後始末屋の特異点   作:緋寺

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熱を得て

 休暇4日目も終盤。夕食も終えて、風呂も入り、あとはもう眠るだけというくらいの時間帯。

 その日の深雪添い寝権のジャンケンも終わり、白雲が渾身のガッツポーズを見せる中、一行はこんな夜でも工廠に向かう者の姿を見かけた。ここからさらに作業するために、夜食を調達した冬月と涼月である。

 セレスもこの2人の性質を把握しており、間宮や伊良湖から()()()()()()をすると事前に聞いているため、ちゃんと申請を受けたことで、いろいろと作ってもらっていたようだ。

 

「ありゃあ司令達に許可取ってんのかな」

「無許可でしょ、あのイカれコンビ。あたし達がここに泊めてもらってる間に、まともに寝てる姿見たことないでしょ」

「……確かに。艦娘だっつっても、寝ないで作業し続けてたら流石にぶっ倒れちまうよな」

 

 そういう点から、工廠の様子が少し気になった深雪達は、寝る前に一度様子を見に行くことにした。夜食を持っていったにしろ、今回が3徹4徹と続いているようならば看過出来ない。

 保前提督もそういうところを危惧して管理しているのだが、如何せんフリーダム過ぎるため、何度言ってもその研究を止めようとしなかった。

 

「電達が外に出ている間に仮眠を取っているかもしれないのです。川内さんみたいに」

「あのお方は夜を基本とする警邏の者。そもそも我々とは生活の時間が違うようですからね」

 

 川内は今動き出しているくらいの昼夜逆転生活をしている。夜の警備を専門にしているため、余程のことが無い限り、昼は寝ているのが常。それに関しては、保前提督もそのように管理しているのでヨシ。昼に作業して夜に寝ろと命じている冬涼とは理由が違う。

 ともかく、工廠が今どうなっているかは気になるところではあった。

 

 

 

 

 

 そんなことを話しながら工廠に到着したところ、今日で休暇が最後になる榛名友軍艦隊一同が、今日を遊び歩いた分、最後に艤装のチェックをしていた。明日は海からの帰投のようで、朝イチからしっかり回すことになっているため、不具合が無いかを確認するのは当然のこと。

 冬涼ではなく明石がそこでどういった調整をしたかを説明しつつ、万全、むしろそれ以上の整備を施したことを見てもらっていた。

 

 やはり第二世代の純粋種、かつ現在は特機を使ったカテゴリーWである明石の整備は、並のモノではないようで、確認する者達は各々が感嘆の息を漏らす程。しかも艦種を問わない完璧な整備であるため、中には息だけでなく言葉で示す者もいる。

 

「すげぇなコレ……前より動くようになってる気がすんだけど」

「ええ……フィードバックの速度が上がってるみたい」

 

 それが朝霜と村雨。装備して動かすだけでもその差がわかるようで、自分の鎮守府の工作艦と比べても、腕が異常に高いと驚いていた。

 

 一般的に、工作艦に差は殆ど無い。軍港鎮守府は定係工作艦である本来防空駆逐艦である2人が整備を担当しているが、それでも基本は妖精さんの手で実施されることもあり、最終地点は割と一定。勿論、使用者の練度によって変わる部分もあり、その調整が差になるというところはある。

 だが、第二世代の純粋種である明石は、妖精さんと同じくらいの精度で弄ることが出来るため、単純に作業効率と精度が従来より上がっている。それが、こういうカタチで如実に現れているのだ。

 

「故障までは行きませんが、少しでも劣化が見えるところは総とっかえしてます。新品同様とは言いませんけど、それくらいになるまでやっておきましたから、帰投中に襲撃を受けたとしても大丈夫ですよ。取り回しも少し改善しています」

「ありがとうございます。うちの鎮守府の明石さんが見たら、さぞ驚くことでしょう」

「第三世代の私ですか。ここにはいないので顔を合わせたことはありませんが、余裕があれば話してみたいモノですね。整備の仕方とか、私は少し古いかもしれませんが、情報共有は大事でしょうし」

