後始末屋の特異点   作:緋寺

706 / 1161
元帥来港

 おおわし入港を見届けた深雪達は、また後でと別れて、そのまま軍港都市散策へ。そのために私服で来ているのだから、今は休息を満喫する。

 おおわしもここからは休息に入るため、都市の中で出会うこともあるだろう。その時に、また共に楽しめばいい。

 

「さーて、今日はどうするよ。昨日は行ってない方にでも行くか?」

「そうだねぇ。意外と行ったことないところもあるし、遠回りでもしてみる?」

「よろしいかと。まだまだ踏み入れたことの無い地があるのならば、そこへ赴き、新たな経験とするのも一興でございます」

「なら、ここから港沿いに行ってみるといいのです。例えは悪いですけど、地下施設に潜入する時に部隊が走っていった道ですね」

「ああ、そっちの方って確かに行ったことなかったな。それで行くか」

 

 時間はまだまだあるのだから、やりたいことをやりたいように。とはいえ、昼には一度戻りたいとは思っていた。

 その理由は非常に簡単。おおわしがやってきたということは、もう一人、この軍港に訪れることが決まっているからである。

 

 

 

 

 おおわしの面々が鎮守府に到着してそこまで時間が経っていないくらいのタイミング、今度は陸路の方で来港する車が数台。それを運転するのも艦娘であり、そのうちの一台は緊急事態の際に装備出来るよう、艤装が積み込まれている。

 

「すまぬのう。儂が動くと、どうしてもこうなってしまう」

「いえ、問題ありませんよ。大本営のお偉方が、仰々しく来なくてどうするんです」

「周りを緊張させるのは、儂とてそこまで嬉しくないモンじゃよ」

 

 その車から降りてきたのは、瀬石元帥。老齢ではあるが、足腰はしっかりとしており、誰かの支えが無ければ動けないということもない。杖すら使うことなく、背筋も伸びている辺り、五体満足であることが窺える。出迎えた保前提督も、支えなどは不要だとわかっているので、心配すらしていない。

 とはいえ、ここ最近は胃薬常備でガブ飲み状態だったため、見えないところはストレスでボロボロと思われる。そのため、今日から少しの間、軍港都市で癒されることにしていた。

 

「ああ、そうじゃった。ここには()()()()()()がおったのう。なら気が楽じゃ」

「私の存在で楽になれるなら、好きなように使ってくださいね瀬石さん」

 

 そんな元帥に対して、対等の立場で話をしているのが、第一世代の生き残り、丹陽。元帥が提督として勤めていた時に現役どころか第一次の英雄だった存在なのだから、対等では済まないところまでありそうだった。

 そのため、護衛として傍にいる艦娘達も、その馴れ馴れしい態度にハラハラしていた。元帥とそんな話し方をする艦娘なんて聞いたことがない。だがそれも、彼女達が第三世代であり、今の常識を持っているからである。第一世代なんて歴史の教科書レベルの存在なのだから、今現実にいるだなんて、先に聞いていたとしても信じられない。ましてや、それが第三世代にもいる艦娘なのだから尚更である。

 

「昼目の奴も既に到着しています。何やら手荷物がいろいろあったようですが」

「うむ。1つは儂が頼んでいたものじゃろう。他はまぁその時にわかることじゃな。では、行こうかの」

「っとその前に、今は何があるかわかりませんので、イリスのチェックを」

 

 大本営のトップである瀬石元帥といえど、そこはしっかりルールを守ってもらう。ここで侵入者を許したら、癒しを提供出来なくなってしまう。元帥もそれを快諾。それくらいしなくてはむしろ良くないと、いくらでも見てほしいと部下達を前に出すほど。

 イリスの目からしても、全員がカテゴリーCであることは確認出来た。これまでの敵にもカテゴリーCがいるので、その彩が絶対に正しいかと言われたら過信は出来ないものの、最低限の安全は保証されている。艤装を装備していないのだから、膂力は人間なのだから。勿論持ち物チェックも欠かさない。

 

「二度も都市内で戦闘行為をされてしまったもので、少し過剰に執り行っています。ご容赦を」

「うむ、これを失礼と言う輩は疚しいところがあるということじゃ。その時点でしょっ引いてもいいじゃろ」

「正直それくらいやるつもりです。否定する者はいませんけどね」

 

 検査も全て終え、元帥御一行が全員何事も無いことは確認された。これでようやくの入港となる。

 

「元帥、1つ聞いてもいいですか」

「うむ、その疑問は何となくわかっておるが、聞いておくかの」

「……()()?」

 

 こうしてずっと話していたが、元帥とその部下である艦娘以外にもう一人、保前提督には見覚えのない男がいた。イリスが見てもカテゴリーG、つまりはただの人間であることは確認済み。

 長身で、キリッとした眼鏡の男。身なりもキチンとしており、背筋も伸びている、見ただけで()()()男であることが嫌というほどわかる。

 

「彼は信用出来る者だから安心してくれ。入港手続きにも書いたしの。だが、顔を見るのは初めてじゃろ。声くらい聞いたことはあると思うが」

「声……え、まさか」

「うむ。来なさい」

 

 元帥に呼ばれ、数歩前に出るその男。歩き方までカチカチだが、緊張感など何処にも無い。自然体がコレであるため、素から大真面目なのだろうと察しがつく。

 

有栖(ありす)だ。元帥閣下には目をかけてもらっている」

 

 鋭いながらも保前提督に敬意を払ったような瞳と共に、好意的に握手を求めるその男──有栖。フルネームは有栖(アリス) 益男(マスオ)。その声を聞いたことで、保前提督はすぐにピンと来た。イリスや丹陽もすぐさま気付く。

