軍港都市内で目撃情報が出ていた、別個体の深雪。それが今、特異点の深雪の前に現れた。お互い完全に偶然であり、わざわざ探してまで会おうとしていなかったが、運がいいのか悪いのか、その時が今訪れる。
昨晩、川内が手に入れていた、別個体の深雪と共にいたという子供の正体も判明。それは、深雪を引っ張るように散策を続ける快活な艦娘、電の姉に当たる駆逐艦雷であった。
深雪達の視線を感じたか、まずは雷がそれに反応する。
「あら、なんか見られてるみたい。って、電じゃない! それに響もいるわ!」
別個体の深雪を引っ張っていた雷が、電と響の存在に気付いた途端、パンと手を叩いた後に満面の笑みで手を振ってきた。
姉妹かもしれないが、
「私、姉妹艦見るの初めてなのよね。だから、会えて嬉しいわ!」
ニッコニコで近付いてくる雷。別個体の深雪の腕を掴んだままであるため、そちらはそちらで非常に迷惑そうに引きずられていた。
コレだけでも力関係がわかるというもの。別個体の深雪は、雷に振り回されている。
「電もなのです。雷ちゃんと会うのは初めてなのです!」
以前、初めて響と顔を合わせた時は複雑な感情を抱いていた電だが、そこから大きく成長しているため、姉妹艦との邂逅に苦しむようなことはない。純粋に喜び、笑顔で対応する。
響もこんな雷を見て小さく笑顔を見せていた。カテゴリーCにとっては、姉妹艦とこうして会えるのは悪いことでは無い。
だが、こちらは姉妹艦だからこうして喜び合えるのだが、
別個体の深雪の方も少々複雑な感覚のようで、よりフードを目深に被り、表情を見せないようにしていた。持っている感情は何とも言えないモノ。
「もう、恥ずかしがってちゃダメよ。ここで会うかもしれないことは、事前に知っていたでしょ?」
そんな別個体の深雪の仕草を見て、雷は苦笑しながら少し押し出して前に立たせる。
「ここに特異点の深雪がいることは知っていたわ。だから、うちの深雪はちょっと複雑なのよね」
「……うるせぇよ」
「同じ艦娘だと、どうしてもそこは比較されちゃうんだもの。練度とか経験とかいろいろと差があるはずなのに」
有名人と同じ顔を持つ者の宿命として、比較されるというものがある。あちらの深雪はアレだけ活躍しているのに、こちらの深雪はどうなってるんだとか、悪い提督なら平気でそんなことを言うだろう。それこそ、裏切り者の提督陣、特に1つ目の鎮守府のそれは、間違いなくそういうことを言うと断言出来た。この場にはいないが、叢雲だったらそう熱弁する。
特異点の深雪は、今や全鎮守府が知っている特別中の特別だ。深海棲艦化を披露したこともあり、まともな艦娘では無いことは周知の事実。
だが、それによって少々変化したのは、各鎮守府に所属する別個体の深雪達である。特異点が世界に一人しかいないような個体であっても、同じ艦娘ならばと考えてしまう者はいないわけではない。そして妙な期待をし、それでも普通だとわかったら勝手に落胆する。別個体の深雪にとってはいい迷惑である。
「でもね、うちの司令官はそんな差別なんてしないわ。でも区別はするから、深雪には成長してほしい、特異点の深雪よりも強くなれるようにって、昨日と今日はここで遊ばせてくれてるんだもの。こういう知識も必要だものね」
「……あたしはンなこと頼んじゃいねぇよ」
「そんなこと言っちゃって。まぁ昨日はちょっといろいろあったけど、深雪だってそれなりに楽しんでるでしょ?」
そんな雷の言葉を否定はしなかった。楽しめてはいるようである。
「あー、その、なんつーか……あたしの存在が迷惑かけちまってるか?」
特異点の深雪が頭を掻きながら申し訳なさそうに問う。対する別個体の深雪は、小さく舌打ちをしたように聞こえた。
「別に迷惑ってわけじゃねぇ……確かに比較されるのは気分が悪いけどな……あたしはお前より強くなってやるんだ。お前があたしと比較される側にしてやるから、首洗って待ってろ……」
割と喧嘩腰な物言いではあるものの、特異点の深雪に引け目を感じているというわけではなく、その存在を成長のための糧として認識し、今は目標、そして乗り越えてやるという強い思いに変えていた。
それもあるからか、少々敵対心のようにも感じる思いが、そこそこ強めに特異点の深雪に刺さる。だが、深雪はその程度で折れるようなことはない。少し申し訳なさを見せたが、それで自分の存在を否定されているわけではなくて、別個体の深雪の道の先に立っているようなモノだとわかったことで、逆にもっとキチンとしておかねばと気合が入った。
「おう、わかった。なら、あたしも追い付かれないように努力を欠かさないぜ。お互い、頑張っていこう」
ニッと笑って握手を求める。その手を見て、別個体の深雪は思考が止まったかのようにピタリと動きを止める。
「ほら、握手握手! 競い合う間柄でも、今はこうして顔を合わせたんだからさ、ここでは仲良くね!」
それを雷が取り持つようにサポートし、別個体の深雪の手を取って、少々強引に握手を成立させた。
「チッ……まぁいい」
雷にそうされてしまっては、別個体の深雪も舌打ちと溜息をしながらも従うしかないようで、深雪の握手に応じる。だが、握る手は少々力が強い。競争相手に対しての敵対心が、どうしても外に溢れてしまっているように見えた。
「そうだ雷、少し聞きたいことがあるんだけどいいかな」
「あら響、私に何かあった? もしかして昨日の件かしら。なんだかピンク色な街の方に行っちゃって、そこのお店の人に子供は入っちゃダメだよって注意されたのよね。そのこと?」
