後始末屋の特異点   作:緋寺

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警備隊の忠告

 所変わって軍港都市。休息2日目も散策を続け、メンタルケアに努める深雪御一行。これまで行ったことのない方に歩いていきながら、目についた店で気になったところは片っ端から見て回る。特に食べ物関係は値段もお手頃であることもあり、見つけては買って、その場で食べては舌鼓を打っていた。

 

「何処も彼処も美味いモンばっかだなぁマジで」

「なのです。甘いモノも辛いモノも絶品なのです」

 

 食べ歩き、趣味を拡げるような散策で、深雪も電も終始笑顔である。心の疲労も随分と回復したと言えよう。

 共に歩いているグレカーレと白雲も、そんな2人を眺めているだけで楽しくなっている。特にグレカーレは()()が元気に楽しんでいる姿が嬉しくて堪らない。

 

「食べっぱなしだけど、お昼ご飯はちゃんと入りそうなのが不思議。あたしも何故か食べれちゃうんだよねぇ」

「どれもこれも美味しゅうございます故、白雲もペロリと行けてしまいます。まこと、ここの人間の作るモノは素晴らしいモノばかり」

「ホントね。30年前はここまでじゃ無かった気がする。そーゆー意味では、ココはいい場所だよ」

 

 かつて別の鎮守府で戦ってきたグレカーレも、このように活気の溢れる場所で休息を取るなんてことはしてこなかった。戦時中であることもあるが、移動鎮守府で海から各地を回るなんてことは考えたことも無かったため、合間合間にこんな休み方をすることはなかった。せいぜい鎮守府内でグータラする、もしくは近場の街にちょっと出掛けるという程度。

 今も同じ戦時中であるにもかかわらず、こうまで違うのは、やはり過去とは深海戦争との向き合い方が変わったからであろう。あまり良い言い方では無いが、()()()()()()()()()()からこそ、一般市民にはその影響を与えないように、このような活気溢れる場を提供していきたい。大本営のそんな気持ちが見え隠れしていた。

 

「ありがてぇよ。おかげさまで、すげぇ心が楽になった気がするぜ」

「やっばり、戦ってるより遊んでる方が気分いいしねぇ。それに、ここは楽しいモノばかりだしね。ゲームセンターとか、あたしだってココに来るまでは行ったことなかったもん。存在は知ってたけどね」

 

 30年前に無かったというわけではない。むしろ普通に至るところにあった。しかし、グレカーレの所属していた鎮守府では、そういった場所がたまたま近くに無かった。

 割とこういう純粋種は少なくは無い。そのため、今も深雪達と同様に軍港都市で楽しんでいる純粋種の仲間達は、ゲームセンターのような娯楽施設に行っている者もいたりする。普段とは違うことをすることで、パーッと気晴らしをするのが良かった。

 

「行きたいところあったらちゃんと言えよ……と思ったけど、グレカーレは結構遠慮なく言ってくるな。買うモンもそれなりに買ってるし」

「なのです。電達の中でも一番持ってるモノが多いのです」

「まーねー。やっぱり平和になった後は、もっとオシャレとかしたいじゃん。その時のために、気に入ったモノは手に入れとこうって思ったわけよ」

 

 両手一杯というわけではないが、少し大きめな紙袋を持っているのがグレカーレ。続いて動物の写真集をまた買った電、小物をちょくちょく買っている白雲と続く。深雪は何だかんだ食べることに夢中といった感じ。

 

 楽しみ方は人それぞれ。それを否定する者などいない。

 

 

 

 

 昼食の後も軍港都市内をグルリと回り、鎮守府方面の道へと来た深雪達。途中、グレカーレがニコニコしながらピンク街の方に向かおうとしたのを、引っ叩きながらも止めたのはいい思い出になっている。

 時間はまだまだあり、まだ戻らなくてもいいなとまた別の方へと向かおうと思っていたところで、仲間達と顔を合わせる。

 

「おっす」

「こんにちはなのです!」

 

 出会ったのは軍港都市を警備中の鎮守府の艦娘、綾波と暁。今は戦闘モードではないため、暁も雰囲気は明るい、というか緩い。

 

「ごきげんよう、皆さん」

「楽しめてるようで何よりよね!」

 

 4人の表情が明るいのを確認して、この軍港都市を楽しんでいると知り、特に街を愛する綾波を始め、鎮守府の艦娘達は大いに喜んでくれる。

 この街は身体を癒し、心を癒すために存在しているのだから、余計な気苦労を持ってもらっては困る。いつでも何処でも楽しくあってほしい。癒されて癒されて、癒され尽くして、次の戦いに向かってほしい。そんな願いが込められている。

 

「さっき、榛名さん達にも会いましたよぉ」

「ああ、そっか、一緒にここに来て療養中だったよな」

「トーチカで大分搾り取られてたみたいだもの。身体は治ったけど、まだまだ心が疲れてるわ。いっぱい遊んでいってもらいたいわね」

 

 トーチカで救われた友軍艦隊も、今は軍港都市散策中。昨日はまだ身体を治すことに専念していたが、それも終わり、今日は一日完全な休暇として時間を与えられているらしい。

 うみどりほど長居はしないようだが、今回はせっかくの機会だからと、そちらの提督も一度休んでおいでと許可を出したのだとか。今回の戦いのことを失態とはせず、未知の力に立ち向かったことへの報酬としてもあるとのこと。

 

「だよなぁ。みんな一度パーッと遊んだ方がいいと思うぜ。今回の戦いはそれだけ疲れたし」

「身体ではなく心が疲れる戦いでしたねぇ。綾波も、あんな敵は面倒なのでやりたくありませぇん」

「綾波がそういうこと言うくらいだし、相当面倒だったんだな……」

 

