後始末屋の特異点   作:緋寺

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対面

 瀬石元帥と有栖提督らが休暇を終えたことで軍港鎮守府から撤収。有栖提督の愛娘である桜は、父についていくことを選択したため、これを最後にうみどりを降りることとなった。

 

 その見送りを終えた後、うみどりの面々は休暇4日目に突入。基本的には伊豆提督の怪我が治るまでの期間を休暇としており、その伊豆提督はそろそろ車椅子を降りられるくらいになっている。しかし、まだ杖を手放せないような状態。走れと言われたら無理と答えるくらいにはまだ万全では無い。

 どうしても後2〜3日はかかりそうと、伊豆提督自身は考えている。せめて杖無しで歩けるようになってから出港したいところだと。艦娘達も、せっかくなのだからと伊豆提督の休息を優先させる。ここから更に過酷な戦いに身を投じることになるのだ。伊豆提督自身が戦いに赴くことは無いとも限らないのだ。

 

「そうか、休暇は今日までとするんだな」

「はい、榛名達も体調が戻りました。流石に休んでばかりではいられません」

「体力を搾り取られていたみたいだからな。定期的な入渠で、よくここまで回復出来たものだ。なら、手続きはこちらで済ませておこう。今日が最後の1日になるなら、うちの街でも見ていってくれ」

「そうさせていただきます。身体の次は心かなと、みんなで相談していました。1日だけでも、満喫させてもらいます」

 

 そして、同じように休息していたのが榛名を筆頭とした友軍艦隊。こちらも伊豆提督と同様に本調子になるまでは休み、それが終われば帰投となるわけだが、今日の段階で充分に休めたということで、翌日に帰投する予定を立てていた。

 今日はその最終日ということで、これまで鎮守府内で身体を休めていた分、心を癒すために外へと散策に出る予定のようだ。自分達の提督にもその件はしっかり伝えてあり、正式な許可を貰って休暇としている。

 

「あ、そうでした……あの艤装人間の方はどうされるのでしょう」

 

 榛名としてはそれが気になるようだ。自分と同じ顔をしている深海棲艦は、今もおそらく映像を見せられて刺激を与えられている。本当にずっとやり続けているのだとしたら、そろそろ丸一日になってしまうのだが、あの後一度も見に行っていない。

 流石に不眠不休でずっとやり続けているわけではないものの、寝ている間もかけ続けているので、睡眠学習みたいなことにすらなっている。

 

「今の実験の結果次第だな。上手く行かなかったなら、次の手を考える。万が一上手く行っていたら……まぁ、うちの職員として雇わせてもらうさ」

「一応榛名達の顔なので……変なことにならないなら大丈夫です」

「結果がわからないから、変なことにならないかどうかは保証出来ないな。特に蒼龍の顔の奴は」

 

 見せている映像が映像なだけに、そこに染まり切った場合は()()()()()()()()()可能性がある。榛名顔は自然の映像なのでそこまで心配はいらないが、問題はやはり蒼龍顔。特撮ヒーローに染まったら、新たな胃痛の種になるのではと、保前提督も戦々恐々である。

 

「ともかく、アレらは軍港で管理させてもらう。気にしなくていいぞ」

「はい、わかりました。何かあったら連絡をお願いします。蒼龍さんもそう仰っていましたので」

「ああ、最優先で連絡させてもらう」

 

 意思を持つことは望んでいるが、その持ち方次第なところもあるので、榛名としてもその結果は気になるところであった。

 

 

 

 

 休暇も4日目ともなると、そろそろ散策する場所も少なくなってくるというもの。3日の昨日は雨が降っていたため、鎮守府でぐーたらと過ごしたが、晴れているならば身体を動かしたいと思うところである。

 

「つっても、ちょっと遊びすぎかな。身体が鈍っちまいそうだぜ」

「だねぇ。もう充分休んだ感もあるし」

 

 そんなことは言っているが、今日も今日とても軍港都市散策中。今回は食べたり見て回ったりではなく、身体を動かすことを目的としていた。散歩も運動のうち。

 本当は演習などで戦いの勘を取り戻したいところではあるため、休暇も佳境に入ったならば、一度軍港鎮守府やおおわしの艦娘達と一戦交えてみることも考えていた。一堂に会することなんて滅多に無いチャンス。そういう機会を使わない理由はない。

 

「綾波とやり合うのは正直もう勘弁してほしいんだが、他にも手合わせしたいヤツはいるしな。調査隊とか」

「響様の動き、非常に熟れているように見えました。陸戦では屈指の実力者なのでは無いでしょうか」

「ああ、それあたしも思ったぜ。無意識に出てきた煙幕を縛る動きな、あたしわからなかったし」

 

 白雲ですら感心した響の行動力。普段はそれを感じさせないくらいフリーダムな雰囲気を見せるが、調査隊の中でも屈指なのではと思えるほどに素早く的確。

 白雪はちょちょいのちょいでハッキングを仕掛けるが、響はどちらかといえば()()に特化しているようにも見えた。電子錠は白雪任せだが、アナログならば響に分があると白雪自身も話している。

 

「次の戦いは島、また海の上じゃないところで戦いそうだし、響から少し教えてもらいたいかもだ」

「なのです。電もああいうことを覚えておくと、役に立つかもと思うのです」

「だよな。また顔を合わせたら聞いてみるか」

 

 街中で顔を合わせることはあまり無いと思われるが、鎮守府に戻ればほぼ確実に顔を合わせることになる。その時に話せばいいと、深雪は次に進むために少し気合を入れ直した。

 また戦いに身を投じる時も近い。今を楽しくするために遊び歩くことも必要だが、そろそろ身体を慣らしていかないといけないかとも感じた。

 

