後始末屋の特異点   作:緋寺

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囮としての貢献

 呑み込まれたら命の危険すら感じる程の大波に対し、長門を始めとした艦隊全員の一斉射によって穴を開け、そこを一気に潜り抜ける事で突破。

 波の上からの敵艦隊の狙い撃ちも、『迷彩』を纏った子日により阻止されたことで、艦隊の瓦解は回避することが出来た。

 

 しかし、波を抜けたそこに待ち構えていたのは、そこまで見越していたのか、トーチカが照準を合わせる巨大な主砲。

 トーチカ自身の巨大化に合わせて、スケールが異常になっているその主砲は、列車砲とも比べられない程の大きさ。放たれるであろう砲撃は、それだけでも艦娘1人分よりも大きく、まともに喰らおうモノならカケラも残らないだろう。

 

「散りなさい! 今すぐ!」

 

 それを目の当たりにした神風が叫び、その光景を見ることなく全員が一斉に散らばる。神風の声に、明らかな焦りが含まれていたからだ。見ずとも何が起きようとしているのかは理解出来た。頭の回転などを超えた、()()()()()()()()

 

 そして、その砲撃は放たれた。轟音を響かせ、空気を揺らし、一瞬にして戦場の温度を上げる。そして、ついさっき風穴を開け、どうにか潜り抜けた大波の穴を拡張するかの如く、全く同じ場所を通過した。

 つまり、トーチカ要塞棲姫は、力業によって波を潜り抜けてくることまで読んでいた。ある程度は何処から抜けてくるかをその目で見ていただろうが、抜けてきたらすぐさま撃ち抜けるように最初から準備していたのだ。

 

「全員無事!?」

 

 叫びながらもいち早く回避行動に出ていた神風であっても、その衝撃によって軽く体勢を崩されている程。しかし、それで横転するようなことはなく、姿勢を深く落としてすぐさま攻撃に転じられるように立ち上がる。

 しかし、そこにあったのは、今の砲撃によって目を疑うほどの被害を受けた仲間達だった。

 

 直撃を喰らった者は流石にいなかった。あんな一撃を受けてしまっては影も形も残らなそうであるが、ぱっと見だけでも出撃した全員がいることは判断出来た。それだけは安心した。

 掠めてしまった者もおそらくいない。あの砲撃は掠っただけでも身体を根こそぎもぎ取る程の威力があった。それだけ近くにいたら、『ダメコン』があってギリギリであろう。

 

 だが、その衝撃は異常すぎるほどであり、波を抜けた仲間達は軒並みが吹き飛ばされてしまっていた。すぐに立ち上がれたのは神風のみ。他の者達は衝撃で発生した波に押し流されていた。宙に浮かされ海面に叩きつけられた者もいる。

 それによって艤装に支障が出始めた者もいれば、身体に不調をきたす者も現れる。すぐに立ち上がることが出来ない者もいた。

 

「なんなんだいアレは……!」

 

 この惨憺たる状況に、比較的無事だった時雨が少しフラつきながら立ち上がる。衝撃でその場に立っていられず吹き飛ばされたが、ギリギリ海面に転がされた程度で済み、傷も少しの打ち身くらい。艤装に影響なく、戦闘継続には余裕があるものの、あの威力を目の当たりにした事で表情は驚愕に染まっていた。

 

「や、ヤバすぎるでしょ! あんなの何発も撃たれたらどうにもなんないよ!?」

 

 グレカーレも完全回避が出来たようだったが、吹き飛ばされた時に背中から海面に打ち付けられたらしく、痛そうに顔を顰めていた。だが、それどころではない程の敵の攻撃に、ただ声を上げることしか出来ない。

 

 そしてここからはさらに厄介なことが起きる。何せここには、『航行』の曲解を持つ敵がいるのだ。これだけのことが起きたとしても、転覆する事なく、何も動じる事なく、ただただ安全に航行出来る力。それがこのような状況で真価を発揮する。

