昼過ぎも散策は続き、全員が満足が行くまで回り終えた時には、もうそろそろ日が暮れ始めようとするくらいの時間。深雪達は伊豆提督の体調などもあり、まだ休暇は完全に終わったわけではないのだが、一部の者は今日が最後の休暇日。明日には自身の本来の居場所に戻ることになる。
「いやぁ、遊んだ遊んだ! ここまで堪能するのは久しぶりな感じだねぇ」
「本当にね。それまでが大変過ぎたもの」
「それを言っちゃあいけねぇぜミッチ!」
丸一日遊んだようなモノなので、朝霜は非常にテンションが高い。相方の満潮も、これまでの苦しみを考えると、これくらいのことがあってもバチは当たらないと楽しめた様子。
朝霜はゲームセンターで身体を動かす系のゲームをクリアしていた。満潮は本屋などで買い物を楽しんだようである。
「私も今回はホクホクです。古物商はいつも何かしら違うモノが置いてあったりするので、少し買っちゃいました」
「また白雪のコレクションが増えたみたいだね。部屋に置けるかい?」
「小物ですから、まだまだスペースは空いていますよ」
歴史を感じさせるモノを集めるのが趣味である白雪も、今回の散策では少し違う場所にある古物商を見つけ、そこで部屋に飾れるくらいの年代物のアイテムを購入していた。響はその趣味のことを事細かく知っているので、そんな白雪のコレクションを微笑ましく眺めている。昔は犬猿の仲だったという話が信じられないくらい。
「本当にありがとうね、みんな。やっぱりここまで連れてきてもらわないと、また迷ってたかも」
雷が苦笑しながら頭を掻く。今は、雷と別個体の深雪が宿泊しているホテルの前。とんでもなく豪華な……というわけではなく、非常に一般的なお手頃サイズの場所。リーズナブルで、一般的な市民が使用することもあるチェーンホテル。
艦娘もこういうところに宿泊するのかという深雪の疑問には、朝霜と満潮からむしろそっちの方が多いと答えられた。軍港鎮守府で宿泊出来るのは、余程のVIPか、緊急事態の場合、もしくはうみどりやおおわしのような補給も兼ねている移動鎮守府くらい。うみどりなんて、アポ無しで突撃しても滞在出来るくらいのお得意様なのだから、海で生まれうみどりしか知らない深雪に、その感覚が無いのは仕方ないことだとフォローも入った。
雷と別個体の深雪なら、少数ということもあって、こういったお手頃の宿泊施設を使う方がむしろ気が張ることもなくて楽である。
「私も深雪も、この方向音痴はどうにかしなくちゃね」
「……戦場ではこうはならないからいいだろ」
「ダメよそれじゃあ。戦いばかりじゃないんだから」
相変わらずの別個体の深雪だが、雷がすかさずツッコミを入れた。
「それじゃあ、私達はここで。また会える日が来ると思うわ」
「おう、またな」
「また会いましょう、雷ちゃん」
「ええ」
笑顔で手を振り、別個体の深雪を引っ張ってホテルへと入って行った。ここでフラフラ歩いて行かれたら、ここまで連れてきてもらったのも水の泡になってしまう。もう泊まって眠って翌日に帰るだけなのだから、迷子だけは勘弁してくれと、周りも思っていた。
「それじゃあ……あたし達も帰るか。今から鎮守府に行きゃ、日が暮れるまでには着くだろ」
「そんなもんかな。道草食わなければだいじょーぶだね。アサシモ辺りが不安かな?」
「おいおい、信用無ぇじゃねぇか。真っ直ぐ帰ることくらい、あたいにも出来るぜ?」
などと言いながら、帰り道に目につくモノに気を取られていることを満潮に何度もツッコまれることになるのは、この時からおおよそ予想がつけられていた。
一日共に過ごしたことで、その性質は皆が把握していたのだ。相方の満潮は、深く溜息を吐くのだった。
鎮守府に戻ると、いつものように伊豆提督が待っていた。これはもう習慣みたいなもので、全員が鎮守府に戻ってくるのをしっかりカウントしておかなければ落ち着かなくなっている。
「ただいまー。なんだかんだでもう暗くなってきてんなぁ」
「お帰りなさい。今日も楽しんでこれたみたいね」
途中で調査隊や友軍と合流しているため、大所帯になっている深雪御一行様に、伊豆提督は少しだけ驚きつつも、今日も休めたことを心から喜んでくれていた。
その伊豆提督も、今は車椅子ではなく杖で立って待っている。念のため車椅子は用意されているが、治療はかなり順調であることがわかる。本人があと少しと言っていただけあった。妖精さん治療はとても効果的なようだ。
「そろそろ身体が鈍ってきた気がするから、演習とかしたいかもだけど」
「そうねぇ。アタシも大分治ってきたし、勘を取り戻すためにも、明日から訓練の日程を入れてみましょうか。トシちゃんなら二つ返事で許可を出してくれるわ。あちらもやりたいことはあるでしょうし」
「助かるぜ。それに、おおわしもまだいてくれるんだよな。なら、そっちともやらせてほしいな」
「マークちゃんもそう言ってきてるから大丈夫よ。あと神通ちゃん、ちょっと漏れてるからね」
伊豆提督に言われて、あらと苦笑する神通。
「神通さんはそういうの大好きなんだ。深雪、あの人の前で訓練したいは失言だよ」
「別にいいじゃん。鍛えてもらえるなら問題無ぇって」
「なら堪能するといいよ」
響がそこまで言うくらいなのだが、深雪がその奥にある意味に気付くのは明日以降であった。
