後始末屋の特異点   作:緋寺

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冬涼の采配

 雨の降る休暇3日目。これまでうみどりで保護されていたカテゴリーY、桜が、父である有栖提督と共にいることを選択したことによって、うみどりから降りることが仲間達の耳に入った。

 そういうことならばと、その日の夜は送別会をやるぞと大騒ぎ。流石に食堂を飾りつけるようなことはしないが、好物を振る舞うことで、最高の時間を過ごしてもらおうという算段である。

 

「そういうことなら協力しようか。まぁ馬鹿騒ぎにならなきゃ好きに使ってくれて構わんよ」

「うむ、子供にはいい思い出を持ってもらいたいからのう」

 

 保前提督からのお墨付きも貰い、一層盛り上がる。瀬石元帥も、子供が楽しむ姿を見るのが一番の癒しだと楽しみにしておくと笑顔。

 

「アノ子ノ好物ハ、この中では私ガ一番理解シテイルツモリ。ダカラ、私ガ先導サセテモラウワ」

 

 とりわけセレスはやる気充分。こういった時に振る舞う食事というのを作るのは初めてであるため、ひとまず好きなモノを好きなだけ食べられるようにラインナップを多く用意するという方向で進めるようである。間宮と伊良湖もよろしくお願いしますと頼りにしている程である。

 

 本当は伊豆提督も何かしたかったのだが、まだ脚が本調子ではないため、キッチンに立つことは憚られた。むしろセレスが車椅子のまま入ってくるなと念を押している。

 提督陣も今回は艦娘達以上に休まなければならない存在。これまで心身共に消耗してきたのは提督も同じであり、入渠出来ない分、より時間をかけて休む必要がある。気持ちはわかるがやめておけと他の艦娘からも言われれば、いくら伊豆提督とて何もさせてもらえない。

 

「よかったな、桜」

 

 有栖提督に撫でられると、桜は満面の笑みを浮かべて頷いた。うみどりでは見られなかった、最高の笑顔だった。

 

 

 

 

 とはいえまだまだ時間はある。雨であっても出掛けようという者達は鎮守府から出て遊びに行き、鎮守府内でゆっくりしようという者は思い思いにのんびりとする。

 桜はなかなか無い機会であるため、有栖提督と街へと向かっている。一緒にいられる時間が増えても、一緒に遊べる時間が増えるかと言われればそうではない。特にこれからは激戦続きの決戦に向かう。有栖提督もそれには頭脳で参戦することもあるだろう。ならば今のうちにこうして遊ぶのも悪いことではない。

 

「食堂はすごいことになってるからな、今は入らない方がいいな」

「なのです。艦娘全員分のご馳走を作ってる最中ですから、邪魔しない方がいいのです」

 

 チラリと中を見ても、セレス主導で下拵えが次々と行われ、その上で昼食も用意されるのだから、凄まじい作業量である。

 セレスだってうみどり側。今は休息の時だったりするのだが、非戦闘員であること、そしてこれこそが最も心が休まる時ということで、誰も何も言わない。やりたいことをやっているというのだから、やらせておくのが一番良い。

 

「平瀬さんや手小野さんも手伝ってたからな」

「透さんや蛍さんもなのです」

「みんな桜と仲良かったもんなぁ。同じ被害者なわけだし」

 

 カテゴリーYの非戦闘員は全員仲が良かった。昨日に共に散策に出ているくらいには、艦娘達とはまた違った絆で繋がっている。

 そのうちの1人、最も幼い桜が、自らの道を自らで選び取ったのだから、それを祝福して門出を祝うためには労力を惜しまない。最後は楽しんでもらおうと、手伝う側も笑顔である。

 

「じゃあ、あたし達は夜までゆっくりさせてもらうか。街に出るにも体力使うし、今日は身体を休める日だ」

「なのです。お昼寝とかしてもいいくらいですね」

「そりゃあいい。時間を贅沢に使うのもいいことだ」

 

 これまでは常に急かされていたようなモノ。本当に何もせず、ただのんびりと1日を過ごすなんて、最高の贅沢だと笑う。

 実際、深雪達は自分で思っている以上に疲れている。先日、先々日で心の方は充分に休まっているが、街を歩き回るということはその分疲労は蓄積される。戦闘や後始末よりは疲れないかもしれないが、それでもだ。

 故に今日は身体をしっかり休め、これからある本格的な決戦に向けて英気を養う。体調を万全にするため、これもまた仕事のうち。

 

「つっても、今は流石に眠くは無ぇからな、適当に鎮守府の中で時間を潰して、あとは部屋に引きこもりって感じになるか」

「じゃあ、とりあえず工廠に行っとく? ほら、フユツキがこの門出の時に余計なことしてたらアレだし」

 

 グレカーレの提案。暇潰しに行くというのもあるが、作業をわざわざ止めて遊ぶわけではなく、少し気になることがあるから。

 それは昨晩、特機の使用許可を求められたことである。今後の研究のために特機を貸してもらいたいと言われ、深雪はそれを許可しているが、それをどのように使うかを一度見ておこうと思ったのだ。

 明石や主任のように、うみどりの最前線で戦っている者達は、その扱い方を熟知しているため、別に何も考えずに使ってどうぞと言えるが、冬月はまだそれに慣れていない。いくら定係工作艦といえど、特機に関しては同じと考えることは出来ない。

 

「滅茶苦茶なことをしてるとは思えないけど、一旦見ておく必要はあるかもしれないな」

「何かしでかしそうならば、この白雲が折檻いたしましょう」

「今回はそれを頼むかもしれねぇ」

 