 神風ですら体勢を崩したのに、波が衝撃でさらに激しくなったとしても、さも当然のように航行してくる敵からの攻撃は、今の状態では回避することも難しい。そもそも体勢を立て直す余裕すら与えずに、敵は攻撃を再開してきているほどである。避けられずに直撃をしてしまう者も現れかねない。

 

 そもそも、トーチカからの砲撃は最初から敵艦隊には当たらないように制御されていた。波の上にいさせたのも、砲撃の直撃を防ぐためだろう。誰もが体勢を崩す衝撃の中でも、『航行』の曲解があれば関係ない。()()()()()()()()()()という点が完璧に守られる事で、次の攻撃にすぐさま転ずる。

 

「させぬ!」

「目眩しくらいは出来るだろうよ!」

 

 だが、それを止めるために無理な体勢からでも攻撃に転じていた者はいた。鎖を振り回し、周囲の海水を凍結させることで礫とし、砲撃より広範囲に仲間達を守るように放った白雲。そしてそれをさらに満遍なく散らせるように、突風によるサポートを続ける磯風である。

 吹き荒れる風で氷の礫が舞い散り、未だ健在の敵艦隊の行動を強引にでも止める。仮面を身につけていても、その視界が封じられれば砲撃には抵抗が生まれるもの。ましてや、今の氷の礫は陽の光を浴びることで目眩しにもなっている。簡単には照準を定められない。

 

 さらに言えば、まともに照準を定めたところで、ここにはそれを許さない者もいる。

 

「敵意を持ってこちらを見るのならば、その全てを惑わせますよ」

 

 先程の衝撃で吹き飛ばされ、海面に叩きつけられた事で腕を負傷してしまっていた妙高だが、その能力は健在。『ジャミング』を最大限に発揮し、可能な限り敵からの攻撃を逸らすことに専念する。

 妙高であってもこのダメージを受けているのだ。他にも苦しい者は多数いた。幸いにも意識を失っているような者はいないが、それでも動くことに手一杯な者は多い。膝をついてしまっている者もいる。

 

「長門、大丈夫か!」

「くっ……ぬかった。衝撃波をまともに受けることになるとは……」

 

 その中の一人は、困ったことに長門である。波を突き破り、仲間達を進ませたものの、長門は部隊の中で数少ない低速艦。先陣を切ったとしても、仲間達よりも少し足が遅いことで、トーチカの砲撃を回避出来たとしても、誰よりも近くでその衝撃を受けることになってしまった。

 致命傷を防ぐために艤装を盾にしつつ、覆えるところは覆い、かつわざと倒れるようにしたことで、動けなくなるような傷を受けるようなことは無かった。しかし、喰らったモノが悪すぎる。艤装の一部にガタが来ているのがすぐにわかった。

 もう一度一斉射が撃てるかと言われたら、答えは否。そのガタのせいで一斉射しようものなら、接続部分から大破しかねない。自分の砲撃の威力すら殺さない可能性もある。

 

 そんな長門を守るため、トラが『ダメコン』を駆使して盾となる。幸い、トラも衝撃をまともに受けることになったが、『ダメコン』のおかげで致命傷は擦り傷へと変換され、艤装も同様に支障なし。さらに自己修復も瞬時に行われたことで、ピンピンしている。頭が揺さぶられたために立ち上がるのに少しだけ時間がかかった程度。

 

「アレは流石に私でも受け止められない。いくら『ダメコン』があったとしても、衝撃でおかしくなる」

「当然だ……アレの盾になろうとは思ってくれるなよ」

「すまん、私も流石に自分の身が可愛い。でも──」

 

 修復が完了している主砲で、まだまともに行動が可能な敵艦隊を牽制。何もしないでいたら、ただただ体勢を崩された仲間達が一方的にやられるだけだ。それだけは阻止しなくてはならない。

 

「仲間を守るために最低限身体を張ることくらい、させてもらうぞ!」

「……くく、頼もしい限りだ。ならば私も、膝をついてばかりではいられん!」

 

 フラつきながらも立ち上がる長門。そして、艤装になるべくダメージが入らないように、着実な砲撃を放ち始めた。

 

