トーチカ前の無限地雷、南太平洋空母棲姫の生体艤装2体目と、深雪達の進行を邪魔する敵がまだまだあったが、各々の機転によって突破口が生まれた。深雪の消し飛ばす主砲により地雷を消し飛ばし、夕立が『ダメコン』により地雷を利用したハイジャンプを見せたことで、生体艤装も叩き落として地雷によって爆破。
これにより、再び道は拓かれ──
「辿り着いたわ……やっと私、役に立てるわね」
トーチカの壁面に、叢雲が手をつけることに成功した。
「叢雲ちゃんは睦月も護るのね! ちょっと危ないけど、これでどうにかなるよね!?」
壁に手をつけた叢雲は無防備になる。シュモクザメは始末したものの、まだ南太平洋空母棲姫の艦載機は残っているため、それから守る必要はあるのだ。
そのため、睦月もなかなかにとんでもない行動に出た。内火艇を軽く持ち上げたかと思うと、なんとそれを叢雲の頭上に掲げ、トーチカの壁面に突き刺すように押し当てたのだ。
強固な屋根があれば、艦載機による爆撃もある程度は防ぐことが出来るだろう。
「夕立も援護するっぽい! だから、目一杯やっちゃえ!」
勿論それだけでは厳しいだろうから、服はボロボロでも身体は無傷な夕立がしっかり対空をカバーする。これならば、叢雲に被害が向かうことは無いだろう。いざという時は夕立が身を挺して守る。
「深雪ちゃん、電ちゃん、特異点の力で、叢雲ちゃんをお願い!」
「ああ、勿論そのつもりだ。叢雲、1人でこの馬鹿でかいのをどうにか出来そうか?」
「……助けてくれるとありがたいわ。やれるかもしれないけど、時間がかかると思うから。コイツは、速攻で片付ける」
「あいよ。電、いいか」
「なのです!」
叢雲の力を発揮すれば、このトーチカは終わらせられる。仲間達も、叢雲自身も、それには確信がある。しかし、このサイズをどうにかするためにはどうしても時間がかかる。叢雲の力は、
それをサポートするために、深雪と電は特異点の力を使う。トーチカを両手で触れた叢雲のその手に、2人で自分の手を重ね、そして成功を願う。叢雲の力が最大限に発揮されるように。この戦いを、もう誰も傷付くことなく終わるように。そんな優しい願いを込めて、叢雲にその力を乗せた。
「さぁ、行くわよ……っ」
目を瞑り、息を整え、周囲の戦闘音を耳から遠ざけ、集中する。ただタッチするだけで終わればどれほど良かったか、この戦場でも、少しの時間がどうしても必要になる。
「アンタ達の力、ちゃんとわかるわ。煙幕だけじゃないのね」
「本当なら煙幕でお前の力を拡げてやりたかったんだけどな。この風のせいでそれが無理になっちまった」
「でも、こうやって直接触れていられるなら、煙幕にならなくても少しは手伝えるのです」
本来ならば、叢雲の力を深雪の煙幕で拡張したかったところなのだが、ブロワーによる強風でそれどころでは無いので、煙幕を発生させる手を直接叢雲に重ねることでサポートとした。
煙自体は出ていないため、特異点の力を十全に使えているかと言われると少し劣るカタチになってしまってはいる。だが、深雪と電の優しい願いは、確実に叶いに行く。そのおかげで、叢雲の力の出力は十二分に膨れ上がっていた。
「っ……来た……行けるわ……っ」
その力が浸透する感覚を得た叢雲。より強く捩じ込むように、両手を押し付ける。
「こんな普通じゃない能力は、私が否定してあげる。私は
叢雲の力は、まさにそれである。
叢雲が特機に願ったのは、『普通の道を歩きたい』という、失ったモノを取り戻したいと考えるモノ。それ故に、どんな姿にでもなれると前置きをされていても、最終的に特機に寄生されても普通の叢雲の姿となった。今でこそ周りと揃えようと思ったから服装を替えているが、そうでなければ一般的な叢雲改二と大差は無い。
それだけ『普通』に執着するようになった叢雲は、無意識に『普通では無い』ことを拒否している。自分が普通では無くなってしまったこともあり、コンプレックスのような感情を持ってしまっている。だからといって仲間達を否定はしない。自分を救ってくれた者なのだから、その在り方に対して敬意を表している。
だが、普通では無い敵に対しては話が変わる。自分の人生を破壊した者達。自分の罪を体現する者達。怒りと悲しみ、苦しみを、その存在が嫌というほど押し付けてくる。
それを排除したい。これ以上、誰かの人生を破壊するような力は許さない。それに、他にも自分と同じように人生を壊された者がいるのなら、せめて『普通』に戻してあげたい。
本人がそれを望んでいるかはわからない。しかし、他者に迷惑をかけるような力を持っているのなら、それはダメだ。自分と同じ道を歩くことになる。
故に、叢雲は『異常』を否定し、『普通』を愛する。
その力は、『標準型』の曲解。共通の特徴を持たせるという標準型のコンセプトを曲解し、共通という部分一点に絞った力。
その効果は──
結果、
「大きいくらいが何よ! アンタがトーチカ要塞棲姫だっていうなら、その力だけで戦いなさい! だからっ、こんなモノっ、消えて無くなれぇ!」
