後始末屋の特異点   作:緋寺

704 / 1160
これも軍港の日常

 軍港都市の夜、うみどりの面々が全員戻ってきたことで、初日は難なく終えることがが出来た。ここを心配しなければならないのは、間違いなく米駆逐棲姫のせいなのだが、フレッチャーがいる手前、それを口に出す者は流石にいない。

 そのフレッチャーも、妙高と神威と共に少しはスッキリした表情で帰ってきた。自分の中にある記憶の街が復興し、そこに住まう人々の活気を充分に見続けたことで、前に進もうと改めて決意出来たようだった。

 

「半日でもみんな楽しんでこれたみたいだよな。あたしらもだけど」

「なのです。少しでも遊べれば、心の疲れが癒されるのです」

「だな。叢雲も楽しめたみたいで良かった良かった」

 

 うみどりとはまた違った大浴場で、まったりと湯船に浸かる深雪と電。ここ最近は戦闘ばかりで、ここまでゆっくりと風呂に浸かることもなかったような気がしてきた。洗浄して、ざっと温まり、まだ戦いは終わっていないのだから休まねばと気が急いた状態ばかり。時間に追われることもなく、疲れ切っている状態の風呂に、身体から力が抜けていくような感覚。

 

「大丈夫? シラクモ溶けちゃわない?」

「雪女郎とて、芯から温まりたい時があるのです」

「まぁねぇ。これまで本当に疲れたもんねぇ」

 

 白雲とグレカーレも久しぶりののんびりとした風呂に大満足。うみどりでも同じようなことは出来るはずなのだが、いつもと違うことをしているという特別感が、この心地良さを一層引き立てていた。

 

「あとはミユキが大人になっててくれたらなー。おっぱい枕でまったり出来るんだけどなー」

「絶対やらないから安心しろ。アレはアレで疲れるんだよ。吹雪に言われて毎日なんだかんだやってるけど、今日くらいは休ませてくれや」

「ざーんねん、まぁ、子供のミユキも触り心地はいいからね。揉み心地はさておき」

 

 そんなことを言いながらもしっかり深雪の真ん前から突撃しようとしているため、深雪が足で止めていたりする。三角絞めでも悦ぶから無闇なことが出来ないと扱いに困っているところもある。

 

 そんな光景も平和の証。余裕があるということに他ならない。次の戦いに備えて英気を養うタイミングとはいえ、ここまでまったり出来ているのだから、楽しまなくては損である。

 周りの者達も、そんな深雪達の漫才のような掛け合いを見て、和やかな空気を満喫していた。こういう場が続けばいいのにと。

 

 

 

 

 そんな平和な時間を満喫している裏側、工廠にて。

 伊豆提督や保前提督も眺めているそれは、トーチカとの戦いで現れた艤装人間である。

 

「何なのだコレは……深海棲艦なんだろうが、それとはまた違っているぞ」

 

 目を爛々と輝かせてそれを調査しているのは勿論、軍港鎮守府の定係工作艦である冬月。今は何をしても反応を見せないことをいいことに、腕や脚に触れたり、艤装との接続部をチェックしたりと、まさに()()()()()()かのような手つきである。

 

「最後に戦ったっていうトーチカからコイツらが出てきたんだよな。で、それにお前はやられちまった」

「ええ、腕に機銃が仕込んであってね。うちの工廠でしこたま乱射されたわ。ル級ちゃんの盾と、明石ちゃんの力が無かったら、アタシ今頃蜂の巣だったと思う」

「間一髪じゃないか。脚だけで済んでよかったってことかよ。あの忠犬が見たらコイツらぶち壊しかねないぞ」

「一応生きているからそれは止めるわ」

 

 冬月に加え、改めて明石も調査に加わっているのだが、艤装人間の詳細は謎だらけである。

 

 深海棲艦を『建造』し、艦娘顔に『改造』し、通信妨害などが出来る装置を『開発』し、そしてその用途を『拡張』した。あのトーチカが行なえる全ての力を注ぎ込んだ、幾重にも罠が仕掛けられた傀儡。

