道中、軍港都市を警備している綾波と暁から、他の鎮守府からも艦娘達が来ていることで、知っている顔の別人と出会う可能性があるから気をつけてほしいと忠告を受ける。
今やうみどりの深雪は特異点と公になったことで有名人。仲間だと思って近付き、それが実は別の鎮守府の艦娘であったとして、その鎮守府が特異点のことを肯定的に捉えているかはわからないのだ。普通とは違うため、近付き難い者としての認識が強い者もいるかもしれない。
その場合、恐れているのは諍いである。深雪達から向かっていくことは無くとも、他の艦娘がどうかは知らない。目を合わせた途端に難癖をつけられる可能性も無いとは言い切れないのだ。
「まぁ、何事も無いのが一番だな。友達が増えるのは嬉しいところだけどよ」
「なのです。せっかくですし、お近付きになれたらいいのですが」
「難しいヤツってのもいるわけよ。Categoria-Mじゃなくても、どっか周りに対して斜に構えてるヤツってのはいたりすんのさ。Bだろうがそれなんだから、人間混じってるCであっても変わらないでしょ。それこそ、
問題児という言葉に該当する中で、そういうタイプの存在はすぐに思いつく。
「あー……スキャンプは喧嘩売られたら軽く買うだろうな」
「ユーダチもね。何か言われたら手が出るんじゃない?」
「流石に大丈夫だろ……流石に」
若干不安だが、そういうことは無いと信じて、一行は散策を続ける。時間はおやつ時くらいなので、帰路につきながらになる。
夕暮れ時、軍港都市が赤く染まるくらいの時間で、深雪一行は鎮守府に到着。今日は鎮守府で夕食をいただこうということで、昨日よりは早めに帰ってきていた。
これくらいの時間から帰ってくる者が多くなってくるようで、伊豆提督は相変わらず帰投確認をしていた。
「ただいま、ハルカちゃん。今日は鎮守府で晩飯にするよ」
「お帰りなさい、みんな。今日は昨日よりも楽しんでこれたみたいねぇ」
4人が持つ手荷物を見て笑顔を見せる伊豆提督。食べるだけでなく、今日以降も残るモノ──
「綾波達に教えてもらったりしてさ、いい店とかあったんだよ」
「お揃いのモノも買ったりしたのです。戦いの中では身につけるのは難しいかもですけど、こういう時にはいいかなって」
そう言いながら4人揃って見せたのは、耳につけたイヤーカフである。耳を傷つけることなく、それでいて身につけやすい、さらに深雪でもコレはいいなと思ったアクセサリーを4人で買っていた。安価だったのも購入の決め手になっている。
「あら、みんなよく似合ってるわぁ。そういうオシャレは今後必要になってくるから、バンバンやっちゃって構わないわよぉ」
伊豆提督にも好評。流石に仕事の間に身につけることは出来ずとも、今のような休息中、私服で行動する時などは率先して身につければいいと、そういったことも推奨していた。
この4人はイヤーカフにしているが、他のモノを身につけている者は意外といたりする。それこそ、丹陽はケッコンカッコカリの指輪をペンダントにしているし、ちょっとしたアクセサリーを持つ者は思いの外多い。
「そういうのがあると、もし
そしてコレ。深雪達が事前に綾波達から聞いていたことを、伊豆提督も知っていたようである。今の軍港都市には、休暇のために他の鎮守府からも艦娘が来ていることを。
「綾波達から聞いたよ。同じ顔の別人がいるかもなんだよな」
「ええ、要所要所は違ったりするんだけれど、パッと見では瓜二つというのもあるわ。話してみれば違いがわかるんだけれどね」
「はー……そういうの聞くと、やっぱり気にはなるなぁ」
心が騒めきそうではあるが、同じ姿の艦娘が2人並んでいるところとかには、少しだけ興味があるような深雪。それが自分だったら、鏡写しみたいになるのだろうかと気になっているようである。
「アナタ達はお互いを間違えることはそうそう無いと思うけれど、念のためそういう者を身につけておくと、いざという時に失敗しないわ。戦闘中とかだと、友軍に誰がいるかは教えてもらえるから、わかりやすいように色々手を尽くすけれどね」
「なるほどな。じゃあ、これ買ったのは結構正解だったってことだ」
イヤーカフを軽く弾く。意図的では無いにしろ、そんなカタチで役に立つことがあるとは思っていなかった。
「申し訳ないけれど、ここにはもう少し滞在する予定だから、また遊びに行く時は身につけていいからね」
「ああ、そっか、ハルカちゃんの脚、もう少しかかりそうか」
「妖精さんの治療を受けているとはいえ、よりによって脚だから、少し時間がかかっているわ。まだ少し痛みがあるの。だから、万全を期してゆっくりさせてもらっているわ」
そんな伊豆提督はまだ車椅子である。そろそろ松葉杖でも良くないかと言ったそうだが、イリスがそれを許さなかったとのこと。疲れてるんだから丁度いいと、徹底的に休ませる算段のようである。
後ろのイリスも当然よと小さく溜息。仕事熱心なのはいいが、その前に自分の身体も大切だと常々言っていた。
