後始末屋の特異点   作:緋寺

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そして休息へ

 付近の鎮守府や他の後始末屋、そして大本営にも呼びかけ、5つ目の鎮守府の片付けは進められていく。まだ陸にいた敵艦娘達は、消耗はしているものの神風が加わったことで早急に片付けられ、艤装を破壊した挙句意識まで飛ばして鎮守府に纏め上げていった。

 睦月の一撃によって瀕死の重傷だった欧州装甲空母棲姫は、その自己修復のおかげで、全快とまでは行かないものの8割方は回復していることを確認。トーチカがやられたことを知り、憤慨して襲い掛かろうとするものの、神風が瞬殺。怪我は負わせなかったが、艤装を完膚なきまでに破壊し、最終的には忌雷も引き抜いた。

 

「まったく……これ以上疲れさせないでちょうだい」

「それでも加減してんだから、神風すげぇよ。そいつ一応姫だぞ」

「素人でも無いわね。でも、弓なんて射たせなければどうということはないわ。弓で受けようとしたみたいだけど、それはこちらの思うツボだし」

 

 近接戦闘をさせれば右に出る者がいない神風だからそれが出来るんだぞと深雪は苦笑。電も何も言えずに笑顔を維持することしか出来なかった。

 

「これでひとまず全員片付いたかしら」

「ああ、多分な。電、どうだ?」

「水上機で見回りましたけど、もう見当たらないのです。これで全員なのです」

 

 やっと終わったと神風が胸を撫で下ろした。

 

「お疲れさん。海上の方が大変だったろ」

「大変なんて言葉じゃ言い表せないわ。後から話すと思うけど、もう本当に厄介だったんだから」

 

 神風がここまで言うのは珍しい。どころか、深雪的には初めて聞くと思われる。

 

「そ、そこまでか」

「そこまでよ。あんなの二度とゴメンね」

「……だな、あたしも陸とはいえ、あんな戦いはもう嫌だよ」

「電もなのです……」

 

 深雪と電は大きな傷こそついていないが、どうしても擦り傷くらいは出来てしまっていた。全身を覆うインナーがあったとしても、そこら中にほつれが見えるほどである。一部肌にも血が滲みそうなところもあるほど。

 その理由はやはり、あのトーチカ近辺の無限地雷原であろう。あの中心を突っ切ったせいで、砂埃と共に石が飛び交い、直撃はしていないが掠り続けていた。叢雲の力をサポートしていた時は特にである。夕立の自爆跳躍からの地雷起爆など、周りにもどうしても少しは害が出てしまうモノ。

 

「でも、これで終わりなんだもの。全部回収したら一度ゆっくり休みましょ。深雪もまたいつもの姿に戻っていいんだから」

「見慣れた姿の方が安心するというのはあると思うのです。大きな深雪ちゃんもいいと思いますけど」

「だな。これが嫌だってわけじゃあねぇけど、やっぱいつもの方が楽でいいぜ」

 

 そんな世間話も出来るほど気が抜けるくらいには片付いたことで、本当にようやくココでの戦いが終わったんだと実感出来た。

 

 

 

 

 陸の敵艦娘達も電が内火艇を使ったりして運び、全てが鎮守府に集まったところで大本営から艦娘が到着。流石に熊野丸と山汐丸ではなかったものの、大本営に連絡してそれが()()()()()()ことは確認済み。勿論、イリスの目による彩でカテゴリーCであることも確認した。むしろ、作業中も大本営と連絡を取りながら進めたくらいである。

 

 また、別の後始末屋も向かってきているということで、うみどりはひとまずこの現場を任せることが出来るようになった。前線に出ていた者達は、久しぶりとすら思えるうみどりに戻ってきたことで、疲労しか感じられない大きな溜息を吐いた。

 

「……疲れた……後始末より疲れた……」

 

 うみどりの工廠に戻ってきたところで、ようやく気を抜けたか、姿を普段の駆逐艦に戻した深雪。深海棲艦姿の方が体力があるというのもあるが、元より蓄積されていた疲労がより一層出てしまい、壁に凭れ掛かる程になっていた。

 

 傷自体は軽傷であっても、深雪はかなり長い時間、また量もこれまで以上に多く煙幕を出し続けてきたのだ。対策をされたとしても、出そうとはしていたし、最後は鎮守府を覆い隠そうとするほどに大量の煙幕を溢れさせている。

 それが深雪の体力を相当消費してしまっているのは間違いない。ただの煙のようで、実質そうでは無い煙を大量に生成したのだ。疲れて当然である。

 

「お疲れ様なのです、深雪ちゃん」

「電は大丈夫か?」

「疲れてはいますけど、深雪ちゃんほどでは。肩を貸すのです」

「悪ぃ、頼むわ」

 

 フラフラの深雪を支える電だが、その電だって疲労はある。むしろ、ここに疲れていない者なんていない。多かれ少なかれ、すぐにでも寝たい、休みたいと思っている者ばかりである。

 しかし、あんな戦場にいたのだから、洗浄だけはしっかりしておかねばならない。穢れを直に見たわけではないが、鎮守府そのものが艤装になっていたということを考えると、そこに足を踏み入れただけでも何か影響があってもおかしくないくらいである。

 

「洗浄して……風呂入って……軽く飯食ってから……さっさと寝よう……」

「倒れたらちゃんと運ぶから安心していいよー」

「お前の前で倒れるわけにはいかねぇ」

 

 グレカーレがニコニコしながら言ったが、倒れた後に何をされるかわからないからと、深雪は気力で踏ん張った。寝落ちなんてして堪るかと、意地で洗浄と風呂を終わらせる。電のサポートもあったため、ここまでは大丈夫だった。

