかった
「私達は、貴女達艦娘の力を借りているだけ。なので、姉妹とかそういうのではありません。でも、私の艤装が貴女を混乱させていることはわかります。姉妹であって姉妹でない私に対して、気持ち悪いと感じるのではと予想はしていました。わかります。貴女にしてみれば、私はお姉さんの
頭の中を見透かされたかのような発言を受け、深雪はドキリとした。隠し事が出来ない。良いことも悪いことも、白雪には筒抜けになる。そう感じてしまった。
調査隊であるからこその注意力と、ほんの少しの違いも見極める観察眼。それを可能にする経験。
たったこれだけでも、白雪の調査隊としての実力を目の当たりにしたような気分だった。
「なので、難しいかもしれませんが、姉妹とは思わず、仲間と思っていただければと思います。いや、出来ることなら……友達、がいいですね」
苦笑しながらも、白雪は手を差し伸べる。姉妹という考え方ではなく、艦娘としての仲間。それ以上に親密となる、友達として、この世界で付き合ってほしいと。
「白雪の言う通り、私達はあくまでも君の姉妹の力を借りているに過ぎない。響であって響ではないことくらいは、自分でもわかっているつもりさ。でも、認めてほしい。『響』の力を借りなければ、私はこの世界を守れないんだ」
響も少し憂げな表情を浮かべて電に自分の意思を伝える。あくまでも響という名も力も借り物であることを理解し、その名に恥じぬ戦いをするために日夜努力しているのだと。
「だから、私のことは響と呼ばなくてもいい。それが気持ち悪いのだろう。君にとっての響は、私ではないのだから。そうだな、改装後は
電が響であることに拒否感があると言うのならば、電の前では響ではないと言い切った。それが変わったからといって、自分の在り方は何も変わらないと断言して。
「……ううん、それはダメなのです」
混乱はしつつも、電は名を違えることは良くないと響に向き直る。まだその事実に向き合うことは難しいが、だとしてもこれは自分ではなく響に迷惑がかかること。自分より他人を慮る電だからこそ、ここで響の信念を曲げるようなことはしたくなかった。
「だな。あたしもそれは違うと思う」
その電の言葉に、深雪も同調した。
「あたしの姉妹の白雪の名前を使ってること、どう思ってる?」
そんな深雪の問いに、白雪は何も考えることなく言ってのける。
「誇りに思っています」
それだけで充分だった。艦の力を扱うのに
そもそも、深雪も電も、姉妹艦相手には姉だ妹だと考えるような性格をしていなかった。同郷の友達という感覚の方が強い。ここにいる白雪や響も、艤装に引っ張られて二人のことを妹だと感じるようなことも無かった。だから、仲間、友達という言葉がスッと出たのだ。
このおかげで、頭の中で渦巻く歪み──他人ではない他人という考え方が薄れた。あくまでも、白雪の力を借りている人間であるという部分に納得し、カテゴリーCがどういう存在なのかを改めて理解する。
「わかった。じゃあさ、友達ってことで頼む」
「はい、よろしくお願いしますね」
差し伸べられた手を掴み、しっかりと握手した。
「私達も、その関係でいいかな」
「は、はい、大丈夫なのです」
「よかった。突っぱねられたら私は泣いてしまっていたよ」
電も同じように、響と強く手を握り合う。響が少々戯けてみせたことで、電も笑みを取り戻していた。
ある意味、和解したような雰囲気。理解と納得の向こう側に辿り着き、カテゴリーCとカテゴリーWは正式に手を取り合うことが出来るようになれたのだ。
「みんなに気を遣わせすぎてる気がする。榛名さん達もずっとそわそわしてたじゃん」
深雪に言われて、榛名は苦笑する。どうしてもカテゴリーWについては警戒が強くなってしまう。それは人間としての防衛本能になっているのだろう。仲間だとわかっていても、完全に気を許すことが出来ないのは当然のこと。
榛名達も、カテゴリーMは見たことがあるらしく、泣く泣く戦うことになっていた。うみどりよりはその回数は少なくても、ドロップ艦が脅威となっているのは世界共通のこと。戦うことでより身に染みている。
そんな純粋な艦娘が手が届く範囲にいるのだから、それが絶対に人畜無害であると言われていても多少は意識してしまうものである。良い意味でも悪い意味でも。
「でも、ここで救われたのは本当にいい経験となりました。敵対しない純粋な艦娘を見ることが出来て、榛名達と同じであることがわかりましたから」
深雪と電の言動、今目の前で繰り広げられた姉妹艦との触れ合いを見て、こちらでも自分達と同じと表現した。
他者のことを考え、善悪の判断を正しく出来る。それだけでも、充分すぎるほどに信頼出来ると言えるだろう。カテゴリーWも、人類と同じ考え方をしていると言い切れるのだから。
「何かあったら、榛名達も手助けします。後始末屋と関わり合いが持てる機会は少ないとは思いますが、もし何かあったら、遠慮なく言ってください。榛名の提督も、そう仰ると思いますので」
「あー、うん、わかったよ。最終的にはハルカちゃんの匙加減になるかもだけど、頼らせてほしい。何があるかわからないしね」
こういうカタチで繋がりが拡がったのは、深雪にとっても良いことに繋がるだろう。うみどりの面々しかいないというのは寂しいことだし、人間のいいところを知っていくには、別の鎮守府の艦娘とも付き合っていく方が早い。
軍港鎮守府もそうだが、深雪と電は、まずこの世界の人間を知っていくことが重要。つまり、『友達を増やすこと』が、成長に繋がる。榛名もそれに貢献したということである。
「なんか、今日はいろいろあるな」
「……いっぱいありすぎて電は混乱してばかりなのです」
「はは、わかるぜ。あたしもなんだか違う感じに疲れちまったよ」
などと言いながらも、笑みを絶やすことは無かった。
深雪と電は、この後始末屋としての作業でまた一歩前進出来た。精神的な成長は、自他共に歓迎することだ。
他人ではない他人という、頭がこんがらがるような存在が近くにいたら、どんな気持ちになるんでしょうね。