後始末屋の特異点   作:緋寺

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また会う日まで

 軍港鎮守府の艦娘達は、深夜の警備も勿論行なっている。24時間営業の店や、夜にしか開いていない店もあるのだから、人通りはそちらが多くなり、普段よりも治安はどうしても悪くなる。酒を呑み、酒に呑まれた者というのはどうしても出てきてしまうモノだからだ。

 そんな夜は、基本的には川内の時間。街中を跳び回って、軍港都市全域を見て回っていた。ビルの上を、それこそ忍者のように。その光景は、夜の軍港都市の名物にもなっており、夜も明るいピンク街も警備範囲にしている川内は、非常に人気の高い艦娘になっていた。

 

 今日も今日とて、夜の街を跳び回っている川内。昼間は降っていた雨も止み、まだ道路は濡れているモノの、このまま行けば朝には全て乾いていると想像出来る。

 警備のルートであるピンク街周辺は、特に念入りに見回すのだが、ちょっとちょっとと何処かの店の住人から手招きをされた。

 こういうことは珍しくもなく、小さな事件が起きたから解決してほしいと艦娘の手を借りるというのが殆ど。時々、単純な世間話をすることもあるが、呼ばれてまでのことになると、基本は事件性のあることになる。

 

「っと、どしたー?」

 

 軽い口調で高いところから降り立つ川内。もうこのノリが当然となっているため、呼んだ住人も何も気にしない。話す時も非常に気さくであり、少し前に起きたことを川内に説明し始めた。

 

 何でも、こんな時間なのに、()()()()()()()()()()()のだという。ただでさえピンク街は今の時間は子供には丁重にお帰り願っている場所。つい最近この街の存在を知ったというくらいでなければそもそも近付くこともない。そのため、その子供は妙に印象深く頭に残っているという。

 

「それ、艦娘だった? どんな感じだった?」

 

 それがどういう者であるかを聞く川内。既に見当がついているのだが、正確に聞いておかねばわからない。

 そしてそれが、思っていた人物であることはすぐにわかった。

 

「1人だった? ん、1人じゃあなかったんだ」

 

 そこから話を聞いていくと、少しだけ安心出来る話も出てきた。

 

 その子供というのは、先に綾波や暁から聞いていた別個体の深雪だ。フードを目深に被っていたというのが決め手。それ以外にも特徴はわかりやすく一致した。

 

 綾波や暁が見た別個体の深雪は、1()()()彷徨い歩いていたというところ。雨の中で傘も差さず、濡れ鼠になりながらも気に留めることもなく。どうやらその時には同じ服装でも濡れていなかったらしく、一度着替えたのだろうと推測される。

 だが、ここで手に入れた情報は、その子供は2()()だったという。別個体の深雪と思われる子供ともう1人、それよりもさらに小さい子供が共に歩いていたらしい。

 

「1人じゃないならまだマシかな。え、そっちの子の方がしっかりしてたの?」

 

 そして、ある意味有益な情報。別個体の深雪であろう子供と共にいたもう一人の子供の方が、その深雪を引っ張って歩いていたという。積極的に話しかけるのもそちら。

 ピンク街の入り口で呼び止められて、子供は入れないと伝えられた時、別個体の深雪は素知らぬ顔だったようだが、もう1人の方がごめんなさいと元気よく謝った後、深雪の手を引いて離れていったとのこと。これが最も印象が強いと証言する。

 

「なるほどねぇ。ん、ありがと。こんな時間にほっつき歩いてる悪い子供は、警備のお姉さんが補導しなくちゃね。ちょっと探してみるよ。もしかしたら、もう宿にいるかもしれないけどね」

 

 ピンク街の住人も、是非そうしてほしいと笑顔で対応。川内のことを信用しているからこう話すわけだし、やはり前回の戦いでピンク街に米駆逐棲姫が拠点を置いていたせいで、こんな時間に現れる子供には警戒心が強まっているということもある。

 住人の安心を保証するのも警備隊、軍港鎮守府所属の艦娘の仕事。それに誇りを持っている川内だからこそ、そんなことを聞いたらしっかり確認しておかねばならない。

 

「情報ありがとね。また何かあったら教えて。最悪の場合は照明弾だよ」

 

 ニコッと笑って一跳び。軽々と建物の壁を蹴って、また上へと上がっていった。その光景を、近くにいた住人達は小さく拍手しながら見守っていた。川内がこうして跳び回るところ、特に降りてきてからまた登っていく姿は、特に人気だった。

 それを見たいがために呼び出すというのは御法度。ルール違反で周りの住人からタコ殴りに遭うのも既に共通したルールだったりする。そのため、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という、イイのか悪いのかわからない光景であった。

 

「さぁてと、昼間は迷子だったってことかな。仲間と合流出来てるみたいだけど、それでも夜に歩くって何考えてんのかね」

 

 既に宿に戻っているというのなら別に構わない。だが、そういうこともなくまだ外にいるというのなら、見つけて補導しなくてはならない。いくら艦娘だと言っても、治安的には褒められたモノでは無いからである。

 

 結果的に、川内はこの夜にその子供達──別個体の深雪と、その仲間の子供を見つけることは出来なかった。隈なく探したというわけでは無いのだが、それでも川内の目で探して、その姿が見られなかったということは、ほぼ確実に屋内にいるということになる。

 鎮守府以外の宿泊施設にいるのだろうと考え、川内は深追いするのをやめた。仲間といるのなら、正式な手順を踏んで、この街に宿泊していると考えるのが妥当。

 

