後始末屋の特異点   作:緋寺

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楽しい別れを

 昼食後、外を見ると雨は少し小降りに。夜にかけてはまだ降りそうだが、明日には確実に止んでいるだろうと予測出来るくらいの天気になってきていた。

 とはいえまだまだ止む気配は無いため、やはり外に出ることは控える。元々今日は丸一日鎮守府で身体を休めると決めていたので、ここから突然の晴天になったとしても、余程のことが無い限り外に出るつもりは無い。

 

「飯も食ったし、程よく眠くもなってきたな。昼寝するにはちょうどいいくらいかも」

「満足感があるからかもね。どうせお昼寝するつもりだったし、いいんじゃなぁい?」

 

 美味しいご飯を食べたことで心地よく眠れそうな感じになってきたことから、当初の予定通り昼寝と洒落込もうと部屋へと戻る。別に寝間着に着替える必要もない。制服ではあるものの、少し寝る程度でシワが出来る程の柔な代物でも無いため、雑魚寝するにもちょうどいい。

 

「何かあった時に、これならすぐに出撃出来るしな」

「そんなことあったら、保前司令官さんが気の毒すぎるのです……」

「3連続になっちまうもんなぁ……何かある休暇」

 

 戦闘が起きるだけならまだしも、街が一部破壊されたり、仲間が心身共に傷付いたりするのはよろしくない。そしてそれ以上に、この鎮守府の総括者である保前提督の胃がそろそろ本格的にまずいのではと深雪ですら感じるくらいだった。

 この街を愛しているからこその、何かされた時の激昂っぷりが頭に焼きついている。それが既に二度も起きているのだから、今回も警戒していることだろう。休暇に合わせてそれを起こされているのだから堪ったものではない。

 

「今のところは何事も無い様子。お姉様の別個体がいるという情報がある程度ですね」

「なのです。この雨の中、1人で行動しているみたいですが……」

 

 ムーサや綾波達から聞いている深雪の別個体。カテゴリーWではないことは見てわかったようなので、何処かの鎮守府に所属する深雪が休暇として軍港都市に来ているのだろうと判断したものの、その仲間達が何処にいるかなんてわかるわけがなかった。

 そもそも、休暇に来ている艦娘達をそこまで深追いする必要なんてない。あちらにはあちらの休み方がある。おおわしはなんだかんだでうみどりと共に軍港鎮守府での休暇となっているが、艦娘が小さな部隊でここに訪れ、別の宿泊施設で人間として休暇を取っている可能性だってあるのだ。せっかく癒されに来ているのに、それを変に探られるだなんて、心が休まらないだろう。

 だから、こういう時は基本的には()()()。知っていても触れない。余程何かがあった時以外は、会釈程度で済ませる。ご一緒したいという希望があっても、相手がお断りを入れたなら食い下がらずに引く。それが癒される鉄則。

 

「まぁ、あっちにゃあっちのやり方があるだろうよ。何かあったとしても、綾波達がどうにかしてくれる。あたし達がどうこう出来る問題じゃねぇや」

「だよね。あの警備隊、怒らせたら怖いもんねぇ」

「この街を愛しているからこそ、なのです」

 

 気にはなったが、これ以降は考えないことにした。そもそももう鎮守府から出るつもりもないのだから、顔を合わせることも無いだろう。変に気にしていたら、あちらにも迷惑かもしれない。

 

「とりあえず、一回昼寝でもしようぜ。なんか余計に眠くなってきちまった」

「なのです。それじゃあ、お昼寝は適当にで」

「ジャンケンは夜だからね。どうせ昼寝だし、1つのベッドに4人乗っかってみよう」

「寝させろ」

 

 結局は適当に駄弁りながら、眠くなったら勝手に眠るというスタイルで昼を終えていく。何かに縛られているわけでもなく、やりたいことをやりたいように、時間を適当に使っていくことは、心を癒すには充分であった。

 

 

 

 

 時間は夜。本日は桜の送別会ということで、全員が鎮守府に戻るようにと最初から伝えられているため、早いうちから帰投する者が多かった。最後の最後まで外にいた者でも、日が暮れる前には戻ってきている。