 

「あの時、深雪に突っかかった奴か!」

「人聞きが悪いが、そう見えてもおかしくないことをしたのは事実だ。確かにあれは難癖だった。だが、そうしたことで裏切り者が炙り出せた」

「……クールだねぇ。まぁいいか。確かにそのおかげであの場を深雪側に持っていけた。アイツだって納得してるらしいしな。その手腕は聞いている」

 

 差し出された手を握り、友好の証を見せる。

 

 オンライン会議の時、ただ一人、深雪に対して強く出た男。顔は一切出さず、音声だけでやり取りし、最初は巫山戯た物言いだったものの、深雪をそれでも納得させ、その上で信用を勝ち取ったキレ者。

 その者が元帥と共に公の場に出てきたのには意味がある。

 

「我々はまだ特異点のことを何も知らない。聞いているだけでは艦娘として協力してくれているが、その力が真に頼って良いものなのかは、結局のところ又聞きでしかない。ならば、直にその目で見る必要があるだろう」

「つまり、深雪に会いに来たってことでいいかな。そういやあの場でも正当性を証明しろなんて言ってたな」

「掻い摘んで言えばそうなる。だが、彼女も今は休息が必要だろう。その休息を返上しろとは言わない。会える時に会えばいいと思っている」

 

 淡々と、感情を乗せずに話すその姿は、何処か人間味が薄く感じた。しかし、合理的に考え、時には味方の感情を逆撫でするような行為をしたとしても、結果的に最初よりも纏まっているのならば良しと考えているのは見え見え。むしろ、クールに見えて最も熱い男なのかもしれないと感じさせる。

 

 そんな有栖提督を、丹陽はジッと眺めていた。その心を見透かすように。

 

「……何か?」

「いえいえ、本心を隠すのがお上手なようで。深雪さんを見に来たというのも嘘じゃないし、目的の1つであることはわかりますよ。でも、まだ他にもやりたいことありますよね?」

 

 にこやかに話す丹陽に、有栖提督は目を細める。流石は第一世代、そして第二世代を統率していただけのことはあると、内心感心していた。

 

「大丈夫です、()()()()()()()は全員元気ですよ」

 

 そしてこの言葉である。クールに表情を変えない有栖提督も、それには流石に眉を顰めた。

 

「丹陽には誰も敵わんよ。儂すら弄ばれとるからのう」

「弄ぶとは失礼な。おばあちゃんはお節介が好きなものですよ」

「お節介は心を崩すのとは違うんじゃよ、婆さんや」

「そういうものですかねぇ」

 

 元帥もノリ良く話しているが、丹陽のこのやり方は周囲は気が気でない。慣れているイリスであっても、ここまで馴れ馴れしいとなると若干緊張してくる。

 

 それはともかく、有栖提督は軽く眼鏡を上げ、そうかと小さく呟いた。表情は変わらなくとも、心無しか安心したようにも見えた。

 

「このまま外で立ち話もなんでしょうから、一度鎮守府へ。部屋も用意させてもらっています」

「うむ、すまないのう。では入らせてもらおうか。伊豆君と昼目君も待たせておることだし」

「昼目の奴は少し興奮気味ですがね。ハルカが怪我をしたことでかなりキレ散らかしていましたし」

「相変わらずの忠犬っぷりじゃな。元気でよろしい」

 

 かんらかんらと笑う元帥は、部下達を引き連れて軍港鎮守府の中へ。その最後尾に有栖提督もついていった。

 

「……丹陽、さっきのはどういうこと?」

「さっきの、とは?」

「元人間は全員元気と伝えたことよ」

 

 その背中を見ながら、イリスは丹陽に先程の言葉の真意を聞く。有栖提督の表情を崩すような一言であるため、どうしても気になったようである。

 

「ああ、彼はおそらく、うみどりが匿っている()()()()()Y()()()()()()()()ですよ」

 

 イリスもコレには驚きを隠せなかった。

 

「オンライン会議の時に頑なに顔を出さなかったのは、話をスムーズに進めるためでもあるでしょうね。顔を見たら、その誰かが反応してしまって、何も出来なくなってしまっていたかもしれませんから。まぁ本人は声で気付いていたかもしれませんが。それに、ここに到着した時、割とキョロキョロしてましたよ。近くにいたりしないかと探すような仕草です。今はまだ顔を合わせる時じゃないって思ってたんでしょうね」

 

 並べ立てられる推論に、イリスはよくもまぁあの短時間でそこまで見てるなと感心している。合間に元帥と漫才じみたやり取りもしているのに、常に周囲を見回し、その情報を逐一取り入れていた。

 その最たるモノは、読心術とも思える的確な発言。これは本当に年の功が為せる業であろう。酸いも甘いも噛み締めた、最年長の艦娘だからこそ可能な、類稀なる技能と言えよう。

 

「とはいえ、ここに来たということは、顔を合わせる決心がついたんじゃないですか?」

「そうなのかもしれないわね。その時は少しサポートしてあげましょうか」

「ですね。若者の後押しもおばあちゃんの務めです」

 

 それだけ話して、2人も後を追った。

 

 

 

 

 元帥が来港し、話はまた進む。

 




ついに登場したキレ者提督、有栖益男。苗字は毎度お馴染みオリンポス十二神からアレス、名前はそのローマ神話対応のマルスから。アレスってこんなキレ者じゃあないんですけどね。マルスは勇猛果敢なので、この名を与えることに。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。