後始末屋の特異点   作:緋寺

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朝の再会

 軍港での休養2日目。決められた時間に目を覚ます必要もなく、自由な時間に自由に行動すればいいと前以て言われているおかげで、いつもは全員が揃うのに今回は疎ら。普段の生活習慣が抜けず、朝早くから目を覚ましている者もいれば、関係なくゆっくりしている者達もいる。

 深雪達はといえば、習慣が抜けず、そこまで遅い時間まで眠っているようなことはなく、4人で活動を開始し始めていた。

 

「いやぁ、初っ端にジャンケン勝たせてもらってありがとねー」

 

 初日の深雪添い寝権はジャンケンの末にグレカーレが勝ち取ったらしく、深雪の隣でそれはもうグッスリと眠れた様子。

 せっかく勝ち取ったのだからと、コレまで出来なかったことをコレでもかとやっている。例えば腕に抱き着くとか。流石に肉布団はよろしくないということで抑えたようだが。

 

「グレカーレちゃんはこれまでずっと我慢してきたのですから、一度は経験しておかないとダメなのです」

「はい、充分堪能出来たようで、喜ばしい限りでございます」

 

 ジャンケンに負けて隣のベッドで寝ることになった電と白雲は、今回はグレカーレの勝利を祝福した。これまでは自分達がそれを占有していなようなものだし、グレカーレは体質のせいでやりたくてもやらなかった時期もあるのだから、一度はいい思いをするべきだろうと。

 2人とも深雪の添い寝が無ければ安定しないというのはあったが、これまでの生活のおかげで、深雪が隣にいないから悪夢を見るなんてことは無かった。これもまた成長の内と言えるだろう。

 

「ですが、今晩はこの白雲の独占です」

「電も、次は負けないのです!」

「お、かかってこいかかってこい! グレちゃんが二連勝しちゃる!」

 

 盛り上がる3人に、置いてけぼりを喰らっている深雪だが、仲が良さそうで何よりと温かな笑みでそれを眺めていた。ここまであからさまな言動を取られても、その真意をまだわかっていないのは、ただひたすらに鈍感なのか。

 

「朝飯は鎮守府の食堂でいいんだったよな」

「なのです。セレスさんもお手伝いしてるって話していたのです」

「流石だなぁ。その後は外で研究だろ? すげぇ熱意だぜ」

 

 軍港鎮守府の食堂は、給糧艦の間宮と伊良湖が切り盛りしているのだが、そこにセレスも参戦しているらしい。と言っても、ここの主人は給糧艦なのだから、その手際を参考にするために、手伝いながらも最も近くでそれを見ようとしてである。要は、その技術を盗むため。

 いつもよりも作る量が増えているため、手伝いを買って出てくれるのは非常にありがたいとは間宮の言葉。そして、セレスの手際が既に並ではないことに伊良湖は驚いていた程。

 それもこれも、自身が追い求める最高の食のため。美味しく食べ、美味しく食べてもらうための研究の一環。何処でもその信念は忘れない。

 

「……あの艤装人間達も、セレスみたいになってくれりゃあなぁ」

 

 ここでふとあの空っぽになってしまった艤装人間達のことを思い出した深雪。セレスと同じようにあちら側に造られ、いいように使われていた深海棲艦という点では、似通った部分はある。姫がイロハ級かという違いはあれど、状況としては同じと言ってもいい。

 今は工廠に移され、冬月達が調査をしている。そのことも深雪達は聞いているのだが、難航しているのだろうという予想も出来た。

 

「まぁ、それは調査結果を見てからだな。あたし達がどうこう出来る話じゃあないし」

「なのです。むしろ、今は電達が手を出せない段階だと思うのです」

「だよな。専門職の奴らに頼んで、何かわかってからだ」

 

 こういうところは弁えている。だが、深雪は自分の力でセレスが今の状態になっていることに気付いていない。

 

 

 

 

 朝食を終えた後、一行は港へ。おおわしが来港するという話は既に聞いているため、それを出迎えに行くことにした。

 これもまた休暇の一環ということで、制服ではなく私服姿で。軍港にいる間は、基本的に制服に袖を通すことは無いと思われる。

 

「お、もう入ってきてんじゃん」

「夜のうちにいたのかもねぇ。今手続きして、そろそろ出てこれるって感じじゃない?」

 

 グレカーレの言ったことが正解。おおわし自体は深夜のうちに到着していたが、入ってすぐに手続きが出来る時間ではなかったということで、朝になるまで待っていたとのこと。その手続きは保前提督が直々に行うので、これは仕方のないことである。

 

 おおわしの近くでは、既に保前提督が昼目提督と談笑しながらも手続きを進めていた。それももうそろそろ終わり、調査隊の面々がぞろぞろと外に出てきている。

 

「あれ、時雨。来てたのか」

「ああ、おおわしに用があるのは僕というよりは、こっちだけどね」

 

 妙にニコニコしている時雨だが、一緒にいたのはスキャンプである。逃げないように夕立もそこにいる辺り、いろいろと()()()()()()

 

「あ、あたいは別に会いたかったわけじゃねぇ!」

「向こうは会いたがってるっぽい。四の五の言わず、受け入れてやるっぽい!」

「テメェには関係ないだろうが!」

 

 既にギャーギャー言っているが、スキャンプがこうなるのはおおわしが来港するとわかった時から予想がついていた。それも、スキャンプ含め全員が。

 本当はここまで迎えに来るつもりなんて無かったのだろう。だが、時雨に煽られ、夕立に捕まり、ズルズルとここまで引っ張られたのが容易に想像出来る。本気で嫌ならここまで来ていないと思われるので、なんだかんだスキャンプもこういうことを受け入れている感はあったりするのだが。

