後始末屋の特異点   作:緋寺

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優しさ故の躊躇い

 トーチカ要塞棲姫率いる敵艦隊との戦いは、非常に苦戦を強いられていた。護衛である欧州装甲空母棲姫と南太平洋空母棲姫の力が圧倒的であり、深雪の煙幕も封じられている状況。しかも、ここまで撤退させていた他の敵部隊の艦娘達も、この戦場にいることで強化されてしまっていたため、睦月の内火艇による一撃を受けても気絶することなく、さらには攻撃そのものが鋭くなっている始末。

 これがトーチカ要塞棲姫の持つ1()()()()の能力、『提督』の曲解。自分ではなく、自分の部下に対して絶大な力を与える能力である。妙高の『ジャミング』のように、トーチカを中心とした円形の範囲内に入った者──敵味方の区別も当然可能──を強化する、まさに司令官としての力。

 

「さっきまではまだ楽にやれた連中も強くなってやがる……っ」

 

 ここまで来たら、流石の深雪だってその力に気付いている。効果範囲を探ることも難しく、今は攻撃を仕掛けてくる敵をどうにかするのに精一杯。

 特に、煙幕対策として深雪の周囲を泳ぎ続けるシュモクザメが厄介極まりなく、今でこそ煙幕を散らすために動いているが、隙を見せた途端にダイレクトに突撃をしてくるため、常に気を抜けず、かつ煙幕もなるべく出していく方向で進めなければならない。

 むしろ、シュモクザメは自分に集中させ、仲間達に攻撃のチャンスを与える方が堅実だと、深雪は電の力を借りながら、敵部隊の視線をなるべく引きつけるカタチで戦いを進める、

 

 だがそれだけだと、欧州装甲空母棲姫の矢が対処しきれない。あちらはあちらで、その手で射っているとは思えないほどの速射。放ったと思えば既に番えており、隙らしい隙が見当たらない。近付くこともままならない。

 

「あっちは夕立がヤるっぽい。多分、相性があるよね」

 

 そんな欧州装甲空母棲姫に、夕立が狙いを定めた。『ダメコン』ならば、その矢であっても傷付かずに対処は可能である。他の者達よりは安全に立ち回れるはずだと、素早く前に出た。

 事実、次から次へと放たれる矢を夕立は既に見切っており、避けるのではなく()()()()()ようにして回避している程である。そんなことをしたら手や腕がズタズタになってしまいそうだが、そこは『ダメコン』の効果が大きい。擦り傷程度に抑え込んだ挙句、瞬時に自己修復で回復することで、矢への対処をより良いモノへと変えていた。

 

 しかし、そんな夕立でも前進は出来ていない。矢を対処するのに手一杯。本当ならそれをしている本体を処理したいのだが、矢の速射がかなりの速度であり、かつ払い除けた矢が艦載機となって襲いかかることもあるため、そちらの対処もしなくてはならなくなる。

 艦載機は欧州装甲空母棲姫のモノばかりではない。シュモクザメをコントロールしながら、南太平洋空母棲姫も次々と発艦している。搭載数は欧州装甲空母棲姫以上であり、矢を変えたり変えなかったりしているのとは違って直接艦載機として使っているため、余計に多く見える。

 

「数が、減らない……っ」

 

 その艦載機は叢雲が処理しているのだが、如何せんそれだけを対処していても戦況が変わるわけではないというのが痛いところ。撃ち墜としたところでまた数を増やし、一定の数を維持し続け、爆撃や射撃を嫌なタイミングで入れてくる。

 叢雲は大役があるため今傷つくわけにはいかない。それがどうしても控えめな戦術に繋がってしまい、やはり前進が上手く出来なくなる。

 

「えーい! 睦月はまだまだやれるにゃし! でも、すぐに立ち上がるのは勘弁してほしいぞよ!?」

 

 敵は欧州装甲空母棲姫や南太平洋空母棲姫だけではない。護衛の姫が大きく目立つことをしている隙に、艦娘達が死角から襲い掛かろうとしていた。それは内火艇を振り回す睦月によってどうにか食い止められているのだが、容赦なく薙ぎ倒しているにもかかわらず、すぐに立ち上がってくる。

