後始末屋の特異点   作:緋寺

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トーチカを守るモノ

 海上班がトーチカと敵艦隊に苦戦を強いられている頃、陸上班は電のコントロールする内火艇を使い、遠回りしながらも陸路を突き進んでいた。

 深海棲艦が上陸したとしても被害が抑えられるよう、最初からなるべくモノが置かれていない沿岸から離れ、少しずつ潮の香りが薄れていくことを実感しながら、ここからの戦いについて相談をする。

 

「何度も言うようだけど、今回やらなくちゃいけねぇのは、叢雲をアレに触れさせることだ」

 

 深雪がリーダーのようになり、改めて伝えるのは今回の作戦。叢雲の力を使って、戦況を打破すること。そのためには、このままどうにかして敵に触れられるところまで接近せねばならない。

 

 陸からでもチラチラと見える敵鎮守府──トーチカ。本来のサイズとは雲泥の差である、鎮守府そのものを呑み込んでしまっているその艤装。何をどうすればそこまで大きく出来るのかは、深雪達にはわからない。だが、そのようにそこにあるという現実は変えられない。

 そのトーチカに接続されている巨腕は、内火艇を走らせている現在でも稼働しており、海側に向けて振り下ろされたりしていた。その都度、大きな風が吹き、陸側にも強い突風が吹き荒れる。海上で受けるよりはまだマシではあるが、それでも煙幕は少し使いにくいかと感じられるほど。

 

「風については、裏側から近付けば多分気にしなくてもいいと思うのです。トーチカ自体が壁になるので」

「だとありがたいな。海沿いも波がすげぇことになってるし、なるべく真裏からぶつかりてぇ」

「なのです。その道で進むようにしているのです」

 

 道を選択しているのは、内火艇を操る電。マルチツールからドローン型の水上機も発艦させ、周囲を一応確認しながらの走行。

 通信妨害があるため、水上機からの通信は本来信用出来ないモノに差し替えられてしまうのだが、そこは覚醒した明石によるチューンナップが光る。現在睦月が装備する通信機と同様、()()()()()()()システムが組み込まれているおかげで、その情報を素直に受け取れるようになっていた。

 

 電の選択した道により、気付けば、先程の突風も微風程度に収まっていた。海から離れたという証拠にもなる。電の話していた通りに事が進んでいる。

 

「ここではまだ見えないけど、どうせ防衛されてるっぽい。蹴散らすつもりで向かうっぽい?」

 

 夕立の問いに、電は多少はと少し曖昧な返事。敵が明確に深海棲艦だとわかれば、内火艇による砲撃に加え、体当たりまで仕掛ける覚悟で突撃し、多少強引にでも前進を考える。しかし、防衛をカテゴリーCやY、擬似Kがやっている場合には話が変わる。忌雷が寄生されているなら引っこ抜く事を優先するし、そうでなくても命を奪うことはしない。

 むしろ、カテゴリーRであっても気絶させる程度で終わらせる気ではいた。主砲は実弾を装備しているが、煙幕と共に接近戦を挑むことも考えている。

 

「勝手の違う陸上戦だ。あたしだってどうなるかわからねぇ。でも、目的が目的だからな。邪魔するヤツらはまず退かさなくちゃだ」

「なのです。前に陣取られたら進みたくても進めなくなっちゃうので、威嚇射撃とかは必要かもです」

「あんまり陸を撃ちたくはないんだけどな」

 

 今ここがどういう場所であれ、海ではなく陸である。砲撃が突き刺さった時に、ただ水飛沫を上げるだけで済む海とはまるで違う環境。後始末屋として考えるなら、やりすぎると元に戻すのにその分時間がかかるというのもある。

 しかし、後のことを考えすぎて動けなくなる方がよろしくない。どうせ片付けるのは自分達なのだからと、目一杯散らかしてしまってもいいくらいに考えておかねば、やりたい放題のあちらと拮抗することも出来ない可能性がある。

 

「斃すことより進むことの方が今回は大事なのよね」

「勿論だ。敵は二の次だな」

 

