後始末屋の特異点   作:緋寺

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何が平和か

 ひょんなことから共に行動することになった、別個体の深雪と相方である雷。深雪達はそれまでに調査隊の3人に加え、友軍艦隊の朝霜と満潮とも合流しているため、今は合わせて11人という大部隊となっていた。

 調査隊に神通がいるので、水雷戦隊なんて言ってもいいくらいである。深雪が2人いるというのが普通の艦隊と違うところではあるが。

 

「やっぱ賑やかに歩き回った方が楽しいよな。なぁ、ミッチ」

「そう、なのかしらね。賑やか過ぎるのもどうかと思うけど」

「そりゃあそうかもしれねぇけど、あたいはコレくらいの方がいいと思うぜ」

 

 こういう中に加わることは滅多にないという朝霜と満潮も、特異点を筆頭とした散策部隊には好印象。元々2人で回っていたところに、上手いこと知り合いと合流出来てラッキーと思っていたら、あれよあれよとこの人数である。しかも本当に初見の艦娘まで加わったと来た。

 ポジティブ、かつ人見知りを一切しないような性格の朝霜には、この空気感も楽しいモノとして認識出来る。満潮は一歩引いている雰囲気ではあるが、朝霜がしっかり引っ張っているため、何も問題はない。

 

「あたしもこんなに大人数になるなんて思ってなかったよ。というか、多分全員予想外。調査隊でも考えてなかったんじゃない?」

 

 グレカーレに振られて、はいと苦笑しながら答えたのは白雪。元々は散策をしながらも別個体の深雪について調べておきたかったのだが、その張本人と対面した挙句、迷子になっており、一緒に街を散策することになるなんて夢にも思っていなかった。

 

「まあまあ、よろしいではないですか。今のところは不穏なところもなし。あちらのお姉様は数歩引いているような空気を持っておりますが、ついてきていただけているのならば、嫌というわけではないのでしょう」

「だよね。嫌だったらイカヅチを逆に引っ張ってでも離れるだろうからさ。そうしなかったってことは、満更でもないってことだよきっと」

「……聞こえてるぞお前ら……」

 

 白雲とグレカーレの会話をしっかり耳に入れていた別個体の深雪。睨みつけるような視線ではあるが、コレは単に目付きが悪いだけのように思えた。フードを取ることもなく、雷が掴んでいないと、やはりフラフラと何処かに行ってしまいそうではあるが。

 

「で、何処に行く予定だったの?」

 

 雷に聞かれ、深雪は今回は無計画な散策だったことを話す。既に2日をこの軍港都市で過ごしているため、見たいところは大体見て回っているのだとも。

 なら行きたいところがあると雷が声を大きくする。せっかくここに来れたのだから、いろいろと見たいところがあるのだと。ついさっき時間は有限だと別個体の深雪を引っ張っていたが、そこに行きたいのだろう。

 

「じゃあ、適当に回っていくか」

「なのです! みんなで楽しんじゃいましょう」

 

 大人数での軍港都市散策が開始される。全員で楽しむため、笑顔でこの時間を過ごすため。

 

 

 

 

 雷が行きたいと言っていたのは、かなり有名な甘味処。深雪達は既に体験済みであり、朝霜と満潮はまだここには入ったことが無いということで、そこに立ち寄る。

 

「んん〜♪ これは食べに来た甲斐があったわ」

 

 満足そうに舌鼓を打つ雷。別個体の深雪も、静かに黙々と食べている様子。そこはやはり艦娘、甘味には目が無いようである。

 

「お前らも、ちょい前の裏切り者との戦いには参加してたのか?」

 

 素朴な疑問をぶつける深雪。ここで休暇を取っているということは、裏切り者鎮守府掃討戦にも参加し、そこで消耗したから来ているものではないかと予想した。

 だが、雷からの返答は別のモノだった。

 

「私達は参加出来てないのよ。ちょっと遠いところに住んでるところがあって、結局間に合わず終いって感じね」

「そうだったのか。なら仕方ないな。鎮守府もバタバタしただろうし、なんだかんだ精神的にも疲れるしで、ここに休暇に来るのはわかるぜ」

 

 あの戦いは全鎮守府参加の捕物帳だ。勿論、場所的にも参加出来なかった鎮守府はあっただろうが、最初から参加しないという意思を見せることなどせず、やろうとはしたけれど間に合わなかったというのが基本。

