ついにトーチカへと辿り着き、トーチカ要塞棲姫の本体である人型個体、裏切り者の提督と相対した深雪達。
これまでの裏切り者と違い、話が通じそうな語り口だったのだが、平和を目指すという道が完全に食い違っており、やはり手を取り合うことは出来なそうであることを確信。特に叢雲は、トーチカの悪性を理解しているため、自ら反論し、宣戦布告をした。
「寝言は寝て言え、裏切り者」
この言葉が開戦の合図となった。
敵の数はまだトーチカ側にある。トーチカの隣にいる2人の護衛の姫、欧州装甲空母棲姫と南太平洋空母棲姫に、ここまで撤退をしてきていた妨害を続ける敵部隊もそのまま残っているため、5人で戦うのはまだ厳しいことは変わらない。
とはいえ、深雪達もまだまだ戦える。特に睦月は、未だに内火艇を振り回すことをやめていない。この武器を持っていることは、敵の攻撃が雑ならば、大概のモノを弾き飛ばしつつ、攻撃に転ずることが可能である。
「先手必勝、なのね!」
慢心しているわけではない。その攻撃が今最も通用する可能性があり、かつ敵の力を測るのにも最適だとまずは一撃。
敵にも味方にも多い、触れられただけでもまずい力は勿論考慮しており、近接戦闘をするにしても、内火艇の大きさがいい具合に長いリーチとなって避けられる。とにかくどのような反応を見せるかを確認するために。
それに対して動いたのは、弓を持つ欧州装甲空母棲姫。トーチカを守るように睦月の前に立ち塞がると、薙ぎ払われる内火艇を、さも当然のように片手で受け止めた。
凄まじい音がしたが、欧州はビクともしない。むしろ、睦月側が弾き飛ばされてしまうような衝撃を受けるほど。
「にゃしっ!?」
いくら内火艇が軽くなっているにしても、それなりの速度で振られたそれを、何の衝撃も感じていないように片手で止めるのは、普通以上の膂力があるか、それとも
ここまで綺麗に弾き飛ばすのならば、『ダメコン』は考えられない。あの力はダメージを受けないだけで衝撃は逃がせないため、ビクともしないということはない。ならば、まだ知らない未知の力を持っていると考えるのが妥当か。
「睦月、危ねぇ!」
相手は欧州装甲空母棲姫。弾き飛ばした瞬間に、もう片方の手に持っていた弓を構え、その時には矢を番えていた。狙いは当然、内火艇を弾かれて無防備になっている睦月。その心臓を射ち貫こうと、すぐさま放たれる。
それは深雪が即座に反応。煙幕を睦月に纏わせるだけでは足りないと、ついさっきまで敵の攻撃を逸らしていた時のように、睦月自身を移動させた。急激な衝撃で睦月はうっと喉を詰まらせたモノの、欧州の矢は掠ることもなく完全回避。その直線上にいそうだった者達も、構えた時点で避けていた。
放たれた矢は何処かに刺さる前に燃えるように消滅。艦載機にすることなく、次の矢を番える。
「し、舌噛んだにゃ……でも助かったよ。深雪ちゃんありがとう!」
「とりあえずそいつにゃあそういう攻撃が効かねぇってことはわかった! 一歩引い……」
かなり強引な回避だったため、睦月が少しだけフラついたが、その瞬間に南太平洋空母棲姫の生体艤装、宙を泳ぐシュモクザメが猛スピードで睦月に突進を仕掛けていた。
幸い、艦載機などは使用していないものの、単純な質量兵器としての体当たりは、それこそ内火艇に轢かれるような一撃に繋がる。小柄な睦月にはそれが致命傷になりかねない。
「そーゆーの、良くないっぽーい!」
シュモクザメの突進に対して動いたのは夕立。睦月に直撃する前に、それをさせまいと立ち塞がり、『ダメコン』も合わせてその一撃を強引に逸らした。
衝撃を受けたことで弾き飛ばされたものの、その力によってノーダメージ。睦月は守られ、シュモクザメは軌道がズレたことでグンと上空へと昇っていくように宙を泳ぐ。勢いは簡単に止められないようである。
「ってて、単純に重いっぽい。アレの体当たり、あんまり野放しに出来ないっぽい!」
「なら本体を狙うしかないじゃない……!」
叢雲がその本体を見据えるが、南太平洋は既に次の一手に出ていた。指を銃のように構えると、その周囲に球体の艦載機が無数に現れていたのだ。
シュモクザメはあくまでも生体艤装であり、それを使わねば艦載機が発艦出来ないというわけではない。深海棲艦特有の、何もない空間から現れる艦載機を、今この場で見せつけられていた。
「撃ち墜とすのです!」
それに対応したのは電。マルチツールではない方には主砲を装備しているため、発艦直前の艦載機に対してダイレクトに砲撃を連射。的確な精密砲撃によって、確実にその数を減らした。
「んなら、煙幕だ! 当ててくれるなよそんなモン!」
それでも艦載機は全滅させられない。故に、仲間から攻撃を逸らすための、元祖の煙幕の展開を試みる深雪。
だが、敵は南太平洋だけではない。矢を弓に番えていた欧州が、深雪に狙いを定めて放っていた。その矢の勢いは相当なモノであり、先程無理矢理睦月を回避させた時よりも速く鋭い。咄嗟に構えたのではなく、しっかり構えて放ったことで、この強力な射撃を実現していた。