 叢雲の言葉に、深雪は力強く頷く。敵を斃すことで道を拓かねばならないかもしれないが、優先順位はそちらではない。敵を斃すことは最終的な手段であり、それ以上の選択肢があるのならば、迷わずそちらを選択する。兎にも角にも、巨大なトーチカに接近しなくては始まらないのだから。

 

「でも、敵次第では全滅させないと進めないまであるかもしれないっぽい」

「それならその時だ。そうしないと進めないならそうするまでだろ」

「ぽい。あんまり邪魔するなら、ボッコボコのケチョンケチョンにするっぽい」

「頼りになるなホント」

 

 そのような状況になった場合は、夕立が最も光り輝くだろう。『ダメコン』の曲解を扱い、敵陣のど真ん中に突入しても無傷で帰ってくるかもと思える程である。この場でも特に頼りになる存在。

 

「見えてきたのです。トーチカの裏側……!」

 

 そうこうしているうちに、内火艇の向かう先にあのトーチカがハッキリと映るようになってきていた。これまでは上の部分、振り回される巨腕などしか見えなかったが、ここに来てようやく全容が見えた。

 設置されているのはやはり鎮守府と同様。古くからそこに建っているぞと言わんばかりの太々しさで鎮座するその姿は、それが深海棲艦の艤装であるとはどうしても思えないような構造である。裏側だからといって中に入れそうな場所はなく、ゴテゴテしい装甲が所狭しと並んでいるような外装。全ての行動は海に向けて放たれるモノという配置であり、陸側はむしろ完全に守りに徹しているかのようにも見える。

 予想通り、接続されている巨腕は陸には回ってこなそうな構造でもあった。あくまでも今いるのはトーチカの()()()。無理をすれば後ろにも回るかもしれないが、今はその無理をする必要もないし、する余裕すら与えられていない。海上班の努力により、腕は完全に海側に釘付け状態である。

 

「……案の定、だな」

 

 溜め息交じりに呟いた深雪。全貌が見えたことで嫌でもわかる、陸に配置された防衛線。いわゆる沿岸砲台型と呼ばれる小鬼が群れを成していた。

 砲台小鬼、対空小鬼、そしてトーチカ小鬼。ヒト型のように見えて、実際あるのは短い両脚のみ。腰から上が砲台のバケモノになっている異形。固定砲台を模しているそれらは、沿岸砲台であるにもかかわらず、まるで海の方を向くことなく、陸から向かってくる敵に対してその砲を構え続けていた。

 トーチカに限りなく近いというわけでもなく、防衛部隊の前衛とも取れるくらいには前進した場所で、トーチカに近付かせまいと立ち塞がる肉の壁。小鬼とは呼ばれているが、その性質からサイズも普通の艦娘より大きいまである。

 

「二の次なんて言ってられねぇ。睦月、アイツのカテゴリー見てくれ」

「イリスさんに見てもらってるのね!」

 

 陸上班の通信機を身につけている睦月が、立ちはだかる小鬼達に目を向けた。明石謹製のこの通信機、音声だけでなく映像も届けられるように作られており、現場でのカテゴリー判断が可能になっている。

 また、ここに来るまでに一度もノイズが走っておらず、トーチカに近付いたところで通信妨害を受けたような反応もないことは確認済み。妨害を妨害することを徹底した仕様にしたことで、明石は敵の能力を完全に封じている。

 コレがあるだけでも大分違った。敵が救うべきモノか、()()()()()()()()()かの判断は、今この場では大きな意味を持つ。

 

「連絡来た! あれ、全部カテゴリーR!」

「なら純粋な深海棲艦ってわけだ。ある意味心配いらねぇな。艦娘のツラしてるわけでもねぇ」

 

 敵は純粋な深海棲艦のみ。元人間や元艦娘はそこにはいないと判断。逆に言えば、ああいった沿岸砲台型ならば大量に生み出すことが出来るということにもなる。深海棲艦ではあるのだが、モノがモノだけに()()()()なのかもしれない。それこそ生体兵器。深海棲艦の中でも稀にいる、生体艤装と同等か。