 うみどりやおおわし、こだかのような機敏に動ける海上鎮守府とは、どうしてもワケが違う。こればかりは仕方ないこと。

 

 それでもメンタル的な疲労は大きいだろう。仲間だと思っていた艦娘達すら敵に回っているという苦しい状況。中にはその現実を見て、精神を病んでしまった者だっていそうだ。

 この2人を見る限りでは、そこまで思い詰めてはいなそうではある。だが、それでも休暇を与えられているということは、何かしらの意味があるのだろうと感じた。

 それにはあえて触れない。触れられたくないことだってあるだろうから、向こうから言ってこない限り、聞くのは御法度。艦娘になった理由を聞くことと同じくらい重く見ている。

 

「でも、解決したみたいでよかったわ。うちの司令官も、ああいう輩は気に入らなかったみたいだし」

「そりゃあな。あたし達は直接対面してっけど、マジで最悪だったぜ。人としてどうなんだ人として」

 

 甘味を食べながらも愚痴になってしまいそうだったので、一旦その話はやめておいた。あの時のことを思い出したら、美味しいモノも不味くなりそうだと。

 先日セレスに聞いた、環境が味に影響するというのを思い出した。悪いことを思いながら食べるのはよろしくないし、店にも失礼だ。なので、あの裏切り者の提督のことは思い出さないことにした。

 

「2人で来ているのです?」

「ええ、普通ならそんなことないのかしら」

 

 雷達が非常に珍しい2人だけで来た艦娘というのに反応したか、響がその辺りを説明する。

 

「少なくとも一部隊で来ると聞いているよ。朝霜達がそれに該当するね」

「おう。うちはまぁワケありなところもあるけどな。2人っつーのはすげぇ珍しいんじゃないか?」

「そうなのね。まぁうちは規模が小さいから、纏めて来ちゃったら防衛線が崩れちゃうのよ。だから少しずつって感じよ」

 

 それを聞くと、なるほどと納得せざるを得なかった。うみどりもおおわしも、鎮守府そのものが動いてくるのだから、全艦娘が一斉に休暇に入っても何も問題が起きないが、本来は()()()()()()()()()()()()()のだから、艦娘が全員いなくなったら意味がなくなる。

 

「私達はそういう経緯ってわけよ。とはいえ、まさかあそこまで迷うとは思ってなかったけどね……」

「それはまぁ、御愁傷様」

 

 それでもフラフラしながら街を見て回れたので、迷子とはいえ有意義な時間は過ごせたそうだ。別個体の深雪の方も、街を見て回るというよりは、ただ歩いているだけでもそれなりに楽しめたとのこと。

 

 その後、雷がここに行きたいという場所を案内しつつ、大人数で楽しむこととなった。別個体の深雪は相変わらず自分の意見を言わずに雷の行きたい場所についていくのみではあるが、そこそこで出来ることをキッチリ行なっているため、楽しんでいないとは思えなかった。

 

 

 

 

 この大人数の散策は昼過ぎも続いた。雷の行きたいところの次は朝霜や満潮の行きたいところを網羅していき、満足の行く結果を得られたところで昼食へ。甘味とはまた違った有意義な食事となり、全員気持ちよく空腹を満たす。

 

 その間もいろいろと話をした。先程は雷の話を聞いていたので、今度は別個体の深雪の──と考えたものの、性格的に自分のことを話すようなタイプでは無いことを、この短時間でよく理解しているということもあり、そちらは聞かず。この軍港都市で楽しんでいる間に、あまり嫌がることはしたくない。

 

「今日は楽しめたか?」

 

 だが、これくらいならいいだろうと、深雪は別個体に話しかける。雷は誰とでも仲良くなるように他の者達と談笑しているが、別個体はやはり数歩は引いた位置にいる。

 

 消極的かつマイペース、自分の意思はまず出さない。ここまでも全て、みんなが行くところに雷が引っ張ってきただけ。別個体の意思をそのままにしておくと、誰のことも考えずにフラッと何処かに行っては、やはり迷子になって捜索する羽目になっていただろう。

 それもなく、ただ連れ回されただけではあるが、それを楽しむことが出来たかを尋ねると、別個体はジッと深雪のことを見つめた。

 