より強く『標準型』の曲解が力を発揮し、深雪と電がそれをサポートし続けた。特異点の力を込みにしたことで、見上げるほどに大きなトーチカに浸透し、『拡張』の曲解によって歪められた鎮守府そのものに干渉。艤装の隅から隅までを『普通』に戻す。
「デカい分、負担がデケェ! 叢雲、耐えろよ! あたし達が支えてやるからな!」
「なのです! 気持ちを強く持っていれば、叢雲ちゃんが望んだ『普通』が、絶対に叶うのです!」
深雪も電も、叢雲のその力を事前に聞いた時、これまでの人生が酷くトラウマとなっていることに気付いている。前を向いて歩こうとしているが、その心には深い闇が広がっていることも。
だから支えてあげたい、そう思えた。深雪にとっては直近の、電にとっても特型として、姉妹の叢雲が苦しんでいるのだ。手を貸さない理由なんて何処にもない。姉妹で無くても手を貸すくらいなのだから。
「多分、ただのヒト型ならこんなに苦労しないんでしょうね。でも、最初の仕事がコレで良かった。こんなにみんなのためになるんだもの。だったら、全力を出すのに相応しいわ!」
叢雲が少しだけ微笑んだ。今の力を持てたことを喜び、その力をくれた深雪に感謝した。気恥ずかしくて言葉にすることは無いが、深雪と姉妹であることを誇りにも思った。
それがまた、力を強く発揮するトリガーとなる。力の浸透はさらに加速し、トーチカ全域に拡がった。そして──
「わ、わっ!?」
それに真っ先に気付いたのは睦月。内火艇を壁面に押し付けていたが、その支えが急激に失われていく。これでは手が滑って大惨事になりかねないので、すぐに両手で支えるようにした。こうしている間も艦載機は攻撃をしてきているため、強固な屋根は必要。
だが、それもすぐに必要が無くなる。そもそも艦載機を発艦している南太平洋空母棲姫もトーチカ内部にいる。そのトーチカに異変が起きているのだから、内部でも余裕は無くなっているだろう。
「トーチカが……崩れてるっぽい!?」
禍々しさすら感じる鎮守府サイズのトーチカが、端から塵となって消えていく。海上に向けて振り回され続けていた巨腕も動きを止め、完全にその機能を停止していた。
普通では無いものは、この戦場には必要ない。故に消える。元々無いものは、そうなる前に戻る。
「もっと、もっと! まだまだ足りない! 全部、全部、『普通』になれぇ!」
最後に柔らかくなったトーチカの壁面に腕を突っ込むように踏み込んだ叢雲。深雪と電の添える手は、叢雲の腕を掴むように。
瞬間、一気に煙幕が溢れ出た。これまで吹き続けていたブロワーによる強風も、今はただの微風に変化していた。『拡張』の曲解が効果を失っていく余波に当てられ、その効果が共に消えようとしていた。
それだけでは無い。トーチカから本体にまで干渉し、手に入れたあらゆる曲解を無力化していく。『開発』はこれ以上させない。『提督』の力も発揮させない。範囲内の敵達への強化は失われていき、ただ持っている実力のみでの戦闘を余儀なくする。
そもそもの連携は実力なのはわかっているが、この場にいることで手に入れていた余剰分は全て無くなった。それこそが、艦隊における
「叢雲の力、あたし達の煙幕に乗せたぜ。あいつらの『異常』を、全部『普通』に変えてやれ!」
「勿論よ! アイツらにインチキなんて許さない!」
やっていることは叢雲の方が割とインチキだけどなと深雪は苦笑するが、これまでのことを考えたらコレくらいしてもバチなんて当たらないだろうと、前向きに突き進む。
電ですらそれを肯定した。散々な目に遭わされたことは電だって痛感しているため、この時くらいはこちらに優位を貰ってもいいだろうと妥協。むしろ、仲間を救うためにはこれくらいしないとどうにも出来ないと考えているからこその肯定。
結果、風も止んだことによって叢雲の力が含まれた煙幕が、トーチカの外壁を完全に消滅させた。内側から本来のカタチ、しかしトーチカに『拡張』されたことによってボロボロになっている鎮守府が露わとなった。外壁にはヒビが入り、窓という窓は全て割れ、もうまともに鎮守府として運用出来ないレベルになってしまっている。
「あっ……は、榛名さんなのです!?」
そして、そんなボロボロな壁の向こう側。そこには立て籠っていた敵達と、先んじてこの鎮守府に攻撃を続けていた友軍艦隊が囚われていることを、電のドローン型水上機によって発見する。
無傷とは言わないものの、やはり命は奪われずに捕虜にされている辺り、そこはまた考え方が違うようである。
「んなら、救うしかねぇな。あとは突入……叢雲!」
だがここで、叢雲は宣言通り力尽きてしまう。充分に力を発揮し、トーチカから完全に力を奪ったことで、煙幕に含まれていた力も消失。ふらりと身体が傾いたと思ったら、受け身を取ることも出来そうにないくらいに消耗し、今にも意識を失いそうな状態。
そんな叢雲を、深雪はすぐさま支えた。ここまで大きなことをしたのだ。優しくそれを褒め称える。
「よくやってくれたぜ叢雲。マジで助かった」
「……よかったわ……少し……寝かせてちょうだい」
「ああ、問題ない。ゆっくり休んでくれ」
深雪にそう言われたことで、笑顔で気を失った。
これでもう、攻略は終わったようなモノ。残りは、完全制圧のみ。