後始末屋の特異点   作:緋寺

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彼女らの今後

 軍港鎮守府での休息2日目の夜。そこでは、これまでとは違う光景を見ることになる。

 それは、鎮守府の食堂でのこと。夕食を軍港都市で食べてくる者もいれば、鎮守府で食べさせてもらう者もいる。深雪達は今日は後者を選択した。

 

「……なんつーか……微笑ましいってのはあーゆーのなんだよな」

 

 深雪達の視線は、今朝からこの鎮守府に滞在している有栖提督に向いていた。

 

 有栖提督がオンライン会議の際の顔を隠し続けた切れ者の提督であることはすぐに伝わり、そしてその有栖提督こそが、うみどりのマスコット的存在であった桜の実の父親であることが判明した。

 その後からは、桜が会えなかった時間を取り戻すかのように甘え、これまでに見せたことのない笑顔で有栖提督に懐いていた。夕食を食べるのも、有栖提督の膝の上。食べさせてもらってご満悦だったり、逆に父に食べさせてあげたりと、本当に親子の団欒風景といった感じ。

 深雪達純粋種には少しわからない部分ではある。姉妹はいても、親はいない。それでも、その光景は見ていると心が温かくなるような感覚だった。

 

「桜ちゃん、良かったのです。本当に嬉しそうで、幸せそうなのです」

「だねぇ。あそこまで笑ってるのって、なんだかんだ見たこと無かったんじゃないかな」

「なのです。やっぱり、心の奥では寂しかったんじゃないかなって、思うのです」

 

 桜の歳は今年で10歳。8歳からあの施設に攫われ、身体を改造され、姉と共にどうにかこうにか生きてきたわけだが、その年頃で親と離れていたというのは、なかなかに辛いモノ。ただでさえ鎮守府との関係も持ち、度々顔を合わせる程に仲が良かったくらいなのだから、離れ離れなんて精神的に狂ってしまいかねないくらいに苦しかっただろう。

 だが、それもこれで解消された。桜の失われた2年は、この時から取り返せる。それでも足りないくらいだ。

 

「ならば、桜様はうみどりを離れることになるのでしょうか」

 

 白雲の疑問はごもっともなモノである。ようやく再会出来た親子だ。これ以降は離れ離れである必要はない。長くうみどりにいるかもしれないが、それでも父の方が大切だろう。

 

「その方がいいとは思うけど、最後に決めるのは本人じゃあねぇかな。あたし達が強要することじゃあない」

「はい、その通りでございます。我々には口の出せない事情。桜様の一存で決めればよろしいでしょう」

 

 子供に決断させるというのも酷な話かもしれないが、どのカタチがより幸せかなんて、本人にしかわからないことでもある。今ならば有栖提督も動いてくれるだろうから、元の鞘に収まっても、何も苦労はしないだろう。艦娘達とも仲がいいのだから。

 勿論、今はうみどりを選ぶと言われても問題無い。これまでと同じように、マスコット的な存在として、艦内で生活してもらうことになるだけ。一つ違うのは、有栖提督との確実な繋がりになるということか。以前の生活のようにするのなら、頻繁に有栖提督の鎮守府と連絡を取り、元気な姿を見せることになる。

 

「ま、その時はその時だな。あたし達はなるようになれだ」

「なのです。でも、せめて元の姿に戻してあげたいのです」

「それはなぁ……ホント、どうしたもんかなぁ」

 

 カテゴリーYの面々全員に言えることである、人間に戻ることが出来るかという問題。

 特異点の力で挟んでひっくり返した場合、カテゴリーYはその記憶を持ったカテゴリーBとなってしまうことがわかっているため、その処置は絶対に施せない。それは桜をこの世界から消すことと同義であり、記憶を持っていようが別人である。

 そのため、元に戻すというのは、本当に()()()()()()()()()ということに他ならない。不可逆と思われる人体改造だが、それを乗り越えることが出来れば、真に本来のカタチを取り戻すことになる。

 

「それもあたし達には何も言えないねぇ。アカシとか、ここの工作艦コンビとかに任せるしかないんじゃなぁい?」

「だよな。あたし達にはその知識が無ぇんだから、とやかく言えねぇもんな」

 

 こればっかりは特異点であってもどうにも出来ない。元に戻ってほしいと願っても、どうすれば戻るのかが皆目見当がついていないのだから、やりようがなかった。

 

 

 

 

 夜は少し深まり、桜は今晩はずっと有栖提督と過ごすということで部屋に入っている。そのため、トップ陣は有栖提督を抜きにした状態で夜の街に向かっていった。

 こうやって集まることは滅多に無い。こういう時こそ、羽目を外せとは言わないものの、ゆっくりと普段やらないようなことで癒されてほしいと艦娘達からのプレゼントみたいなモノだ。

 

「護衛に川内さんが出てるんだよな。もし何かあったとしても、ひとまずは安心だ」

 

 トップ陣のみの外出ということで、流石に人間だけを外に出すことは出来ないと、夜戦忍者こと川内が護衛を買って出ている。敵はいないにしても、突如暴漢に狙われる可能性も考えて。こんなところで怪我をしてもらっても困る。保前提督はその辺りは非常に慎重だ。

 当然夜の街の方が昼よりも治安が若干悪くなるのは何処も一緒。それをいわば艦娘の力で抑え付けるようなモノなのだが、この街はそういうところなので、住人は全員それを理解している。艦娘は街の警備員と同じ。仲良くすることで、平和を維持出来る。

 

