後始末屋の特異点   作:緋寺

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争いは不要

 工廠にやってきた深雪一行は、冬月と涼月の発案により意思を得られるかの実験のために映像を見せ続けられている艤装人間達を発見。調査隊などもそれを眺めており、今はそれをそのままにしておくこととなった。これで何か反応を見せてくれるならば御の字。手段としては何でも試してみるのが前に進むベストな方法。

 そちらは一旦置いておき、深雪達はそのまま工廠の奥に向かう。今頃特機を調査しているのだろうから、安全にそれをすることが出来ているかを確認するため。

 

「おーい、調子はどうだー?」

 

 早速声をかける深雪。静かにしていないといけないような場では無かったため、遊びに来たような感覚である。

 

 軍港鎮守府は今も普通に運営中。うみどりやおおわしが休暇中なだけであり、冬月も涼月も今は業務時間内であることは変わらない。

 本来ならこうして自由に行き来するのも違うのだが、提督同士の間柄もあるのと、その研究材料が研究材料であるため、それに最も詳しい深雪はむしろ歓迎される。

 

「コイツはなかなか調べ甲斐のあるモノだ。とりあえず一晩やれるだけやってみたんだが、我々の長10cm砲(チョウジュウ)とは構成が全く違う。武装に意思が宿っているという点では同じではあるんだがな」

 

 軽く今一徹したと抜かしているが、一旦それは無視をしておいた。追求しても意味が無さそうだったため。

 

 まず特機はバラしようがないというところが、意思を持つ兵装である長10cm砲とは違うところであり、どちらかと言うならば、意思が宿っているのではなく()()()()()()()()()()という認識が最も正しいという解釈。

 それもそのはず、特機(忌雷)の原材料が妖精さんなのだ。兵装に意思が宿っているのではない。妖精さん、生き物が兵装のカタチに変えられていると言っても過言ではない。

 

 ここにいる者の中でその事実を知っている明石と主任、そして外に響と白雪を置いてこちらに来ている昼目提督は、そこからこの真実に冬月と涼月が辿り着いてしまうのではと戦々恐々。

 ただでさえ、ここにはその事実をあまり知ってもらいたくない深雪がいる。そのため、昼目提督は冬月が口を滑らさないように注意深くその言動を観察していた。

 辿り着くのは構わない。だが、不用意にそれを知らなくてもいいところに知らせることを止めたい。

 

「だが、あの艤装人間に通ずるモノも感じられる。意思を持つ兵装とは違って、()()()()()()()()()()()なコレは」

 

 そこから、艤装人間と同じであろうと考えた冬月。むしろそこに気付いたのは、妖精さんと親しい涼月の方。

 無機物な兵装に意思が宿ったのではなく、()()()()()()()()()()()()()()。これがそこから涼月の見解から導き出された冬月の答え。

 

 表情は変えていないが、明石も昼目提督も、この考察力に冷や汗が出そうになった。このままだと確実に真実に辿り着く。それだけならいいのだが、意気揚々とこの場で語り出してしまう。

 

「ならば、あの艤装人間も同じだろう。意思を持つ深海棲艦が改造され、兵装そのものにされているようなモノ。この忌雷、特機達がこれだけ意思を見せているのだから、艤装人間にも意思が芽生えるはずだ」

 

 ここで冬月は今目指している方の成果に思考が向いてくれたおかげで、その真実からは一旦遠ざかってくれた。内心ホッとした2人。

 

 だが、まだ気は抜けない。深雪はともかく、ここにいる者には、妙に察しのいい者も存在する。電や、グレカーレである。

 グレカーレはまだ割り切りそうなものだが、電はそれを知ってしまった場合に、これまでやってきたことを思い出して戦慄してしまうかもしれない。忌雷を破壊することは、()()()()()()()()()()()()ことと同じようなモノなのだから。

 

「ひとまず特機は一度返そうか。艤装人間達の傾向はコレでわかったと言える。特機を寄生させて意思を持たせても、危険ではないこともおおよそわかった。だがそれは最終手段だ。今はやれることをやってからにする。特機を寄生させたところで、明確な意思を持つとは限らないからな」

 

 そこでこの話は終わらせてもらえた。冬月は侮れないと思わせるだけのことではあった。涼月に至ってはおそらくもう気付いている。空気を読んでここでは話さなかっただけ。冬月を全肯定するだけで、知らなくてもいい情報をわざわざ知らせることも無い。冬月がその話を言い出したら、全力で全てを話し始めるだろうが。

 

「そうだ、それだ。艤装人間のあのやり方、もう少しどうにかならねぇの?」

 

 ここで会話のターンがやってきたので、深雪が洗脳まがいの処置方法について苦言を呈する。兎にも角にも見映えが悪いと。

 

「あれが最高効率だ。外からの情報をシャットアウトし、全ての感覚を映像に向けさせる。全刺激を集中させるからこそ、脳内に確実な刺激として届くことになるだろう。他の情報が入ることで、本来起こり得る反応が見えなくなったら困るだろうに」

 

 だが冬月はそんなことを言われても何も気にしない。今回は最高効率を優先して、見映えは二の次にしているようである。むしろ、冬月的にもあの見映えには少し思うところがあるようである。

 

「アレで意思を持ってくれれば、ここに運び込まれた艤装人間は全て意思を持つことが出来るだろう。時間がかかるかどうかはまだわからん。だが、確実ならば時間をかけてでもやる。言っちゃ悪いが、アレは処置して置いておくだけで効果が得られる可能性があるから、我々的にはありがたい」

