後始末屋の特異点   作:緋寺

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その力は頼らない

 処置をされる艤装人間達を眺めながら、不必要な戦いはしたくない、手を取り合えるならそれでいいという榛名達の願いを聞いた深雪は、それに同意しながら、この艤装人間達との余計な戦いが二度と起きないことを()()()

 

 その瞬間、深雪の指先から無意識の内に煙幕がチラつき始めた。深雪だけでなく、他の者もそれには目が向いていなかった。

 それに気付くことが出来たのは、調査隊の面々。それを確認した瞬間、動き出したのは──

 

「深雪、少しゴメンよ」

「えっ、な、何を」

 

 響である。()()()()()()()()()()()、被っていた帽子を脱ぎ、その中に仕込んでいた少し大きめなビニール袋を取り出すと、即座に深雪の手を包み込むように縛り上げた。

 その手は、煙幕がチラついた方の手、左手。響が急にそんなことをし出すとは思っていなかったため、深雪は大いに驚いた。

 

「いきなり何すんだ!?」

「完全に君は無意識だったわけだ。自分で見てみなよ」

 

 響は深雪の左手を完全に袋で包み込めたことで少し得意げ。

 

「み、深雪ちゃん、袋の中……煙幕が」

「煙幕!?」

 

 電に言われたことで初めてそれに気付いた深雪。言われて左手の袋を凝視すると、確かに袋の中には煙が溜まっていた。ご丁寧にも見やすいように、その袋は透明。深雪が意識していないのに漏れ出た煙幕がしっかり全員の目に映った。

 

「あ、あたし出そうだなんて思ってなかったぞ!?」

「無意識に漏れ出ていたみたいですね。願いに反応して、同じ願いを持ったことで、特異点としての力が」

 

 響に続き、白雪も近付き、深雪の袋に包まれた手を取る。深雪が意識したことでその煙幕は止まったようで、袋の中で行き場を失ったそれは、今はただ滞留するのみとなった。そうしていなかったら、手を包む袋は煙幕によって膨張を始めていたかもしれない。

 

「この煙幕は貰っていきたいんだけどいいかな」

「あ、ああ……まぁ、それくらいなら」

「助かるよ」

 

 煙幕が止まっていることが確認出来たため、やんわりとその袋を外し、内部の煙幕が漏れ出ないように手早く縛り上げ、煙幕の()()を完了させた。

 しかし、深雪の手から完全に離れたことで、袋の中、完全な密封空間であるにもかかわらず、内部から霧散するように消えていく。少ししたら、袋の中には元から何もなっていないようになってしまっていた。

 

「残念だ。やはり、こうやって手に入れようとしたところで上手く行かないみたいだね。白雪の予想通りだ」

「あくまでも特異点の手から出たモノであることが条件なんじゃないかなって。袋詰めになったらそれはもうただの煙扱いになりそうとは思ってました」

「煙幕の研究調査はあくまでも深雪がいないとダメだということだね」

 

 言葉とは裏腹に、微塵も残念そうに思っていない響。白雪も同じである。

 

「そんな簡単に煙幕を持っていかれていたら、とっくの昔に敵に解析されているよ。でも、それが出来なかった。だから、そもそも煙幕を出させないように物理的に対処されていたんじゃないかい?」

「……そうかもしれねぇ。煙幕が出ちまえば、大体何とかなってた。煙幕の対策は今のところされてねぇよ」

「過信は禁物ではあるけれど、やはり特異点の力は未知の力なんだ。普通の科学力……それがこんな艤装人間を作り上げるような厄介な輩が待ち合わせる知能であっても、及びもつかないような、ね」

 

 そもそも持っていけたとして解析出来ていたかもわからない。それだけ未知の力である。

 そういう性質があるからこそ、特異点は特異点になり得ているとも考えられた。解析可能ならば、いずれ複製も何でも出来るようになる可能性もあるということ。それが出来てしまえば、特異点の特異性は失われることになる。

 

 特異点は、特異だからこそ特異点。異常な性質を示してこそである。

 

「オレにゃあ、こんなモン造り出すような輩も異常な性質って意味で特異点に思えるがね。つっても、そいつぁ頭ン中が異常ってだけだ。深雪たぁ違ぇ。特異点なんて呼び方は、本来の特異点であるお前さんに失礼だな」

 

 後ろで眺めていた昼目提督も、ケラケラ笑いながら話す。

 

「ああ、そうだ。今煙幕を止めた理由だけどな、何も煙幕が欲しかったからってわけじゃあねぇ。この実験を、煙幕無しでちゃんと終わらせたかったからだ」

「……どういうことだ?」

「どういうことってお前、これで煙幕が絡んでコイツらが意思を持ったとするだろ。それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()じゃねぇか」

 

 煙幕の力で意思を持ったとしたら、これだけで意思を持たせられるかどうかには繋がらない。結局のところ、煙幕が無ければ意思を持たせられないということすらわからない。全ての兼ね合いで変化するかどうかするかもわからない。

 煙幕は、ある意味研究者泣かせでもある。それがあれば出来るのか、それが無ければ出来ないのかの境界線をあやふやにしてしまっているのだ。はいはい特異点特異点なんて言われても何も文句は言えない。

 

「近付くなとは言わねぇけど、冬月と涼月のためにも、煙幕の()()()()だけは勘弁してやってくれ。調査隊としても、判断材料が鈍るのは看過出来ねぇからな。いや、お前を否定してるわけじゃあないから安心しろよ」

「ん、わかった。つーか無意識に出るなんて、ちょっとあたしわかってなかった」

「それがわかったのはいいことだな。結局のところ、今でもお前さんは特異点の力を完全に理解もコントロールも出来てないってことだ。いい学びになったじゃねぇか」

 