「あ、そうそう、話は変わるけれど、予定通り元帥達はもうここに来ているわ。午前中に鎮守府の方で話もしていて、今はみんなお休み中。顔を合わせる機会があると思うから、その時はちゃんとご挨拶してちょうだいね」
「そっか、もう来てるのか。ならむしろ、こちらから挨拶しておかないとだよな。あたしのことも認めてくれてるわけだし」
「ふふ、そうね。それに、元帥だけでなく、深雪ちゃんに会いたがってる人は他にもいるわ」
誰のことだろうと首を傾げると、ちょうど都合よくその者が鎮守府の方からこちらにやってきていた。深雪達は知らない男であり、若干警戒してしまう。
「そんなに警戒しなくてもいいわ。彼は有栖提督。気軽に
「伊豆提督、それは困る」
「あら、つれないわねぇ。アタシのこともハルカちゃんでいいのに」
眼鏡をクイと上げながら、戻ってきた深雪達を少しだけ見下ろすような見つめると、コホンと軽く咳払い。
「有栖だ。以前のオンライン会議では、失礼な物言いをした」
「その声……もしかして、あの時の!?」
顔を合わせるのは当然初めて。しかし、アレだけ舌戦を繰り広げることになったのだ。深雪はしっかり覚えていた。
最初は侮辱とも取れる発言である『特異点がいるから戦いが激化している』と話したが、その時に初めて特異点の存在を知った者には判断材料が一つも無いのだからそう考えるのもおかしな話では無いと深雪に納得させた切れ者。意思疎通が出来るのだから、その意思を以て正当性を示し続けてくれればいいと、そういうカタチで特異点の存在を認めた提督。
「少なからず、君は先日までの戦いでその正当性を証明し続けてくれた。君がいなかったら、裏切り者を捕えることも出来なかっただろう。それについては、感謝の意を示したい」
若干高圧的に見えるものの、彼なりに深雪の存在に対して否定的な意見を持っていないことを表していた。特異点がいるから戦いが終わらないなんてことはもう言うことはない。
それでも、まだ見定めている最中であることは伝える。ここで気を抜いて本性を現されても困ると忠告して。
深雪もそんなことしないと断言しつつ、有栖提督の性格がそういうモノなのだと理解した。計算高く慎重、物事に絶対は無いと状況を自らの目で見て初めて先に進めると考えている、深雪の周りにはこれまでいなかったタイプ。疑うことから始めるが、信用出来るなら敬意を示す、ある意味紳士的な態度。
「私から言うのは違うかもしれないが、言っておきたい。これからも正当性を……いや、ここはもう少し砕けた言い方の方がいいか。
笑顔は見せない、真剣な表情。だが、その奥には小さくても信頼の感情は見えていた。鈍感な深雪でもそれはわかったので、ニッと笑って手を差し出す。
「当たり前だ。あたしは後始末屋としてこの世界で戦っていく。力を貸すなんて当然のことだ。アイツらのやり方も気に入らないしな」
その手を見た有栖提督は、軽く手を拭ってから、その手を取った。これもまた、信頼の証。握手を求めたのも、深雪からも有栖提督に対して警戒心を解いた証拠であるのだから、それに応えるのも信頼に繋がる。
「もしかして、コレだけのために来たのか?」
「状況把握と情報共有がメインだ。その目で、その耳で聞かねば、信用出来る情報とは言えないモノもある。君をこの目で見るのは次点といったところか」
「ふぅん、まぁそれならそれで。あたし達のこと信用してくれるなら、なんでもいいよ。後ろから刺すことだけはしないでくれよな」
「保証しよう。他の者にもそう伝えている」
それを聞けただけでも少し安心出来た。裏切り者は掃討したが、それでもまだ大本営内に特異点に対して不信感を持っている者がいるというのは、深雪が嫌なこと。
深雪の中でもその筆頭がこの有栖提督でもあった。オンライン会議で納得の行く言葉を貰えたとしても、正当性の証明という難題を突きつけてきた者の信頼を得るのは難しいと思っていた。
それがクリア出来たようなもの。これで真に大本営は深雪にとって信用出来る組織となった。勿論、元帥など考えるまでもなく信頼出来る者はいるとしてもである。
「アリスちゃん、
だがここで伊豆提督が不敵な笑みを浮かべて有栖提督に話す。その呼び方はやめろと返すものの、本題という言葉に小さいが間を取っていた。
「……なんのことだ」
「お見通しよ。丹陽ちゃんなんて即気付いてたわ。そろそろ戻ってくるからここで待っていてちょうだいな」
深雪達は余計にちんぷんかんぷんである。勘のいい電やグレカーレも、有栖提督のことを今初めて見たのだから、気付けるモノも気付かない。
などと話しているうちに、深雪達に次いで鎮守府に戻ってくる仲間達の影。こういう時だからこそ、外に出て楽しんできた方がいいと、率先して遊んでもらっている
「あ、お帰りー」
「はい……ただいま戻りました……」
平瀬を筆頭としたカテゴリーY達である。今回は黒井兄妹も一緒だったため、港湾型が3人並ぶというなかなか壮観な眺めになっていた。
その団体の姿を見て、有栖提督の表情に目に見えて動揺が現れる。目が泳いでいるというわけではないが、本当に小さく眉が動いた。
そして──
「……桜……」
その名を呟いた。