「クソッ……!」
煙幕の発生のタイムラグを見越した射撃に、深雪は回避をせざるを得ない。だが、深雪は隙間なく煙幕を放出。自身を中心に敵からの攻撃が当たらなくなる煙幕を展開。
しようとしたところで、さらに邪魔が入る。先程夕立が強引に軌道を逸らしたシュモクザメである。
深雪に体当たりを仕掛けるのではなく、自らの体躯を捻りながら深雪の方へと泳ぐことで、なんと煙幕を散らしにかかったのだ。
「コイツら……煙幕対策にもなってんのかよ!」
「徹底的に深雪ちゃんが標的にされているのです……!」
「当たり前でしょう。さっきも言ったけれど、邪魔をする者がいるのなら、情報を集めて上から叩く。特異点の煙幕が厄介であることは、耳にタコが出来るほど聞いているわよ。なら、その対策をするに決まっているでしょう」
深雪の持つ特異点としての脅威は、間違いなくこの煙幕である。これまで幾度となく奇跡を起こし、そして幾度となく
「つっても、あたしが煙幕を出そうとしている間は、コイツをあたしに集中させることが出来るってことだよな……!」
だが、裏を返せば、深雪の煙幕を発生させないために、シュモクザメを自分にマークさせ続けることが可能になるということにもなる。そのマークを外せば、煙幕がこの戦場を駆け巡ることになるのだ。あちらも止め続けなくてはいけない。
「ここにいるのがそれだけだと思っているわけないわよね?」
勿論、それだけで終わるわけがない。ここまで撤退してきている敵部隊もいるのだから、シュモクザメと連携をしながら深雪を狙ってくるだろう。
装備している
「んなモン、わかってる! でもな、あたしにはあたしを守ってくれる仲間がいるんだよ。あたしは頼るぜ、当然な!」
真っ先に深雪の側に駆け寄ったのは、やはり電である。もしかしたら散らされなくなるかもしれないと、増幅装置として共に立つことで、煙幕の出力を上げるために。
向かってくる敵部隊相手にも怯えることはおろか、躊躇うこともない。この戦いを終わらせるため、歯を食いしばりながらも敵に拳を向ける。主砲を使ったら傷つけてしまうため、苦手なストライカースタイルもこなしていく。
「深雪ちゃん、電と一緒に!」
「おうよ! 隙見て煙幕だ!」
「なのです!」
電と組めば、深雪のテンションは一気に上がる。感情が戦闘力に上乗せされ、より機敏で正確な動きが出来るようになる。
それは電も同じこと。深雪に背中を預け、そして預けられることで、感情の昂りからの戦闘力上昇が明らかだった。普段ではあまり見られない勇ましい笑みを溢し、立ち向かってくる敵艦隊を確実に仕留めていく。
だが、ついさっきまで戦っていた敵艦隊の力が、撤退前よりも強くなっているように思えた。それは、拳を突き合わせたときにわかる。
「さっきよりブレねぇ……っ」
「なのです。力が強くなっているのです」
「だよな、攻撃が、鋭いっ」
深雪に群がる敵、その拳は先程より確実に速くなり、蹴りは重くなっていた。大人の身体になった深雪ですらそう思えるのに、駆逐艦の中でも小柄な類の電には余計にそれを感じられる。
だが、そういう時こそグラップラーとしての力を発揮。拳に対してはその勢いを利用して合気のように投げ飛ばし、蹴りに対してはこの戦況でも飛龍竜巻投げを見事に決めてしまう程に集中力を増していた。
そんな電に深雪も触発され、拳を肘で受けてガードしつつ、強力無比なカーフキックをお見舞い。大木でも折れそうな一撃で、敵艦娘を確実に戦闘不能にしていく。
だが、これだけやっても敵は気を失うようなこともなく、一撃をモノともせずに立ち向かってくる。先程ならば一撃で立ち上がれなくなっていたのに、今はそれがない。電が投げ飛ばした敵も、何事もなかったかのように立ち上がり、既に攻撃に再度参加しているほど。
「睦月! そっちはどうだ!」
「な、なんかさっきより明らかに強くなってるにゃしぃ!」
相変わらず内火艇を振り回す睦月だが、先程と違い、それの直撃を受けた敵が気絶することなく反撃を仕掛けてきていた。
「動きが良くなってるっぽい! ここに来てから、どう考えても強くなってるっぽい!」
「ええ、こんなにわかりやすく変わるってなら、そんなのアイツの力か何かよね」
夕立と叢雲もその異変に気付いていた。何もしていないのにここまで強くなることはない。なのに、誰かが何かをしたような形跡はない。ただこの場に入ったことでこうなったというのならば、それはもうここにいる何者かの力が作用しているとしか思えない。
叢雲に睨みつけられたトーチカは、ふっと笑み浮かべ、御名答と答える。それくらいならすぐにバレると踏んでいたようで、それを指摘されたならばそのまま口にするつもりだったようである。だが詳細は語らず。
トーチカの持つ力により、敵は何ランクかスペックを上昇させている。2人の護衛の力も、勿論それに該当。
その