調査隊の報告が終わり、遠隔会議は無事終了。海中で発見された大型潜水艦の痕跡や、人の手が加わった深海棲艦の存在など、謎が謎を呼ぶ結果となっているものの、現状からは進展が見えた。
ここからさらに調査しなくてはならないのは、大型潜水艦の行方と、タシュケントの所属先。そして、深海棲艦を強化改造していると考えられる組織。この全てが一致しているのなら、さらに厄介なことになる。
「アタシ達はアタシ達で充分に警戒するわ。後始末の最中にまた現れるでしょうし」
タイミングから考えると、タシュケントの監視は深雪と電がうみどりに加わってから。つまり、狙いはカテゴリーWと考えるのが妥当である。そのため、今後もうみどりの後始末に現れる可能性は非常に高い。
その際にまた襲撃を受ける可能性はあることを考えると、後始末作業中も強く警戒をしなくてはいけない。無警戒で後始末をしている最中に襲われたら、いくら強くても危険だ。
「うみどりだけで大丈夫っスか。なんなら防衛隊を作るなり何なり」
「今の規模なら対処出来るわ。心配なのはわかるけど、ウチの子達だって、それなりに熟練者ばかりなの。それに、いざとなったら
うみどりほどの大型艦になれば、それ自身で迎撃出来る機能くらいは持っている。そうでなければ、いきなり襲撃を受けて撃沈からの後始末屋全滅という悲惨な結末が起きてしまうのだ。
それを起こさないために、そもそもがかなり強固な造りとなっており、砲撃のみならず雷撃からもある程度は身を守ることが出来る。兵装も、探照灯と同じように全方位に対して迎撃出来るように機銃が配備されている。簡単には近付けさせないようにはしていた。
だとしても、同じ場所に何度も攻撃を受ければ、最終的には沈んでしまうだろう。そこは妖精さんによるダメージコントロールで長く生き永らえるようにはしているものの、不安がないというわけでは無い。
故に、そうなった時のために所属している艦娘が出撃する。ここまでやれば、無傷とは行かずとも生還出来ないなんてことも無くなる。
現状はそれで良しとした。これは慢心でも何でもなく、敵の実力と狙いがわかりきっていない状態で、後始末屋に戦力を割くことを控えておきたいからである。
「ハルカ先輩はこの
伊豆提督の艦隊が失われた場合、後始末作業をするものがいなくなるということ。戦いを終わらせるためには絶対に必要な役割を持つ部隊。それが失われた場合、戦闘後の部隊が穢れを処理することとなり、時間が余計にかかって結果的に片付けきれなくなるだろう。
故に、後始末屋は戦いの要。鎮守府を効率よく運営していくためには、いなくてはならない存在。何処の提督も伊豆提督には頭が上がらないようなものである。
「当然よ。アタシは死にたくないもの。それに、仲間を誰一人死なせたくないわ」
クスリと笑みを浮かべた後、自席から立ち上がる。会議が終わったのだから、PCの前にいる必要はない。
「アタシはそろそろ眠たいわね。マークちゃんも夜通し作業していたんでしょう。寝不足は健康に良くないわ。積もる話も沢山あるけれど、まずはお互い体力回復に努めた方がいいと思うわよ」
「ですね。ただ。ハルカ先輩が疲労で倒れる姿は全く想像つかないんですけど」
「アタシだって人の子よ。鍛えてる量が普通よりちょっと多いだけ。今だって結構しんどいんだから」
顔からはその疲れが全く読み取れない。昼目提督からしてみれば、伊豆提督は昔からこうだったので、今の言葉を聞いても首を傾げることしか出来なかった。
時間は経過して昼過ぎ。後始末終了からある程度経ったので、艦娘達が目を覚まし始める。いつもよりは睡眠時間が少ないため、まだ寝足りないという者もいそうではあるが、概ね体調は良好。
「んっ、くぅぅ……よく寝たよく寝た」
