後始末屋の特異点   作:緋寺

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トーチカ要塞棲姫

 防衛線に突っ込んだ時点でフレンドリーファイアを避けるためか白兵戦をメインに戦術を変更してきた敵艦隊。

 近接戦闘の心得がある深雪達はそれに対して応戦するが、真にこの場を掻き回し、有利に持っていったのは、『軽量化』の曲解を応用し、電の操る内火艇をもちあげ、片手で振り回してしまっていた睦月だった。

 その異常な攻撃方法により敵は弾き飛ばされ、何人もが気を失う程のダメージを受けることとなる。これならば、トーチカまでの道を塞ぐ敵を排除して、かつ後ろから刺されるようなことも無い。

 本来ならば気絶させることも睦月としては心苦しいことではあるのだが、今はそんな事を言っていられないような状況だ。なので心を鬼にして、前向きに敵を一網打尽にしていった。

 

「流石に退くか。そうだよな、これにゃあ近付けねぇよ」

 

 内火艇を軽々と振り回す睦月の猛攻に、敵の防衛線は一歩どころか一気に間合いを取り始める。当たらないようにするためもあるだろうが、それ以上に別の攻撃をするためでもあるのだろう。

 近付けないのなら、遠くから攻撃すればいい。今は元よりWG42(ヴェーゲー)を装備しているような敵だ。離れればそれがまた扱える。睦月に対して集中砲火をすれば、あの猛攻も止められると思ったのだろう。

 

 だが、そんなことをやらせるわけがなかった。先程の対地攻撃をどのように避けていたかを忘れているわけではないはずである。

 

「やらせねぇぞ。睦月はしっかり守らせてもらうぜ」

 

 すかさず深雪が両腕に煙幕を纏わせ、敵からの砲撃は弾き飛ばした。ロケットランチャーによる斉射すらも弾くこの質量のある煙幕なのだから、同じことを繰り返しても通用するはずがない。

 それでもそれを繰り出してきたのは、その煙幕が睦月の攻撃を邪魔するのではないかと判断したからである。砲撃を弾き飛ばすような質量を持つ煙が、睦月の攻撃の範囲に入っているならば、壁にぶち当たるようになるのではないかと。

 

 答えは、否である。そこが特異点の生成する煙の真骨頂、()()()()()()()()()()ということ。

 

 睦月の攻撃に対しては一切作用せず、敵の攻撃にのみ作用する、質量を持つ煙。対象によって効果が変わるのが、まさに特異点の煙である。

 

「隙だらけっ、にゃし!」

 

 そして、そんなことをしてくるのならば、睦月はさらに容赦なく向かう。駆け出すように地面を蹴ると、退いた敵部隊に一気に接近。そしてやはり内火艇を薙ぎ払うことで、手近な敵があっという間に薙ぎ倒される。

 

 今や、深雪と睦月の連携──盾である深雪と矛である睦月によって、敵防衛線は壊滅の一途を辿り続けていた。

 

「夕立達は後ろ! 目ぇ覚ました敵が後ろから襲ってくるかもしれないっぽい!」

「わかってるわ。常に槍は振り回しておくから」

 

 それでも視界には限界があるため、そこを夕立と叢雲が補う。斃したと言っても気絶。即座に目を覚ましてくる可能性だってある。それを警戒し、斃したからもうおしまいだなんて考えず、作戦の妨害を確実に対処する。

 

「電の水上機で確認出来たのです! 敵はあと少しですけど、()()()()()()が待ち構えているのです!」

 

 トーチカの姫。電はそう称したが、つまりはトーチカ要塞棲姫の本体と思われる存在が、この先に待ち構えているということである。

 

 巨大なトーチカはあくまでも艤装。巨腕を携え、その場から動かずとも大暴れを続けるそれであっても、実際は本体ではない。鎮守府を取り込んでいるのだから、建物と言っても過言ではない。そうなれば、これを制御する姫そのものが存在していてもおかしくはない。

 電の予想では、それがこの鎮守府を扱っていた裏切り者の提督。忌雷を複数自らに寄生させ、そして賭けに勝った者。狂うことなく、死ぬことなく、その力を余す所なく利用している現状最大の難敵。