 3人が融合した出来損ないで、ムーサがいなければ詰みだったという戦いは、綾波にとっても嫌なモノとして記憶されているようである。

 自分の攻撃が通用するから戦いなのであって、触れてもダメ、遠距離もダメ、急所をつくことすら出来ないとなると、それはもう戦いではないという認識。()()()()()()()()()()()()()()というのが素直な感想である。

 

「まぁアレはね……暁も二度とゴメンだわ。でも、次のところでまたそういうのが出てくる可能性があるのよね」

「だな。島での戦いは、今回の集大成って感じになるかもしれねぇ」

 

 それを思うと若干憂鬱になってしまうが、暁はハッとしたような顔をして、今は忘れようと戦いのことを一旦置いておく。

 自分達でも言うように、ここは戦いを忘れて癒される場所。対策は後から考えるとして、今それを考えるべきではない。

 

「あ、そうそう、これだけ遊んでいるとわかるかもしれませんけど、ここには他の艦娘さん達も来ているんですよぉ」

「ああ、それはわかる。うみどりやこだかにいない艦娘もちょいちょい見るな」

 

 昨日の半日、そして今日の半日でそれなりに歩き回っている一行だが、その間にもちょくちょく見かけているのは、顔見知りではない艦娘の姿であった。

 日帰り旅行として訪れる艦娘というのは多数とは言わないが稀におり、軽く遊んで陸路や海路を使って帰るプランも組まれたりする。今回のような全鎮守府総出の作戦の後には一段と増えるらしい。

 今回もそれに準じて、他の鎮守府からの来客がかなり多いという。やはり何処でも癒されたいという気持ちは大きいようである。

 

「なので、たまーにですけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から、気をつけてくださいねぇ」

 

 これまでうみどりとこだか、それに他の鎮守府と共闘していても起きなかったこと、『同じ艦娘の魂を使った第三世代』という存在。それが今回は起き得るということを頭の片隅に置いておいてほしいという。

 うみどりの中でも近しいことは起きているといえば起きている。ほぼ同じ個体に改造されている港湾棲姫(平瀬)港湾水鬼(黒井兄妹)だ。パッと見で別人であるとわかるくらいにはお互いにスタイルを変えているモノの、そうでなければ服まで同じ、見分けがつかないレベル。

 

「あー、あたしの世代でもあったよ。別個体ってヤツね。第三世代でもそれは普通なんだ」

「ええ、全国に鎮守府あるんだもの。他の暁や他の綾波だっているわ。それこそ、他の深雪や他の電だっているのよ?」

 

 当然ながら、深雪や電はそんな第三世代は見たことがない。自分の別個体の魂を分けた艦娘に対して、どんな感情を持つかはわからない。第三世代の姉妹を見た時でも少し騒ついたが、自分となるとさらに話は変わる。

 とはいえ、ここは平和の象徴として存在する軍港都市。自分の顔を見たところで、それが敵というわけでは無い。仲良くなれれば仲良くなりたいくらいだろう。ただでさえ特異点の深雪は、全鎮守府の中でも有名になってしまった。あちらからも()()()()が無いとは言えない。

 

「綾波達はまだ見ていませんけど、そういうこともあるということを覚えておいてくださいねぇ」

「おう、わかった。驚くだろうけど、それで終わっとく。向こうだって癒されるためにここにいるんだもんな」

「はい〜。もしここで喧嘩とか起こしたら、どうなるか、わかってますよね?」

 

 勿論だと苦笑した。綾波は相手が特異点だろうが何だろうが、この街の平和を壊そうとするならば容赦しない。昨日まで仲間だったとしても、殺す気でかかってくる。そのせいで時雨が綾波に苦手意識を持っている程である。

 深雪達がそれを知らないわけがないし、そもそもそんなことするつもりがない。綾波もそれを知ってて、脅すわけでなく純粋に忠告だけしておいた。

 

「それでは、この街を隅々まで楽しんでくださいね〜。あ、オススメは中央の方にある和菓子屋です。お饅頭美味しいですよ」

「暁はその近くにあるアクセサリーショップを推しておくわ。レディな商品がいっぱいあるの!」

「お、なら行ってみるぜ。ありがとな、2人とも」

 

 話はそれくらいにして、警備の仕事を邪魔しちゃ悪いとコレで一度別れた。綾波と暁は、もっとこの街の良さを知ってくれと笑顔で去っていった。

 

「本来のこの街はこういうところなんだよな、うん」

「なのです。緊張感なんて必要無いのです」

「だな」

 

 とはいえ、他の鎮守府の艦娘というのも割と気にはなっていた。公になった特異点という存在にどういう感情を持っているか。

 少なくとも、先日あったばかりの蒼龍は、深雪に対して悪い印象は持っていなかった。救われたということもあり、好印象でしかなかった。しかし、そういう艦娘ばかりでは無いというのも理解している。否定はせずとも、近づき難いと考えている者も中にはいるのだろうとも思っている。

 

「ま、何かあってもその時々で解決すりゃあいいな」

「もしお姉様を侮辱するような輩が現れたならば、この白雲が成敗致しましょう」

「する前に綾波に成敗されるぞ」

 

 そんな笑い話をしながら、深雪達は散策を続ける。今日も残り半日、癒しのために歩き回るのみ。

 

 

 

 

 ちなみに、オススメされた店はどちらも非常に良かった。饅頭は土産にも買い、アクセサリーショップではグレカーレが手を出していた。

 




艦これ定番の『同じ顔の別人』。この世界にも当然います。今回は大きな作戦も終わったので、何処の鎮守府もちょっと休憩モードに入ってますからね。軍港都市はそういうところの艦娘も加わって賑わっています。
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