「あ、そうそう、噂になってた別個体のミユキに会ったよ」
そのグレカーレの言葉に、伊豆提督の雰囲気が少しだけ変わる。
「……そう、どんな子だった?」
「んー、なんていうか、ダウナー系? クールって言っていいかもわかんないけど、いっつも少し後ろ向きでねぇ。睨んでくるようなことはないけど、関わり合いを持とうとしてこないって感じかな」
むしろそのまま今日一日を一緒に遊んでいたこと、そして宿泊施設まで送り届けたことまで話す。
昨日街中を彷徨い歩いていた理由も、一緒にいた雷ともども完全に迷子になってしまっており、そのうえ別個体の深雪がマイペースにフラフラ歩いていくようなタイプのせいで誰かに道を聞くことも出来ず、目を離した隙にまた迷子になるという大惨事があったため、夜までかかって合流したと聞いたことを話す。
「なるほどねぇ……この街が初めてなら、迷子になるのも無理はないかもしれないけれど」
「何か気になるところが?」
伊豆提督の仕草に疑問を持った白雲が問うと、その別個体の深雪について調べている軍港鎮守府側の情報を話し出す。
「いや、ね。トシちゃんとちゃんと調べたのよ。入港名簿」
「密入国じゃないことを調べるため、でしょうか」
「ええ。やっぱり街の中を1人で彷徨い歩いてるっていうのと、夜にフラフラしているっていうのは、どうしても不審者に思えちゃうもの。疑うのも軍港鎮守府の提督としては普通のことよ」
その結果は、ちゃんと名簿には登録されていたということ。深雪と雷という艦娘の名で。
艦娘ということは、何処かの鎮守府に所属しているということになるため、そちらの方も調べたところ、そこから不思議なことがわかった。
「その子達が書いた鎮守府ね……当然登録出来たということは存在もしてるわ。それに、連絡も取れたみたい。深雪ちゃんと雷ちゃんが軍港都市に宿泊するという届けも出てる。出てるんだけれど……」
「何か、おかしなところが?」
「当たり前だけれど、その鎮守府は鎮守府として運営されているわ。
その鎮守府の襟帆提督というのは、伊豆提督よりも歳上、お婆ちゃんとは言わないが、五十路に近いくらいの年齢だけで言えばベテランに近い者。
しかし、階級だけで言うならばそこまで高くない。腕が立つというわけではなく、だからといって何も出来ていないわけではない。そこそこある
そのせいか、経歴なども少々謎が多く、現在は調査隊、基本的には昼目提督がその素性について当たっているところ。
「まぁ鎮守府から来たということで悪い素性ではないし、あの時に阿手の生徒ではないことも判明しているけれど……用心するに越したことはないわ。アレだけで本当に全員が洗い出せたわけではないかもしれないもの」
「疑うのは仕方ないよねぇ。これまでそんなことばっかりだったしさ。あたしだってぶっちゃけ人間に愛想尽きてるところはあるから、信用出来る人間以外はあんまり信用してないし」
グレカーレは軽く言うが、第二次からの艦娘の感性を如実に表していると言える。あまりそういうところを知らない朝霜や満潮は、グレカーレのそんな物言いに少し驚いていた。
「ともかく、そっちのことはこっちで調べておくわ。別個体の子と仲良くすることは悪いことじゃあないもの。楽しめたなら尚更よ」
「ミユキの方はともかく、イカヅチは賑やかな子だったからねぇ。一緒にいて楽しかったよ。あわよくばくんずほぐれつしたいところ」
「やめなさい。他所の子には特にしちゃダメよ」
伊豆提督のツッコミも入り、ここでの立ち話もどうかということで、そのまま鎮守府に戻ることとなった。誰も何もない、ただ遊んだだけの1日も4日目。心の癒しは充分すぎるほど出来たと言えるだろう。
「深雪、特異点の方と何か話してたわよね」
別個体の深雪と雷が宿泊しているホテル。無事に戻ってこれたことを安堵しつつ、散策中のことを聞いた雷。
別にそれを問題視しているわけでもないし、どんなことを話したのかが気になっているだけだと付け加えて笑う。
「……ああ、アイツに、アイツの持つ考え方を聞いた。軽く、だけどな」
「へぇ、どんなこと言ってたの?」
「アイツ自身……自分が目指してる平和が正しいとは言い切れないんだとよ」
窓際に座り、外を眺めながらボーッとしている別個体の深雪。雷はそんな深雪を後ろから抱き締める。
「同じ深雪でも、考え方はいろいろあるわ。平和にもいろいろある。貴女は貴女の道を行けばいいの。大丈夫、私がついてるんだから。それが相入れない道であっても、私はずっと、貴女の隣に立っていてあげるから、安心して」
そんな雷の言葉を聞き、別個体の深雪はその手に自分の手を添えた。
「……ああ、アイツにはまだ迷いがあるってことだ。あたしには迷いはない。あたし達の望む平和は──」
「大丈夫よ。不安なんてない。だって貴女は、私にとってはただ一人の深雪だもの。そもそも比べちゃダメよ」
「……そうだな、悪い」
別個体の深雪は、雷にだけは笑みを見せていた。
まだ謎の多い別個体の深雪。考え方は特異点の深雪とは違いそうである。その道が交わるかどうかは、まだわからない。
襟帆提督という名前が出てきました。その鎮守府は、ゲームで表すのならランカーにはあまらならず、イベント海域はちゃんとこなして、でも甲は難しいかなみたいなところになりますかね。