「……どうだろうな。美味いモンは食えたし、悪くないモンも見れた。雷も楽しんでたみたいだから、楽しかったんじゃあねぇか?」

 

 好感触といえば好感触。食べたモノは素直に美味しいと言えているし、連れ回された先で何か買うようなことはなかったが、つまらなそうにしているシーンも無かった。楽しそうにしているようにも見えなかったが。表情がほとんど変わらないため、その辺りがわかりにくい。

 

「……特異点」

 

 そう呼ばれるのはちょっと嫌だったが、あちらも深雪なので深雪のことを深雪と呼ぶのは難しいのだろう。こちらの深雪も別個体をどう呼ぶのが正しいのかわかっていない。だから、苦笑しつつも反応する。

 

「ん、どした?」

「……お前は、この世界が平和だと思うか」

 

 何とも哲学的な問い。深海棲艦との戦争中である時点で平和とは程遠いだろうが、今この軍港都市では戦いのことを忘れて楽しく平和な時間を過ごせている。この後に待ち構える戦いのことを考えると胃が痛くなりそうだが、それでも仲間との絆のおかげで心には平穏がある。

 

「パッと平和とは言えねぇな。少なくとも、戦いがあるってことは、誰かが嫌な目に遭ってる。そりゃあ平和とは言えないんじゃあないか?」

「……そうか。なら……どうなれば平和が来ると思う」

「今の戦いが終わること、かな。少なくとも、人間を無理矢理改造して手駒にしてるようなクソは、この世にいてもらっちゃ困る。この街はそういう輩に一度滅茶苦茶にされてっからな……それを見てるから、尚更気に入らねぇよ今の敵は」

 

 これはノータイムで答えた。今の敵は間違いなく阿手。出洲以上の嫌悪感を持つに至った敵は、すぐにでも終わらせたいと思えるほど。

 阿手の存在は、明らかに平和を乱す存在だ。それこそ、出洲はまだ独自の理論で平和を目指してはいるが、阿手のやっていることは平和も何も無い。ただ自分の欲を満たすためだけに全ての生物を実験台としているような、倫理的にも受け付けられない悪だ。

 

「……あたしも、今の奴らはダメだ。やってることはただの遊びだ。やりたいことをただやるだけだなんて、ガキのすることだ」

「だよな。誰も頼んでないのに、勝手な考え押し付けてくる時点でダメだ」

「……だが」

 

 別個体の深雪は、冷たい目をする。

 

「お前の目指している平和は、本当に平和なのか?」

 

 この言葉だけは、妙に力がこもっていた。

 

「どういう意味だよ」

「あたしには……何が平和がわかんねぇ。特異点の考えている平和の平和なのかがわからねぇ。少なくとも……今ぶちのめそうとしてるヤツはダメだ。平和のカケラも考えてねぇよ。ただ……だからといって何が正しいのかわからねぇんだ」

 

 この別個体の深雪、かなり複雑な感情を持ってしまっているようだ。深雪にはそれが、この深海戦争の中で、手を取り合わねばならない人間同士が争っていることに対しての苦悩であると感じ取った。

 故に、深雪も少し答えが曖昧になる。

 

「正直、あたしにも今自分の目指してるところが、絶対に正しいとは言い切れねぇな。でも、今自分の道を阻む奴をどうにかしないと、目指しているところにすら行けねぇよ。だからあたしは戦う。それがあたしは、うみどりにあると信じてる」

 

 後始末屋の信念は、深雪の心構えに大きく影響を与えていた。戦いが起こらないように戦場の片付けを買って出る。救いを求める者がいるのならば、必ず手を差し伸べる。誰かを傷つける者は許さない。みんなで楽しく、笑い合いながら生きていきたい。それが根幹に宿っている。

 

「……そうか。わかった」

 

 別個体からの問いはコレで終わった。意味深だが、この問答が悩みを解決してくれるなら嬉しいと、深雪は素直に話した。

 

 

 

 

 この後も大人数での散策は続く。だが、別個体の深雪の表情はあまり変化が無かった。心の内はわからないが。

 




別個体の深雪は、何処か思い詰めているような雰囲気はあります。だから笑顔を見せない。心ここに在らずという感じ。
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