後始末屋の特異点   作:緋寺

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荒っぽい前進

 敵の猛攻を文字通り振り払いながら突き進む深雪達は、とうとう防衛線を突き抜けることに成功した。しかし敵は多く、内側に飛び込んだ瞬間に次は白兵戦を仕掛けてくる。

 初撃で深雪が内火艇から叩き落とされると、そこにいた敵達が一斉に深雪に向かって突っ込んでくる。砲撃も何もせず、ひたすらに徒手空拳で。

 

 ならばと、もう仲間達も内火艇から離れ、各々群がる敵を斃す方向で動き出した。数が多いなら総動員してでも前に突き進む。

 

「ンの野郎っ、簡単にゃやられねぇぞ!」

 

 深雪はいわゆるオールラウンダー。ストライカーとグラップラーを併せ持つ、どちらも可能なスタイル。そして今は深海棲艦化をしているため、背丈は大きくなり、リーチも長くなっている。

 敵の振りかぶる拳を払って腹に一撃拳を叩き込み、蹴りに対しては同じ脚でガードしつつ、身体を捻って蹴りをぶちかます。得意なムエタイの構えを取りつつも、1対多を意識して周囲を見回す。

 

「数がっ、多いのです!」

「電には厳しいよなっ、やれる限りでいいからな!」

「なのですっ!」

 

 電はグラップラー。組み合って関節技を極めるタイプには、この敵の多勢がかなり厳しい。1人1人なら確実に沈めることが出来るのだが、掴んでいる間にもう1人に逆に掴まれるということもあり、やりたいことは簡単にはやらせてもらえない。

 なので、あまり得意ではなくてもストライカーのように打撃でどうにかする方向で動いている。深雪に群がろうとする敵に対し、急所──基本は顎を狙った攻撃で、その場で気を失わせる方針。

 

「退けオラァ!」

 

 荒っぽくはなってしまっているが、着実に前進するために、かなり強引な攻撃で敵を片っ端から殴り飛ばしていくのだが、如何せん、敵の練度は思った以上に高く、一撃で終わらせることが非常に難しい。

 先程拳を叩き込んだ敵は、それでも気を失うようなことはなく、すぐに起き上がって再度戦線に参戦してくるほどである。技術もあるが、単純に頑丈であることもその理由。

 

「厄介っぽい! 叢雲っ、槍はとりあえず振り回してればいいから!」

「わかってるわよ! でも、刺すわけにはいかないでしょうに!」

「最悪刺してもいいっぽい! どうせ治るだろうし!」

 

 夕立は叢雲に発破をかけながら、軽く狂ったような笑みを浮かべながら敵陣に突っ込み、ひたすらに暴れ回っていた。試合形式ではない殴り合いに気分が昂揚し、狂犬としての反応を沸き立たせながら、まだまだ元気一杯の身体を全力で振り回して、敵という敵に対して喧嘩を売り続ける。

 それを追随する叢雲は唯一の武器を持っているため、その刃で傷つけないようにしつつも、少しだけ有利な戦いに持っていけていた。柄の部分を振り回すだけでも、敵は一歩引いてくれる。その怯みのおかげで、即座に夕立がカバーに入り、確実に蹴散らしてくれる。

 2人の相性は悪くない。叢雲が振り回されているような戦いにはなっているものの、夕立が叢雲を上手く使い、自分の戦いやすい戦場を作っているとも言えた。

 

「ちょっと痛いだけでっ、大したことないっぽーい!」

 

 特に夕立は自分の『ダメコン』もあるため、どんなことをされようと全く屈するようなことはない。衝撃には弱いものの、徒手空拳だけで何か起きることもなく、もう一つの逆転──痛みなく苦しめる絞め技などに転じてくるようなこともないため、夕立は常に優位に立っているようなモノである。

 とはいえ、やはり数の暴力は顕著であり、夕立であっても攻撃を受けることは多々あった。喧嘩に強かろうが、数だけは覆すことは出来ない。

 

