後始末屋の特異点   作:緋寺

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連携に次ぐ連携

 電から授けられた策を実行に移した睦月。それは、見た目()()()ついさっきも繰り出した内火艇による薙ぎ払い。『軽量化』の曲解によって小柄な睦月が片手で持ち上げられるわけだが、一度同じ攻撃を繰り出した時には、片手で受け止められた上に軽々と弾き飛ばされた。

 だが、同じことを二度も繰り返すということは何かがあると踏んだトーチカは、回避を指示。それを読んでいた睦月は、普段よりも一歩踏み込んで薙ぎ払った。

 

 それを喰らう羽目になった欧州装甲空母棲姫は、睦月の事を一切なめていなかった。その攻撃をしっかり受けるため、片手ではなく両手を翳してガードに徹した。何か策があるとしても、これならば受け止められると考えた。

 今の欧州装甲空母棲姫は、トーチカの『提督』の曲解により、大幅な強化を得ている。装甲も耐久も強化され、軽い内火艇程度に弾き飛ばされるようなことなんてあり得なかった。

 

 だが、今回は違った。鈍い音と共に、欧州装甲空母棲姫が弾き飛ばされた。

 

「ご、ごめんね。こうでもしないとどうにもならなそうだったから」

 

 申し訳なさそうな睦月ではあるが、今は戦場。こうでもしなくては、あちらの攻撃は止まらず、嫌でもジリ貧に持っていかれるのは目に見えていた。だからこそ、この一撃を決める覚悟が出来た。

 

 トーチカはすぐにはそのトリックがわからなかったが、睦月の現状を見てハッとした。そして、睦月の能力も完全に把握出来た。

 

「……一瞬……()()()()()()……?」

 

 それに気付いたのは、睦月が持っている内火艇……ではなく、持っている手。ついさっきまでは右手で内火艇を掴んでいたのだが、今は左手で掴んでいた。

 

 つまり、欧州装甲空母棲姫に直撃する瞬間に、ほんの一瞬だけ内火艇を手放し、逆の手で掴み直した。ただそれだけなのだが、睦月の力的にそれは非常に大きな意味を持つ。

 触れている間、そのモノを軽くするのが睦月の『軽量化』の曲解。逆を言えば、()()()()()()()()()()()()()()ことになる。右手で振り回し、直撃の瞬間手放し、そしてすぐに逆側の手でキャッチする。そのキャッチするまでの間は、内火艇が本来の重量に戻っていた。

 内火艇はどれだけ軽く見積もっても10トン近くある大物。睦月が触れている間は、それこそ異常に強固な段ボール箱程度の重さだったものが、その瞬間だけその重さに戻っていたのだから、いくら強化を受けていた深海棲艦の姫の身体であろうとも、ひとたまりもない。

 

 現に今、欧州装甲空母棲姫は、受けようとした両腕がひしゃげるように折れ、見るも無惨な状態になって気を失っている。虫の息ではあるものの、死んではいないようで、自己修復の真っ最中であった。これならば命を落とすこともないと確信を持てた。

 今の状態で体内から忌雷を引き抜いたら、尚のこと死に近付いてしまうだろう。ならば、そのまま置いておいて、残りの敵をどうにかする他ない。目を覚ますまでに決着がつけられればいいが、そう簡単にはいかないのがこの戦場。

 

「次、行くのね」

 

 欧州装甲空母棲姫に謝罪をした睦月は、その視線を南太平洋空母棲姫に移す。少し悲しそうで、でもやらねばやられると覚悟をした顔。もう一度同じことをお前にやるぞと言わんばかりに、内火艇を突きつける。

 

 トーチカからの強化を受けても慢心はしておらず、冷静に、的確な行動を選択する南太平洋空母棲姫だが、あの睦月は拙いとしか思えなかった。近接戦闘ではまず勝ち目がない。睦月がそれに対して素人であったとしても、単純な質量という壁は簡単には越えられない。

 だとしても、恐怖心は無い。それによって思考が制御されてしまうような()()な護衛では無い。むしろ、この状況においても冷静さを失わないからこそ護衛が出来ている。

 

「余所見、させないっぽいよ」

 

 しかし、冷静にはさせても、余裕は与えない。睦月に目が行っていることをいいことに、夕立が突撃していた。睦月に攻撃のタイミングを与えるため、あわよくば自分の手で始末をつけるため、動物的な直感で今だと動いていた。

 

「下がりなさい!」

 

 トーチカが初めて声を荒げた。なめていたわけではないが、特異点ではなく、その仲間達がここまで戦えたのは、想定以上だったことを認めている。故に、トーチカがここのボスであったとしても、仕切り直しのために護衛と共に一歩退く。

 ここでムキにならないのが、他の敵との違い。あくまでも冷静に、そのときに最も大きな結果を残せる選択を、頭を回し続けて考えている。強敵であると嫌でも思い知らされる。

 

「下がらせないっぽ……うえっ!?」

 

 そんなことさせて堪るかと夕立はさらに前進するのだが、まだまだ現れる敵艦隊がそれを邪魔する。トーチカが出張ってきているため、もう奥から敵が出てくることはないかと考えていたが、そんなことはなく、これまでよりも圧倒的に少ないながらも、最後の人員も投入するかのように展開。トーチカの一部、色が少しだけ違うところから、対地ではなく通常の装備の艦娘達が出撃してきた。

 これで本当にトーチカは全ての部下を出し尽くしたことになるのだが、深雪達にそれはわからない。まだいるかもしれないと警戒しなくてはならない状況が作られる。

 

「ああもう! まだ隠れてたっぽい!?」

 

