後始末屋の特異点   作:緋寺

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増える艦娘

 工廠での処置については眺めるのもそこまでにして、深雪達は身体の休息のために移動。食堂は相変わらず桜の送別会の準備で盛り上がっているため、素人は邪魔をしないように与えられた部屋へと戻ることにした。

 雨ということもあり、その選択をする者は意外と多い。それでも外に出ていく者も勿論いるが。

 

 軍港鎮守府の設備も、ある程度ならば自由に使ってもいいと、既に伝えられている。例えば長門やトラ辺りは、ここのトレーニングルームを使わせてもらっているし、レクリエーションルームでは妙高と三隈の将棋を観戦する者などもいたりして、雨の日をそれぞれ思い思いに楽しんでいる。

 当然自室でゆっくりしている者もいる。梅や秋月はそれが顕著であり、前者は休みの間に購入した本を黙々と読んでいるし、後者は早速手芸に精を出しているようだった。人によってはそれに興味を持ち、便乗する者もいたりする。

 

「工廠の様子は見れたから、あとはどうすっかな。最初に言ってた通り、部屋に引きこもってうだうだしとくか?」

 

 深雪のそんな言葉に、3人は賛成。別にまだ眠くもないのだが、たまにはダラダラとしながら世間話に花を咲かせるというのも悪くは無い。先日までに買ってきたモノを整理したりしながら、のんべんだらりと時間を過ごすのもいい。

 今日は身体を休めることがメインだ。変に体力を使うことより、時間を贅沢に使って何もしないことの方が身体のため。

 

「んじゃあ、飯までぐーたらしようぜ」

「賛成なのです」

 

 それはそれで有意義な時間を過ごすことが出来る。具合も悪くないのにベッドの上から降りないというのも、なかなか悪くないなと深雪は思うのだった。

 

 

 

 

 昼食時。食堂は一時的に送別会準備を中断して、本来の業務内容に戻っていた。雨の日ということもあり、そこで食べる者はそれなりな人数がいるようで、深雪達も先日とは違うみたいだと楽しみながら食事を摂る。

 外で食べるのとも、うみどりで食べるのとも違う感覚は、それはそれで新鮮。食べているモノの味も、何処か違うように思える。

 

「セレスも手伝ってるんだよな。なのに、少し違う感じはする。当然美味いんだけどさ」

「環境ノ違イハ味覚ニ影響スルミタイネ。コレモマタ学ビニナルワ」

 

 セレスは相変わらず楽しそうである。自分の知らない食に関する情報が、軍港都市でも次から次へと手に入るモノだから、ここに来てからは学びの連続だと。

 

「五感全テヲ使ッテ食ベル。目デ楽シミ、鼻デ楽シミ、舌デ楽シム。環境ハソコニ音、耳ヲ足スコトニ繋ガルワ。周リノ者達ノ反応ヲ見テ聞イテ、ソレガマタ味ニモ影響スル。本当ニイイ経験ガ出来テイルワネ」

 

 非常に有意義な休暇を過ごしているようで、何処かツヤツヤしているようにすら感じた。

 セレスがそうだからか、食堂で昼食を摂る者達はいつにも増して楽しそうである。しかも、共に作っている間宮と伊良湖も、何処かテンションが高い。曰く、セレスは食べることもそうだが作ることも楽しんでいるからだとか。

 

「あたしにはちょいと難しいけど、セレスが楽しいなら、これはすげぇいいことなんだろうな。もう少し堪能出来ると思うし、楽しんでくれよな」

「エエ、勿論」

 

 セレスのにこやかな表情は、どう見ても深海棲艦のそれでは無かった。今はツノすら特異点の力で隠れているので、少し色白なお姉さんにしか見えない。これならば、やろうと思えば人間の社会に紛れて、思う存分食を追究することが出来そうである。

 

「セレス様ァ、オ願イサレタモノ、買ッテキマシタヨォ」

 