 

 だが、少しでも腹を満たしてから寝ようと、軽食を食べたところでうつらうつらとし始めていた。食べるのも疎かになりそうである。

 

「本当にお疲れ様なのです……ずっと気が張ってたのですから、こうなっちゃってもおかしくないのです」

「海側も大変だったけど、陸側も相当だったんだよねぇ。ここのボスを始末したんだから当然か。あたしだってしんどいもん」

「この白雲も、今回ばかりはほとほと疲れ果てました。この後はすぐに床に就きとうございます」

 

 今回の戦い、勝ててよかったというより、とにかく疲れたという感想ばかりである。誰もが余裕がない。いつも元気な夕立ですら、食事すら放棄して寝ると自室に入ったくらいである。

 うみどりで防衛線を作っていた仲間達も、巨腕が作る波から生まれた余波に襲われており、転覆まではしなくても神経をかなり使う羽目になっていたため、やはり襲撃を行なった者達と同じように疲れていた。嵐の中でも殆ど揺れなかったのに、人工的に作られた波は別格である。

 戦闘に出ていなくても、大きく揺れるうみどりの中にいれば気が気でない。非戦闘員ですら、今回ばかりは疲労困憊という感じである。

 

「後始末も他のところがやってくれるみたいだし、あたし達はさっさと寝よ寝よ。深雪もこんなだし」

「なのです。一度ぐっと休んで、その後また頑張るのです」

「裏切り者の鎮守府もラス1だしね。それももう終わってんじゃない?」

 

 今回の裏切り者で5人目。最初に出てきた裏切り者が6人なのだから、次がラストである。

 

 1人目は伊豆提督も乗り込んで捕縛され、麻袋に入れられて大本営に輸送された。2人目は忌雷の暴走に巻き込まれて出来損ないと化し死亡。3人目はまんまと逃げ果せて悔しい思いをさせられた。

 4人目はうみどりが関与していないところで1人目と同じように捕縛されて既に輸送。そして5人目は最も手を焼いたが何とか撃破し、生かしたまま終わらせることが出来ている。

 残すところあと1人なのだが、事件発覚からもうかなりの時間が経過しているため、3人目と同じように、既に逃げ果せているのではと予想出来てしまう。うみどりはここまで忙しかったこともあり、そちらの話が聞けていないというのもあるのだが、今からどうするかはその裏切り者次第となるだろう。

 

「ぶっちゃけ、他の鎮守府でどうにかしておいてほしいけどさ。難しいかな」

「どうなのでしょうか……4人目の裏切り者は、人間達のみでどうにか出来たのですよね?」

「みたいだねぇ。それならもう終わっててもおかしくはないよねぇ」

 

 そう話していても、全て憶測でしかない。その情報は、通信妨害が無くなった今、伊豆提督達が調べているところだった。

 

 

 

 

 その伊豆提督だが、疲れを押してでも他の鎮守府や大本営と連絡を取り続けている。ここからうみどりはどうしていくか。

 すると、予想はしていたものの、少し意外な展開となった。

 

「流石にここまで時間が経っていますから、そうなりますか」

『うむ、残念ではあるがの』

 

 瀬石元帥から聞いたのは、うみどりとこだかの連合軍で対処した裏切り者が、5()()()()()()()6()()()()()()()ということ。そして、残った1人の裏切り者は、接戦の最中に撤退に成功してしまい、捕縛出来ずということになる。

 あの切れ者の提督が策を打ったのだが、それでは足りなかった。何せ、その最後の裏切り者は、誰よりも早く逃げ果せていたというのだ。

 

 敵の部隊はほとんどが出来損ない。また、一部深海棲艦までいたということらしく、そこの担当の鎮守府は慣れない敵に苦戦させられたらしい。腐食性の体液にやられ、自爆攻撃すらされ、本当に悲惨な戦場だったと報告を受けている。

 幸いなことに味方に死者は出ていないらしいが、それでも本当にギリギリだった者はいたらしく、今でも入渠が終わっていない者もいるのだとか。

 

「そうですか……でも、嘆いていても仕方ないですね」

『そうじゃの。勿論行方は追うが、3人目が見つかっていない以上、悔しいが捜索は難しいと考えておる。無論、指名手配にはするがの』

 

 何処に逃げ果せたかは、大体予想がつく。阿手の島だ。どうせこの後にそこに攻め込むことが決まっているのだから、そこにいるのなら、そこで捕縛することで解決も可能。

 とはいえ、このタイミングで逃がしてしまったのは少々手痛い。最終的な敵の戦力が増えているということにもなりかねないからだ。

 

『ともかく、今回の裏切り者との戦いはこれで終わりとする。いや、終わってはおらんのだが、うみどりとこだかはここから休息に入っておくれ。英気を養ってから、阿手の島へ襲撃を仕掛けることとなる』

「了解しました。ではそのように。うみどりのみんな、今回の件で相当疲れているようですので」

『うむ、しっかりと身体を休めてほしい。軍港都市に行くのだろう?』

「そうですね。あそこが一番休めるかと。……一度厄介な目に遭いましたけど」

 

 嫌な思い出もあるので、素直に休めるかは何とも言えない。だが、今回は流石に大丈夫だと思いたかった。

 

 

 

 

 良くも悪くも、裏切り者との戦いはこれで幕を閉じた。捕縛3人、死亡1人、そして取り逃し2人。決して上々とは言えない戦果ではあるが、これ以上の被害は押し留められたと言えるだろう。

 




長く続いてきた裏切り者提督編、これにて終了。最後の提督は既に逃げ果せていたという、嬉しくない結末になりましたが、アレだけ時間かけてたんだから逃げていないわけがなかったということになります。
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