「あ、あんまり物騒なこと出来ないけどぉ……」

 

 そして、最も()()()()場には慣れていない睦月はといえば、敵陣のど真ん中に突入したことで、戦う意志は見せていた。しかし、荒っぽいことはダメだと、夕立の大暴れを見て少し引いている始末。

 元々救護班所属の優しい艦娘。今回の戦いも、どちらかといえばサポーター。対地攻撃をメインに考えていたが、ここでまさかの白兵戦と来てしまったため、予想外すぎてどうしようかと悩んでしまっているほど。

 

「……あれ、睦月の力って、触れたモノを軽くする力だったよね。だったら……ううん、迷ってる暇なんてない!」

 

 意を決した睦月は、許可を得るために電の方を見た。深雪の背中を守るために、小柄な身体をどうにか振り回して戦う電にさらに勇気を貰い、睦月はもう迷わなくなった。

 

「電ちゃん! 内火艇、借りるぞよ!」

「えっ、い、いいですけど、どういう──」

「内火艇の中の妖精さん、すぐに外に出るにゃあ!」

 

 睦月は自分でも言っていた通り、内火艇を扱うことは出来ない。だからここまで電が操縦してきたのだし、今もコントロールの権利は電が持ったままである。装備の譲渡はこの場では出来ないようなモノ。そのため、()()()というのがどういうことか、電にはすぐにわからなかった。

 睦月に言われたことで、中にいる妖精さんもゾロゾロと大急ぎで外に出てきて、睦月の頭や肩に乗っかる。睦月のサポート妖精さんが笑いながらその手を掴んで、()()()()()()()()()()()()()()

 

 ここまでの行動の真意は、すぐに察することが出来た。

 

「にゃあああっ!」

 

 内火艇の縁を掴んだ睦月は、なんとそのまま()()()()()()()()()。片手で、ただ武器として振り回すために。

 

「睦月には空の箱を持ってるくらいにしか感じないけど、他のみんなにはどう感じるかはわかんないから!」

 

 そして、それをそのまま思い切り振り回した。睦月にとっては、それは本人の言った通りただ大きな箱程度。触れたモノを軽くするというだけの単純な力が作用しているに過ぎず、軽くはなっているが()()()()()()()()()()()という異様な事態が発生。

 そのため、軽くとも強度諸々は何も変わっておらず、睦月以外のモノに対してはそのままという扱いとなっていた。軽量化しているから中身が肉抜きされているとか、装甲が薄くなっているとかは何もない。強度はそのまま、()()()()()()()()()()()

 

 つまり、睦月が内火艇を振り回した場合、単純に内火艇そのものが襲いかかることに他ならないのである。

 

「う、うわぁ……なんだありゃ」

 

 この光景には深雪も少し唖然としてしまっていた。睦月が内火艇を振り回す度に、群がろうとした敵は見事に吹き飛ばされ、見た目だけで言えば大事故となっている。

 内火艇自体の動力で轢かれるよりはまだダメージは軽い。睦月の力で軽量化だけはされているのだから、一撃にそれそのものの重みは無くなっている。だが、それだけの質量を支えることが出来る強度はそのままで、かつ大きさもそれなりにあるのだから、睦月の腕力で振り回されたとしても、それ相応のダメージは当然ある。殴り飛ばされた敵は、致命傷は受けていないモノの激しい衝撃をまともに受けたことで気を失っていた。

 むしろそれだけでは終わらず、吹き飛ばされた敵は近くの敵に衝突し、将棋倒しとまでは行かずとも連鎖的に弾き飛ばされるに至る。気絶まで持っていかれずとも、体勢はいとも簡単に崩れていった。

 

「内火艇が硬くて助かるぞよ! 全部ぶっ飛ばすのねーっ!」

 

 のっしのっしと歩きながら、内火艇を振り回し続ける睦月。正面に立てば、その凶悪な衝撃に吹き飛ばされ、避けようにも内火艇そのものの大きさもあるため、大きめに移動しなくてはいけない。