 ということで、深雪達はそのまま工廠に向かうことにした。グレカーレが言うように、桜の門出を壊すようなことをしないかを監視するというところも無くはなかった。

 

 

 

 

 工廠は少しだけ賑わいを見せていた。雨であるということで手持ち無沙汰な者が自分の艤装の具合を見に来たりしているのがメイン。

 軍港鎮守府所属の艦娘は、雨だろうが雪だろうが街の警備の仕事があるため、あまり姿は見えない。綾波や暁は相変わらず街に出ている。

 

「やぁ、君達も来たのかい」

 

 工廠に入ってすぐに顔を合わせたのは、一緒に休暇中の調査隊から響と白雪。

 

「ああ、今日は身体を休めるってことにしてな、街には出ずに鎮守府の中にいることにした」

「2人は何か御用があったのです?」

「ああ、調査隊としてね、君達がここに持ち込んだ艤装人間について調べさせてもらっているところさ」

 

 今後、敵が同じようなことをしてきた時に何かわかればいいと、ここでしっかり調べておこうというのが調査隊の仕事。

 

「で、それがアレだよ」

「……なんだありゃ」

 

 その艤装人間なのだが、冬月が少し話していたことを既に実践されていた。

 

 最初は空っぽだったセレスには、刺激──彼女にとっては食──を与えることで意思を持つに至ったと認識されている。艤装人間もセレスと同じようなモノだから、刺激を与えようと冬月と涼月は考えた。

 深雪達の前では、映像を見せてみせ、視覚的に刺激を与えてみようかと話していたが、今まさにそれを実践している。艤装人間全員にそれをするということも難しいため、まずは3人、ここに来るまでに苦戦させられたり、翻弄されたりした、蒼龍の顔、ヘイウッドの顔、そして榛名の顔の艤装人間が工廠の隅に座らされ、そこで何やら映像を見せられているようだった。

 身につけているのは、VRのようなゴーグルとヘッドフォン。周りの環境に流されることなく、淡々とそこから流されてくる何かを見ているだけ。

 

 ぱっと見、そういうカタチで洗脳しているようにも見えなくもないため、それは奇妙な光景として深雪達の目には映っていた。

 

「さっきから眺めていたんだが、時折身体が揺れるんだ。まるで、見ている映像に反応しているみたいでね」

「見せている映像も3人で違うモノらしくて、どんなモノならより強く反応をするかを確認しているようですよ」

 

 白雪も少し興味を持ったらしく、その処置を考えた冬月と涼月に問い合わせたらしい。その返答が、激しい映像の方がいいか、染み渡る映像の方がいいかを見極めるために、すぐに用意出来そうなモノをひとまず見せているとのこと。

 

「1人には自然の映像を、その音と一緒に見せているらしいです。艦娘も深海棲艦も自然の中に生まれた存在ですから、それが刺激になるかもということらしく」

「榛名さんの顔の艤装人間がそれさ。彼女らしい采配だと思う」

 

 見せた映像によって言動に影響が出る可能性もあると、あまり激しいモノは見せていないらしい。今言った自然の映像なんてまさにそれである。

 

「私としてはもう少し刺激的な映像がいいと思うんだがね」

「……一応聞いておくが、例えばなんだよ」

「最恐ホラー映画」

「アホか」

 

 そんなモノを見せて万が一意思に目覚めたら、どんな性格になるかわからない。セレスのように元々が姫ならまだしも、艤装人間はイロハ級。姫以上に本能のままに生きる存在だ。ホラー映画の()()()()()()()()()()()で、その性質は大きく変わりそうでもある。

 

「でも、特撮ヒーロー物は見せてるらしいんですよ」

「いやなんでさ。正義のヒーロー見せたら正義感に溢れたりするとか思ったわけ?」

「さぁ……でも、異なる刺激ということで選択したみたいですよ」

 

 グレカーレのツッコミはごもっともであったが、そのように進めているのだから今更止められない。

 ちなみに、それを見せられているのは蒼龍顔の艤装人間だったりする。理由はおそらくない。下手したら消去法である。

 

「で、3つ目の映像は恋愛ドラマだそうだ。これまた違った刺激だね」

「ほ、本当にバラバラなのです」

「ジャンルはバラした方が結果がわかりやすくなるだろうからね。やり方としては間違っていないよ」

 

 残るヘイウッド顔の艤装人間には、人気の恋愛ドラマを見せているとのこと。これは冬月というよりは涼月の采配。

 

 そんなことをされている自分と瓜二つな艤装人間を前に、本来その顔の持ち主である3人は神妙な顔をしていた。特に蒼龍。

 特撮ヒーロー物に染まった自分のそっくりさんを見ることになるかもしれないと思うと戦々恐々。ただでさえ深海棲艦化した自分みたいな見た目なのに、性格までそんなカタチになったら、変に恥ずかしさを覚えてしまうだろう。

 

「これで意思を持ったら楽しくなりそうだ。私はそれを願っているよ」

「どうなるんだろうな。あたしもどうであれ自分の意思を持ってもらいたいとは思ってるけどよ」

 

 

 

 

 この願い、果たして叶うのか。それは今のところまだわからない。

 




三者三様に見せる映像で刺激を与えていくことになったわけですが、一番楽しいことになりそうなのは蒼龍顔ですかね。何見せてるかに寄る。
じゃあ特撮だからということで『仮面ライダーアマゾンズ』を見せてあげよう(鬼畜
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