後始末屋の特異点   作:緋寺

682 / 1159
壁を乗り越えろ

 トーチカとの戦いを進める海上班だが、巨腕による環境操作と、それを乗りこなす敵艦隊に苦戦を強いられていた。特に前者により風と波を起こされるのは、熟練者といえども簡単に突破出来るものではない。

 その中で、大きな手のひらで掬い上げた海水を投げつけられるという厄介な攻撃を受ける。それは直撃を防ぐことは出来たものの、大振りの腕が巻き起こした波は、これまでのモノとはまるで違う、見上げる程の大波だった。これに巻き込まれたら、まともな航行も出来ずに呑み込まれ、最悪溺死まであり得る。

 それに対して、敵艦隊はこの大波をサーフィンのように乗りこなし、当たり前のように近づいてくる。単純かつ普通なら敵側に見向きもされなそうな『航行』の曲解の恐ろしさをここで嫌というほど理解させられた。

 

「どうする……!」

 

 ここまでの大事、神風は()()()()()の使用も考える。しかし、それでどうにか出来るかもわからない。

 

 圧倒的な、絶体絶命のピンチ。ここでの選択は──

 

 

 

 

「全員! 私とトラの近くに来い!」

 

 全員に聞こえるように叫んだ長門。この状況を打開するために必要なモノが自分達にはあると判断し、誰よりも早くその決断をした。考えている暇なんでない。失敗したら何が起きてもそのまま不利。撤退するにしてもかなり厳しい段階でもある。

 

「火力を集中させる! なるべく近付き、一点突破で波を撃ち抜く! 砲撃を放てる者は、全員一斉射に参加しろ!」

 

 コレしかないと考えたのが、波に対しての砲撃である。それで簡単に波を押し返すことが出来たら苦労はしない。

 というより、大波はあちらから壁が向かってくるようなモノ。それも、ただの砲撃で打ち崩せるようなサイズではないモノがだ。いくら長門が屈指の火力を持っていても、全員の火力を合わせたところで波を破壊することは難しいと言えるだろう。だが、やらないよりやらねばならない。やらずに呑み込まれるくらいなら、限界まで抵抗をする。

 

 出来ることを出来る限りやれば、必ず届く。長門はそう仲間達に伝えるために、率先して声を上げた。神風すらも行動を考えたこの場で、考えるまでもなく。

 

「トラ、撃ち尽くすつもりで行くぞ!」

「任せてくれ。深海の力を全力で出すさ!」

 

 火力だけで言えば、長門よりトラの方が上。それを一斉射として撃ち出すのだから、今ここで出来る最大の火力が期待出来る。

 

 そして、それだけではない。

 

「これはもう、策も何もありません。力の限り押し返すのみです」

「はい、一斉射をサポートし、少しだけでも範囲を拡げるために」

 

 軍師たる妙高と三隈も、長門のこのある意味()()()の解決法に乗る。考える時間があってもなくても、今回の敵の繰り出した力業には、相応に力業で返さざるを得ない。自然の力相手には、知識や技能、作戦なとでは覆せないところも沢山ある。2人の軍師はそれを見越して、今この時だけは力業に徹する。

 だが考えていないわけではない。この全員がかりの一斉射でも波がどうにかならなかった場合を、撃ちながらでも考え続ける。1人でも多く切り抜けられるように、勿論誰一人として欠けることなく助かるように、脳をフル回転させて次の手、次の次の手を考える。

 

 その中でも、より火力を上げる手段を見つけて、指示を出す。

 

「魚雷も放ってください! より爆発力のあるモノを!」

 

 出来そうなことはそれくらい。同じ場所に魚雷を叩き込み、同時に爆破することで、波を霧散させる。可能かはわからないが、より大きな爆発が起きれば、その瞬間だけはその場の波に変化が起きるはずと。

 そこにあるありったけの火力を全て同時に一点集中。それにより生まれる大きな爆発力があれば、波そのものを消すことは出来ずとも、呑み込まれたところで致命的にならないくらいにまで()()()()()()()潜り抜けられるくらいに小さくしたい。

