沿岸砲台を片付け、進路を妨害する亡骸も退かし、空襲も避けながらついに辿り着いたトーチカ。入り口には見えないものの、他とは少々違う見た目の壁を発見したが、それを守るかのように配備されていたのは、ここまであまり見ていなかった敵の艦娘部隊。
見た目は艤装人間と同様、仮面を着けた揃いの衣装の者達ではあるが、睦月が通信によりイリスに確認してもらったことにより、それらがカテゴリーCか擬似Kであることは確定している。
だが、本当に危険なのは防衛線ではない。その艦娘達が装備している装備である。防衛線の中でも前衛に位置する敵艦娘が装備しているのは、よりによって
内火艇を操る電は、本当に紙一重の回避を繰り返し続けているのだが、敵の攻撃は止まる所を知らない。ジリ貧であると言われても否定出来なかった。
「アイツら、隙間なく撃ってきやがる……!」
「三段撃ちってヤツにゃしぃ! あんなの歴史の授業でしか聞いたことないぞよ!?」
敵防衛線が続けるのは、
それを続けさせることを深雪達が許すわけがない。それを止めるためにも、敵防衛線に対して威嚇砲撃を仕掛けつつも、敵の絨毯爆撃へのカウンターとして、その攻撃に対して砲撃を放つことで一部の被害をどうにか消していた。
「殺すわけにはいかないことはわかってるけど、あっちはそれを考慮してるわよね……!」
「ああ、確実にな。こっちのやり方を知ってっから、ああやって守りを固めてやがる。そのくせ、こっちが少しでも傷付けたら、鬼の首をとったように言ってくるぞ。特異点が悪いってな」
「耳が痛いわよ。私だって
敵のやり方が手に取るようにわかるのが叢雲。つい最近まで敵の組織の、特に深いところにいたのだから、その思想は嫌というほどわかる。特異点を陥れるためなら、どう考えても自分達が悪いのに責任転嫁をするのが当たり前になっているのだか。
ただ、今回の敵は若干
命を蔑ろにしていないのか、それとも最大効率を考えた結果なのかはわからないが、やられる側としたら苦しいのは変わらなかった。
「よし、ここならほとんど風は無いな。爆風くらいなら大丈夫だ。このくらいの弾幕なら……っ」
内火艇の上で、深雪は左手をグッと握り締めて突き出す。ここまではやたらと封じられていた煙幕を、今なら使えると踏んで。
だが、戦場全てを包み込むとその方が危険かもしれないと考えた結果、過去に起こした仲間を守るためのそれを出すことにする。
「薙ぎ払ってやらぁ!」
その煙幕は、
敵の
しかし、敵の掃射は絶え間無く行われる。少し払い除けたからといって、攻撃が全て失われたかと言われたら、そんなわけがない。あちらに動揺の色があったかどうかは定かではないが、何が起きたところで三段撃ちは止まらず、次の掃射が続けられる。
「キリがねぇけど、こっちもまだまだやれっぞ! 全部払い除けてやらぁな!」
ならばと深雪は左手だけでなく右手も突き出す。片手で足りないならば両手。速さ重視にするならば、効率2倍で徹底的に払う。
しかしそうなると内火艇の上でバランスが取れなくなる。ただでさえ現在は非常に荒っぽい運転をせざるを得ない状況。これまでは片手で掴んでこれたからどうにかなっていたが、こうなると体勢の維持の方が難しくなる。
「深雪っ、ガンガンやるっぽい! 夕立が支えたげるから!」
「悪いっ、助かるぜぇ!」
だがそれはすぐさま夕立がサポート。片手では内火艇を、もう片方は深雪の脚をしっかり掴み、バランスを崩さないように支えた。そうしながらも夕立は、深雪を掴む手を上手く絡ませて威嚇砲撃を止めない。反動が深雪の脚に伝わるが、それを気にしている余裕など何処にもなかった。
敵の掃射を払い除けながら、砲撃で牽制しつつ、少しずつでも前進する。目的はこの敵を全滅させることではない。トーチカまで接近することだ。
「ロケランは余計な被害が出ちゃいそうで怖いぞよ! 迫撃砲で牽制するのね!」
「頼む! あっちの攻撃のタイミングさえ崩してくれりゃいい! 攻撃も出来ないくらいに近付けりゃあ、降りてやり合うぞ!」
近付くことさえ出来れば、そこからは次の戦い方、近接戦闘に移ることになる。砲撃よりは命を奪うことがなくなり、より全力で戦いやすくなるだろう。それは、
命を大切にした戦い方をしているということは、味方に向けての砲撃は避けるということ。近接戦闘を仕掛けるならば、味方が非常に近くにいるため、容易に撃てなくなるはずだ。諸共命を奪うなんてこともしないように感じる。
これをズルいと言われても、こちらは何も気負う必要はない。何せ、近付かせないように掃射で押し潰そうとしてきたような相手だ。近接戦闘がズルいのならば、近付かせない程の掃射もズルになる。
