軍港鎮守府に瀬石元帥が到着。そこについてきていた、切れ者こと有栖提督も軽く挨拶を終え、鎮守府の中へ。護衛も程々についてきつつ、まずは最初の目的の通り、情報共有の場へ。
各陣営のトップがそこに集うものの、空気はそこまで固くない。話すことは真面目かもしれないが、かなり緩い空気で進められることになる。勿論、丹陽も第一世代、純粋種のトップということで同席。
つい最近までギリギリの戦いを繰り広げていたのだし、せっかくの軍港での休暇、こんな話し合いでまた精神的にキリキリと追い詰められても困ってしまうと、元帥が率先して緊張感を無くす。
「こうして直に会うのは久しぶりじゃのう」
「はい、お久しぶりです元帥」
「基本はオンラインでしたしねぇ。ようやく一区切りついたって感じですぜ」
早速伊豆提督と昼目提督が元帥と話すことになる。ついさっきまでイリスが目を使うために離れていたが、それは伊豆提督の怪我を心配した昼目提督が、イリスの代わりに車椅子を押していたので問題なしと判断したためである。
そんな提督2人も、
「あと、紹介しておこう。彼が
「元帥が手にかけているという?」
「うむ、有栖君じゃ。初対面だったかの」
「はい、アタシも名前しか知りませんでしたよ」
言いながら、有栖提督に握手を求める伊豆提督。座りながらで申し訳ないと謝罪しながらも、笑みを浮かべて手を差し出した。
伊豆提督の誠実な態度に、有栖提督も何の抵抗もなくその手を握り返す。笑顔は見せないものの、信用はしている雰囲気。
「噂は予々。後始末屋の活動はよく耳にしている。鎮守府の長として、その仕事ぶりには感謝しかない」
「そう言ってもらえると嬉しいわ。後始末屋冥利に尽きるというものよ」
後始末屋は何処の鎮守府も世話になっているため、存在そのものが感謝に値するモノであると、有栖提督も評価が高い。全体的に見ても、その存在を失ったら、第三次深海戦争を勝利することが難しくなると考えるほどだ。
「調査隊、君達のこともよく耳に入る。戦い以外に手を回さない我々としては、その在り方はありがたい」
「お、そう言ってもらえるたぁな。こっちも前の戦いン時は助かったぜ」
後始末屋と並んでその戦局を支える調査隊は、普通の鎮守府には出来ないこと、やれないことをこなし続けるという大役だとして、前回の戦いもサポートさせてもらったと、やはり表情を変えることなく伝える。
昼目提督も、そのように評価され、それを直に伝えてもらえることは嬉しいらしく、豪快に笑いながら有栖提督の手を握った。裏切り者鎮守府制圧の際の援護も的確だったため、その面での信頼は非常に厚い。
「さて、と。それでは、軽く情報共有と行こうかの。今後の戦いについて、一度相談しておこうか」
「そうですね。と言っても、場所は既にわかっている状態なので、どれだけの戦力をどのように投入するかになるわけですが」
「うむ。結局は力業になりかねないからのう。それに、深雪の力頼りも良くない。彼女には負荷をかけっぱなしじゃからなぁ」
そこは元帥としても気にしているところのようである。特異点がいるからと、その力を頼りにし続けるのはあまりにも負荷が高い。
それに、ここ最近は深雪の力を封じるための行動があまりにもわかりやすすぎる。突風による煙幕封じは、出来てしまえばそのまま特異点を無力化出来てしまうお手軽な対策。それを回避するために海中に流し込むなんてこともしたが、それも一時凌ぎに過ぎない。
「敵は島、つまり陸上だが、素直に対地戦と見ていいかどうか」
有栖提督は、そこに視点を置いている。敵は島を陣取っており、全体がもう敵であると考えてもいいのだろうが、それを潰すために対地攻撃を仕掛けるのは得策かと言われればそうでもない。
裏切り者鎮守府制圧の際に、トーチカ要塞棲姫という例外中の例外も現れたほどだ。基地そのものが敵の艤装となっている、今後またあってもらっては困ることが起きている。島もそのようなカタチならば、そもそも近付くこともままならない。
「遠目に見ている感じ、島はただの島ではありやした。ただ、今はその力を
「それはアタシも思ったわ。生徒達は雑なところもあったけれど、阿手自身がそうとは限らないもの。むしろ、生徒達がコレだけ雑だと油断させて、なんてことも考えちゃうわね」
「そうなんスよ。警戒するに越したことはないんで、オレ達も遠目で見るだけで止めてます」
島に襲撃をかけるのは変わらない。しかし、事前情報があまりにも少なすぎて、対策の取りようがない。
まず阿手がどのような力を持っているか。あちらにどれだけの戦力がいるのか。そして、島民がどうなっているか。
「攻め込む時は、そこにいる一般市民にも怪我はさせられないだろ。阿手シンパになってそうではあるけどな」
「そこも問題なんスよねぇ。無理矢理突っ込んだ場合、オレだったら確実に島民を盾にしますぜ。こっちのやり方を知ってるなら、それが一番やりやすいっスから」
軍港都市を管理する者として、保前提督が気にしているのは、部外者──何も出来ない一般市民の無事である。
これまでの傾向からして、一般市民であっても肉の壁として使いそうなのが阿手派の連中である。洗脳教育が行き届いているというのならば、ただの民間人であっても喜んでその身を盾にしそうだし、そしてそれをわざわざやらせることで、特異点に与する者達の悪辣さを見せつけようとさえしてくるだろう。
後始末屋は、というより普通ならば、何の戦闘力も持たない民間人に対して攻撃なんて出来ない。命を奪うなんて以ての外である。だからこそ、それは究極の盾となる。