「全員が無事で帰るためにも!」

 

 その凄まじい気迫は、戦場に響き渡る。荒れ狂うどころか、砲撃の衝撃でさらに荒れ始めた海上であっても、長門のこの意志の叫びは、仲間達を強く鼓舞した。

 

「そうだよ、みんなで帰るために、今ここで終わってなんかいられないよね」

 

 ダンと、強い音と同時に、敵艦隊の1人がその場から吹き飛んだ。この状況下であっても、神風以上に身軽に海を乗りこなす者。今は姿を見せていないが、常に敵艦隊を睨み、仲間への危害を加えさせなかった者──子日が、すぐさま敵をどうにかするために動いていた。

 この状況であっても『迷彩』は解かない。姿が見えないことの優位性を保ったまま、敵艦隊に索敵されない状況を維持しつつ、確実に1人ずつ斃す。

 しかし、意識を飛ばしてもそれをすぐに回復する敵の存在が厄介であり、まずはそこから斃さなければ厳しいこともわかっていた。敵の連携がそれを許してくれない。

 

「第二波、来るわよ!」

 

 その戦いに水を差すように、トーチカからの次の一手が繰り出される。巨腕が天高く持ち上げられると、その手を開いて思い切り海面に叩きつけられた。海水が一気に舞い上げられ、さらには海面に空気を取り入れられたことでその場に渦まで出来始める。

 

 その渦からは戦場はまだ離れてはいる。しかし、舞い上げられた海水がまずかった。雨が降るのとはワケが違う、大質量の水滴。投げ付けられるのとはまた違う、重力による押し潰しである。

 投げられたモノが直撃しても、まだ生きていられる可能性はある。だが、押し潰されるのは話が変わる。ほぼ間違いなく死に至る一撃になるだろう。あの渦も、そこから逃げられなくするための効率的な手段と言える。

 

「では、その水滴は破壊してしまいましょうか」

 

 だがここで、冷静に上空の水滴を見据えた三隈が、指を差すように構えて狙いを定めた。

 

「三式弾、発射いたします。例え大きな水の塊であっても、微塵にして差し上げましょう」

 

 対空砲火用として装備していた三式弾。今やこの水滴であっても、防空の一環で対処せねばならないもの。巨大な塊も、微塵となればただの雨。

 

「なら、僕も手伝おうか。一発、大きな花火をあげよう」

「一発どころでなくても構いませんよ。盛大に打ち上げてくださいまし」

「砲身が焼きつかないことを願うよ」

 

 三隈の対空砲火に、時雨も合わせる。大口径主砲により大きな水滴は数分割され、三式弾によりそれがさらに細かく。あっという間に脅威では無くなるのだが、視線が上に向いたことにより、今度は横からの攻撃に繋げられる。

 

「腕一本で、よくもまぁここまでバラエティ豊かになるものね! 全員しゃがんで!」

 

 神風も愚痴が言いたくなるモノであった。次は手を手刀のカタチにしたかと思えば、海面を撫でるように払うことで鋭く海水を飛ばしてきていた。

 今度は範囲も広いが、大きすぎることもあり、しゃがめば避けられるかもしれないという程度。しかし、逆にいえば、しゃがまなければ頭に当たりかねない微妙な高さ。海水とて、そんなところに当たれば脳が揺さぶられる。

 

「消耗を狙ってきてる……命を狙いながらも、あわよくば私達も捕えようって算段かしらね。させるわけ、ないじゃない!」

 

 仲間達に声をかけながら、敵の攻撃を的確に回避し、敵艦隊からの攻撃も意識。精神的な摩耗は、コレまでで一番だ。

 だが、そんなことで心は折れない。折れるわけがない。ここでこれだけ注目を集めていられるのならば、()()を押し通すことも可能になるはず。そう願いながら、全員が気力を振り絞る。

 

 

 

 

「深雪……貴女達にかかってるわよ……!」

 

 この万能兵装と言える巨腕を止められるのは、陸上班だけ。海上班は、消耗させられつつも、囮として確実に貢献は出来ていた。

 

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