 敵は多少は傷を負っている。なのに、何も無かったかのように次の突撃に備えている辺り、強化の度合いがわかってしまう。

 

「トーチカに近ければ近いほど強くなっているのです……? 姫本体との位置関係……?」

 

 電は深雪に向かってくる敵艦娘をどうにか対処しながら、この戦場を生み出しているトーチカ要塞棲姫を分析し続けていた。

 

 現在、姫本体に最も近い場所にいるのは、護衛役である2人の姫。スペックが最初から段違いな姫ではあるが、それをさらに強化されていることで、矢の速射や凶悪なシュモクザメのコントロールが可能になっていると考えた。

 その証拠に、2人の姫は基本的にトーチカ本体の側から離れようとせず、敵戦力の中では最もトーチカ本体に近い場所を陣取っている。護衛という立場からそこにいることは当然であろうが、それも能力的に理に適ったモノであるとも思える。

 逆に、死角から攻め込もうとしている敵艦娘達は、離れた場所からトーチカ本体に近付こうと攻撃をしている。徐々に近付いてきているのだから、徐々に能力の()()が良くなっていき、先程よりも強くなっている。

 

 ならば離れて対処してから戻るかと言われたら、それはそれで難しい。敵艦娘達は、深雪達を同じ場所に押し留めようと行動しているようにも感じたからだ。()()()()()()()()()()()()()()()感がかなり強い。

 

「狙いは消耗……なのです。このままだと、電達は勝ちきれずにズルズルと長引かされる。体力は消耗するし、集中力も無くなっていく。でも、あっちにはトーチカ本体の()()があるから、電達よりも長持ちする……」

 

 つまり、最初から完全勝利を狙っているわけではない。いや、狙ってはいるのだろうが、手早く勝とうとしていない。ジリ貧を強要し、精神的に追い詰め、上から叩き潰す。冷静にその実力を測り、時間をかけ、確実な勝利を掴もうと策を練り続ける。そこに焦りも何もない。

 これまでの敵と違ってベラベラ喋らないのも、余計なことを話して勘付かれるのを防ぐためかと、電はトーチカ本体に目を向けた。

 

「頭のいい子はいるようね。でも、私は何も言わない。貴女達が貴女達の中で考えればいいだけのこと。敵に塩は送らないわよ私は」

 

 人差し指を口元に当てるトーチカ本体。自分はあくまで黙っていると体現したポーズ。

 

「いいのです。というか、それが普通なのです」

 

 少しだけ強気に、弱気を振り払うように取り繕って、電は頭を回す。おそらくこの中でも特にそういうことが得意なのは電だ。この状況を乗り越えるため、トーチカの力を抑え込むため、何が必要かを考えて考えて考える。

 

 思い浮かぶ策はあった。だが、それは大概()()()()()()()()()()()である。それを実行に移し、そして成功した場合、トーチカ本体だけでなく、他のただ従っている者達が非常に危険な目に遭う。

 救える者は全員救いたい。命を奪いたくない。その優しさが、どうしてもその策を躊躇わせる。あまりにも危険すぎる。味方にも、()()()

 

「睦月ちゃん、すごく危ない作戦があるのですが……」

 

 そのキーパーソンは、睦月。『軽量化』の曲解を使うことで起こせる、危険ではあるが現状をどうにか出来そうな策。

 

「……どっちが危ないの?」

「どっちも、なのです」

 

 襲いかかってくる敵艦娘を何度目かわからないくらいに薙ぎ倒した睦月が、内火艇をしっかり握り締めて電に問うが、そう聞いたときに顔を顰めた。

 自分が危険ならば、まだ躊躇いなんてか無かった。だが、敵が危険だと聞いてしまうと、どうしても躊躇ってしまう。そんな余裕があるわけではないのに。

 

 優しさ故の苦悩。敵は斃さねばならないのに、その敵がまだ救える可能性があるならば、危険な目に遭わせられない。

 自らの意志であちら側についていると言っているが、更生の余地が無いわけではないはずだ。ならば、ここで斃し、必要ならば忌雷を引き抜き、生きたままでこの先に進んでほしい。そんな願いはずっとある。そうしたら、きっと話がわかるようになってくれると。