「こちらがアウェーなのはわかるんスけど、強引に行きゃあ、あっちが調子づいて有る事無い事宣いやがる。そのくせ、こっちが加減してやりゃあ、さも自分達の方が強いと思い込んで余計にやらかす。面倒ったらありゃしねぇ」
昼目提督の愚痴は、経験に基づくもの。うみどりから見て4つ目の鎮守府は、昼目提督率いる調査隊が筆頭となって片付けており、その裏切り者に関しては昼目提督直々に乗り込んで鉄拳制裁を喰らわしているのだ。
その際に、1つ目の鎮守府の時のように巫山戯た物言いをさんざんされたのだろう。それを思い出したようで、昼目提督は嫌そうな表情を浮かべた。
「これまでの傾向からして、阿手は他者の命を何とも思っていないことはよくわかる。自らの力を誇示する道具とでも思っているのだろう。そういう点では、出洲とは違うと感じる」
有栖提督のこの発言から、伊豆提督がトーチカとの戦いで知ったことを伝えた。あちらにも派閥があるということ。裏切り者の中でも、トーチカ要塞棲姫だけは阿手派ではなく出洲派であったことを。
「なるほど、阿手のやり方は出洲のやり方とは相入れないモノであると。出洲は歪んではいるが信念が違うと」
「やっていることは同じだと思うけれど、確かに出洲の方がまだマシかもしれない。どちらも許されることでは当然無いけれど、阿手の方が悪辣よ」
そういう点からして、待っていれば内部崩壊すら起こすのではないかと考えてしまう程である。阿手派に出洲派の者が紛れ込んでいたことからもそれは証明されている。
だが、そんな時間が無いことも重々承知である。海域に忌雷をばら撒くような手段まで使い始めたことを考えると、より酷い暴走をするのは時間の問題。
「島民のことを考えなければ手段はいくらでもある」
「……一応聞いておきましょうか」
「
有栖提督のこの策、正直なところ、この場にいる者全員が一度は過った作戦である。
近付けばまずい。遠くからだと何も出来ない。ならば、距離など全て無視して、座標さえわかれば陸からでも狙えるようにし、島を消すほどの攻撃を絶えず行う。焼け野原以上の、そこに島があったかもわからなくなるくらいに木っ端微塵にする。
とはいえ、一番の問題は当然ながら島民、無辜の命である。ただ利用されているだけで、何も知らないのにいきなり命を奪われるのは理不尽極まりない。そこまでしなくてはいけないくらいに力を増大させた阿手を恨めと言っても、納得出来るかどうかは話が変わる。
「だが、通信妨害の件がある。爆撃でもミサイルでも何でも撃ち込んでやれば解決するかと思ったが、それを逆手に取られてこちらが狙われかねない。コントロールを奪われたら、それこそこちらのおしまい。目も当てられない大敗北になるだろう」
「そうね。ミサイル撃ち込もうとしてそれがクルッと回って大本営直撃なんてことがあったら洒落にならないわ」
そうなると手段はかなり限られてくる。非常に困難だが、直接乗り込んで、島民はうまく逃がし、敵だけを撃破する。それ以外に有効な手立ては思いつかない。いくら切れ者であっても、敵が未知の力を使ってくるとなると、作戦の立てようが無い。
「伊豆提督、これまでの敵、いや味方もだ、どのような力があったかを全て教えてほしい。そこから敵にどのような力がありそうかを考えてみる。傾向と対策になるかはわからないが、やらないよりはマシだろう」
「ええ、データに纏めてあるから、すぐにそちらに渡すわ。……出来れば紙媒体の方がいいわよね?」
「それが望ましい」
頭をいくつも使い、阿手の本拠地である島への襲撃計画を練ることになる。ただ向かうだけでは返り討ち。人数を揃えても危うい。ならば、想定出来ることを全て想定して、無数の策を立ててそれをぶつける。こうなったらこうするを幾重にも張り巡らせ、あちらに弱みを見せずに、足を掬われないように、徹底的に対策する。
それでも例外というモノは存在する。それは有栖提督は勿論、これまで敵と戦い続けてきた伊豆提督達も理解している。その時に頼らざるを得ないのが、特異点の力。
「特異点の力に頼るのは考えたくないが、最悪の事態が起きた時の防波堤として視野には入れておこう」
「そうね……本当に深雪ちゃんには苦労をかけ続けてるから、なるべくなら頼らない策をお願いしたいわ」
最悪の状況をひっくり返すのは、未知の力。何が起きるかもわからない、願いを叶える力。しかしそれを当てにしていては、戦えるものも戦えない。
「ひとまずは纏まったかの」
「すぐには何も出来ないことがわかりました。やはりまだ知識が足りません。特に私は、この界隈では新参ですから。有識者から情報を貰い、なるべく早く策を練ります」
「うむ、儂も最前線におるわけでは無いからのう。今もあまり話に加われなんだ。すまんのう、元帥がコレじゃあ頼りなかろうて」
そんなことはないと全員が全員元帥を宥めた。やはりメンタルに消耗が見られると思われるため、話し合いはこの辺りで一度やめることとなった。
「あ、そうだ。調査隊から手土産があるんスけど、今出すべきですかね」
この話題が出た瞬間、伊豆提督が顔を顰める。それを知らない他の者達は、首を傾げることしか出来ない。
「そろそろおおわしに置いときたくないんスよ。だから、そろそろ処遇を決めたいなと思ってまして、ね」
そう言いながらも、そこそこ大きめな箱を皆の前に置く。
「……一応聞いておくが、それ、何じゃ?」
元帥すらも恐る恐るである。何せその箱、
それに対して、悪びれもせずに昼目提督は言い放った。
「そりゃあ勿論、
お久しぶりに登場、トマック原