先手を打たれたかのように言われたので、響はそのこともあると肯定しつつ、話を続ける。
「夜にフラフラしていたようだけれど、何故なんだい?」
あの場所にいたというよりは、その時間帯に出歩いていたことに疑問を持っていた。
昼間は別個体の深雪が単独行動をしており、夜は合流したようだがそんなところに迷い込むような行動。少々普通ではなく感じるモノである。
「あー……うん、まぁ、恥ずかしいけど、ちゃんと話しておかないと納得してもらえないわよね」
「そうだね。ただでさえ、この軍港都市は2回も戦火に巻き込まれている。妙な行動はあまり褒められたモノではないからね」
「……
恥ずかしそうに笑う雷。別個体の深雪は深い溜息を吐いた。
「私も深雪も揃って迷ってたの。最初は2人で街を回ってたんだけれど、途中で逸れちゃって……。雨も降ってきたし、私は傘を持ってたんだけど、深雪は持ってなかったから、歩き回って探してたのよ。でも、深雪も当然動いてるじゃない? それで合流が全然出来なくて」
「それで夜までかかったのかい?」
「面目ないけれどね。あ、途中で深雪の服は買ったのよ? 雨でビッショビショだったから、乾かすよりも新しいの買った方が早かったの。着てた服はちゃんと持ち帰ったわ」
「……余計なことしたな」
「あんなに濡れ鼠になってたら風邪引いちゃうかもしれないじゃない! それに、お店の人が推してくれたんだから、それに応えただけよ。似たような服だったけど、深雪にはとても似合っていたわ。お店の人、センス良いわね!」
川内が住人から聞いていた情報と合致する。慣れていなかったのにはそういう理由があったのかとひとまずは納得した。
それでもまだ夜を彷徨っていたのは、服を購入した後も宿泊施設の場所がわからず、歩いて行くうちにピンク街へと辿り着いてしまい、注意をされてことでそそくさと戻ったというところに繋がるという。
その後どうにか宿泊施設に戻ることが出来たため、事なきを得たようだが、迷子に迷子を重ねて、運良く合流出来たものの、そこから二人して迷子になるという、なかなか類を見ないようなことをしていたらしい。
「だったら警備の艦娘に道案内を頼めばよかったろうに。ここの艦娘達は、そういうところは優しいよ。たまにイカれてるのもいるけど」
「イカれてる!? ま、まぁいいわ。でも、ほら、深雪がこういう性格でしょ? だから、ちゃんと聞けなくて」
「ヒトのせいにするなよ……」
「実際そうだったじゃない。聞く前にフラフラ歩くから、聞くことも出来ずにまた迷子になりかけたんだもの!」
どうやら別個体の深雪は、違う意味でマイペースなところがあるようである。迷子になっていても、適当にフラフラ歩くような、少々危機感が足りていないタイプ。そういう意味では、雷は手綱を握るのに大分苦労していそうだった。ここまで世話焼きになるのもわからなくもない。
「あたし達もこの街を結構歩いてるけど、思った以上に広いし、変なところに入ったら迷っちまうよな。一人で歩いてたら、鎮守府に戻れるかもわからねぇよ」
「なのです。入り組んでるような場所もありますから、迷っちゃうのも仕方ないことなのです」
深雪と電も、この街の広さと迷ってしまいかねないくらいの複雑度には同意した。この休暇をなんだかんだすんなり歩いてこれたのは、割とグレカーレのおかげだったりもする。
「結局は辿り着けたんだけどね」
「なら今日も迷っている可能性があるというわけかい」
「今日は大丈夫よ! ちゃんと覚えてきた……から……」
笑顔のまま、徐々に顔色が悪くなってくる雷。まさかと思ったら、案の定。
「深雪……今これどの辺かしら」
「知らねぇよ……お前がグイグイ引っ張ってくるから、全部把握してるモンだと思ってたぞ……」
「お、覚えてきたはずなのよ? はずなんだけど……ま、まぁ、逸れてはいないからヨシとしましょ、うん!」
やけにポジティブではあるが、あまり芳しくない状況のようである。雷は笑顔ではあるものの、冷や汗が垂れてきていた。別個体の深雪は大きな溜息を吐く。
その状況を見かねた深雪は、ここで助け舟を出すことにした。笑顔ではあるものの、これは間違いなく困っていると確信出来たから。
「あー、じゃあ、あたし達と一緒に街を回るか? 帰るところまでも一緒に行ってやれるし」
一応他の者にも聞いてみると、全員が肯定。雷もそうだが、別個体の深雪がだんだん気の毒に思えてきたというのもある。引っ張られるだけ引っ張られて、迷って結局グダグダになるというのは、何度も経験したいモノではない。
そんな申し出に、別個体の深雪は言葉を詰まらせる。しかし、雷はすぐさま深雪の手を取った。
「助かるわ! どうせなら大勢で楽しみたいしね! いいでしょ?」
「……ああもう、好きにしてくれ……」
別個体の深雪もここで折れた。雷の前のめり加減には、もう何も言えないようだった。
ひょんなことから共に散策することになった件の二人。ここからまた、軍港都市での休暇は別の方向に変化していく。
支援絵をいただきましたので、紹介させていただきます。
【挿絵表示】
https://www.pixiv.net/artworks/127451545
先日2周年を迎えたということで、記念のイラストをいただきました。2周年だけに、ピース。深雪のお供と言えば、今はこの3人ですね。グレカーレが一番カメラに向かって前にいるのは解釈一致がすぎる。