 

「やっぱり、アイツらはそれを邪魔するために動いてたんだ」

「だよねぇ。あの位置、都合が良すぎるもんねぇ」

 

 時雨とグレカーレはそれに気付いていた。それをただやらせてくれるほど、敵艦隊も甘くはないと。何のために波に乗って接近しているかと言われれば、それを防ごうとする行動をさらに防ぐためである。

 しかも現在、波の上にいるということは、海上であるにもかかわらず高い位置にいるということ。狙いは定めやすいだろうし、逆に海上にいるモノ達からは狙いを定めにくい。長門達も、今は波をどうにかすることに手一杯になってしまっているため、そちらを対処することは考えられなかった。

 

「子日が動くよ」

 

 そこで動いていたのが、『迷彩』の曲解によって姿を消していた子日。海上に出た仲間達の中で唯一、波をどうにかするのではなく、()()()()()()()()()()()()動いていた。それが子日の願い、仲間の道を切り開くための力。

 

 特に身軽な子日は、この大波もサーフィンのように乗りこなす。波を真正面から捉えても、それを駆け上がることが出来る道を見つけ出し、華麗に波の上まで上り詰める。

 そうなったとしても、『迷彩』によって敵は近付かれたことにも気付かない。その視線は、仮面に覆われているとしても、全員が全員長門達を見据えていた。今からこの波を消そうと火力を集中しようとしている艦隊へ。

 

「ごめんね、でも、こうでもしないと誰も救われないから」

 

 見えずとも謝り、子日は敵艦隊の中の1人に対して砲撃を放つ。それが『航行』持ちかはわからないが、子日から見て()()()()()()()()と思われる1人を狙い。

 見えていないのだから防ぎようがない。故に、その砲撃は見事に直撃。艦隊の中心となっていた者が突如、音もなくやられるという異常事態が敵艦隊内で発生したことになる。

 

 しかし、今回の敵艦隊は本当に厄介なチームワークを持っていた。子日の一撃を受けた敵艦の腕を即座に掴むと、離れないように、陣形を崩さないように抱き止めるような仕草までした。

 子日の砲撃は不殺の水鉄砲。傷は付かないが衝撃は相当。当たりどころ次第では意識を飛ばすことも容易であり、今回の砲撃はヘッドショット。意識を飛ばすために放った一撃。相手が『航行』持ちならば、この一撃で敵艦隊は波の上で瓦解するはずだった。

 それをも意識していたか、この『航行』持ちを徹底して守り、確実に有利な状況を維持し続ける。コレまでの敵とはあまりにも違う。

 

 しかもここでわかったことは、子日が狙い、一撃で撃ち抜いた『航行』持ちは、間違いなく意識が飛んだはずなのに、守っていた1人に抱き止められたことで、即座にその意識を取り戻していた。

 ここで子日はまた勘づく。飛んだ意識を取り戻させるような能力持ちがいるのだろうと。大雑把に『回復』、ないし以前にもいたという『補給』や、工廠の延長線上、細分化された能力としての『修繕』、『修復』など、その力はいくらでも考えられる。

 

「……すごいね。敵じゃなかったらよかったのに。本当に」

 

 見えずとも、そのチームワークを讃え、そして悲しむ。ここまで()()()力でやっていることが私利私欲の実現。共存が出来るはずなのに、それを拒んでいる裏切り者の配下にさせられているというのが、見ていて苦しい。

 

「でも、ごめん。子日の仲間達は狙わせない。誰にもこの道は、遮らせない」

 

 だとしても、非情にならねばならない。たった1人で食い止めることになるが、『迷彩』を見抜く力はあちらにはない。ならば、それを徹底的に利用する。

 波の上、圧倒的有利なこの場であっても、1人の透明人間、無音の暗殺者により、消波の作戦を邪魔する者は現れることはなくなる。

 