 

 未帰投者はゼロ。それだけでも安心出来るモノであった。

 

「全員揃っているわね。それじゃあ、始めましょうか」

 

 食堂だけでは狭そうだと、特設会場を用意し、そこにはズラリと並ぶ料理の数々。こういう時は立食がいいだろうと考えたセレスが、軍港鎮守府の間宮や伊良湖、そしてカテゴリーYの面々と共に作り上げた、至高の品々。質も量も申し分なく、鎮守府の艦娘達総動員にしても食べ切れるかと思える程の莫大な数が用意されていた。

 うみどりやこだかに備えていた材料を全て蔵出しし、かつ軍港鎮守府からも提供をしてもらったために、コレくらいは余裕である。やろうと思えばまだ出せるくらい。

 

 全員が揃っていることを提督陣が確認したことで、伊豆提督が仕切って会が始まる。

 

「みんな知っていると思うけれど、桜ちゃんは今日を以てうみどりを降りることになったわ。これまで大変だったけれど、お父様と再会することが出来た。なら、アタシ達は笑って送り出してあげなくちゃいけないわ。この門出を、祝福してあげましょう」

 

 挨拶はそこそこに、まずは楽しみましょうと送別会がスタート。ここからはただ楽しく飲み食いをするだけの場となる。無礼講とは言わないまでも、立食パーティーなのだから、本当に好き勝手である。

 

 主賓である桜は、父である有栖提督と共に、食べたいモノを食べたいように食べていた。好物ばかりが並べられているため、終始笑顔で、美味しそうに。有栖提督と愛娘の嬉しそうな表情に柔らかな笑みが出るほどである。

 そんな桜には、艦娘達もホッコリとさせられ、空気がより温かくなるのを感じた。こうやって話すのは今日を終えると二度と来ない、なんてことは無いのだが、それでも少し寂しいとは思ってしまう。だが、気持ちを払拭するくらいに楽しく賑やかに送り出してやりたいと、誰もそんな素振りは見せなかった。

 

「君達が最初に救ってくれたと桜から聞いている。その節は、本当にありがとう」

 

 有栖提督がそう話す相手は、逃げてきた桜を深海棲艦の外見であるにもかかわらず、始末ではなく救出するとして動いてくれた潜水艦隊、伊26と伊203。あの時にそうしていなかったら、桜は敵潜水艦にやられてしまっていたし、判断を間違っていたら桜自体もその手にかけていた可能性もある。

 全てが上手く噛み合ったからこそ、今の桜はここにいる。言葉は失ってしまっているものの、命あっての物種。生きているならまだ前に進めるし、そのおかげで父と再会することも出来た。

 

「たはは、あの時はフーミィちゃんもいてくれたから上手く行ったというのもあって」

「その方が早いからそうしただけ。深海棲艦が深海棲艦に追われてるなんて普通じゃなかった。だったら追われてる方を救うのが手っ取り早い」

「なるほど、君達は基本がそういう考え方なのか。どうであれ感謝させてほしい」

 

 有栖提督の隣にいる桜も、満面の笑みで伊26とハイタッチしていた。やはり最初に懐いた伊26に対しての感情は少々特殊なのだろう。他のカテゴリーYとはまた違う、お姉さんを相手にしているような感覚を持っていそうであった。

 伊26もそんな桜と非常に仲が良く、笑顔で相手をする。子供の扱いに慣れている孤児院出身の性質は、こういう時に顕著に表れる。伊203とではここまで行かない。

 

「すまないが、少し桜を見ていてくれないだろうか。こういう場だからこそ、私も桜をここまで助けてくれていた皆に感謝の意を伝えたい」

「はい、わっかりました。桜ちゃん、お父さんちょっとだけ用があるみたいだから、ニム達と食べてよっか」

 

 そんな言葉に、桜は有栖提督の方を見る。有栖提督も穏やかな表情で、お前も皆と楽しみなさいと頭を撫でた。父の隣にいたいというのもあるかもしれないが、今生の別れでは無いにしろ、しばらくはうみどりの面々にも会えなくなるのだ。ならば、今を楽しむという意味でも、仲間達と楽しむことも必要。