自分達が良くて、敵は悪いなんてダブルスタンダードは、もう気にしない。深雪達の戦い方は正攻法。別に人質をとっているわけでもないのだから。
「こいつらっ、強ぇ……!」
何度も何度も煙幕によって掃射を払い除けていくが、敵は掃射をやめることはなかった。ここで止めることこそ思うツボ、深雪に払い除け以外の行動をさせることの方が不利になると判断したようである。
特異点を甘く見ない。何をしてくるかわからない、未知の敵として、出来ることを出来る限りやってくる。バケモノだとか魔王だとかではなく、
そんな敵に対して、深雪はこれまであった嫌悪感を持つことはなかった。道が違えていなければ、共に戦うことが出来たろうにと悲しみ、しかしその道が今は平行線上にあるのだと理解し、殺さず斃そうとより強く決意するに至る。
深雪だけではない。電だってそうだ。内火艇で轢殺なんて選択肢だってあるのだが、そんなことは絶対にしない。敵の戦い方が理性的であり、仲間を思ったやり方であるのなら、それ相応に対応する。内火艇で敵陣を突き抜けるのは当然としても、それによって被害が出ることは絶対にしない。
あちらは殺意を持っているとしても、こちらはそんなつもりは毛頭ない。それを慢心と言われたら否定出来ないが、だとしても信念は貫く。それが、特異点の戦い方である。
「退いてほしいのです! このままだったら、本当に轢いちゃうのです!」
深雪の猛攻によって道は開き、電もその道に内火艇を乗せている。直進すれば、トーチカに近付ける。だが、敵はその道に立ち塞がる。身を挺してでも、トーチカには近付かせないぞと、一層守りを固めるほど。
「……それなら、こうするしかねぇよ」
電がアクセルを踏む事を躊躇することは誰でもわかる。なら、深雪がそれを是としつつも、その道を塞ぐ敵を退かすため、より両手に力を込めた。
「そこをっ、退けぇっ!」
そして、道を塞ぐ敵達の中心に両手を突き入れるように構えると、それをこじ開けるように手を開いた。
群れとなっている敵艦娘達は、一瞬何が起きたかわからなかった。しかし、次の瞬間、
防衛線は、本当に力業でこじ開けられたのだ。
「電!」
「なのです!」
その隙を見逃さず、電は内火艇を一気に加速させ、敵陣深くにまで突撃。誰一人として轢くことなく、防衛線の深いところにまで突撃が完了した。
ここで手のひらを返して特異点諸共自爆して始末するなんて手段を取られたら堪ったモノではないが、そうなってもいいように、より一層警戒を厳として、煙幕を払い除ける質量のあるモノから、攻撃回避用のいつものモノへと切り替える。
だが、敵はその時点で
「止めてくれたのはありがてぇ、がっ」
それでも、攻撃をやめたわけではない。恐ろしいことに、ここからは白兵戦すら仕掛けてきた。近付かれたらこうするという戦い方が、既に刻み込まれているかのように。
「マジかよ。こいつらここまで出来るのか!?」
内火艇に群がるでもなく、1人が跳んだかと思えば、その鋭い蹴りが深雪に突き刺さるように放たれた。
その蹴りは熟練者のそれと寸分違わない威力。そのせいで、深雪は内火艇から叩き落とされる羽目になる。
「深雪ちゃん!?」
「大丈夫だ! 少し痺れる程度!」
ただ落ちただけなので、ダメージとしては気になるモノではない。しかし、敵陣で落とされたというのが問題。群がる的な、一斉に深雪に向かって突撃を開始する。その全てが、徒手空拳狙いで。
数で押されると途端に苦しくなるのが近接戦闘だ。1対1を維持出来ればまだ勝ち目はあるのだが、そうでないならばただただ不利。
「こいつらマジか……! でも、あたしらは止まらねぇ!」
だとしても、前進を止めるわけにはいかない。敵の群れを相手にするようなことになっても、それを全て薙ぎ倒して進むくらいの覚悟はある。
「多勢に無勢かもしれねぇけど、みんなやるぞぉ!」
こうなってしまっては、内火艇も意味を成さない。砲撃も危なくて使えたモノではない。ならば、全員が全員、深雪と共に近接戦闘で応戦するしか無くなる。
「ケンカなら得意っぽい! ボッコボコのギッタギタにしてやるっぽーい!」
「あ、荒っぽいのはダメなのね! でも、どうにかしないと……!」
「使いたくなかったけれど……この槍を使わないといけない時が来たのね。雑になるけど許してちょうだい」
三者三様、仲間達もこの白兵戦を攻略するために気合を入れた。
「深雪ちゃん、加勢するのです」
「頼む。このやべぇ状況、どうにかすっぞ」
「なのです!」
電だって鍛えられている。近接戦闘が出来ないわけではない。グラップラーは多勢に対して不利かもしれないが、だとしても深雪のためにも止まるわけには行かなかった。
対防衛線は第二ラウンドへ。トーチカは、まだ遠い。