 今はトーチカから忌雷が引き抜かれ、それ以前に叢雲の『標準型』の曲解を喰らったことでその能力の影響が全て失われている上に、深海棲艦ではあるが洗浄もされているため、現在は空っぽの存在としてここにいる。

 

「相変わらず滅茶苦茶な能力だな。拡大解釈で好き勝手しすぎだ」

「本当に。この子達だって、望まれて生まれたわけじゃなく、利用されるために造られたんだもの。いくら深海棲艦といえど、可哀想だと思っちゃうわ」

「こいつらに命狙われたってのに……相変わらずだなハルカは」

 

 出来ることならば、セレスのように意思を持ってもらいたいと思うものの、そもそもセレスが意思を持った理由は誰も正確に知らないのだから、手の打ちようもない。深雪の煙幕が理由だなんて、誰も気付くことはないのだ。当の深雪ですら自分が呼び起こしたモノであることに気付いていないのだから。

 

「生体艤装と深海棲艦自身を一体化しているような改造です。今の私なら分離させることが出来なくもないですが……それはおそらく命を奪うことにもなりかねません。一体化ですから」

「明石のその力も後から調べさせてもらうとして、今はこちらだな。涼、君から見てどう思う」

 

 実際に触れるのは冬月だが、その傍で涼月がその奥をじっと見つめていた。

 

「……明石さんの言う通り、分離はやめておいた方がいいと思います。この方達は艤装が無ければ生きていけないようにされていますから。意思を持たせるのは……不可能ではないとは思います」

「そのやり方は?」

「私達の()()()のようにすること、ですかね」

 

 そう言って示すのは、冬月と涼月が持つ長10cm砲である。兵装ではあるのだが、自ら意思を持つように行動する特殊な存在。秋月型のネームシップである、うみどりの秋月も長10cm砲を扱っているが、同じように意思を持つような行動を見せることがある。生き物と言ってもいいのかはわからず、しかしただの兵装とも言えない、これはこれで歴とした仲間。

 今の艤装人間は、この長10cm砲とかなり近しいことになっているというのが涼月の見解。しかし、元が深海棲艦だからか、意思は非常に希薄。長10cm砲は兵装ながらも割と賑やかにしているのだが、こちらは空っぽであることもあり、スンと静かなままである。

 

「ふむ……簡単な話ではないな。我々の長10cm砲(チョウジュウ)も、何故動くかは謎ではあるからな。妖精さんの力の一端だとは思っているが」

「ですね。長10cm砲は、本来装備を管理する妖精さんが一体化しているようなものです。中で操縦しているわけでもなく、()()()()()()()()()()()()()()と考えてもいいでしょう」

「なるべく被弾しないように努めていますが、そう思うと尚のこと大切にしてあげたいですね」

 

 自分の長10cm砲の頭を撫でる涼月。それに応じて、パタパタと短い手を動かし喜んでいるような仕草。同様に冬月も触れると、小さく頷くように頭を動かす。

 明確に意思を持っている動きであり、ある意味()()()()()()()()()()()()()()()()()()証明にもなっていた。特殊な事例であることは間違いないのだが。

 

「……いや、やめておきましょう。思いつきはしましたが、それはやるべきじゃない」

 

 ふと明石が案を考えたものの、あまり許されるようなことではないと口を噤んだ。

 

 その手段は、特機を艤装人間に寄生させること。ある意味、特機が艤装人間に乗り込んで、自らの意思をその身体で体現することが出来るようになる。とはいえ、そうしたことでどれほどの負荷がかかるかわからない以上、無闇に実験することも難しい。それこそ最悪、艤装人間を1人使い物にならなくしてしまう可能性すらある。やるならしっかり調べてから。

 妖精さんと一体化というところから思いついたことだが、ここにはその事実──忌雷の原材料が妖精さんであること──を知らぬ者が多くいるため、そういう前提があるにしても公には出来ない。

 

「バラすのも気が引ける」

「うみどりで胴を開きましたが、内臓も一部艤装になっていることは確認しています。それ以上は触れられません」

「……開いたのか」

「はい。後始末の時のモノよりはまだ見られるモノですよ。綺麗なモノですから」

 