 なんて話していると、食堂に袋を持ってムーサが入ってきた。高波とル級も一緒である。

 高波はいいのだが、ル級は深海棲艦。しかし、元よりツノなどを生やしていないタイプのヒト型であるため、服装を少し変えるだけで、街中に紛れることが出来る。ムーサもそれは同じであり、いつもとは色合いが違う服を着ると、それだけで深海棲艦らしさが何処かに行っていた。

 

「アリガトウ。助カルワ」

「雨ノ日限定スィーツ、デスネ。鯖……高波ニ案内シテモラッテ、買ッテクルコトガ出来マシタ」

「ムーサさん、少し方向音痴かも、です」

 

 高波の言葉にル級はうんうんと頷く。そんな仕草をするル級に、ムーサが貴女もでしょうがと憤慨していた。深海棲艦は総じて街中ではあまり方向感覚がよろしくなさそうである。セレスを除いて。

 海の上や戦場ではそんなことはないようだが、平和な軍港都市、しかも人混みのあるような場所では、その方向感覚が上手く働かないようで、その店を探すのも高波に手伝ってもらったようである。

 

 セレスがムーサに頼んでいたのは、実は前日のうちに軍港鎮守府の者、主に綾波から情報を仕入れていた、雨の日限定で売り出されるというお持ち帰りスィーツ。今日が桜の送別会ということで、自分の力はそちらに発揮したいと考えたが、せっかくなら今だけ食べられるそれを手に入れたい。そのため、ムーサにお願いしてお使いを頼んだようである。

 ムーサは序列もあってセレスには逆らえない。セレス自体は無理なら別に構わないと話すのだが、ムーサはやらせてくださいと恐縮してしまっていた。実際は、今日やらねばならないこともなければ、断る理由も何も無いため、そんな雰囲気を出さずとも軽くOKを出せたのだが。

 それに助け舟を出したのが、おやつサーバーとして大切に扱われている高波である。こちらはセレスに対して対等に接することが出来るので、性格上少しオドオドすることもあるが、ちゃんと欲しいモノのリストなどを書いて、ムーサのサポートをしていた。こういう時はル級も高波頼りになる。

 

「ココデノ仕事ガ終ワッタラ、後カラ食ベマショ。送別会ノ準備ハ、アル程度終ワッテイルカラネ。ソレナリノ数、買ッテキテクレタノヨネ?」

「ハイ、5種類アッタノデ、全テ6人分。言ワレタ通リニ」

「大分数が用意されていたので、それだけ買っても咎められなかったんです。確か10限くらいだったかも、ですね」

「私ト、間宮ト伊良湖、後ハ貴女達ノ分ヨ。味ノ感想ヲ聞キタイノ。ヒトニヨッテ感ジルモノハ違ウデショウ?」

 

 お茶会に誘われたようなもので、ムーサは一気に満面の笑みを浮かべた。高波とル級もそれを喜ぶ。

 

「雨の日限定っつーのもあるのか……それは盲点だったな」

 

 その話を聞いて、深雪はそんなものあるのかと感心した。自分達と同じように雨の日は外に出ないという者も多いだろうから、それを外に出し、売り上げを出すために工夫している。これもまた、こういう場での知恵なのだろうと。

 

 そんな深雪を見て、ムーサは何処か不思議そうな表情をした。

 

「深雪ッテ、ズットココニイタ?」

「ん? ああ、あたしは今日は外に出てないぜ。工廠に行ったり、部屋でゴロゴロしたりだ」

「ソッカ。ジャア、()()()()()()()()

 

 ムーサの言葉に、深雪は逆に疑問を持つ。

 

「外であたしを見たってことか?」

「はい、アレは深雪さんだと思います。雨だったので、フードを目深に被っていましたけど。あ、ル級さんは、うみどりの深雪さんじゃないって感じてましたよね」

 