「おや、深雪達じゃないか。奇遇だね」

 

 そんなことを話していたからだろうか、たまたま都合よく軍港都市を散策していた響と対面。噂をすれば影とはよく言ったものである。

 特異点の願いが叶ったとか、そういう理由で対面出来たわけでは無い。本当に偶然の産物。

 

 調査隊一行、定番の響、白雪、そして神通の3人が、組んで都市内を散策していたらしい。全員が私服であり、仕事から離れていると表していた。

 だが、やっていることは少々違うという。

 

「昨晩も、目撃情報があったらしいのですが、少し気になることがありまして、調査隊としてもこうして動いているんですよ」

 

 神通が言うには、この夜にも別個体の深雪が行動しているのを確認したということ。よりによってピンク街付近。その話を川内から聞いたことで、今の行動に出ているとのこと。

 

 ただ歩き回っているだけなら、そういうモノとして認識して、干渉しようとは思わない。軍港の楽しみ方はヒトそれぞれ。歩き回るのだってその一種と考えられる。

 しかし、子供でありながら夜も普通に出歩き、ピンク街の方まで足を伸ばし、注意を受けても素知らぬ顔をしていたというのはどうしても気になるところ。それが深雪の姿をしているから気になるというわけでなく、そもそもそんな行動をこの軍港都市でしているという点がどうしても引っかかったようだ。

 

「何事も無いなら別に構わないんですが、何かあった場合、これは厄介事に繋がると思います。当然ですが、艤装などは身につけていない生身なので、そこまで危険ではないですが……」

「それに、何やら深雪以外にももう1人いたらしい。その深雪を引っ張る誰かが」

 

 響が付け足す。深雪としては、別個体の自分が単独でフラフラしているわけでなく、普通に仲間がいることに少しだけ安心感を覚えた。1人で居続けるというのならば、それは一気に事件性が高くなるが、2人でいるならば、休暇中でここに宿泊していると考えられる。

 調査隊もそうだが、うみどりの面々もそこは少々敏感になっていた。()()()()()()()()()がそこにいたならば、またこの軍港都市で戦いに発展するのでは無いかと。

 

「今のところ、私達はその姿を目にしてはいません。流石に監視カメラをハッキングするようなことをしてまで調べるわけにはいきませんから」

「言われれば出来るというところが白雪のすごいところだよ」

「褒めても何も出ませんよ」

 

 流石にそれは軍港都市、延いては鎮守府を敵に回すような行為。そもそもハッキングは簡単にやっていい行いではない。戦場で必要とあらば、大本営からライン越えの許可を貰って、初めてそれが出来る。今はそもそもそんなことが出来る機材も持ってきてはいない。あくまでも片手間の調査、休暇の最中である。

 

「もし見つけたとしても、喧嘩を売るようなことはしねぇよ。そっちもあたしなんだし、出来れば仲良くさせてもらいたいもんだぜ」

「それがいいですね。同じ艦娘、余計ないざこざは不要です。ただでさえ忙しい時なんですから」

「そりゃそうだ。あたし達の敵は決まってんだ。そいつらの仲間だってなら容赦はしねぇけど、ここで何も悪いことしてないなら、何もしないぜ」

 

 ケラケラと笑う深雪だが、ここからまた話が変わってくる。

 

「あれ、こっちにも深雪がいらぁ」

 

 そんな話をしているところに、さらに休暇中の者達、榛名友軍艦隊の朝霜と満潮に出くわした。明日で帰投ということで、目一杯遊んでから帰ろうとしているところのようである。

 

「おう、もう身体の調子は大丈夫なのか?」

「3日も休めば100%だぜ。ミッチもこの通りだ」

「割とギリギリまでしんどかったけれど、今は大丈夫よ」

 

 元気そうで何よりと喜んだものの、その前に口にした言葉が気になった。

 

「朝霜、今こっち()()深雪がと言ったかい?」

「ん? ああ、そうだぜ。あたい達、さっきも深雪を見たんだよ。つっても服装違うし、電が隣にいなかったしで、別人だってすぐにわかったけどな」

 

 そこはやはり基準点となるようである。単独行動をしないという点もあるが、電が近くにいないことも、うみどりの深雪とは別人である証拠となるようだった。

 深雪はなるほどと感じただけだが、電としては内心そんなカタチで見てもらえていることを喜んでいたりする。特異点の補助装置として生まれた自分だが、深雪とセットで、切っても切れない存在として認知されているというのは嬉しいモノだった。

 

「1人だったかい?」

「いや、2人だったな。もう1人……ああ、そうそう、ちょうどいるじゃねぇか。アレだよアレ」

 

 指を差すのはやめなさいと満潮が引っ叩いていたが、朝霜が示す方、通りの少し外れの方に、その2人はいた。

 

 

 

 

「ほらほら、他にも見て回るところはあるわよ!」

「……別にそこまで急ぐことじゃあねぇだろ」

「時間は有限なんだもの。出来ることは今やらなくちゃ!」

 

 片方は確かに深雪だった。噂に聞いていた通り、フードを目深に被り、ポケットに手を突っ込みながらフラフラと歩いているダウナー系。

 そして、もう片方はこちらも聞いていた通り、深雪よりも小柄な子供。だが、深雪よりもしっかりしているような、頼りになる雰囲気を醸し出していた。

 

 その姿には、見覚えがあった。

 

「雷ちゃん……!」

 

 それは、電の姉に当たる駆逐艦、雷である。

 




ダウナー系の深雪と、世話焼きの雷。雷が登場したことで、この話では第六駆逐隊が全員揃うことになります。
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