ようやくトーチカに触れられるであろう場所まで追い詰めた深雪達だが、現実はそう甘くは無かった。
トーチカ要塞棲姫の持つ力、『開発』と『拡張』により、トーチカ付近には無限に爆発する地雷という、現実には起こり得ない兵器が配置され、近付くに近付けない。トーチカに触れることが目的だというのに、これでは達成することが出来ない。
そして、深雪の煙幕対策には『拡張』を施したブロワーによる強烈な送風。トーチカの中段辺りが変形し、そこから撤退していた艦娘が風を送り込むことで煙幕を吹き飛ばそうとしていた。事実、深雪の煙幕は少しずつ剥がされている。
「高いところを取られてるのが厄介だな。つーか、本体は何処に行きやがった」
「このトーチカで戦うために、奥でいろいろやっているのかも、なのです。どうにかしてトーチカを止めなくちゃ……」
今でこそ地雷と送風だけだが、煙幕が取り払われたら何をされるかわからない。ただでさえ近付くことが出来ないのだ。今のままでは、ただ煙幕が散らされるのを待つことしか出来ない。
トーチカの強度を下げることも出来ず、深雪の砲撃ですら意味を為さないとなると、どうしたものかと考えさせられる。叢雲を近づけさせたくても、トーチカ付近は地雷原にされてしまっているのだから、足を踏み入れるわけにもいかない。
「た、例えば、あのトーチカに何か突き刺しちゃえば、そこを足場に出来るんじゃない?」
睦月の提案は、是非ともやりたい手段ではある。しかし、深雪の砲撃ですら自己修復も込みで通用しなかったことは証明されてしまっている。砲撃がダメなのに、壁に何かを突き刺すだなんて不可能だとしか言えない。睦月もだよねぇと返事をするしか出来なかった。
「地雷は足の踏み場もなく埋め尽くされているのかしら。そうじゃないなら、どうにか飛び越えたり……」
叢雲の前進を阻むために設置されている地雷。ついさっきは夕立が砲撃を放って爆破したものの、無限に爆発するという性質を成立させるためか、その砲撃を受けても地雷が破壊されていない。
ならば、これは簡単な衝撃などでも爆発を引き起こして、周囲に甚大な被害をばら撒くのでは無いか。これは試してみなければわからない。
「あたしが撃つ。地面を抉っちまうが、今は四の五の言ってられねぇだろ。叢雲が通れる隙間さえ作っちまえば、それでいいよな」
「多少歩きにくくたって問題ないわ」
「よし、なら地雷なんて消してやらぁ!」
先程夕立が狙い、砲撃によって爆発させたが、まだ原型を残している『拡張』された地雷。深雪はそれ目掛けて、一発の消し飛ばす砲撃を放った。
陸に撃ったら地形に影響が出そうではあるが、無限地雷を破壊するなら、深雪ほどの火力を持っていないと苦しいだろう。
狙いは殆どその通りになる。地雷自体も爆発したものの、それがあるであろう地面は大きく抉れ、掘削機がそこを掘り返したかのようになってしまっていた。地雷の姿もそこにはなく、ただの砲撃では無い一撃を受けたのだと改めて知ることになる。
しかし、トーチカ自体は相変わらず健在。地面側から抉ったとしても、元々鎮守府であった名残か、土の中にも艤装がしっかりと食い込み、その強靭さを見せつけられる。
流石に地面までは自己修復で元通りなんてこともなく、地雷は今の一撃で消し飛んだために道は出来た。
とはいえ、それを見逃す敵では無い。無限に爆発する地雷であろうとも、そういったカタチで処理されることを想定していないわけがない。抉られた地面を道とするなら、それを塞ぐために行動する。そこを通ろうとするならば、それを全力で阻止する。
「そう来るか……!」
故に、先程撤退した南太平洋空母棲姫の艦載機が、その抉った地面に沿うように爆撃を開始。姿自体はこちらから見えないものの、明らかに向こうからは見られており、トーチカを守ろうと立ち向かってきているのがわかる。
むしろそれだけでは終わらない。ブロワーによる風と共に、なんと
「意地でもあたし達を近付けさせたくないらしいぞ。アレを突破されたらおしまいってことだ」
「なのです。だったら、押し通るしかないのです!」
「おうよ。みんな、頼むぜ。割と無茶しなくちゃいけねぇかもしれねぇぞ!」
新たなシュモクザメは、ブロワーが起こす豪風の中でも当たり前のように泳ぎ回る。しかも、道を塞ぐための艦載機は、そのシュモクザメのヒレから発生しているほど。
だったらさっきと同じにしてやると深雪が主砲を構えるが、同じ轍は踏まないと言わんばかりに、先程以上の旋回速度で動き回り、簡単に照準を定めさせないようにしていた。それでも爆撃が止まないため、進行がかなり難しい。
さらに、爆撃であえて地雷を起爆させることで他の道すら封じてきていた。爆撃程度なら破壊されない無限地雷だからこそ可能な、自爆が自爆になっていない脅威の荒業。
「うえっ、ぺっ、ぺっ、土が飛んでくるっぽい!」
「視界が封じられるわね……! それも狙いかしら!?」
その地雷を爆発させながらの攻撃は、土埃をブロワーで舞わせることも目的。煙幕とは関係ない、物理的な目潰しにより、深雪達の行動を阻害した。爆撃の直撃は煙幕でギリギリ耐えられても、それに左右されない土埃はどうにもならない。また、煙幕が散らされていることで、より近くの土を舞い上がられるため、余計に目潰しが効いてしまう。
「乱射しても意味がねぇ! 叢雲、強引だけど進むぞ!」