深雪はスッキリと目を覚ますことが出来た方。疲れも大分取れており、まだほんの少し気怠さはあるものの、それは寝起きだからというのもある。身体を動かせば徐々に本調子を取り戻すことが出来るだろう。
「もうみんな起きてっかな」
電は特に疲れていたからまだ眠っているかもしれないなといろいろ思いを馳せながら、着替えて部屋の外に出る。
「あ……おはようなのです深雪ちゃん」
同じくらいのタイミングで電も目を覚ましていたようで、部屋を出るのもほぼ同時。こんなことはあまり無かったのだが、今日は綺麗に息が合ったようである。
「ああ、おはようさん電。疲れ取れたか?」
「はい、大体は。でも、まだ身体がギシギシ言う感じはするのです」
「わかるわかる。あたしもだよ。ちょっと足が怠いかな」
疲れはまだ少し残っているものの、今日を過ごした後に風呂に入れば明日には元通りと言えるだろう。今日は丸一日を休息の日とされているので、トレーニングもお休みして身体を休める方が今後のためになるかもしれない。
そんなことを話しながら食堂に向かう二人だが、近付くにつれ、何やら艦内が騒がしいことに気付く。
先に起きている者達が食事をしているとしても、それとは少々違う騒つき方。むしろ食べている時はこれよりは確実に静かである。
「何かあったのか……?」
おそるおそる食堂に入ってみると、そこには先に起きていた艦娘達が集まっていた。その視線の先には、深雪や電は知らない
その男──昼目提督は、食堂の端で座りながら眠っていた。その隣に座る秘書艦鳥海が現状を説明している状態。
「え、誰」
素直な言葉が口から出た深雪に気付いたようで、鳥海は眼鏡をクイと上げて微笑みかける。
「貴女が深雪さんですね。そして、その後ろにいるのが電さん」
名前を呼ばれたことでビクンと震え、余計に顔を隠してしまう。
「寝て起きたらいたなんて怖いですよね。私は鳥海。彼──調査隊の長、昼目司令官の秘書艦を務めています」
「調査隊……って、夜に助けてくれた」
「はい、その調査隊です」
謎の艦影について調べてくれているということは、深雪でも知っている。その調査隊が昨晩、後始末の海域に乱入したこと、タシュケントに対話を試みたこと、そして突如現れた深海棲艦を殲滅してくれたことまで。
その時にはいなかった鳥海ではあるが、神通達の仲間であるというのなら、信用出来る相手なのだろう。故に、深雪はすぐに心を許した。電はすぐには難しいかもしれないが。
「司令官さん、深雪さん達が来ましたよ。起きてください」
「んぁ……ああ、来たか」
まだ少々眠そうにしているが、軽く目を擦ってからはシャキッと姿勢を正す。
「お前さん達がカテゴリーWの深雪と電だな。オレは昼目っつー、調査隊の提督だ。これからもちょくちょく付き合いがあると思うから、よろしく頼むぜ」
ニカッと笑う。その笑顔を見る限り、信用出来ない人間ではないことはわかった。伊豆提督の後輩ということは聞いているので、この笑顔に裏はないものであることはすぐに理解出来る。
電も深雪が心を許したことを感じ取り、顔を隠すことをやめて昼目提督に会釈した。それを見た昼目提督はまぁ今はこれくらいでいいだろうと一人で納得していた。
「少しだけ話がしたくて、朝からここで待機させてもらっていたんだ。言い方は悪いかもしれねぇけど、
真剣な眼差し。調査隊の業務として必要なことだと訴えてくるような、真っ直ぐな瞳。
「ああ、構わないよ。でも、電はちょっと難しいかもしれないから、あたしがするよ」
「ありがてぇ。調査に役立つかもしれないから、よろしく頼むわ」
口調の端々から感じる内面の荒っぽさ。しかし、仕事に対して真摯に向かい合っている真面目さも窺える。
それに加えて、伊豆提督の後輩であるというのが大きい。信用度が非常に高い伊豆提督とそういう関係が続けられているということは、それだけでも信用に値すると考えていた。
