夜通し行なわれた後始末も完了し、それに参加した艦娘達の洗浄も終了。うみどりの面々はまだしも、緊急で手を貸してくれた榛名達は着替えがないので、妖精さんが即席で用意した着替えで凌ぐことになっている。
本来ならば明朝に帰投の予定だったのだが、深夜に後始末を手伝うという本来ならやらない仕事を自主的に行なったため、帰投は昼に。洗浄後はうみどりの空き部屋を借り受け、仮眠の後に帰投というカタチとなった。疲労から交流なんてしている余裕は無い。
おおわしの面々は、自分の艦に戻っている。昼目提督がうみどりにやってくる際には、別に待機している秘書艦がここまで連れてくるとのこと。その時にはうみどりの艦娘達は遅くなった休息で全員眠っていることになるので、顔を合わせることは残念ながら出来なそうである。
「みんな本当にお疲れ様。何もお腹に入れないで眠るのはよろしくないと思うから、軽く摘めるモノを作っておいたわ。食べてすぐ寝るのもどうかと思うけど、お腹が空いた状態だと眠れないかもしれないし、食べていってちょうだいね」
そこに伊豆提督が用意した軽食──今回は人数分のサンドウィッチが配られた。睡眠に影響を与えない程度に軽く腹を満たすことが出来る適量。
むしろここで程よく満たされたことで、一気に眠気に襲われる。身体も清められ、疲れがこれまで以上にドッと出てくるため、部屋に辿り着くまでが一番の苦痛となってしまった。
「電、大丈夫か。フラッフラだぞ」
「そ、そう言う、深雪ちゃんも、フラフラなのです……」
洗浄に長門の力を借りたくらいなのだから、もう自力で自分の部屋に戻る力も残っていない。深雪も洗浄する前までは大丈夫だったが、振る舞われた軽食で腹を満たした途端に気が抜けたか、足元が途端に覚束なくなっている。
「あらあら、二人とも本当に頑張ってくれたのね。それだと危ないでしょう。少し待ってちょうだいね」
伊豆提督が主任に合図を送ると、こういう時のために用意されていた車椅子が運ばれてくる。疲労困憊の仲間を運ぶためである他、今回の榛名達のように救護した者を座らせておくためにも、うみどりには必要なモノ。
立っていることも難しいのなら、まずはこれに座ってもらい、余裕がある者に部屋まで運んでもらおうという算段である。そして、深雪と電以外は、疲労が蓄積されているものの、歩けないというほどの者はいない。
「それじゃあ、私達が運んでおくわ」
その役目を引き受けたのは、やはりというべきか神風。そこに駆逐艦一同が纏めて参加する。駆逐艦の会による絆は、こういう時にも発揮される。
勿論、みんな相当疲れている。二人を除けば一番に経験が浅い梅に至っては、フラつきはしないという程度だ。むしろ、車椅子を杖代わりにして進んでいこうと画策しているほど。
「みんな疲れてんのに、なんか悪いな」
「ご迷惑おかけするのです……」
深雪と電の言葉に、全員が別に構わないという意思を見せた。
「初めての大規模は、みんな大体こうなったのね」
「そうそう。子日なんて車椅子に座った途端に寝ちゃったくらいだよ」
なんでも、これはみんなが通る道らしい。大規模の作業と言うよりは、夜通しの作業をするとこうなるとのこと。
「梅は車椅子に座ることすら出来ませんでした……」
「最終的には担いで運びましたもんね。車椅子だと安定しなくて」
「うう、ちょっと恥ずかしい……」
そう考えると、ちゃんと意識を残したまま車椅子に座っていられるのはマシであると、梅の熱弁から理解出来た。
「まぁそういうことよ。みんなやってることだから、遠慮せずに私達を使いなさいね」
「そっか。じゃあ、よろしく頼むぜ」
「は、はい、お願いするのです」
深雪は勿論のこと、電も笑顔で仲間達を頼った。その表情から、電は真実を聞く前の状態にまで戻ることが出来たのだと、仲間達は確信出来たのだった。
艦娘達が全員自室での休息に入ったことがわかった時には、外はもう夜が明けていた。一晩を作業で明かしたこともあり、伊豆提督としてもかなり疲れが溜まってきている。
作業上仕方がないことなのだが、夜更かし厳禁で生活のリズムを崩さないようにすることを心掛けているところにコレである。しかし、伊豆提督は自分のことより艦娘達が体調を崩さないかが心配だった。
ここで立ち入り禁止区画に篭っていたイリスが工廠にやってくる。これまでの作業中は、うみどりの中枢部で周辺管理を徹底していたため、その目を酷使している。仮眠も目を休ませるためには重要なことであるため、30分程度ではあるが仮眠を取り、報告会が終わり次第正式に休息を取る方針。
「イリス、アナタは休まった?」
「お陰様で。少し仮眠を取らせてもらったわ。ハルカも仮眠くらい取れればいいのだけれど」
「アタシはまだまだ仕事があるもの。でも、報告が終わって、榛名ちゃん達を見送ったら仮眠を取らせてもらうわ。お昼すぎるになるわね」
体調管理には人一倍気をつけているのが伊豆提督。一晩徹夜するくらいで崩れるようなことは無いのだが、今後のことを考えればまた正しい生活リズムに戻したい。そのため、仮眠などでうまく時間を調節して、また普段の時間の使い方に戻していく。
「でも、まずは調査隊との報告会よ。時間は……まだ大分早いけれど」