「ま、それなら今はいいよ。もし何かしたら容赦しないけど」

 

 川内も敵の存在には神経質になっているところはある。うみどりが来港したからまた起きるのではないかと考えてしまうことはどうしても出てきてしまう。

 何も無いならそれでいい。今は休暇の時間、騒ぎを起こさないなら、誰であっても軍港都市のお客様だ。

 

 

 

 

 そして何事もなく朝が来る。川内が一晩中都市内を警備していても、結局その姿を見ることは無く、鎮守府に帰投して保前提督に報告。明るい間の警備でも、気になることがあったらすぐに報告するようにと、所属する全艦娘に通達した。

 

「トシちゃん、身体は大丈夫? 昨日も一昨日もそこそこ呑んでたでしょ?」

「あの程度なら残らないぜ。素面じゃ無くなったとしても、呑まれるほど呑んでないからな」

「ならいいけど。こんな時に二日酔いとか笑えないものね」

 

 早朝というわけではないが、朝食を終えてすぐというくらいの時間で、今日まで休暇予定だった瀬石元帥達が帰投することになる。

 二泊三日の休暇で、瀬石元帥は随分と顔色も良くなり、身体も絶好調だと力瘤を作るほど。ほっほと笑うが、その身体は歳を感じさせないくらいに見えた。

 

「儂はただ癒されに来たつもりだったが、ふむ、それ以上の収穫があったのう。胃の痛みも完全に引いたわい」

「ここから輪をかけて痛くなるかもしれませんから、今を大切にしてくださいね瀬石さん」

「怖いこと言わないでくれる?」

 

 丹陽の戯けたような物言いに、苦笑しながらも心配するなと返した。むしろお前も無理はするなとまで言い放った。

 だが、瀬石元帥もいろいろと覚悟はしていた。ここからは阿手との決戦、そしてそれが終われば出洲との本格的な戦いになるだろう。胃が痛くなるような戦いは、まだまだ終わっていない。

 

「そうじゃ、あの原さんの首なんじゃが、考えた結果、大本営には持っていかんことにする。そもそも元の身体は今ここにあるんじゃからな」

「了解しました。我が鎮守府で、責任を持って調査します。うちには嬉々としてやりたがるイカれコンビもいるので」

「うむ。もうアレをヒトとして見る必要はない。元帥として命じさせてもらう。()()()()()()()

 

 原の生首は、考えに考えた結果、情報収集のために調べ尽くす方向で決定した。だがそれは大本営では逆に難しい。有識者は、うみどりと軍港鎮守府に集まっているのだから、それを使わない手は無いのだ。

 最終的に、お持ち帰りではなく、ここで研究をし尽くす方向で落ち着いた。その際に、原への人権は全て度外視してもいいという指示まで。既にアレは人間ではないのだから、権利を主張出来るような存在ではないと断言までして。

 

「儂の重荷はこれでおしまい。あとは、こちらじゃな」

 

 チラリと見た方には、親子としての絆を取り戻して、うみどりでは見せなかった程の心の底からの笑みを称えた桜の姿が。

 身体は深海棲艦だが、服は別物。ぱっと見で人間にしか見えないくらいに着飾って、この最後の日を迎えた。

 

「有栖君、娘さんと再会出来てよかったのう。昨日とか儂、ちょっと涙ぐんじゃった」

「……本当に感謝しかありません。これからは、奪われた……失った2年を埋めるくらいに、この子と共にいようと思います。鎮守府に置くことを許していただけて、ありがとうございます」

「いいんじゃよ。娘さんも今や訳アリ。それでも一緒にいたいと言うのなら、それがベストだと感じただけじゃ。君のためにもな」

 

 改めて頭を下げる有栖提督に、瀬石元帥はにこやかに応えた。

 

「桜ちゃん、今までありがとうね。うみどりではその身体を元に戻す方法、調べ続けるわ。きっと人間に戻れるから、それまではお父さんと仲良くね」

 

 視線を合わせるように膝をついて、桜の頭を撫でながら語る伊豆提督。桜も満更ではなく、その手の温かさに笑顔を向けた。父と仲良くすることは当然だと言わんばかりに力強く頷く。

 

 桜との別れということで、そこにはうみどりの艦娘達全員が見送りに来ていた。中には少し涙ぐむ者もいたが、これは悲しい別れでは無い。もう会えないわけではないのだから。桜の幸せな門出を祝福する。ただそれだけ。

 この光景を、時雨はさりげなくカメラに収めていた。これこそが守るべきモノだと理解し、そのカタチをいつでも見られるように保存する。これは、伊豆提督にも嬉しいサプライズになる。

 

「それでは、そろそろ行きますか」

「うむ。今回は素晴らしい休暇だった。心身共に癒されたわい。じゃが、ここからは更に激しい戦闘が予想される。気を抜かず、最後まで全員で生きて、また全員でここで集まろう。今度は祝勝会であの料理を食べさせておくれ」

 

 そんな元帥の言葉に、勿論だとセレスも頷いていた。

 

「桜、これで一度離れることになる。最後にみんなに御礼を」

 

 背中をポンと押すと、桜は一歩前に出た。

 そして、深々とお辞儀。言葉が出たならば、大きな声でありがとうと言っていただろう。口だけは動いているのが見えたため、ここにいる全員が感激し、喝采を浴びせることとなった。

 

 

 

 

 元帥と有栖提督が乗る車両が走り去っていく姿を、みんなは手を振って見送った。さようならではなく、また会おうねと。

 

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