 そうかもしれないがと冬月は苦笑。想像しただけでもあまりいい顔は出来なかった。

 

「それを知っている上で、分離は無理だと断言しました」

「内臓を引っこ抜くようなモノならば、それは流石に無理だな。ならば、それを踏まえてコレをどうするかになるが……」

「難しいところです。放置していてもいいことはない。でも、調べ尽くしたところで出来るかどうかもわからない。出来たとしても、やってることはあちらと同じになりかねない」

 

 あちらと同じ。命令を受信させて、意のままに操るようなこと。それを良しとすることは、なかなかに難しい。この深海棲艦……()()()を好き勝手動かすということになるのだから。

 提督からイカれていると称された冬月であっても、その命を手中に収めるようなやり方には流石に抵抗がある。調べ尽くしたいという気持ちは抑えてはいないが、だからといってその者の権利は絶対に脅かさない。深海棲艦に権利があるかはさておき。

 

「自分の意思を持つこと……か。涼、妖精さんをコレに乗り込ませるなんてことは」

「長10cm砲ちゃんのようにですか? 私が思うにですが、おそらく無理です。スペースがあったとしても、そこが操縦桿になっているわけではありませんし」

「ふむ、涼がそう言うのならばそうなのだろう。妖精さんが一体化出来たとしても、その妖精さんが犠牲になってしまうだろうし……なかなかに難しいことを言ってくれる」

 

 しかし冬月の表情は暗くない。新たな課題が生まれたことを喜んでいると言ってもいい。難題を突きつけられ、それを解明する。定係工作艦として、これほどやり甲斐のある仕事はないと、むしろ笑みを浮かべる程である。

 そんな冬月を全肯定し、共に歩こうとしているのが涼月。この艤装人間についての研究を進め、道を開いた時、冬月と共に喜びを分かち合いたい。その気持ちが、今の涼月を前に進ませる。

 

「よし、一旦コレらのことは置いておこう。別のことをやれば、何か思いつくこともあるだろう。次は明石、君のことを教えてもらおうか」

「私のことですか?」

「『工廠』の力を持ったと言っていたろう。我々がこの鎮守府から出ない間に何があった。事細かく教えてもらうぞ。それが艤装人間に意思を持たせるきっかけになるかもしれないからな」

 

 冬月と涼月が知っているのは、軍港都市での米駆逐棲姫戦まで。その後に起きた特異点Wでの戦いや、裏切り者鎮守府制圧戦も、情報こそ流れてきたが、詳細はあまり知らない。

 つまり、特機の存在もまだまともに知らないため、明石がどのように今の力を手に入れたか見当もつかない。

 

「ああ……そうでしたか。うみどりにちょくちょく綾波さんとかいたので、その辺り伝わってるようなイメージでいましたよ」

「そうだぞ。だからそのことについて話してもらう。まだまだ時間はあるんだからな」

「時間はあるが今は寝ろ。明日もあるんだいろいろと」

 

 本当にこのまま話し込んでしまいそうだったので、保前提督がそれを止めた。知識欲が最高潮に達していそうだったが、今止めなければまた徹夜しかねない。せっかく艤装人間についてを一旦置いておくことにしたのだから、今切り上げなければもう切り上げない。

 

「む……仕方あるまい。だが、必ず教えてもらうからな」

「わかっています。情報共有は必要ですから、明日以降に伝えますよ」

「絶対だぞ。隠し事も無しだからな」

 

 では次は都市内に張り巡らせた対策のことを、と舌の根も乾かぬうちに徹夜ルートに入りそうだったため、保前提督は溜息を吐きながらいい加減にしろと叱りつけた。

 

 これも軍港鎮守府の日常である。

 

 

 

 

 そんなこんなで夜は更け、何事もなく翌日へ。おおわしと瀬石元帥の来港は、それからすぐのことだった。

 




元帥が開いた全提督参加のオンライン会議の場で深雪は深海棲艦化を見せているけど、軍港鎮守府の面々でそれを見ているのは保前提督と秘書艦能代だけ。又聞きはしていると思うけど、他の艦娘達は詳細を知っているわけでもありません。工廠に籠る冬涼なら尚更。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。