軍港に到着したうみどり。深雪達はまずは軍港鎮守府へと向かい、少しの間自分の部屋として使わせてもらう場所の把握。
前回軍港に来た時と同じ部屋をあてがってもらったため、見栄えは変わらないものの落ち着くことは出来る。相変わらず、2人1部屋で、深雪と電が同室というのも前と変わらず。
前回と違うところは、グレカーレが艦娘へと戻り、かつカテゴリーWへと変わったこと。敏感肌は無くなり、一緒に眠ることも可能になったということ。
そのグレカーレはニッコニコで一緒に部屋に入り、自分の荷物も当たり前のように置いた。
「よっし! 今回はこのグレちゃんも一緒に寝るからね!」
「はいはい、前回はまぁいろいろあったからな。ただ、1つに4人乗るのは流石に無理くさいぞ?」
「まぁそれは流石に。くっつけても間に落ちちゃうよ、多分ミユキが」
「あたしが真ん中前提かよ」
「当たり前でしょ。まずミユキが真ん中でしょ、イナヅマとシラクモが両サイド、そしてあたしが肉布団。ミユキ完全包囲網だよ」
流石にそれはやめてくれと苦笑し、その時々で上手いことポジションを決めるということで決着をつける。これから夜は毎回ジャンケン大会になりそうだとグレカーレがゴクリと生唾を飲み込んでいた。
これには電と白雲も冗談ではないという表情。これに勝てれば深雪の隣、そうでなければ別のベッドにすらなり得る。今日まで手に入れていた温もりを失うことになりかねず、それだけは避けなければと真剣であった。
深雪だけはこの展開についていくことが出来ず、とりあえず笑って済ましていた。
ここからは全員が自由時間。昼食も夕食も、外で食べてきてもいいし鎮守府で食べてもいい。後者を選んだ場合は事前に話をつけておく必要がある。
たまには外で全部済ませるというのでも問題はない。既にわかっているのは、セレスが行けるだけの店で食を堪能すること。あらゆる店に顔を出しては、その味を研究すると意気込んでいた。
「今日は昼だけとはいえ、結構みんな出歩くみたいだな。鎮守府に留まるっつってんの、今んところ聞いてないぜ」
私服に着替えた深雪達だが、仲間達もほぼ全員が着替えていることを確認している。鎮守等に残るのは、怪我人である伊豆提督とそのサポートをするイリスくらい。戦いの中、うみどりに篭っていたカテゴリーYの面々も、久しぶりの外ということで一度気を晴らしに向かうようである。
「ムーサさんも外に遊びに行くと言っていたくらいなのです。やっぱり物珍しさが勝ったのです?」
「高波とル級が上手いこと連れ出したんじゃね? 忌雷ばっか食ってても良くねぇし、高波がストレス溜まっちまうよ」
前回の軍港都市以降に仲間になった者には、イリスがしっかり私服を与えていたりする。本当につい最近加わった叢雲や磯風にすら、既に準備済み。高波やムーサ、ル級ですら例外ではない。
今回は忌雷以外の娯楽を知ってもらうためにも、高波が率先してムーサを動かしたようである。私服があるなら外にも出られる。特にムーサは、服さえ替えれば深海棲艦らしさすら無くなる。ツノが見えなくなったセレスが誰にもバレないくらいなのだから、ムーサはむしろ余裕で溶け込めるだろう。
「では、散策中に顔を合わせるやもしれませんね」
「だな。そん時は楽しんでるか聞いてみようぜ。大丈夫だと思いたいけどな」
「忌雷以外何も興味ないとかだったらお手上げだけど、なんだかんだ楽しめるんじゃないかなぁ。ムーサってば、食に関してはアレってだけだと思うし」
その願いが叶うかは、今はわからないが、とにかくこれからは遊びの時間。誰かと会えるならそれでいいい。合流して共に遊んでもいいし、各々好きなようにすればいい。4人で纏まって動いてはいるが、別行動すら誰も咎めない。
以前の事件のこともあるため、1人になるのは憚られるものの、それさえ守れば本当に自由である。それくらいでないと、気晴らしなんて出来やしない。
「んじゃあ行くか」
深雪達もそのために今から街へと繰り出すのだ。自由に、楽しく、やりたいと思ったことは何でもやればいい。多少の制限はあれど、ルールさえ守れば縛るモノなんて何も無いのだから。
街を歩く中でも、深雪達は少し気になっていたことがある。それは、前回の戦いで壊れてしまった街並みが、何処まで修復されているか。
それなりに時間は経っているので、そこまで爪痕は残っていないのではと思いながら、あの時の戦闘で通ってきた道をまたその足でなぞっていく。それは自ら軍港での嫌な記憶を思い返そうとしているのと同義なのだが、それでも戦ったのは自分達。
「そうじゃねぇかとは思ってたけどさ、本当に何も無くなってるとは思わなかったぜ」
「なのです。むしろ前より綺麗になってません?」
「だよな。そのおかげで、それだけ繁盛してるってことだし」
4人が思ったことは全く同じ。直されている痕跡すら見えないということ。その上で、新たな店が出来ていたりするので、人通りはかなりある方である。
「どうせなら何か買っていこうぜ。匂いもいいしさ」
「だねぇ。なんかお腹空いちゃう匂いだぁ」
「そうやってお客様を誘っているんだって、何処かで聞いたことあるのです。多分前にここに来た時だったと思うのですが」
フラリと入って、そこの名物となっているモノを買い、店先で食べるというのが定番らしく、それに倣って深雪達も頬張る。何処にでもありそうな串焼きの類なのだが、友と共にいつもと違う環境で食べるというのが味を変えるようで、いつも食べているモノとはまた違った美味しさを堪能することになる。
