敵トーチカに対し、陸上班が内火艇により接近に成功するも、予想通り防衛線が敷かれていた。
近づかせないようにと並んでいたのは沿岸砲台型の小鬼達。だが、それがこのトーチカで生み出されたであろう生体兵器、カテゴリーRだとわかっているのなら、今は撃破することで突破を狙う。
睦月を始め、対地攻撃でも装備がお手軽である
しかし、厄介なことに、撃破した沿岸砲台達は、そこに亡骸を残してしまう。命が失われていても、内火艇による進軍を邪魔するように出来ていた。
海上ならば、大きな敵でも浮かんでいるので、退かそうと思えば簡単に退かせるのだが、ここは陸上。そう簡単には移動させられない。
「みんなで、前に進むにゃあ!」
それでも、まずはそこにいる敵を全滅させてから進むことを進言した睦月の案に乗り、邪魔をするモノは全て撃破していく。亡骸が横一列に並んで壁となってしまっているため、内火艇を操縦する電は、何処から前に進めばいいのか迷いに迷っていた。
沿岸砲台達のサイズ的に、内火艇で亡骸に体当たりを仕掛けたとしたら、突破は可能かもしれないが、タダでは済まない。当たりどころが悪ければ、その時点で内火艇がオシャカになる可能性もあった。
「とりあえず全滅はさせていくけど、アレは退かせるんだよな?」
睦月と同じように
いくら始末出来たとしても、そこに残った亡骸をどうにかすることは出来ない。亡骸に対して追撃をするのも感覚的にはあまり気分のいいモノではなく、そうしたからといって完全に撤去出来るとも限らない。海まで押し出すというのも考えられたが、この場所はそれなりに内陸。トーチカの裏側を取られないように作られた防衛線であるため、海からもそれなりに離れているような場所。そうしたくてもそう出来ないようにされていた。
「大丈夫。ちょっと無理矢理になるけど、ちゃんと退かすのね。内火艇からは降りなくちゃいけなくなるけど」
対する睦月は、大丈夫の一点張り。そもそも敵が道を遮っている上に、かなりの精度で砲撃してくるのだから、始末しない限りは前に進むことは出来ないのだから、まずは全滅を狙うのは筋というモノ。対処をするにしても、そこを頑として動かないというのならば、動かせるようにする。
「攻撃されるのは鬱陶しいし、とりあえず敵は全部ぽぽいのぽいっぽい」
「まぁ、それしかないか。ありゃあぶっ壊すしかねぇ」
「ぽい! だから、ロケラン撃ちまくりっぽーい!」
夕立もノリノリで攻撃を続け、内火艇の走行を阻害するモノは全て破壊する。陸への影響は既に頭から抜けており、確実な殲滅を狙うために圧倒的な弾幕で押し潰そうとしている。
とはいえ、雑ではあっても敵を狙っているということもあり、そこまで進路をボコボコにするようなことはない。むしろ、深雪達を狙って砲撃を放つ沿岸砲台の方が陸を滅茶苦茶にしている程である。それもあって、割と気にせずに攻撃を続けられた。
その結果、3人がかりの対地攻撃で沿岸砲台は軒並み撃破。内火艇の進撃を止める砲撃は止めることが出来た。
「電ちゃん、一旦止まってもらっていい?」
「なのです。このままだとトーチカにも近付けないので、止まらざるを得ないのです」
止まっても狙われる脅威が一時的に去ったため、内火艇を一度止め、睦月は陸に降り立った。他の者達は周囲を警戒。特にトーチカから何をされるかわからないので、何もないように見える外壁などもしっかり注視している。
入り口らしきモノが見えずとも、何かの弾みで壁が開いて、中から敵艦隊が出撃したり、再び沿岸砲台が湧いて出てきたりすることは常に考えている。この場所は完全に相手の領域。それこそ、地面から何かされても文句が言えないような場所。
「内火艇さえ通れちゃえばいいよね?」
「なのです。最低限で大丈夫なのです」
「じゃあ、2体、ううん、3体を退かさせてもらうのね」
そう言うと、睦月は真っ直ぐ沿岸砲台に向かった。そして、徐にその亡骸に両手で触れると──
「にゃあい!」
掛け声と共に、
「む、睦月!?」
「深雪ちゃんから借りた特機に貰った力、睦月を力持ちにしてくれたみたいにゃし。ううん、コレ多分違う、睦月が力持ちになったというより、
言いながらも処理するために、持ち上げた沿岸砲台を横に退かしていく。深雪達はその光景に呆気に取られてしまっていた。
睦月が願ったのは、みんなと共に行ける、みんなを守ることが出来る力。そして特機はそこからこの力を与えている。
睦月は自分の非力さを理解しているため、壁になることも出来ないし、攻撃で敵を掃討することも難しい。故に、守るというところより、共に行くというところを叶えようとした。その際に、進路を塞ぐモノを切り拓く力を与えることにした。これまでに現れたことのない力であっても、特機はしっかり睦月に与えた。
それがこの力、『軽量化』の曲解。触れたモノを軽くするという一点に絞ったその力は、邪魔なモノを退かすためには最適な力である。
また、これは後始末にも役に立つ力であり、簡単には動かせない残骸であっても、睦月のこの力を使えば、重機などを準備しなくても問題なく移動させられた。
そういう点からも、睦月は根っからの後始末屋。戦いではなく、片付けに有用な力を手に入れたと言える。