 近接戦闘ではなく、砲撃を絡ませた迎撃であるため、夕立は『ダメコン』を使いながら前進を試みる。しかし、勢いは完全に削がれてしまい、その間に南太平洋空母棲姫の後退を許してしまうことになる。

 また、敵部隊の一部は無惨なことになった欧州装甲空母棲姫の確保にも動いていた。それをするということは、まだ戦えるように出来るということになりかねない。

 

「させねぇ!」

 

 ここで動き出したのが深雪。睦月は南太平洋空母棲姫と睨み合いをしており、そちらには夕立も向かっている。ならば、電と共に欧州装甲空母棲姫の確保を阻止しなくてはならない。

 あのスペックの姫に復帰されたら、それこそ戦いは振り出しに戻る。手で射っているとは思えない速射は回避するだけでも苦しいというのに、せっかくの睦月の覚悟がリセットされるのは苦しいにも程がある。

 

 だが、こちらもやはり通常装備。深雪に向かって砲撃を繰り出す。夕立のように当たったところで傷がつかないというわけではない深雪は、全て回避する代わりに前進が難しくされてしまっていた。

 

「くそっ……悔しいくらいに連携が上手いなチクショウ!」

「電達に突破は難しいのですっ」

 

 大楯などがあれば話は変わるのだろうが、この距離で、しかも陸上で海戦と同様な砲撃を放たれては、回避するのに手一杯になってしまうのは仕方ないこと。

 それでも少しずつは前進しているのだが、あちらは今、深雪達を始末することより、欧州装甲空母棲姫を回収することを最優先にしているため、当てるのではなく()()砲撃を繰り出し続けてきていた。

 

「だったら、これしか無ぇ……っ」

 

 それを退かすのは煙幕しかない。しかし、煙幕は未だに宙を泳ぐシュモクザメにキャンセルされ続けている。今もまた、それをしようとしたことに反応し、深雪に向かって突撃をしようとしていた。

 

「わかってる。んなこたぁ、わかってんだよ。でもな、二度も三度も同じことはさせねぇ。いい加減、ぶち壊してやるよクソ鮫!」

 

 左手で煙幕を溢れさせながら、右手は主砲を握り締める。向かってくるシュモクザメを破壊するために、消し飛ばす砲撃で狙いを定める。

 動きは素早く、また勢いがあるため、狙いが定めにくい。むしろ、砲撃されないように身体をくねらせて突撃してくるのだから、あちらもわかってやってきている。

 

「支えるのです。深雪ちゃん、撃ち墜としちゃいましょう!」

「ああ、助かるぜ電!」

 

 それを支えるのは電。主砲を持つ深雪の右腕に手を添え、シュモクザメへの照準を受け持つ。

 深雪には火力があるが精度が足りない。電には精度があるが火力が足りない。ならば、互いに足りないところを補えばいい。特異点と、その補助装置の在り方は、まさにそれ。今ここでそれを実現させ、脅威を取り去る。

 

 だが、2人がシュモクザメを注視してしまうと、自分達の防御を完全に放棄することになる。敵艦娘達も今仕掛けるしかないと、死角から襲いかかる。

 

「バカね。あの子達は、仲間を信頼してくれてるから、ああいうことが出来るのよ」

 

 それを守るのは、砲撃も辞さなくなった叢雲である。直撃はさせないようにしているようだが、それでも近付くな、余計なことをするなと言わんばかりに乱射。

 これまでの敵ならば、数人を犠牲にしてでも深雪達の始末を優先し、それで何かが起きても全て深雪に責任転嫁をしそうなものだったが、今回の敵はそういう点でも考え方が違う。叢雲の威嚇砲撃に対して、その一歩を踏み止まる。代わりに叢雲に対しての砲撃が始まるため、何とかその砲撃が深雪達に向かわないように回避。

 

 たった一人では稼げる時間は微々たるものであろう。だが、たったそれだけの時間でも、2人には充分。

 

「叢雲、ありがとな。少しだけでも時間を稼いでもらえるなら、それで充分だ!」

「深雪ちゃん、行けるのです!」

「おうよ! どうせ治っちまうんだろうけど知ったことか! 今だけでも止まっとけサメ野郎!」

 

 電による完璧な照準、そして深雪の力によって、その砲撃は放たれた。

 煙幕を食い止めるために突っ込んでくるシュモクザメは、砲撃を回避しようとさらに身を捻る。だが、深雪の砲撃はそれだけでは避けられない。それに、照準を合わせたのが電なのだ。回避することも視野に入れて、それを定めている。

 

 特異点の連携は足し算ではない、掛け算だ。深雪と力を合わせたことで電からも溢れ出す煙幕が組み合わされ、より強く、より精密な砲撃が実現する。

 

「直撃じゃなくても充分だ。いい加減、陸に沈めよ」

 

 砲撃はシュモクザメの半身を根こそぎ抉り取る。肉塊は疎か、血すら残さずに、最初からそこに無かったかのように。

 そうなってしまえば、もうコントロールも出来やしない。深雪の煙幕を止めることなく、そのまま地面に落下。叩きつけられたことでさらに破壊されることとなった。

 

「っし! これならっ」

 

 ここで一気に煙幕を溢れさせる。対策を排除したことで止められなくなったそれは、一気に戦場、特に傷付いた欧州装甲空母棲姫を取り囲むように発生し、その行動を封じた。

 これにより、トーチカへと運び込まれることも防ぐことが出来る。自ら目を覚ましたとしても、煙幕に攪乱されて、すぐには行動は出来ないはずである。

 

 

 

 

 煙幕対策もこれで対処は出来た。しかし、まだトーチカは力を隠している。それをどうにかしない限り、この戦いは終わらない。

 

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