初めて軍港都市に来た時にも同じような味を感じたなと深雪は思い返す。ここで初めて食べるモノは、伊豆提督の振る舞ってくれる料理と比べるとランクが若干落ちるが、違うベクトルで上回る味を感じて舌鼓を打った。
「やっぱこういうのが出来ねぇとな。ここはそういう場所だしさ」
「なのです。こんなところで戦いなんて起きちゃいけないのです」
「まこと、その通りでございます。平和は平和のままであらねば。それを乱す不届者は、成敗されて然るべきでありましょう」
4人が食べている周りでも、同じようにモノを食べている者は多い。その全員が、その味で喜び、環境を楽しみ、次はどうしようかと笑顔で考える。これこそが平和だろうと改めて実感した。
そこに高次も何も必要ない。ただこんな小さな幸せを享受し続けられることでも充分だ。
「いやマジで美味かった。次来た時もまたココ来そうだな」
「みんなにも教えちゃおっか。ココ良かったよーって」
「だよな。戻ったらこっちの方来てない奴にも話そうぜ」
そんな話をしているのが聞こえたようで、店主が是非ともと喜んでいた。
そんな人間の笑顔を見たら、やはりコレが自分達の目指す平和なんだと改めて自覚する。
この笑顔を守るために自分達は戦っており、そしてそれを踏み躙るような連中はやはり許せないと。
「次はあっちなのです。壊れてるような場所はもう無さそうですけどね」
道案内は電。あの時の経路をしっかり覚えているため、このまま歩いていけば最終決戦をした港に辿り着く。港に近付けば近付くほど、店などは無くなっていくが、しっかりと整備されており、戦いの痕は何処にも見当たらない。
その痕跡があること自体が、街の平和に影を落とすことに繋がる。故に、保前提督はその修繕を真っ先に命じた。妖精さんの力を使ってまで街を元通りにし、むしろ前よりも良いモノにしているのは、ひとえに街に住む、訪れる者達のため。
「綺麗なモンだ。あの時あんなことがあったのが嘘みたいだな」
「嫌なことは忘れた方がいいから、これくらいがちょうどいいよ。何にも残ってないがさ」
「……だな。残ってても嫌なこと思い出すだけだからな」
その筆頭となる者は今、港に足を運んでいた。深雪達が戦いの経路をなぞる終着点、そこにいたのは、やはりというか、その
「なんかここに来てるんじゃないかなって思ってたぜ」
「……そうですか?」
「ああ、あたし達と同じようなことしてたんだろ。フレッチャー」
前回の軍港都市で波乱を巻き起こした米駆逐棲姫。その命を糧に、記憶を持った状態で生まれることになったフレッチャー。この街ではどうしてもその記憶が鮮明に思い返されてしまう。
他の者は
しかしフレッチャーは利用されたではなく
「私達が付き人であることもあまりよろしくないのかもしれませんが……フレッチャーさんたっての希望だったので」
と話すのは妙高。そしてその隣には神威。つまり、最終戦のメンバーである。Z1と伊26は別で動いているためココにはいないが、フレッチャーは2人にお願いして、あえてこの場所に来ていた。
勿論妙高と神威にもこの場所には思うところはある。あまり思い返したくない記憶。何処か
悪意に呑まれ、艦娘であることすら辞めさせられ、そして討伐される恐怖まで与えられた。それは大人であっても苦しいこと。
「私は私の持つ罪を改めてその目で見ておこうと思ったのです。今でこそ何事もない、むしろ前より良くなっているとすら感じるこの場ですが……やはり私の中にいる彼女がそれを壊したことには変わりありませんから」
楽しむために、癒されるために軍港に来ているのだが、フレッチャーにはどうしてもそれがある。ある意味、唯一この平和を享受出来ない者となってしまっていた。
「あー……‥あたしから何で言っていいかわかんねぇけどさ」
そんなフレッチャーに深雪は頭を掻きながら思ったことを伝えた。
「忘れろとは言わねぇよ。でも、気にしすぎることも良くない気はするぜ。この街は、あの時のことを忘れようとしてるからな。そうじゃなきゃ、こんなに綺麗になってねぇよ」
当事者というわけではないので、その気持ちはわかるわけではない。だが、とりあえず言えることはそれくらい。
「振り返ることは大事だけど、振り返り続けると本当に向かう道は見えねぇからさ、前を向くことも忘れちゃいけねぇよ。この街はもう振り返ってねぇ。前を向いてる。だから、フレッチャーもケジメついたら、前を向いてみようぜ。あたしからはそんなことくらいしか言えねぇや」
深雪の思った精一杯の言葉。あくまでも前を向こうという、深雪的には気休めくらいにしか思えない言葉ではあったが、フレッチャーには多少なりとも刺さった。
「……そう、ですね。前を向きたい、です。向くために、まずは振り返っていますが、少ししたら、前を向くためにがんばります」
「ああ、それでいいと思うぜ。辛かったら話してくれりゃあいい。独りでやらなくちゃいけないなんてないしな」
ニコッと笑う深雪に救われた気持ちになった。
そこからフレッチャーは少しずつ笑顔を取り戻していく。この街を楽しむことは難しいかもしれないが、それでも前を向き、進むことは出来そうだ。
妖精さんまだ使った建築の技術は凄まじいもの。家だってすぐに直せちゃう。