 そこは素直に受け止める。これだけ時間が経過して、吹雪とも出会ったことで理解も深まったはずなのに、まだまだ知らないことが沢山ある。特異点自身が特異点を知らないことがわかったことは、今後のためにもなるだろう。

 

「つっても、オレぁこのままでもいいとは思うけどな」

「そうなのか?」

「ああ。そりゃあなぁ、こういう手合いの力っつーのは、全部知っちまうと、多分()()()()()()()()()()

 

 そう突きつけられると、深雪はゾクリとした。

 

 特異点の力は未知の力。本来ならば理解出来ない力。理解()()()()()()()力でもある。それを知りすぎたら、普通ではいられなくなる、領域違いの力だ。

 それはその力を使う深雪にも当てはまるかもしれない。無理解とは言わずとも、今くらいの理解度くらいがちょうどよく、深く知りすぎると深雪自身がどうにかなってしまう可能性がある。

 

「知った方がいいこともあるけどな、知らなくてもいいことはある。それに、全部知るとそれに頼ることにもなるぞ。お前のそれは、頼っちゃいけねぇ力だ。オレ達も、お前もな」

 

 元々本当にどうにもならない時にだけ頼っていたところはある。敵の未知の力に、自分の未知の力をぶつけることで解決してきたことが大半。そうでなければ戦えないことばかり。前回のトーチカなんてその最たる例である。

 勿論、勝利するためには使える力を全て使わないと難しい場合も多い。コレまでの戦いはほぼ全てがそれである。だが、それに頼らずに終わらせられるようにも努力はしている。

 深雪の力を理解しすぎると、その努力を奪ってしまうだろう。全てがそれでいいになってしまう。だからこそ、深く知らないでおいた方がいいと昼目提督は説いた。

 

「……知りたいことはかなりあるけどさ、知ったところで頼らないようにするよ。とりあえず今回は、コイツらに使わないようにする。無意識にでも出ないようにしたい」

「おう、そうしとけ。グレカーレ、白雲、テメェらがちゃんと見張ってろよ」

 

 見張ってろという言い方はアレだが、言いたいことはわかる。そのため、白雲はこれも深雪のためになるのだと了解した。

 だがグレカーレは少し違う観点で質問をする。

 

「イナヅマじゃないんだ」

「あー、電に関してはな、ちょっと意味合いが変わってきちまう気がするから、言わなかっただけだ。勿論、電も注意深く見ておいてやれ」

「? どういうことなのです?」

「だってお前、深雪の補助装置なんだろ。むしろ電も無意識に出しちまうかもしれねぇぞ」

 

 それを言われてハッとした。特異点に起きることなのだから、今の電にも起きないとは言えない。深雪を注意深く見ていたら、実は自分も垂れ流していたなんてことが……なんてことがあっては困る。

 

 そのため、特異点とその補助装置とは一歩離れた2人、グレカーレと白雲がその役目に抜擢されるに至る。特にグレカーレはそういうところをちゃんと理解していれば注意力はなかなかのモノ。今回は艤装人間の方に目が向いていたために気付いていなかったが、もうここからは大丈夫だろう。

 

「ん、いいよ。じゃあ、ミユキとイナヅマがお漏らししないように、シラクモと一緒にしっかり見届けるね」

「言い方言い方」

「いや、最初に言ったのあたしじゃないし」

 

 ともかく、不用意に煙幕は垂れ流すなというのが昼目提督の指示。これは伊豆提督とも多少は話したことだからと念を押す。

 これだけ言ったものの、昼目提督はあくまでも調査隊おおわしの提督。後始末屋うみどり所属の深雪には、ここまでの発言権があるかと言われれば微妙なところである。

 

「まぁ、見映えが悪いのはオレも同じ感想だ。もう少しどうにかなんねぇのか? それこそ、ドックみてぇな設備くらいあんだろ。うみどりにも、おおわしにだってVRの設備があるくらいなのによ」

「あ、そっちにもあるんだ」

「当然だ。うみどりもそうだろうが、移動鎮守府でまともな技術のトレーニングが出来るわけねぇんだからよ。むしろこっちはうみどりよりも重点を置いてやってるくらいだ」

 

 そう言われて、響はニヤリと笑って胸を張る。それはもう毎日のように技術を向上させているのだと表すように。白雪も含みのある笑み。こちらも今の腕前を持つに至る努力を惜しんでいない。

 VRでの訓練は、移動鎮守府としては最高の環境である。練度は上がらずとも、あらゆる環境を想定して仮想訓練が行なえるのだから。

 

「一応聞いておくが、煙幕はちょっとも入ってないんだよな?」

「ああ、それは保証するよ。私はここに来てからずっと深雪の手ばかりを見ていたからね。身体から出ていたというのなら保証の外だけれど」

「それなら気付きますよ。私が俯瞰で見ていましたので」

 

 調査隊、そういうところは抜け目ない。深雪達との交流をしながらも、その辺りはしっかりしている。

 

 

 

 

 煙幕による艤装人間の意思の目覚めは未然に防がれた。そのおかげで、しばらくはこの見映えの悪い処置は続くことになるだろう。

 

「嫌だなぁこれがずっと続くの」

「榛名はやっぱり大丈夫じゃありません……」

「Me too……」

 

 その顔を持つ3人は、仕方ないと項垂れることになった。

 




便利な力は頼りたくなるものだけれど、深雪の特異点としての力は、努力を奪うくらいの便利さですからね。優しい願いなら無意識にでも叶えるレベルなので。それを止めた響は、イカれコンビからしてみればMVP。
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