「長門さん、みんな、お願いね……!」

 

 上から火力を集中する仲間達を見る子日。無事であってくれと心の底から願い、そして、邪魔者を淘汰する。意識は一向に失わないようだが、海上の部隊に意識なんて回していられないように、念入りに、徹底的に蹂躙する。

 それが仲間のため、延いてはココにいる、()()()()()()全員のためになると信じて。

 

 そうこうしている内に、波はもう艦隊を呑み込みかねない場所まで来ている。タイミングを外せば、何も出来ずにここにいる者達は全員荒波に呑まれることになるだろう。敵艦隊からの邪魔は無くなったとはいえ、最大の脅威はまだ文字通り目の前にある。

 

「行くぞ、みんな! 一斉射!」

 

 長門の掛け声に、全員が全く同じ方向を見据える。波の一点。そこを狙って。

 

「てぇーっ!」

 

 そして、放つ。圧倒的な火力を。そこに敵がいたならば、ひとたまりもないどころか、肉片一つ残らないであろう火力を、惜しみなく、妥協もせず、後のことすらほぼ考えず、目の前にある海の壁に叩き込む。

 だがそれだけではただ砲弾が海水に呑み込まれるだけ。衝撃により拡散することは出来るが、まだまだ足りない。そこに魚雷を重なる。砲撃だけでは賄えない爆発力を生み出し、点の攻撃を面に変える。だとしてもまだ足りない。

 

「それを補うのは()()()

「補うならば、()()()よ」

 

 それを見越していたのは、海上ではない。違う場所、違う者のその声が、まさに今、誰も見ていない、知らない場所で完全に一致した。

 

 海の中──潜水艦、伊203により、波が発生しているのは視認出来ていた。故に、それを消し飛ばすために、波の真下から潜水艦隊による魚雷の発射。伊203、伊26、スキャンプによるありったけ。

 

 海の上──空母隊、加賀により、制空権を確保している艦載機達による爆撃が波に対して行われた。通信妨害で指示が出来ずとも、艦載機の妖精さんにはその意思が伝わっているかのように。

 

 砲撃だけではない、爆撃と雷撃。角度も違う、戦術も違う攻撃が、全て綺麗に重なり合って、普通の戦闘でもなかなか見ることが出来ない爆発を巻き起こす。

 そもそも長門やトラが放つ砲撃は生かすための砲撃。実弾ではなく、模擬弾。爆発力なんて最初から無い。それでも、その衝撃を活かすために乱射し、そこに爆撃と魚雷がうまく重なり合った。衝撃によって拡散された爆発は、荒波の一部を消し飛ばすまでに拡がる。

 

「今だ! 全員、進めぇ!」

 

 更なる咆哮。長門と叫びは、仲間の足を、一気に前に進める。一瞬でも波が消し飛んだのならば、その中が最大の安全地帯。多少濡れることになろうが、多少潜ることになろうが、生きて進めるのならば些事である。

 呑み込まれることなく、波の壁を突き抜ける。その一点に突き詰めて、あらゆる手段を講じて、そして成功させる。仲間達が合わせた力は、ここで最大の壁を乗り越えた。

 

「潜り抜けた者から第二波に備えろ! また来ないとも限らん!」

 

 しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()。今回の波は潜れたが、あちらの巨腕は健在であり、それがあるということは同じことが何度でも出来るということに他ならない。

 一度出来れば二度三度と出来るかもしれないが、こちらには弾切れという限界もある。耐えているだけではいつか限界は訪れる。

 

 そして、あちらにはまだ使っていない兵装もあるのだ。

 

「……構えないわけ、ないわよね」

 

 トーチカに備わり、かつ巨大化によりそれもまた巨大化してしまっていた主砲。神風が列車砲をも超えているというそれが、潜り抜けた部隊に対して向けられていた。

 

 

 

 

「散りなさい! 今すぐ!」

 

 長門の次は神風の叫び。その瞬間、その砲撃は放たれていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。