 

「他には誰かいないか!?」

「2人いるのです! 多分護衛だと思うのですけど!」

 

 見た目だけは他の敵達と同様、仮面と衣装は揃っているようだが、他とは少し違う部分があるという。

 それは、姿が深海棲艦であるということ。これまでに現れた艤装人間とは違う、イロハ級ではなく姫。ならば、イリスの目で見ればカテゴリーY、もしくは擬似Kとして確認出来ることだろう。

 

「なら、そいつがここで最後の敵だってことだ。そいつらをどうにか退かして、叢雲をトーチカに近付けさせる。それでいいな」

「なのです! 全力で援護するのです!」

 

 それまでは、少しずつでも前進あるのみ。邪魔をするならば全て薙ぎ倒し、確実に一歩一歩進む。

 

 

 

 

 そしてついに、その時が来る。敵を散らしつつも、トーチカの根本、入り口があるかどうかもわからないその場所へと辿り着いた。

 ここまで来るのに睦月が薙ぎ倒した敵の数は相当。今もまだ退きつつも攻撃を繰り返し続けた者達は、ざっとトーチカ要塞棲姫を守るために陣形を組み直す。

 

「……テメェがここの司令官かよ」

 

 深雪が尋ねると、その中心にいた女──明らかに異質な雰囲気を持つ姫が、冷静な表情を崩さず、ええと一言で答えた。

 

 これまで見てきた深海棲艦とは若干違う、薄く赤黒い全身を持つ者。白でも黒でもない、陸上施設型と思える土のような色が非常に印象的な姿を持っていた。

 部下達が全員同じ姿にされている中、トーチカ要塞棲姫のみはそのままの姿でいるため、これがこの鎮守府のボスであるというのが何となくわかった。

 

「イリスさんからの情報。トーチカはやっぱりカテゴリーY。隣にいる2人は擬似Kだって。あっちにも忌雷が寄生してるみたいにゃし」

 

 姫の種類もそこで分析完了。睦月の口から、それが説明される。

 

 トーチカの護衛の姫2人。片方は欧州装甲空母棲姫。そしてもう片方は南太平洋空母棲姫。その名の通り、どちらも空母であり、うみどりや陸上班に向けて艦載機を飛ばしていたのはこの2人である。

 今はそのどちらも仮面をつけた姿であるが、艤装はしっかり姫のモノ。欧州は異様な形状の弓を持ち、南太平洋はシュモクザメ型の宙に浮く生体艤装を侍らせていた。

 

「特異点がここまで()()とは、予想していなかった。その人数で、よくここまで突破してきたわね……」

 

 トーチカはあくまでも冷静に。怒りを持つことも、辛そうにすることもなく、戦いの中でこうなってしまったのは仕方ないと考えつつ、淡々と現実を見た発言をしていた。

 真剣な表情、深雪を卑下するでもなく、罵倒するなんてことすらしない、正面からぶつかり合おうとする者の目。深雪はそんなトーチカに、これまで戦ってきた者達とは違うモノを感じ取っていた。

 

「今更だけどよ、投降してくれねぇか。なんかアンタ、他の連中とはちょっと違うだろ。話せばわかるんじゃねぇかって、そんな気がしてならねぇんだよ」

 

 だからこそ、初めて今回の敵に対して説得を試みた。ここまでの大事になってはいるが、それでも平和的な解決が出来ないかと訴える。これまでの提督は話も通じない愚か者ばかりであり、実力行使をしても反省の色すら無かった者だったが、トーチカだけは深雪をその気にさせる何かを持っている。

 

「……ふざけないで」

 

 しかし、トーチカから告げられたのは、完全な拒絶。

 

「貴女は、私達の目指す世界を壊す特異点でしょう。誰もが力を得ることで、恒久的な平和を実現することを是としない、平和を否定する悪でしょう。こんな乱世のような世界を望む魔王なんでしょう」

 

 特異点とはそういうモノなのだと納得し、目的の成就を阻む敵であると把握している。故に何を言われてもそれを否定する。トーチカはそこを徹底していた。

 今この第三次深海戦争の真っ只中な世界を()()と称し、それから脱却するために、平和を取り戻すために今の姿となり、力を持った。このような強大な力であっても、あくまでもそれは平和を取り戻すために使うのだと言って憚らない。