 ル級が頷いた。ムーサも人違いと断定出来る要素は持っていたが、念のため聞いたようである。

 ムーサとル級、その共通点は深海棲艦であること。つまり、()()()()()()()()()ということになる。特異点特有の後光が、その深雪からは感じられなかったらしい。それはカテゴリーWでもないという証明になるため、うみどりの深雪ではないと断言出来た。

 深海棲艦だからそういう考えに至れるが、高波からしたらそうはならない。2人がそう言うからそうなんだろうくらいにしか感じられないようである。

 

「綾波から事前に聞いてたんだよ。自分の同じ顔の別人がいるかもしれないからなって」

「ああ、確かに今日は、艦娘さんが多かったかもです。他の鎮守府からも休暇に来ているということかも?」

「みたいだ。にしても、早速あたしのそっくりさんを見たんだな。なんかちょっと会ってみたいかもだ」

 

 先に既に聞いていた、他の鎮守府も休暇に来ると発生する現象、同じ顔の別人が同じ場所に居合わせるということ。

 今この雨の日だから深雪は外に出ていなかったが、もし降っていなかったら顔を合わせていたかもしれない。

 

 それはそれで興味があるなと深雪は楽観的。ただし、自分が特異点であると全鎮守府に公表していることを忘れてはならない。特に同じ深雪ならば、うみどりの深雪に複雑な感情を抱いていてもおかしくないのだから。

 

「あ、こちらにいましたねぇ」

「でしょ? アレは別人だったって」

 

 続いてそんなことを言ったのは、警備任務から一時的に帰投して食事休憩に入った綾波と暁である。深雪の姿を見て、()()()()()という発言をする時点で、軍港都市内で深雪を見たということに他ならない。

 暁はうみどりの深雪とは違うとわかっていたようだが、綾波はぱっと見ではわからなかったようだ。やはり深海棲艦と違って後光が見えないのは厄介といえば厄介である。

 

「あたしは今日はここから出てないぜ?」

「なるほどぉ、じゃあ、綾波が忠告したことが現実になったということですねぇ」

「だな。まぁ今日は外に出る予定は無いから、外で見かけたら他の鎮守府の深雪だって思ってくれよな」

「わかったわ。そもそも深雪が1人で動いてるとは思えないし」

 

 暁が言うことも一理ある。深雪でもそれは自覚している。こういう狭い空間ならまだしも、軍港都市の散策を1人でやるなんてあり得ない。間違いなく、その近くには仲間達がいる。

 今だって、隣には電が、すぐ側にはグレカーレと白雲がいる。特にグレカーレと白雲は、無意識に煙幕を出さないかの監視をするために、ニコニコしながら舐めるように見ているのだから手に負えない。調査隊からの依頼だから仕方ないと、それをやってもいい免罪符まで手に入れてしまった。

 

「まぁ、あの深雪は今一人だっただけで、同じところに仲間がいるとは思うけれどね。単独でここに来る艦娘っていないもの」

「そりゃそうだよな。1人で休暇にココに来るって、なんかイメージじゃねぇや」

「基本は団体様ですねぇ。少なくても、1部隊って感じで、最低6人はいますよぉ。そうでなかったら()()()ですねぇ」

「国じゃないけどね。まぁ、あまり度が過ぎることをしてそうなら、相手が艦娘でもしょっぴくのが暁達だから、深雪達は安心して鎮守府で休んでて」

 

 軍港都市では最も頼りになる鎮守府所属の艦娘達。軍港都市に何かあったら、その元凶は絶対に許さない。それが仲間であっても、一切の容赦なくヤる。

 

 

 

 

 休暇ということで、雨であっても軍港都市には艦娘の姿がちらほら見えるようになっているようだった。他の艦娘を目にする者も、今外に出ている者達の間では増えてくることだろう。

 




特に深雪なんて結構な数いそうですからね。自分もゲーム内で昨日だけで2〜3人ドロップしました(モガ掘り中
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