 

 こうしている間に別の作業が出来るからなと、冬月は声を出して笑う。涼月もそうですねとニッコリであった。

 

 

 

 

 冬月と涼月は引き続き艤装人間の調査を進めるということで、深雪達は工廠の奥から撤退。それに便乗するように昼目提督も引き揚げていた。

 表に出てきたところで、艤装人間を眺めていた響と白雪が小さく手を挙げて迎える。

 

「面白いモノが見えたよ。今でもそうだけれど、映像や音楽の刺激は少しは反応するみたいなんだ」

「アイツの考えたこたぁ、あながち間違ってねぇようだな。だが、本当にこの絵面はなんとかなんねーのか」

 

 昼目提督も苦笑するその見た目。相変わらずその顔の本来の持ち主は複雑そうな表情で見ている。

 

「榛名はあまり大丈夫ではありません……」

「本当にねぇ……自分がこうされてるみたいでちょっと引く」

「……あまり、嬉しくないですね」

 

 3人が3人、同じような言葉。相手は空っぽとはいえ深海棲艦。このような扱いになるのは仕方ないかもしれないが、自分と同じ顔ということもあって、どうしても可哀想という気持ちが出てくるようである。

 榛名はまだマシかもしれないが、蒼龍とヘイウッドの方は見せられている映像もかなり特殊であるため、もしこれで意思を持てたとしても、本人とはかなり遠い感性を持つことになる可能性もある。

 

 響はむしろそれを待ち望んでいるように見えたが、あえて気にしないことにした。

 

「まぁでも、これで自分を手に入れられるならいいことだよな。上手く行きゃあ、救えない奴も救えるようになるってことだもんな」

 

 深雪としては、見映え以外は肯定的。見せている映像がどういうモノかを完全に把握しているわけではないのだが、そうやることで救われるなら何も問題はないと。

 傷を与えるわけではない。身体を弄るわけでもない。命に危険があるわけではないのならば、やってみることはいいことだとすら思う。

 

「あ、少し動いた」

「面白い映像でも流れてるのかな。ソーリューの艤装人間、なんか定期的に動くよね」

「これ、特撮見てるんでしょ……? 私そういうのよくわからないけど、バトルシーンとかあったりするんだよね? うわぁ、本当にどうなっちゃうんだろ私の顔の艤装人間……」

 

 不安そうな蒼龍だが、今はまだ結果がわからないため何とも言えなかった。

 

「みんなはさ、やっぱりコイツらには意思を持ってもらいたいって思うか?」

 

 そんな深雪の質問に、榛名達は何とも言えない表情を見せる。それはやはり、相手がどういうカタチであれ深海棲艦だからというところに帰結する。

 とはいえ、うみどりにはセレスやムーサのような非常に協力的な深海棲艦が所属していることもあるため、敵に対しての考え方が変わってきているのはあった。ムーサはさておき、セレスは食堂などでその腕前も披露している程なのだから、安全性は保証出来ている。

 

「この方達が、あのセレスさんのように、私達人類の味方となってくれるのなら、それは大歓迎ですし祝福はします。榛名は大丈夫です」

「そうだねぇ。私もそれ派。同情とかは無いし、コレが改めて暴れ始めたら、私の手で息の根は止めるけど、そんなことしないならそこまではしないかな」

「……私も、ですね。無駄な争いはしない方がいいです」

 

 そこのところは思ったよりも肯定的。艤装人間が深海棲艦であっても、戦いを挑んでこないなら戦う必要がない。無益な殺傷は不必要な消耗を生むだけ。

 戦争を長く続けたいなんて考えているわけではないが、勝利するためにはまず負けないことが必要。そのためには、そもそも戦わない、必要のない戦いはしないに越したことはない。

 

「もう10年もこの戦いは続いています。なら、戦わずに手を取り合えるなら、それが一番です。全員が全員、同じように思うことなんて無いと思いますけど、榛名はそれを願っています」

 

 戦うことは必要かもしれないけれど、ただ()()()と、榛名は苦笑しながら話した。蒼龍もヘイウッドも、それには完全に同意。戦わなければ世界が先に進めないが、戦えば嫌でも疲弊する。そんなことを10年も続けているのだから、いい加減終わりにしたい。それが休戦というカタチなら、余計な痛みすらなく、ある意味最善のカタチに終われそうだと。

 

「……うん、あたしもそれがいいよ。むしろ、余計なことをしてんのは、こういうのを造ってる一部の馬鹿野郎だけだ。それがいなくなれば、戦いは意外と早く終わってくれるのかもしれねぇもんな」

 

 少なくとも、今ここにいる艤装人間達とは、もう争う必要はない。処置をして本能を目覚めさせ、深海棲艦として人類に攻撃的な意思を持っているようならば話は変わるが、共存出来るのならそれを望む。

 

 榛名の願い。蒼龍とヘイウッドも、戦う必要はないと願う。そして、深雪はその願いを聞き入れ、その通りだと納得し、そして艤装人間達との戦いがもう二度と起きないことを()()()

 

 

 

 

 深雪の指先に、煙幕がチラついたのに気付いたのは、調査隊の面々くらいだった。

 




今願ったな? 願ったよな? 優しい願いだな? じゃあ叶えよっか。
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