 

「……いいよ、やってみよう。ここで躊躇って負けちゃったら意味がないもん。だったら、賭けに出た方がいいと思う」

「睦月ちゃん……ごめんなさい、こんな策しか思い浮かばなくて。妙高さんや三隈さんならもっといい策を思いついてくれると思うのです」

「それは無いものねだりにゃし。それに、あの2人だって力業する時もあるよ?」

 

 あははと笑みを溢しながらも、睦月は電の策に身を委ねる決意をした。

 

「深雪ちゃん、電と睦月ちゃんで、道を拓くのです。だから、あの姫を!」

「おう、任せろ。でも、危ない真似はやめろよ」

 

 深雪もニッと笑顔を見せて、電のやり方を肯定した。それが敵味方どちらにも危険であることがわかっていても、その手段を使うと決断したのならば、深雪はそれが上手く行くように()()だけだ。

 

「睦月ちゃん、あちらの護衛本体を狙うのです」

「さっきは弾き飛ばされたけど、それでも?」

「大丈夫なのです。その代わりに──」

 

 その策を聞いたことで、睦月は目を見開いた。本当にそれをやるのかと。電が苦肉の策と言った意味もすぐに理解する。

 しかし、それくらいやらないとこの窮地は越えられない。危険であることはもう納得するしか無かった。

 

「……了解にゃし。やらないとやられるなら、やるしかないのね……!」

 

 言うが早いか、その指示を信じて、狙いを護衛の姫──欧州装甲空母棲姫に定めた。先程はその一撃を片手で受け止められた挙句、簡単に弾き飛ばされてしまったのだが、それでも同じことをもう一度するとほとんど宣言しているようなもの。

 欧州装甲空母棲姫は、弓を睦月に向けた。向かってくるのならばそちらを優先して撃つと。だが、その射線にはすかさず夕立が割り込む。

 

「無視させないっぽい! というか、無視したら夕立がぶん殴ってやるっぽい」

 

 夕立も無視出来ない存在である。矢を全て弾き飛ばし、一歩も引かないその姿は、まさに狂犬そのもの。いつでも喉笛に噛み付くという威圧も失われない、常に諦めないポジティブさは、この戦場でも脅威と見なされる。

 

「睦月っ、行け!」

 

 その邪魔をさせないように、深雪は煙幕を発生させようとする。するとすかさずシュモクザメがそれを邪魔しに突っ込んできた。

 これで、シュモクザメが睦月を邪魔することは無くなる。深雪は自身を囮に使うことも厭わない。

 

 ならばと艦載機が押し寄せてくるが、それも当然対策しないわけがない。

 

「それで行けるんでしょう! なら、道を拓いてちょうだい!」

 

 艦載機は叢雲が無理矢理にでも撃ち墜とす。睦月の邪魔はさせないと、仲間のために力を振るう。それがコレまで以上の集中力を生んだ。

 

 睦月の道は、仲間達によって開かれた。ならばもう、突っ込むしかない。

 

「ありがとうなのね! それじゃあ、いっきまーす!」

 

 故に、トーチカは考える。策があるからこそ、同じことをしてくるのだと。同じ攻撃を同じように受けたとしても問題ないからやろうとするのだと。

 それがわかっていてまともに受けるバカはいない。故に、トーチカは欧州装甲空母棲姫に避けろと指示を出す。

 

「今度は避けるにゃし? でも、織り込み済みなの、ねっ!」

 

 睦月はそれも予想済み。さっき通用しなかったのにまたやってくるのならば、何かしらの策があると考えるのは妥当。次は受け止めさせないと、これまでよりもさらに一歩踏み込んで内火艇を薙ぎ払う。

 こうなると、欧州装甲空母棲姫も受けざるを得ない。慢心せず、先程と同じとは思わず、全力を以てガードに徹した。片手で止めようなんて思わない。両手で、しっかりと。

 

 だが、今回の一撃は一味違った。

 

 

 

 

 鈍い音と共に、今回は逆に欧州装甲空母棲姫が弾き飛ばされた。

 

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