後始末屋の特異点   作:緋寺

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数度目の軍港

 時間は経過し、朝。工廠で艤装人間と対面する蒼龍が悲鳴をあげたこと以外は何事もなく進み、一度ぐっすり寝たにもかかわらず、また夜中にはしっかり眠ることが出来ていた。

 それでも少し遅い朝食。その時には伊豆提督も車椅子ながら食堂に来ることが出来ており、ここからどうしていくかを端的に話していく。

 

「知っての通り、うみどりとこだかは後始末を他の部隊に任せて、軍港でお休みさせてもらうことになったわ。申し訳ないけれど、アタシが歩けるようになるまでということみたい。数日は軍港に停泊することになると思うから、そのつもりでいてちょうだいね」

 

 以前もうみどりやこだかの元である潜水艦の修理などで3日ちょっとを軍港で過ごしたが、今回も似たようなものになると伊豆提督は語る。

 間近で爆発を喰らった時よりも療養に時間を取っているのは、そのダメージの中心が脚であり、自分の足で移動することが出来なくなっているからだ。そこは念には念を入れて、完治するまではしっかり癒されろというのが、満場一致の意見である。

 

 ここまでの戦い、伊豆提督も1つ目の鎮守府で自ら出撃するようなことまでしているので、見た目ではわからずとも疲労が蓄積している可能性はかなり高い。いつもニコニコしていたところで、突然倒れてそのまま起き上がらないなんてことがあっても困る。

 不謹慎ではあるが、ここで怪我を負ったのは、その疲労まで全て回復する時間が貰えた絶好のタイミングだと思えた。誰もそんなこと口には出さないが。

 

「それでも体が鈍っちゃうのが嫌だって子は、トシちゃんに頼んでるから、軍港の子と演習とかもしてくれて構わないわ。……そこにノリノリの子もいるしねぇ」

 

 2つ目の鎮守府攻略からずっと一緒に戦ってくれている綾波が、それこそ満面の笑み。演習ならお任せと顔からもわかるくらい。容赦無く戦うその姿に苦笑はするものの、綾波との演習は得られるモノも多いため、軍港では相手をしてもらうかと考える者はチラホラ。

 

「あと、ここで最後にもう一度聞いておくつもりだけれど、これまでの鎮守府から引き抜いた子達は、改めてうみどりについてくるか、別の鎮守府に……大体は軍港だけれど、そちらに転属になるかは決めてもらうわね」

 

 該当するのは叢雲、磯風、羽黒、名取、潮、高波の6人。そのうち叢雲と磯風は既にうみどりのメンバーとして戦闘にも参加し、ここからさらに転属するという気は微塵も無い状態であるが、他の4人はまた別である。

 とはいえ、高波はうみどり配属から揺らがないだろう。むしろ、ムーサが手放さない。高波自身も、副官ル級と仲良くなり、ムーサの面倒を見ることも厭わなくなりつつあるおかげで関係は良好。今のままでも大丈夫と、口癖の『かも』も付けずに言うくらいには馴染んでいた。ル級は高波のことを守らねばとムーサ以上に親身になっているようだ。

 

「あとは大体自由よ。心身共に休んでちょうだい。アタシもしっかり休ませてもらうから。あ、グレカーレちゃん、長くいるからって、ピンク街に行くのは当然禁止よ?」

「名指しで注意するとか、あたしってば信用されてんねぇ」

「もしこっそり行くようなことがあったら、私がちゃんと密告するから安心して」

「ニンジャを振り切るのは難しいかもー」

 

 少し笑いが起き、朝食の場での話は終了。これまでの戦いから離れることをみんなで少し喜び、休息の時間を大切にしようと改めて決意した。

 

 

 

 

 そんなこんなで軍港到着。ここまで深海棲艦からの襲撃もなく、改めて疲れるようなこともない。うみどりの中だけでも、8割は回復出来たかというところ。

 しかし、心はまだまだ疲れが溜まっている。これまでのことを考えると、どうしても軍港でも警戒してしまう。二度も戦闘があったのだから、どうしても身体も心も緊張してしまうようになってしまった。

 

「流石に何も無ぇよな」

「あってもらっちゃ困るよ。ここはそういうことがない場所であってもらわないとさぁ」

 

