後始末屋の特異点   作:緋寺

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新たな絆

 時間は遅いものの、休んだ時間が時間なだけあり、夜ではありながらも仲間達は続々と目を覚ましてくる。そして、その際に裏切り者を追い詰める戦いは終了し、今うみどりは軍港に向かっていることを知る。

 皆、深雪と同様にようやく終わったのかと安堵しつつ、軍港で少しの間休めることを喜んだ。夕立のような好戦的な者であっても今回の戦いはかなり過酷だったようで、まだ後始末の方がマシだと言う始末。

 

「っはぁ……セレスの飯が染みるなぁホント」

「なのです……やっと日常に帰ってきたって感じなのです」

 

 遅い時間であれど、しっかり食事が出来ているのがうみどりである。セレスもちゃんと休み、そして料理人として仲間達のメンタルを支えるため、いつも通り腕によりをかけて食事を提供した。

 戦闘中はガッツリ食べることもあまり出来なかったので、こうやって腰を落ち着けて、しっかりと味わえることに幸せを感じる。

 

 そのセレスは、まだ部屋で休んでいる伊豆提督に、療養出来るようにと別に食事を運んで行った。風邪を引いているとかそういうわけではないため、深雪達が食べているモノと同じモノを、それなりの量で。

 相変わらず平瀬や手小野、そして桜も手伝っているのが、より日常感を醸し出していた。戦場に出られない者がパタパタと働いている姿は、うみどりの平和の象徴とも考えられる。

 

「みんなマジで疲れてんなぁ。あたしもそうだけど」

「そりゃあね。海上班じゃなくたって、うみどりでずっと気ィ張ってたわけだし。それに、空襲は結構来てたみたいだよ?」

 

 グレカーレに説明されて、やっぱりかと納得。陸上班は海上班の様子を断片的ですら知らないのだが、あのトーチカがやってくることなのだから、何処も彼処も迷惑被っていたんだろうなと予想は出来ていた。

 トーチカ自身が艦載機を飛ばしていなくても、海上に出ていた部隊や、深雪達の知らない部隊が、うみどりに対して空襲を仕掛けていたと聞いても、何ら不思議ではないのだ。

 

「あ、疲れてるで思い出したのですけれど、トーチカに囚われていた皆さんは今どうしているのですかね?」

 

 ここで電が新たな話題を切り出した。それは、捕虜としてトーチカ内に拘束されていた友軍艦隊の現状。

 戦闘で疲れ切っていたうみどりの面々とは違う消耗の仕方をしていたため、うみどりに匿われた後は明石によって診察されている。今でこそ明石も休息に入ることが出来ているため、それ自体は終わったのだと思われる。

 

「今も絶賛回復中です。本当に消耗が激しくて、少し眠るだけでは回復出来ないところまで行っちゃってましたから」

 

 それを教えてくれたのは、まさにその診察をしていた明石である。工廠でパッと済ませることが多い明石も、今回はゆっくり落ち着いて食事がしたかったようで、仲間達と共に食堂で食べることを選択したようである。

 その明石曰く、友軍の艦娘達は瀕死とまでは行かずとも、かなりギリギリのところまで搾り取られていたらしい。その搾り取るという行為自体、純粋種の第二世代には覚えがあることばかりだった。

 

「あれ、私達も知っている()()()()()()()()と同じ症状ですよ。私達はそれで命を落とした艦娘を何人も知っていますから、それと同じであることはわかります」

 

 過去、何人もの艦娘の命を奪った艦娘の成分抽出。身近な者の例で言えば、救われなければ丹陽が同じことをされて命を落としかけているし、グレカーレの姉であるマエストラーレがそれで実際にこの世を去っている。夕立もその犠牲者になりかけている。

 それを第三世代にもやっていた理由は、トーチカ本人に聞くしかないのだが、おそらくと明石は続ける。

 

「聞いた話と状況証拠からの憶測ですが、巨大化した艤装の運用には、相応の力が必要だったんだと思います。それで、変質したトーチカの内部がどうなっていたかは今はわかりませんが、言い方は悪いですが()()()()のように扱われていたんじゃないですかね」

 

 話しながらも食事を頬張り、満足げな笑みを浮かべる明石。余程疲れていたのか、食べる量は他の者よりもかなり多めである。

 