「ハルカちゃんさんも今日は少しお酒を飲むって言ってたのです。たまにはいいですよね」

「ああ、これまで張り詰めっぱなしだったんだし、少しくらいはいいだろ。それに文句言う輩がいたら、小一時間説教してやるぜ」

「お、それにはあたしも参加しまーす。ネチネチネチネチつつきまくっちゃうぞ」

 

 談笑しながら風呂に向かう深雪達。今日という日を終わらせるための最後のお仕事。昨日もそうだが、うみどりとはまた違った心地良さがあるため、ゆっくりとするには最高の場所。

 

「む、深雪か」

 

 そこにいたのは、軍港鎮守府が誇る定係工作艦冬月である。先程まで工廠で作業をしていたのか、風呂で身体を清めようとしていたところ。冬月がいるのだから、涼月も共に。明石はまだ工廠にいるらしく、後から合流するとのこと。

 

「おう、お前らも風呂か?」

「ああ、寝ることはやめても問題ないが、清潔でいなければ正しい作業は出来ないからな」

「いや寝ろよ」

 

 流石にまだ徹夜には入っていないようだが、今日も丸一日を新たに手に入った研究材料を弄くり回していたようである。本来なら出来なそうなことも、今は明石がいるためにかなり進展させることが出来たのだとか。

 

「持ってきてくれたモノがなかなかに面白くてな。特にあの艤装人間は凄まじい。明石に胴を開いて見せてもらったんだが、何を考えればあんなモノを作ろうと思えるのか。気でも違えているんじゃあないのか」

「それは全く否定出来ねぇな」

「それと、明石からいろいろと聞かせてもらった。特機のこともな」

 

 そういえば、その辺りは冬月と涼月も知らないことだったと、今更ながら思った。綾波達は前線に出てきていたために知ったが、基本鎮守府から出ない2人は、情報が又聞きの又聞きになる。オンライン会議でのこともまともに知っているかわからない。

 

「そこで、だ。1つやってみたいことがあってな。深雪に許可を貰っておきたい」

「許可?」

「ああ。特機をいくつか使わせてもらいたい。無論、我々が寄生されるとかそういうことではないから安心してほしい」

 

 自分も寄生されて明石のような力を手に入れたいなんて望まれたら、秒で断っていたところだったが、そうではないと冬月は語る。

 

「あの特機……まぁ忌雷のシステムだが、艤装人間に意思を与えることにうまく繋げられるのではないかと思ってな」

「艤装人間に? まさかアイツらに寄生させるとか考えてるんじゃ」

「正直なことを言うと、話を聞いた時にそれも考えた。だが、明石がやるならちゃんと調べてからだと念を押すのでな。まずは特機をしっかり調べたいんだ。勿論、命を奪おうだなんて考えてないから安心してくれ」

 

 明石の手でも調べられているが、同じことを冬涼でもやろうということだ。見るものが変われば、感じるものも変わる。違う視点なら、違う結果が出るかもしれない。

 

「ん、わかった。許可するよ。寄生させるのは……まぁ何とも言えないけど」

「それはまた意見を聞いてからにするつもりだ。そんなことで彼女達をコントロールするのは気が引けるからな。出来ることならば、彼女らには自ら意思を発現してもらいたい」

「確かにな。アイツらだって元は深海棲艦なんだし、意思みたいなのは……いや、最初のセレスみたいなことになるのか」

 

 トーチカを潰したことで命令が無くなり、洗浄されることで空っぽにもなった艤装人間達。救った直後のセレスと同様だと深雪も思った。

 ならば、何か刺激を与えれば、それに反応して意思を持つのではと考える。セレスはそれが食だった。そして、それを追究するための探究者へとクラスチェンジしている。

 

「刺激、か……。電気ショックとかではなく」

「物理的な刺激じゃあねぇな。引っ叩けば直るとか無いだろ」

「冗談だ。だが、ふむ……文化的な刺激を与えると言っても、彼女らはモノを食べるということもしないからな……娯楽……映像を見せてみるとかなら可能か。楽しく、夢のあるモノ、例えばアニメや特撮とか」

 

 何やら考え方が面白い方向に進んできた冬月。涼月もそれを止めることなく、むしろ全肯定でどんなモノを見せるかの案を出そうとしている。

 

「まぁそれを考えるのは後でいいだろ。今は風呂だ風呂」

「おっとそうだった。身を清めなければな。涼、この後にいろいろとやってみよう」

「はい、お冬さん。可能なら何か食べてもらうこともやってみましょう。私特製のかぼちゃプリンを食べてもらうのもいいかもしれません」

「おお、確かにアレは最高の刺激になるな。世界で一番美味しいプリンだ」

「ふふ、お冬さんにそう言ってもらえるのはとても嬉しいことですね」

 

 何やら惚気に発展しそうだったが、今はさっさと風呂に入れということで、深雪達はもう置いていった。

 

「あいつらはいつ見ても変わんねぇな」

「いいことだと思うのです。それもあるから、この鎮守府は安泰だと思うのです」

「いやぁ、安泰には程遠いんじゃないかなぁ。ここのテートクの胃痛の筆頭でしょアレ」

「それでも、前に進めるのですから、許容しているのでしょう。まこと心の広い者です」

 

 呆れつつも楽しみ、2人の在り方を否定はしない。そのおかげで助かった時もあるのだから。

 

 

 

 

「ああそうだ! 深雪、何やら大人になれると聞いたんだが、それを今見せてもらえないか!」

「うわっ、何事もなく抜けようとしたのに! 全部後だ後!」

 




コレから艤装人間に与えられる刺激は、視覚情報になります。それが功を奏するかどうかは……
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