「彼ならそろそろ来るでしょう。それに元帥閣下ももう連絡がつくと思うわ」
業務開始時間という点で言えば、まだまだ早すぎるくらい。そうだとしても、既に全員が活動を始めていると言える。
昼目提督は、いち早く伊豆提督と会いたいからとかそういう理由で、おそらくそろそろやってくる。瀬石元帥は元々が早く始めて早く終わらせるようなタイプであるため、誰よりも早く業務を開始していたりする。
そういう意味では、おそらく今連絡をしても普通に対応してくれるだろう。それが失礼に当たるかどうか次第である。
「ほら、言ってるそばから」
「あら本当。相変わらず元気ねぇ」
イリスが工廠の外に視線を向けると、おおわしが停泊している方向から水上バイクが向かってきていた。そこに乗っているのは勿論昼目提督である。フルフェイスのヘルメットを被っているため顔は見えないものの、それより下は着崩した軍服であるため、それが提督だとわかる。
この水上バイク、艤装技術が転用された特製の逸品であり、非常に優秀な性能をしている。人間でも取り回せることが重要であり、鎮守府には基本的には完備していたりする。うみどりにも同じモノがあるのだが、伊豆提督があまり使わないだけ。
その水上バイクの隣に並走しているのは、昼目提督の秘書艦、重巡洋艦の鳥海。調査部隊としては、昨晩に行動していた三人が基本ではあるが、それをさらに束ねる
伊豆提督とイリスが小さく手を振ると、鳥海も小さく会釈をした後に手を振り返した。
「ハルカ先輩! お久しぶりです!」
ヘルメットを脱ぎながら叫ぶように挨拶をする昼目提督。隣の鳥海も深々とお辞儀。昨晩の神通のように疲れたような顔ではなく、昼目提督がこういうキャラであることをよく理解しているためか、むしろ
「ええ、久しぶりねマークちゃん。……まだ頭丸めてるの?」
「自分なりのケジメっスから!」
「もう昔の話じゃないの」
この二人が先輩後輩の仲になっているのは、提督になってからの話ではない。学生時代からの縁という、かなり長いものである。
ただ、ここまで来ると先輩と後輩ではなく、
「いいえ、オレはハルカ先輩がいなければこんな真っ当な道を歩くことが出来なかったっス。だから、一生尊敬し続けるためにも、頭を丸めてその気持ちを忘れないようにしているんです!」
「悪くない心掛けだとは思うけれど、あまり引っ張り続けるのも良くないと思うわ」
「いいじゃない。こんな後輩がいるなんて、逆に誇らしくないかしらね」
イリスにまで揶揄われて、伊豆提督の溜息は一層深くなった。
「イリスも元気そうで何よりじゃねーか」
「ええ、今日も元気よ」
「そりゃあいいことだ。健康第一はハルカ先輩からの教えだしな。ハルカ先輩を悲しませんじゃねえぞ」
ニッと笑ってイリスとも話している辺り、昔馴染みであることがよくわかる。それこそ、ここにはいないが保前提督とも面識があるくらいだ。
調査隊は極秘任務などが多いものの、少数の提督達とはこのように深く繋がりがある。伊豆提督とは先輩後輩を抜きにしても移動鎮守府による業務という繋がりによって情報共有をすることが多い。保前提督とは補給に使う軍港鎮守府での繋がりがかなり強め。
この三人は、戦いを早く終わらせるために必要な場所を取り仕切る者として、しかも幼馴染としても深く繋がっている。軍港は動かせないため、いざ必要な時に必ずそこが使えるかと言われればそうでもないのだが、近場に戻ってくることが出来れば必ず使うようにしているくらいである。軍港都市は艦娘からも好評であることもあり、メンタルの回復にもうってつけだった。
「一応早朝だし、みんなさっきまで作業してて疲れて寝てるの。聞こえているとは思えないけど。声は抑えましょうね」
「うっす! 善処します!」
間違いなく何も考えていない。伊豆提督はまたもや額に手を当てて溜息を吐くことになった。
「鳥海ちゃん、この子には随分と引っ張り回されていると思うけれど、大丈夫?」
「はい、おかげさまで。仕事には誠実な方ですから」
鳥海もにこやかに答える。鳥海の言う通り、こんなテンションではあるが、昼目提督は仕事に対しては非常に真面目。自分達の調査が戦いを有利にすることが理解出来ているからこそ、真剣に取り組むことが出来るのだろう。
「ひとまず場所を変えましょ。調査の結果を聞かなくちゃいけないものね。元帥と一緒に」
「うす。オジキにも知っておいてもらいたいので、資料を纏めてきたんス。鳥海、アレを」
「はい。伊豆提督、こちらをどうぞ」
鳥海が持っていたファイルケースから書類を数枚取り出して伊豆提督に渡す。そこには一部写真と見解の文面が記載されていた。移動しながらそれに目を通していくが、伊豆提督は読めば読むほど眉を顰めることになる。
「……これ、多少は憶測が入っているわよね」
「はい。どうしてもわからないところはありますので、そこはこれからの報告会で詰めたいなと思ってます。でも、かなり強めの確証はありますよ」
書類の中でも特に目を引く部分を見ながら、伊豆提督は真剣な眼差しで考える。こんなことが本当にあっていいのかと。
「
カテゴリーMとカテゴリーRの利害は一致しているんですよね。なので、カテゴリーRに知性ある者がいたとすれば、組織化するのは当然のことといえば当然のこと。