「短時間の入渠を挟みつつ、ゆっくり休むことでしか回復出来ませんね。体力が減っているのではなく、体力の最大値が減っているようなものですから。でも、長期間復帰出来ないわけじゃないですよ。それこそ、私達が軍港で休んでいる時に一緒に休めば、数日で全快だと思います。無理をしなければ、ですがね」

「もし軍港でまた戦闘なんてあったら……っつーことか」

「はい。二度あることは三度ありますからね。いくら対策しても、それを上回ってくるのがあちらです。流石に私も戦闘は懲り懲りですけど」

 

 温かいスープを飲んで、ホッと息を吐く明石。休息も終えて、この後はまた工廠でいろいろと調べることになるのだと、忙しそうに、しかし楽しそうに笑みを浮かべた。

 それを手伝うことが出来る者はいないので、ただ頑張ってくれと応援することしか出来ない。明石はそれだけで充分とより笑みを深くした。

 

 

 

 

 夜ではあるので本来ならば後は就寝となるのだが、ついさっきまで全員が爆睡していたようなものなので、眠気は簡単には来ない。とはいえ消耗はしているので、少し活動したらまた休むことにはなるだろう。それだけ過酷な戦いだった。

 

「ハルカちゃんも今はじっくり休んでるところだもんな」

「なのです。電達よりもゆっくりしてもらわなくちゃなのですよ」

「だよな。歩けないような怪我をしちまったわけだし」

 

 こればっかりは全ての艦娘が休めと断言するほど。これでまだ仕事をしているというのならば、イリスも提案した一服盛るまである。

 

 今は休むのが仕事。溜まりに溜まった後始末屋としての仕事は、別の後始末屋を呼んででも終わらせる方向に進んでいるため、うみどりは何の心配もせずに休めばいいと大本営からのお達し。むしろ休めと強めに言われている程。

 伊豆提督もそこまで言われたら従わざるを得ない。一度戦いのことを放っておいて、ゆっくりと全快するまではジッとしていることを今やらねばならない仕事とした。

 

「うみどり自体は妖精さんが動かしてんだよね。だから、軍港まで行くのは何にも心配はいらないよ」

「それならば、我々も今は戦いを忘れ、ゆるりと過ごすこととしましょう。お姉様もさぞお疲れでしょうし」

 

 グレカーレと白雲も、一眠りはしているが疲れが完全に取れたとは言いにくい状態。今は眠気が無くても、そのうちまた普通に寝られるくらいには消耗している。

 今は張り詰めていたモノが切れたタイミング。一度しっかり休み、軍港では心も休め、次の戦いに臨みたいところ。

 

 だが、突然聞こえてきた1人の悲鳴によって、癒しは緊張へと早変わり。

 

「な、なんだ!?」

「工廠の方から聞こえたのです!」

「すぐに行くぞ!」

 

 そんなモノが聞こえたら、動かないわけには行かない。適当に散歩していた深雪達がそこに最も近かったようで、悲鳴の元へとすぐさま駆けつける。

 そこにいたのは──

 

「え、あ、えっ!?」

 

 トーチカに囚われ、今は回復のためにうみどりで療養中の友軍、蒼龍。そして、その隣にいる()()()()。その顔は蒼龍と瓜二つであり、この場で暴走のような戦闘をして伊豆提督を傷付けた張本人である。

 悲鳴の主はこの蒼龍。明石から診察を受け、寝てばかりでは身体がダメになりそうだと工廠内だけで少し身体を動かそうとしたところに、今はジッとしている艤装人間を見てしまい、とんでもない悲鳴をあげてしまったという流れ。

 

「な、なな、何コレ! 私!?」

 

 自分と瓜二つな深海棲艦がいれば驚くというモノ。しかも、それが工廠の隅でひっそりと佇んでいるのだから、質の悪いホラーだと思ってもおかしくはない。

 

「あー……なるほどな、うん、そりゃ驚くな」

「トーチカぶっ倒したら、こっちも動かなくなるんだねぇ。最初はあんなに敵対心バリバリだったのに、今じゃ本当に生きてるマネキンだよ」

 

 そんな蒼龍を見ながらも、艤装人間の方に近付く深雪一行。姿形は床に磔にされていた頃と何も変わらず、しかしより機械的になったかのような印象。ただ気をつけしながら佇んでいるだけ。急に暴れ出さないように、壁が『改造』されて枷となっており、その場に固定されている。