 流石にまだ私服には着替えていない。軍港都市で腰を落ち着けてから、改めて街に繰り出すということになっている。

 時間としてはおおよそ昼。今日はそこまで時間がなくても、それでも遊びに行こうと思う者はそれなりにいた。

 

「白雲は準備万端だな」

「はい、これが無ければ街を歩けませんので。それに、お気に入りだったりするのです」

 

 白雲は他の深海棲艦化した者と違い、特異点の力でツノを消していない。そのため、前回の軍港の時から用意してもらっている猫耳ニット帽で隠している。前回は本来の白雲の制服だったが、今はカテゴリーWとしての姿、雪女郎のそれなので、ニット帽は少々違和感があるような思えた。それは白雲も考えたようで、軍港にいる間は以前の制服にしておこうと、今はセーラー服姿だったりする。()()()()()()()()()()()はさておき。

 

「電、まず何処に行きたい?」

「うーん……迷っちゃうのです。ここに来たら甘いモノを食べるっていうのが定番になってますし、またいろいろ見ていくだけでも楽しいのです。やっぱり、目についたところから行くって感じになると思うのです」

「だよな。何処行っても楽しいしな」

 

 まだ外に出る前から、ここでの休みをどうしていくか考えている。そうしている間も楽しく、また戦いから離れていると実感して心が癒される。

 深雪であっても、裏切り者との戦いは精神的に大きく疲弊するモノだった。それが終わり、そこから離れられるのは、無意識的にも喜ばしいことなのだろう。

 

 そのうみどりの外、いつものように手続きをすることになるのだが、軍港の主である保前提督は、今の伊豆提督の姿を見て、一瞬言葉を失った。車椅子に乗せられてやってくることなんて、提督業を始めてから初めて見る姿である。

 

「……ハルカ、お前が怪我するってのは普通じゃないぞ」

「そうねぇ。でも、生きてるから大丈夫よ。ここで少しの間休ませてちょうだい」

「当然だ。お前が嫌だと言っても縛りつけるから覚悟しておけ。最悪、お前の側に綾波を置くからな」

 

 酷い脅し文句だと苦笑。だが、今の伊豆提督に、こっそり出て行くなんてことは出来やしない。自力で歩くことが出来ず、車椅子で移動するにも限界がある。

 

「話はいろいろ聞いてるけどな。苦しい戦いだったろう。うちの艦娘は役に立ったか」

「ええ、本当に助かったわ。特に2つ目の鎮守府攻略は、先んじて攻め込んでくれていたおかげで、大分戦いやすかったみたい」

 

 ならよかったと保前提督もホッと胸を撫で下ろす。そういうことはしないタイプであることはわかっていても、綾波が暴走していないかは心配だったようだ。暁がついているのでその心配も杞憂ではあるのだが。

 

「まぁいい。今回は少し長めに期間は取っておいてある。しっかり休んで、全快してから出ていけよな」

「ええ、胸を借りるわね」

「ハルカには借りを作りっぱなしだからな。こういう時は素直に頼ってくれ」

 

 親友同士とわかる、軽い会話。それだけでも、伊豆提督の休息は始まっていた。

 

 

 

 

 うみどりからは全員が退去。メンテナンスはすぐに始まり、資材の補充は出ていくことが決まってから。その間にダメになってしまいそうな食材などは、セレスがいい感じに調理し、既に提供済み。そのため、不安になりそうなモノは1つだけ。

 

「……どうしましょうね。ここに縛り付けておくしかないんですけど」

 

 明石が腕を組みながら悩んでいるのは、今うみどりにて確保されている艤装人間達である。数人は工廠の奥に寝かされ、他は工廠の壁に繋がれている状態。急に動き出して暴れられても困るため、こうしておくしかない。

 

「今、意思自体は無いんですっけ?」

 

 丹陽が聞くと、明石は一応はと頷く。反応が無いとは言い切らないが、少なくとも自発的に行動することはない。それは、まだ自らの意思を持つ前のセレスと同じような状態。

 あちら側に造られた深海棲艦は、洗浄すると空っぽになることは、セレスの一件で実証済み。それでも暴走したのは、トーチカの手が入っていたからなのだが、叢雲の『標準型』の曲解によって力が失われ、特機による忌雷引き抜きで二度とその力も発生しなくなったことで、艤装人間は全員、意思を持たない動くマネキンのようになっている。