 だが、ここにいるのは睦月だけではないことなんて、敵であっても理解している。

 

「逃げるのはダメっぽいよ」

 

 ニッコリ笑った夕立が、一歩退こうとした敵の真後ろに立ち、むしろ睦月に押し付けるように蹴り飛ばした。そして、そのまま内火艇に巻き込まれてさらに吹き飛ばされ、そのまま再起不能に。

 

「睦月っ、グルッと回れ!」

「グルッと!? よーし、グルグルーっ!」

 

 今度は深雪の声を聞き、言われた通りにその場で回転。それによって、睦月の死角である真後ろから動きを止めようとした敵が薙ぎ払われる。

 

「むしろこのまま突っ込んだ方がいいかも!? よーし、行くのねーっ!」

 

 そこから睦月はグルングルン回転しながら敵陣に突っ込んでいく。内火艇の操縦では絶対に起きない挙動であり、普通に操縦されているよりも範囲が広いために、巻き込まれるモノも多く、少しでも触れてしまえばその質量に持っていかれて終わり。

 

「ちょっ、こっちも巻き込まれかねねぇ! 避けろ避けろ!」

 

 しかし睦月のコレは味方をも巻き込みかねない諸刃の剣。いくら深雪達といえど、喰らったら割とシャレにならない。

 敵も同じようなことを考えたようで、睦月からは避けつつ、深雪を重点的に狙うように動きを変えてきた。本来の目的成就のために、特異点を始末することに集中しようという算段であろう。周囲の仲間達を減らしてやりやすくするなんてことは言っていられない。

 

「だろうな、どうせあたし狙いに変わるだろうよ。でもな、あたしは仲間を頼ることが出来るんだよ! 睦月、回るのストップ!」

「にゃし! ちょっと目が回ってきたから止めるのね!」

「こいつらが遊びたいらしいぜ!」

 

 グルグルと回り続けていた睦月が一旦ストップ。その隙に深雪が電と共に睦月の側まで一気に移動。

 すると、敵は睦月と目が合うことになる。内火艇を握りしめて、いつでもコレでぶん殴るぞと言わんばかりの睦月と。

 

「仲間を酷い目に遭わせる奴らはっ、もっと酷い目に遭うにゃしぃ!」

 

 そして、それを行動に起こし、内火艇で薙ぎ払う。これだけ殴っても、内火艇はまだ表面に傷がついている程度。流石の強度に深雪も苦笑である。

 

「峰打ちにゃあ」

「峰しかねぇよ。でも、殺さずでここまでやれてるのはすげぇな睦月!」

「こんな使い方も出来てよかったのね。これなら、睦月もお役に立てるのね!」

 

 敵の数は睦月の大活躍でかなり減ってきている。おそらくこの鎮守府に所属していた艦娘達なのだろうが、睦月のあまりにも滅茶苦茶な戦い方に、コレまでのような猛攻が出来なくなっているのは間違いない。

 無謀に突っ込んでくるような輩はもうおらず、ジリジリと間合いを取りながらも、どうすれば現状を打破出来るかを考えているような戦い方。こういうところも、これまでの敵とは違う。

 

「前衛は睦月がやるのね。だから、睦月を守って! このまま前に進むぞよ!」

「おう、頼んだぜ睦月! 本当に頼りになるなぁ!」

「ふふん、睦月は褒めて伸びるタイプにゃしぃ。もっともっと褒めるが良いぞ!」

「慢心はダメなのです!」

 

 事実、自信がついたことで睦月の戦い方はより大胆になっていた。それがこの戦況を呼んでいる。荒っぽくても隙は無く、付け込めそうなところは仲間達がフォローする。完璧なチームプレイが確立されていた。

 

 

 

 

 睦月の活躍は、深雪達の更なる前進に繋がる。トーチカまで、後少し。

 

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