「んじゃあ、率直で悪いんだが……お前さん、この世界についてどう思ってる」
いきなりド直球の質問である。調査隊の長として、深雪の今の考えを知っておきたいという思いが、何の偽りもなくオブラートに包むわけもなく真っ直ぐに問うてきた。
深雪がキョトンとしたのを見て、昼目提督は悪い悪いと苦笑する。
「オレはこういう性格なんだ。何も偽らねぇ。本心から全部聞く。だから、やめてほしいことがあったら遠慮なく言ってくれ。全部オレの落ち度だからな」
こういうことを真正面から言える者は、逆に信用出来る。本当に自分の気持ちを包み隠さない。思ったことを全て口に出す。ならば、嘘をつくことはない。裏表が無いと言っても過言では無い。
伊豆提督ほど艦娘のことを思い遣っているというわけでは無いのかもしれないが、同じ仲間として意思を尊重する覚悟は持っている。故に、聞きにくいこともズケズケと聞いてくる。伊豆提督と比べると、取っ付きにくさはあっても信頼は同じくらい出来ると判断した。
「いや、いいよ。じゃあ、あたしも何も考えずに素直に言うけどさ」
「ああ」
「悪い世界じゃないと思ってる。そりゃあ、過去の馬鹿な人類の
愚かな人間がいるのは確かだ。いたからこそ、海には呪いが撒き散らされ、穢れが拡がり、深海棲艦のような人類を侵略する存在や、カテゴリーMのような人類を憎む存在が生まれてしまっている。そうなってもおかしくないと思えるくらいに、悪辣な人間のやったことは万死に値する行為だと深雪だって思っていた。目の前でそれをやられたら、人類を守護する艦娘という立場なんてかなぐり捨ててでも、その人間を殺しているだろう。
だが、うみどりにいる人間は愚かではない。過去の見知らぬ人間の過ちを償うため、そして平和な日々を取り戻すために、自らの命を懸けて後始末という作業に従事している。そんな人間を悪と見做すことなんて、深雪には出来やしない。裏があったとしても、それは呪いを撒き散らすような裏ではないはずだ。そうでなければ、ここまで親身にならない。
「少なくとも、あたしは今まで会ってきた人間は全員信じられるよ。ここのみんなも、軍港都市の人達も、勿論アンタだって」
初対面にもかかわらず、この場で信じられると言ってのけた深雪に、昼目提督は驚きを隠せなかった。
純粋な艦娘であり、世界の真実を知った深雪には、人間であるというだけで不信感を持たれてもおかしくないと考えていた。現に電は大分薄れているとはいえ、人間に対する不信感は持っている。深雪のような性格の艦娘ならば、それを真正面から叩きつけてくるのではと予想していた。
しかし、深雪は真っ直ぐ信じていると語ってくれる。昼目提督は、自分の外見や性格からして、まずは不信感を持たれるのではないかと予想していたが、そんなことは一切なく、直球には直球を返してきた。
「あ、あれ、あたしの返し方間違えてたか?」
昼目提督が返す言葉を無くしていたため、自分に落ち度があるのかと深雪が慌て始める。
だが、そんな深雪の反応にくくっと喉を鳴らし、そのまま大笑いし始めた。
「そうかそうか、そりゃあいい! ぶっちゃけちまうと、カテゴリーWっていっても純粋な艦娘だ。オレ達に無意識にでも
真っ直ぐな瞳で深雪を見つめる。その瞳からは、やはり裏表なんて感じなかった。
昼目提督との対話は、深雪にとっても強く印象をつけられるほどに印象が強いものとなった。
信用出来る人間が増えるというだけでも、この世界が明るくなるというもの。深雪の世界は、明るく広がっていく。
深雪と昼目提督は、どちらかといえば相性いい方かなと思います。やんちゃという意味で。逆に電はちょっとキツイかもしれません。押しの強さという意味で。