 実際ここには蒼龍似の艤装人間以外も運び込まれており、同じ場所に数人が並んでいる。明石も敵の技術の調査の一環として何人かは自分の近くに置き、構造などを調べているらしい。榛名似の艤装人間はまさにその対象となっており、工廠には置かれていない。

 

「ここで大暴れした敵だよ。アンタの顔に整形されて、うちの司令官に怪我させたんだ」

 

 まだビクビクしている蒼龍に、深雪が簡単に説明する。自分の顔がそんなカタチで使われていただなんて知らない蒼龍は、驚きが怒りに発展。何てことしてくれるんだと憤慨する。

 

「あ、もしかして、これのせいで私の顔を見た時にみんなビクッとしてたの……?」

「ああ、そういうこと。正直あたしも結構ビビった」

「うわぁん! 風評被害だぁ!」

 

 驚き、怒り、今度は泣きそうな顔。表情がコロコロ変わる蒼龍のコミカルさに、深雪はだんだん笑えてきた。

 

「グレカーレ、揉もうとするなよ」

「えー、あたしはこのマネキンとの違いを確かめようと」

「しなくていい。白雲、そいつ押さえとけ」

「かしこまりました。グレ様、お覚悟を」

 

 蒼龍を弄ろうと手をワキワキしていたグレカーレを羽交締めにする白雲。そうでもしないとグレカーレは躊躇なく鷲掴みにしかねない。

 

「しばらくはビビられると思うぜ」

「ぐ、ぐぅ……私は何もしてないのに……」

「それはあたし達もわかってるよ。ただ、こいつらの処遇を決めるのはハルカちゃんだからな。明石さんもそういう関係があってここに置いてるんだと思う」

「もう少し奥まったところじゃあダメなのかな。もう少し人目につかないところとかさ」

「場所が無いんじゃないか?」

 

 そんな蒼龍も、そろそろ艤装人間に興味が出てきているようで、自分と瓜二つの個体の前に進み出て、おそるおそる指先で顔をついた。

 

「うわぁ……顔は私っぽい。でも……確かに身体は硬いや。首から下は艤装なんだろうなぁ。敵はこんなことが出来るわけ?」

「ホントな、滅茶苦茶だよな」

「うん……まぁ当たり前のように深海棲艦と共存してるここも相当だけど」

 

 それはそう、と深雪達は苦笑した。

 

「ああ、そうだ、改めて。助けてくれてありがとう。あのままだったら、私達は吸い尽くされて死んでたかもしれない。みんなは命の恩人だよ」

 

 蒼龍が改めて深くお辞儀。救ってもらえたことに感謝し、命があることを喜ぶ。

 

「どういたしましてでいいのかな。やっぱ、救える奴は全員救わなくちゃだ」

「なのです。それがうみどりのやり方なのです」

「すごいね後始末屋。元々すごいと思ってたけど、今回もっと感心しちゃったよ」

 

 やはり後始末屋という部隊は他の鎮守府からは一目置かれているような存在らしい。今回の件でその戦闘力も広く知られるようになったため、より敬意を抱かれるようになったようである。

 

「特異点とか何とか言ってたけど、こうやって面と向かうと、別に特別な感じは何もしないね」

「……そりゃあな、あたしだって海で生まれた艦娘だからさ」

「だねぇ。その力で救ってもらったんだからさ、また何かあったら言ってね。私も手を貸したげるから」

 

 少し疲労は感じさせるが、ニコッと笑顔を向けた蒼龍に、深雪も笑顔で返し、ガッチリ握手。こうしてまた絆が育まれた。

 

 そして、工廠の奥から蒼龍と同じような悲鳴が聞こえる。奥にもいる艤装人間を見た榛名の悲鳴だったことがわかると、蒼龍はケラケラと笑いながら奥へと引っ込んでいった。

 

 

 

 

 この艤装人間、まだ処遇は完全に決まったわけではないのだが、少なくとも解体などはされない方向で考えられていたりする。人畜無害ならば、上手く扱えば友のように共存出来るのではと考えられているからだ。

 




ちなみに蒼龍は榛名達とは違う鎮守府出身です。共同作戦の最中に敵の攻撃を受け、一緒に捕まってしまったという流れ。
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