 

 見た目こそ艦娘に似せられているが、あくまでも深海棲艦であるため、放置するのも憚られる。しかし、移動させるにしても何処にという問題もある。

 

「一応、軍港のお二人にも見てもらいます?」

「お二人……って、冬涼コンビですか。確かに、彼女達なら何か面白い案を出してくれるかもしれませんが」

「ここに放置しておくよりはマシでしょう。コンテナに入ってもらって、荷物と一緒に運び出すのが一番早い気がしますけどね」

 

 早いという言葉に誰かしら反応するのではと周囲を見回す丹陽だが、流石にここにはいなかったので、とりあえず話を続ける。

 

「出来ることならセレスさんのように自分の意思を持ちつつみんなに協力してくれる存在になってくれるとありがたいですけどね。最悪の場合は解体になってしまいますが……」

「プールの子達みたいに縮んでくれてもいいですけど、大半が艤装というのも厄介ですね」

 

 どうしようかと悩んでいても仕方ないため、ひとまずは全員をコンテナに移動させ、軍港鎮守府に運び込む方針。研究はうみどりでなくても出来る。明石は休息も取るが、軍港鎮守府の工廠で作業もすることになるだろう。それが本人の一番の癒しになるのだから。

 

「ボスはちゃんと休んでくださいね。私は工廠に入り浸りますけど」

「わかってますよ。でも私、皆さんより全然疲れていませんけどね。一番大変な戦闘中も、ずっと引きこもっていたわけですし」

「そのおかげで桜ちゃんとすごく仲良くなってますもんね」

 

 本当なら戦いたいのに、老朽化のせいで何も出来ない丹陽は、こういう時にも愚痴を溢す。本当なら仲間の役に立てるのにと。だが、その時に助かっても、その後が大惨事になるならそんなこと誰もさせない。

 なので、生身ではあるが、本当の非戦闘員であるカテゴリーYの面々を守るように立ち回ってもらっていた。戦えずとも、知識は誰よりもある。

 

「明石さんもちゃんと休むんですよ。私にそれだけ言うんですから、入り浸ってばかりじゃダメですからね」

「わかってますよ。基本は工廠ってだけです。そういうのが調べられるのは今は私だけですし、それに軍港都市の警備のシステム、私が手を加えることにもなるかもしれませんから」

「特機を使ってカテゴリーWになってるんですよね明石さん。ズルいですよね私には絶対使うなって言っておきながら」

「状況的に仕方なかったんですから。それに何度も言うように、ボスは寄生されたら死ぬと思った方がいいんですから、いい加減諦めてください。死んでも誰も喜びませんよ」

 

 そんな軽口も、この二人だから出来ること。

 

 いや、今はそれだけではない。丹陽には深く繋がりのある妹が仲間にいる。

 

「雪姉ぇ、もうみんな外に出てるよ? 早く出ないと!」

「はいはい、すぐに行きますよ。明石さん、コンテナの方、よろしくお願いしますね」

 

 舞風に引っ張られ、丹陽は笑顔で離れて行った。戦闘中はどうしても離れることになるが、今のような休息の時、プライベートな時間ならば、姉妹として丹陽と接するのだと決めた舞風は、今この時に最も仕事をする。

 

 

 

 

 

「……ボスもこれで多少は前向きになりますかね。あんまり命を粗末にするのは嬉しくないですから」

 

 明石も最後の準備をしてから、後を追うようにうみどりから退艦。これにより、全員が休養へと入ることとなった。

 




カレンダー1月の白雲がかなり良かったじゃないですか。なので、軍港都市に入ったばかりの時は、その姿にニット帽というイメージです。
あの白雲、スカートは普段より長くて、かつ黒タイツなんですよね。なので、この白雲はタイツじゃなくてガーターというそこはかとなくアレな感じ。グレの入れ知恵。


ついに700話まで来てしまいました。そして、まだ終わりが見えない。あと半月ほどで2周年も見えています。今後ともよろしくお願いいたします。
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