 

「子供達に引っ掻き回されている姿を写真に収めようと思ってさ。記念撮影だよ」

 

 既にカメラを構えている時雨。すると、おおわしの方からスキャンプの姿を確認していた子供達──丁型海防艦の3人がダッシュで突撃してきていた。

 

「すきゃんぷぅーっ!」

「ぐぇーっ!?」

 

 そして勢いを殺すことなく抱き着く第四号海防艦。鍛えてはいるので、その一撃でひっくり返るようなことは無かったものの、相応にダメージを受けたために、悲鳴のような声を上げるスキャンプ。

 シャッターチャンスと言わんばかりにその瞬間を撮影する時雨。スキャンプの表情さえ考えなければ、非常に微笑ましい再会の風景である。

 

「お久しぶりでっすー」

「久しぶり!」

「お久しぶりです、スキャンプさん」

 

 第四号海防艦の後からゾロゾロとやってくるその妹達。スキャンプとの再会が余程嬉しいのか、出会ってすぐにやいのやいのと戯れ、スキャンプは身動きを取れなくなっていた。

 助けてくれという視線を投げかけてきたようだが、我慢しろという視線を深雪は返す。子供達にそこまで好かれてるんだから、しっかり楽しませてやれよと。それに、スキャンプだって満更ではないだろうと少しだけニヤついた。

 

「テメェら……せめてもう少し勢いを殺してから突っ込んでこい……。特にNo.4、あたいは陸で沈みたくはねぇぞ」

「すきゃんぷぅなら受け止めてくれるって思ってたでっす」

「過信すんな。当たりどころ悪かったら戦艦でも一撃だぞ」

 

 まったくと呆れたような表情を見せるが、やはり満更ではないように見えた。さりげなく懐から飴を出して3人に渡している程には手慣れている。

 

「はぁーっ、素直じゃないっぽい。おおわしが来るって聞いてからソワソワしっぱなしだったくせに」

「うるせぇよ。こうなるんじゃないかと思ってイライラしただけだ」

「イライラじゃなくてワクワクだろうに。その飴だって昨日のうちに買っていたじゃないか」

「テメェ黙ってろっつーか撮るな撮るな!」

 

 ここはここで楽しそうで何よりと、深雪達はスキャンプの邪魔をしては悪いと立ち去る。おおわしを眺めに来たのは、このやり取りを見たいからというわけでは無い。

 

「よう、久しぶりだな」

「やぁ、お出迎えかい?」

 

 深雪達の用はこちら。カテゴリーCとはいえ、自分達の姉妹にあたる響と白雪と顔を合わせるため。

 

「いろいろ大変だったようだね。話は聞いているよ」

「まぁな……ただ、新しく仲間も増えた。キツかったけど、嫌なことばっかじゃあなかったぜ」

「うん、それも聞いてるよ。裏切り者から救い出されたという叢雲の話だね」

 

 そして、その件について話をするため。叢雲も深雪の妹、特型の1人。響や白雪とも無関係では無い。顔を合わせることになったら、何かしら思うところもあるだろう。その上、今でこそ前を向き始めているものの、まだまだ進み出すための力はそう強くない。おおわしがいる間は、2人にも少しだけ気にかけてもらいたいと話したかった。お節介かなとも思いつつも。

 とはいえ、2人、特に響は、他人との距離感をよくわかっているため、そこまでの心配はいらないだろう。なので、こう話しに来たのは念のため。

 

「私達は扉を開くことに秀でているからね。叢雲の心の扉も、白雪ならちょちょいのちょいだよ」

「人の心はハッキング出来ないですよ」

「物の例えさ。私だって他人の心をピッキングなんて出来やしない」

 

 小さく笑い合う2人。

 

「ですが、苦しんでいる妹がいるのなら、私も力を貸しましょう。うん、そんな大袈裟なことではないですけど」

「ああ、ただ心から寄り添うだけでいい。それだけで充分だ。深雪達はそれをもうやり尽くしているだろうけどね」

 

 そんな言葉に、深雪はどうだろうと考える。やれることは大体やれていると思うし、今はもう心を開いてくれているので、やってきたことが間違ってはいないと確信も持てている。だとしても、それが叢雲のためになっているかは何とも言えない。

 

「ともかく、だ。私達も積極的に関係を持っていくよ。調査隊として、というのもあるけれど、仲間として、だね」

「はい、よき友達になれればいいなって、思っていますよ」

「やりすぎるのはやめてくれよな」

「響ちゃん、わかってますよね」

「わかっているさ。弁えはするよ。弁えは、ね」

 

 ニヤリと笑みを浮かべながら、懐に忍ばせている鼻眼鏡を取り出す辺り、響は響だなと苦笑した。

 

 

 

 

 

「よーしテメェら! 手続きは終わったから、一旦鎮守府に行くぞ!」

 

 ここで丁度よく入港手続きが終了。調査隊も軍港鎮守府へと赴き、そこからは少し長めの休暇が始まる。

 後始末屋と共同の休暇ということで、ここからはまた賑やかになるだろうと、深雪達はより楽しもうと共に歩き出した。

 




スキャンプだってそろそろ丁型海防艦の保護者としてサマになってきてるでしょ。多分街中の散策はマーク君からも頼まれて保護者やってるって。
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