 

 桜もそれを理解出来たか、小さく頷いて伊26と手を繋いだ。そこに不安など一切ない。伊26も有栖提督に小さく頭を下げてから、桜と共に立食の続きを開始した。

 

「……伊豆提督、何度でも言わせてほしい。桜をここまで無事でいさせてくれて、本当にありがとう。ここまで大きな送別会まで開いてもらえるだなんて、思いもよらなかった」

 

 真っ先に向かったのは、桜の命の恩人とも言える後始末屋の長。立食パーティーではあるが、大人達は少し部屋の隅で、この光景を楽しそうに見ながら軽く呑んでいた。

 勿論、ベロンベロンに酔うまでは絶対に行かない。アルコールを入れたとしても、軽く酔う程度で済ませる。それはしっかり監視されているので、不安もない。

 

「いいのよぉ。あの時の判断が間違ってなかっただけだもの。それに、咄嗟に救うって判断したのはアタシじゃなくて潜水艦の子達よ」

「彼女らにも直に礼を言わせてもらった。桜も楽しそうで何よりだ」

 

 伊豆提督がグラスを見せると、少し考えた後に頷き、有栖提督も少しだけ酒を入れる。ふぅ、と息を吐いた後、隣に腰掛けた。

 その視線は伊26に連れられて楽しそうにしている桜に向けられていた。今はちょうど、深雪達と合流して一緒に食べているところ。互いに笑いながら、心の底から楽しめているのが見て取れる。

 

「私は、これは流石に特異点の力では無いと思っている。後始末屋の、うみどりの在り方のおかげだと」

「……そう思ってもらえると嬉しいわ。アタシ達の努力の成果が、こんなカタチで芽吹くとは思っていなかったけれど」

 

 うみどりには特異点がいる。だが、その力が全てでは無い。桜が救われたのは、そこに特異点があるからではなく、うみどりが常にそうしてきたからだと、有栖提督は断言した。

 特別な力なんてあってもなくても同じことをしていただろう。伊豆提督もそれは確信を持って言える。あの状況なら、深雪がいてもいなくても変わらず、桜を救っていたと。

 

「何かあったら、声をかけてほしい。恩を返したい」

「そこまで気負わなくてもいいわ。でも、次の戦いはこれまで以上……というよりは、これまでの総決算だと思うの。だから、手が足りないかもしれない。そう判断した時は、よろしくお願いしていいかしら」

「勿論だ。桜をあの姿に変えた元凶を相手にするんだ。手が足りなくても手伝いたいくらいだ。過剰戦力でも問題はない」

「ふふ、少し酔いが回ってる?」

「かもしれないな。少し感情が表に出てしまった」

 

 改めて、グラス同士をチンと合わせて、これからの戦いの勝利を願った。世界の平和を守るためというのは大それているかもしれない。繋がりのある者達を傷付けられた報いを受けさせるというのは負の側面が強いかもしれない。そのどちらもを手にして、戦いを次の局面へと動かす。

 

「さぁ、それじゃあ、アタシ達ももっと楽しみましょ。多分うちの那珂ちゃんがライブを開くわよ」

「艦隊のアイドルと自称しているが、そこまでするのか」

「それはもう。桜ちゃんに楽しんでもらうために、目一杯歌ってくれるわ」

「……それは楽しみだ。桜も喜ぶだろう」

 

 そこからは本当に那珂が歌い出し、送別会のテンションは爆上げ状態。アイドルのゲリラライブが始まったようなモノ。桜も飛び跳ねて楽しむほどだった。

 

 

 

 

 送別会は大盛り上がりで幕を閉じる。桜は終始笑顔だった。うみどりとの別れは寂しいが、最愛の父との生活が待っているのだから。

 うみどりは信頼出来る新たな仲間を手に入れることにもなった。有栖提督のバックアップは、今後も続くことだろう。あの切れ者の立てる策は、島での戦いでも役に立ってくれるはずだ。

 




すっかり忘れていたんですが、2日前の2/16、後始末屋の特異点は2周年を迎えました。ここまで本当にありがとうございます。そして、これからもよろしくお願いいたします。
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