「ええ、多少は無理しないと、どうにもならないわね!」
ここで止まっていては敵の思うツボだ。どうにかしてトーチカに近付かなければ話にならない。
この爆撃を無傷で突破するのは難しいが、突破方法が無いわけでは無い。
「なら、夕立が先陣切るっぽい! 夕立なら、この程度の爆撃でどうにかなることはないからね!」
まずは『ダメコン』の夕立。その力を使えば、爆撃はおろか、例え地雷を踏んだとしても、ほとんど無傷でいられる。だが、その爆発力でその場にいられなくなるのは間違いない。
「その後ろは睦月! 爆撃も跳ね返してやるにゃし!」
「内火艇、夕立に当てないでね?」
「だいじょーぶ……とは言いにくいのね」
「夕立ミンチになりたくないっぽい!『ダメコン』あるけど!」
そこに睦月と続く。こちらは内火艇の強度に頼ることになるが、艦載機からの射撃などは全て
「叢雲、お前が真ん中だ。あたしと電で背中を守る。後ろは振り向かなくていい」
「なのです。前に進むことだけを考えてほしいのです」
「辿り着いたら、最後にあたしがその背中を押してやるから、頼んだぜ」
そこから叢雲、深雪、電の順に突撃。道が狭いというのもあるが、敵艦載機とシュモクザメによる猛攻を防ぐための単縦陣を組んだ。
「じゃあ、行くっぽーい!」
先頭の夕立が、深雪によって切り拓かれた唯一の地雷が無い細道を突き進み始める。当然それが許されるわけもなく、シュモクザメを筆頭に周囲すらも爆撃をしていき、進行を妨害。土埃で目を潰されかけるが、夕立は無理矢理手を払ってそれが目に入るのだけは防いだ。
薄くされながらも、深雪の煙幕はまだ効果を発揮している。敵の攻撃は直撃しない。だが、それが逆に周囲の地雷を爆発させ続けているため、トーチカまでの道がやたらと遠く感じてしまう。
「当たったところでどうってことないっぽい!」
「それ言えるの夕立ちゃんだけにゃあ!」
その後ろ、爆撃で舞い散る土埃や石などを、内火艇によって防ぎながら進む睦月。それでも夕立を盾にしてしまっているようで申し訳なさそうだが、2人がかりの防御は、さらにその後ろにいる叢雲達に被害を無くすのに貢献していた。
だがここで、予想はしていたが起きてほしくないことが起きてしまう。
「煙幕が散らされた……!」
この作戦に出ている間も出し続けていた深雪の煙幕。しかし、煙を散らすことに『拡張』されたブロワーが、さらに投入されたことで、風の量が一気に増える。さらにはシュモクザメが泳ぎ回ることでさらに散らされたことで、煙幕が煙幕として機能しなくなってしまった。
トーチカからは、深雪達の姿が丸見えに。集中砲火も煙幕の効果が無くなってしまったことで当たるようになる。多少有利だったのが一転、一気に不利になる。
しかし、これを予測していないわけではない。風はずっと吐き続けていたし、シュモクザメはずっと見えていた。そして、こちらの攻撃が当たらないわけでは無いのだ。
「ここからは強引に行くぞ!」
もう止まっていられない。ここで止まったらそれこそジリ貧。敵陣のど真ん中で止まることは、確実に押し潰される。あちらはそういうことが出来るだけの力を持っているのだから、より躊躇なんてしていられない。
「せめてアレが無くなれば進みやすいよね?」
ここで夕立が奇策を思いついた。電では優しくて思いつかず、夕立だからこそ思いついた無謀な、しかし、夕立だからこそ成功させられるとんでもない作戦。
アレとは当然シュモクザメである。あれが空を泳ぎ回り、艦載機やら何やらをばら撒くから進みにくいのだと、夕立は睨んだ。
「そりゃあそうだけど、どうするつもりだ?」
「それはっ、こうするっぽい!」
ここで夕立は何を思ったか、本来の進路からわざと外れた。当然そこにあるのは、無限に爆発する地雷。ここまでもずっと爆発させられ続けている、ただただ厄介な兵器。
「夕立!?」
「大丈夫! だって夕立は、傷付かないから!」
当然、夕立が踏みつけたことで地雷は爆発する。爆炎が舞い上がり、凶悪な衝撃が夕立を襲う。だが、『ダメコン』のおかげで夕立自身は無傷である。インナーはボロボロになってしまったが。
夕立はその衝撃を利用して空高くジャンプ。あまりにも滅茶苦茶な行動に、シュトクザメも反応が遅れた。そのおかげで、夕立の作戦は上手く行く。
「大人しく、するっぽい!」
なんと、空を泳ぐシュモクザメに掴み掛かり、抱き抱えるようにその動きを止めてしまったのだ。
艦載機が何をしようと、夕立は『ダメコン』のおかげで傷付かない。いや、傷はついているがすぐさま自己修復で元通り。全てを擦り傷にする曲解の真骨頂。逃がせない衝撃を利用した、とんでもない奇策。
「ヒト1人分の重さも耐えられないでしょ。だから、さっさと墜ちろぉ!」
夕立の言う通り、ヒトを運ぶ程の力を持っていないシュモクザメ。夕立の体重がのしかかるだけで浮力を失い、そのまま真っ逆さまに地面に落下。そして、別の場所の地雷の上に叩きつけられ、さらに爆発した。
「滅茶苦茶するなぁ夕立!」
「これくらい、朝飯前っぽい! 特機のおかげでちょっと痛いで済んでるから!」
爆炎の中でも、夕立は笑顔で立っていた。殆ど半裸状態なのは、気にしたら負けである。
これで道は拓けた。そして──
「辿り着いたわ……やっと私、役に立てるわね」
トーチカの壁面に、叢雲が手をつけることに成功した。