「さっき大発に使うのも考えたんだけど、これ、もしかしたら触ったところから脆くなっちゃうかもしれなかったから使わなかったのね」
不安要素は使わない。慎重に進むのはうみどり所属だからか。だが、その考え方は間違ってはいなかった。極論、敵より大発動艇の方が大切であり、万が一自分の力で破壊してしまっては元も子もない。それもあるため、もしその力が使い勝手が非常に良かったとしても、ギリギリまで使うつもりはなかった。
実際、持ち上げている沿岸砲台が脆くなるようなことはなかった。優しく置いているというのもあるが、装甲を薄くするなどの弊害は無かった様子。
「はいっ、これで道は出来たよ。これでみんなで行けるね!」
宣言通り、3体の沿岸砲台を退かしたことで、内火艇でも余裕で通ることが出来る隙間が出来ていた。終始1人で作業をしてきた睦月に驚きつつも、凄い凄いと最後は笑みが浮かんでいた。
道が開いたことで内火艇に戻ってきた睦月を出迎えると、手を差し伸べて上に乗ってもらう。
「軽く出来るのって、あーゆーモノだけっぽい?」
「試してないからわからないけど、モノでもヒトでも、多分大体のモノが行けると思うよ。でも、睦月が触ってる間だけかも。だとしても、これなら気を失った叢雲ちゃんも運びやすいにゃあ」
「そうね……艤装を装備したまま倒れることになるし、睦月には負担をかけると思っていたけど……その力があるなら遠慮なくお願い出来るわ」
「任せるぞよ!」
そういうところからも、睦月が手に入れたこの力は、非常に適材適所であった。
しかし、睦月がこういうことが出来るというのも間違いなく見られている。トーチカをずっと見ていても何か動きがあったかと言われれば誰にも気付くことが出来なかったが、それでもここはもうトーチカの防衛線の中。沿岸砲台は先鋒というだけで、まだまだ出てくるだろう。
どのような力を持つかがバレた時点で、その対策は取られるだろう。とは言っても、睦月の力への対策はどうすればいいのかわからないし、そもそも軽くするだけならば対策すら不要かもしれないが。
「でもこれなら、邪魔するヤツも退かせるな。またああいう感じのヤツが出てきても心配が無くなったぜ」
「なのです。睦月ちゃんに任せ切ることになっちゃいますけど」
「任せて任せて。睦月はまだまだ元気いっぱい! このトーチカ攻略、ガンガン行くのね!」
この睦月の元気さが、陸上班の士気をさらに上げることとなった。
沿岸砲台の壁を抜ければ、もうトーチカはすぐそこ。しかし、その分敵の妨害も来るというモノである。
防衛線を突破した辺りから、今度は陸に対しても艦載機が飛んできていた。内火艇を止めるための爆撃を繰り出され、何とか避けながらも前進を続ける。
「荒っぽい操縦でごめんなさい!」
「誰も傷ついてないんだから大丈夫だ! 電は気にせず突き進んでくれ!」
「なのですぅ!」
爆撃自体の精度は、沿岸砲台の砲撃と比べるとまだ甘めではある。しかし、先んじて爆破されることで進路が滅茶苦茶にされる方が厳しかった。
最初から舗装されている道ではなくとも、爆撃を受ける前はまだ走りやすかったが、今はそうはいかない。どうしても振動は大きくなり、内火艇に乗っている者達は身体が跳ねる。深雪は操縦者である電が振り落とされないようにしっかりと掴み、自分も掴めるようになっている内火艇の手摺を握り締めている。
「なるべく対空砲火するぞ! 夕立、行けるか!」
「やってるっぽい! でも、あっちも割と上手いっぽい!」
「だよなぁ! やたら正確にやってきやがる!」
出来る対空は主砲での牽制くらいではあるのだが、やらないよりはマシだと撃てるだけ撃っていた。しかし、夕立の言う通り艦載機の動きが割と上手く、専門家でも無ければ専用の装備でもないため、簡単には当たらないどころか、掠めることもなかった。
強いて言うならば、爆撃が着弾する前に破壊することで、道を傷つけなくして、内火艇の進路を正常に保つことがギリギリ出来ているかという程度。それでも相当キツイ。
「でも、ようやく見えたわ……!」
これだけ攻防が激しくなってきているのだ。トーチカには確実に近付いており、敵にとって近付かれたくないところに来られている。
そして、ついにその場所が見えた。入り口とは到底思えないモノの、遠目から見えていた壁とは少々違う部分。
「……で、そりゃあいるよな」
「防衛隊っぽい。睦月、カテゴリーは?」
「今見てもらってるにゃし……うん、来た。あれはCと擬似Kの混合……艦娘なのね」
立ち塞がるのは、これまでにほとんど出てきていなかった敵鎮守府の所属艦。うみどりを襲った艤装人間達と同じ姿をしているが、イリスの目であればそれが深海棲艦ではなく艦娘であることはすぐにわかる。
だが、注目すべきところはそこではない。その防衛隊が持っている装備である。
「電、避けられるか!」
「なんとかっ、するのですっ!」
防衛隊でも前衛にいる敵艦娘達が装備していたのは、なんと
「ここからが正念場だ! 何が何でもぶち込むぞ!」
トーチカとの戦いもここからが佳境。その目的を達成するため、深雪達はこれまで以上に気合を入れた。