 

 そんな小鬼達が、遠くから向かってくる内火艇の姿を捉えた。何処に目があるかもわからないデザインではあるが、それは仮面を身につけた敵艦隊も同じこと。電探か何かで感知しているのか、それとも視覚として扱われる器官があるのかは一旦置いておき、ともかく闖入者に対しての抗戦の意思を見せたかと思えば、一切の躊躇なく砲撃を開始した。

 陸であっても関係ない。むしろ、陸であるから最大級の性能を発揮する。沿岸砲台という名目なだけあり、砲撃を放っても反動を受けることなく、精度も非常に高い。そういう性質を持つというだけでも厄介極まりない。

 

「避けるのです! しっかり掴まっていてほしいのですぅ!」

 

 それを避けないわけにはいかない。電は内火艇を激しく動かし、照準を定めさせないように避け回る。時折車体が傾くこともあったが、横転だけは避け、そして被弾も極力避け、仲間達に被害が及ばないようにと必死にコントロールし続けた。

 それでもいずれ限界は訪れる。今はまだ大丈夫でも、敵の数が減らない時点でジリ貧であることは言うまでもない。前進しているのだから、回避の難易度も次第に上がっていく。

 

「ならやっぱり、アレを斃さないとダメなのね。電ちゃん、頑張って動かしてて!」

 

 そこで動き出したのは睦月である。誰よりも対地のための兵装を装備してきているため、ここで真っ先にその手段を使うべく、内火艇の上で少し前のめりに。

 使うのはWG42(ヴェーゲー)。対地のためのロケットランチャー。沿岸砲台の群れの中でも、特に数が多く配置されている場所に向けて、的確に狙いを定める。

 

「撃つにゃしぃ!」

 

 そして、放つ。空気をも揺らすその一撃は、複数の沿岸砲台に直撃し、群れに穴を開けていく。

 火力はバカにならず、一撃で粉砕するほどのそれは、陸上施設型にも属する沿岸砲台だからこそ、ここまでの効果を発揮していた。また、ブレないように砲撃の際に動かないという特性にもマッチしている。

 

「いくつか斃したぞよ! 電ちゃん、あの場所を目指し──」

「む、無理なのです。アレ……っ」

 

 斃せたのは良かったのだが、ここで厄介な動きを取られた。

 睦月が斃した沿岸砲台。致命傷を受けたことで機能は停止しており、自己修復すらしていない。だが、()()()()()()()()というのが、内火艇による突撃を防いでいた。

 

 海上ならば亡骸を避けることも容易であり、浮力があるのだから退かすのも力要らず。最悪沈めておくという手段だってあった。

 だが、陸上は沈めることは勿論出来ず、その重量のせいで退かすのも難しい。迂回する道も海上とは違い制限がある。

 そのため、沿岸砲台はそこにいるだけで妨害が出来ているのだ。()()()()()()()()()()()()()()

 

「消し飛ばすしか無ぇか……!」

 

 内火艇で踏破するには、沿岸砲台達のサイズは大きい。それが数が多いとなると尚更であり、そもそもが深海棲艦であるためにこうなると深雪の砲撃、亡骸すら残さずに消し飛ばす超火力の一撃によって道を切り拓くしかない。

 だが、そうすると陸に対しての影響がどうなるかわからない。敵は消し飛ばすが、それだけの火力が直撃したらどうなるか見当がつかない。しかし、やってみなければわからない。

 

「ううん、大丈夫。だったら、沿岸砲台を全部やっつけるにゃし」

 

 だが、ここでその策を出したのは睦月。自信のある表情で、突破のためには全滅を目指すべきだと進言。

 

「亡骸も壁にするっていうなら、ちゃんと退かして進むぞよ。大丈夫、睦月ならやれる」

「そう、なのか?」

「そうにゃし。だから──」

 

 再びWG42(ヴェーゲー)を放つ睦月。砲撃をやめない沿岸砲台達を破壊し、ニッと笑う。

 

 

 

 

「みんなで、前に進むにゃあ!」

 

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