 

「貴女も、貴女に与する者も、私は全て否定する。平和を望む私達を否定するのなら、それを私が否定する」

「……そのせいで迷惑被ってる奴が数えきれないくらいいるんだぞ。テメェが言う平和のために、身体も心も傷付いてる奴がな。あたしはそれが許せねぇ。自分のやってることを正当化しやがって。そもそもテメェ、その目的のためにここにいる連中を弄ってやがるじゃねぇか。それも平和だってのか? ああっ!?」

 

 カテゴリーCだけならまだしも、擬似カテゴリーKは身体を完全に弄られている存在だ。忌雷を寄生され、頭の中も操作され、その思想の傀儡にされる。それが本心でなくても、本人が思っている()()()平和を盲信し、他者への迷惑も顧みない兵隊と化す。

 それを平然と行なう者に平和を語る資格はないと、深雪は憤慨する。その思想に合わない者を強制的に同じ思想にするようなことを平和なんて語ってほしくないと。

 

 だが、ここでトーチカは顔を顰める。

 

「私に従ってる子達は、全員自分の意志でついてきてくれてるわよ。強制? 私はそんなことしていない。他の連中と同じにしないで」

 

 明らかに違う反応。まるで他の裏切り者達を毛嫌いしているような物言い。

 

「……お前、一体何なんだ。裏切り者は裏切り者だろうがよ。大本営を出し抜いて、間者みたいなことをしてたのは間違ってないだろうが」

「平和を乱す可能性のある者に探りを入れることに何の間違いがあるというの。貴女達だってそうでしょう。邪魔をする者がいたら、情報を集めて上から叩く。そのやり方はいくつでもある、そのうちの1つが、私のやり方。ただそれだけよ」

 

 これだけ話しても、何も変わらない。やはり線は交わらない。説得は無理だし、戦いを避けることも無理。放置していたらこの力で滅茶苦茶にされる。

 

 だからだろうか、トーチカの物言いにケチをつける者もいる。ここにいる者の中で唯一、()()()()()()()()()()()

 

「綺麗事を並べたところで、人を蔑ろにしていることは変わらないわ」

 

 叢雲である。

 

「確かにアイツ(義父)のやり方は滅茶苦茶だったわ。自分の利益のためにやりたい放題。人生も狂わされた者が沢山いる。私だってその1人よ」

「叢雲……」

「でもね、アンタは間違いなくそれと同類。こんなやり方をしているのもそうだけどね」

 

 槍をトーチカに突きつけて、キッと睨みつける。

 

「そもそも、本当に平和を求めているなら、他の連中のやってる事に異を唱えるモノよ。明らかにアンタの目指してる平和とは違うやり方じゃない。自分の平和を強制して、人の命すら玩具のように扱って。なのに、それを野放しにして、自分の目指す平和のためにって今こうしてる。それ、自分以外はどうでもいいってことじゃない。それの何処が恒久的な平和なわけ?」

 

 自分がそこに与し、そしてそれの悪性を理解しているからこそ、トーチカの話す綺麗事の悪いところもハッキリと見えている。それだけの平和を目指しているのに、まさに平和から外れている他の裏切り者に触れることなく放置していたことが、トーチカの望む平和が歪であることの証明。

 

「結局、何を言ったところでアンタも他の連中と同じよ。命を無駄にしていないだけ。自分の手が届く場所で失われた命に対して、行動出来るのにしなかった。それが平和を目指す? はっ、ちゃんちゃらおかしいわ。私も言えた口では無いけれど、今ならハッキリと言ってやるわ」

 

 叢雲の言葉に、深雪達もニッと笑い、トーチカに向けて拳を突きつける。もうこの戦いは避けられない。そもそも避けるつもりは無かったが、尚のこと。

 

 

 

 

「寝言は寝て言え、裏切り者」

 

 私利私欲の平和を目指す者を終わらせるため、トーチカ攻略戦最後の戦いの火蓋が切って落とされた。

 

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