「そうしてもらえると喜びそうです」

 

 他の鎮守府との繋がりを、こういうカタチで持つのも悪いことではない。今は通信自体が危険かもしれないというところはあるが、工廠間でネットワークを拡げられれば、今後の戦いにも大きく活かすことが出来るだろう。そのメインはこの第二世代の明石になりそうではあるが。

 

 そんな話をしている者達の中に、冬月と涼月の姿は見えない。おそらく、先程運んでいた夜食を工廠の奥に持っていっているのだと考えられる。今日も徹夜する気満々であることが、考えずともわかってしまう。

 

「うーっす、明石さん」

「あら、どうしました? 見たところお風呂上がりですよね。綺麗な身体で工廠なんて、またお風呂に入り直すことになりかねませんよ」

「冬月と涼月が飯持ってくところ見かけちゃってさ、あいつらまた徹夜すんのかなって気になって」

 

 ああ、と苦笑する明石。ここ四日間でかなり親密な関係となっているだけあり、あのコンビの性質は深雪達よりは大分深く把握している。

 

「徹夜はさせていませんが、大分遅くまで作業はしていますね」

「あれ、そうなんだ」

「私が作業効率の低下っぷりをしっかり教えました。数値にして、見てわかるくらいにまでプレゼンしたので、仮眠でも取るようになってくれましたよ。私が見てないところでは何してるかわかりませんけど」

 

 これだけ腕が立つ本家工作艦が、こうした方がいいと伝えることだ。定係工作艦はなるほどと納得はしていた。睡眠が良質な研究成果を作る、行き詰まった時の睡眠は思考の整理を助けてくれる、などなど、明石の実体験も踏まえて伝えれば、それなりに理解はしてくれた。

 そのため、今日は日を跨いだ後くらいには眠る予定であるらしい。他に何も無ければ、だが。明石もこの件が終われば休むつもりのようである。明石とて今はうみどりの一員、他の者と同様に休暇中なのだから。

 

「まぁ……アレのことはもっと突き詰めて調べたいのはわかりますがね」

「ああ……アレな」

 

 明石の視線が向かう先にあるのは、現在も映像と音源で教育中である艤装人間である。

 視覚と聴覚への刺激を与え始めて、そろそろ丸二日となる。冬月と涼月としては、三日やってダメならもう有効ではないとして切り上げるつもりらしい。

 

 それを意識して、深雪は煙幕が出ないように意識を始めた。無意識のうちに漏れ出て、研究成果を台無しにするのはよろしくない。調査隊から指摘されたことは、ちゃんと守る。

 

「身体がよく動くようになっているので、効果が無いわけでは無さそうなんですよね」

「そうなのか。時間がかかるだけってことかもしれないんだな」

「はい。なので、こういうのは地道に続けていく方が良さそうです。とはいえ三日が限度でしょうけどね」

 

 明日もぶっ通しでやって、それでもダメそうなら一回やめるという判断は、明石からしてもそれくらいが限界かと感じる時間。実はそれ以上やっていたら成功していたということもあり得るが、それを許容すると、一生そのままにしておかねばならなくなる。

 見せている映像、聞かせている音がよろしくない可能性だってあるのだから、多種多様の可能性を模索するためには、何処かで切り上げなくてはならないだろう。同じことばかりし続けても、研究は停滞するだけである。

 

「さて、整備の方も終わりましたし、私もそろそろ休みましょうかね。ボスにアレだけ口煩く言ってますから、それを私が違えてはいけません」

「そうですよ。私はやりたくてもやれないんですから、明石さんだけ美味しい思いをするのはズルイです」

 

 急に聞こえたその声に、深雪達は悲鳴を上げそうになった。4人で工廠に訪れて、明石と話していただけなのに、いきなり増えていた6人目。丹陽の神出鬼没っぷりを久しぶりに体感したことで、心臓が止まるのではと思えるほどの驚き。

 

「び、ビックリさせんなよ丹陽!」

「いつからいたのです!?」

「ついさっきですよ。明石さんと艤装人間のことを話している時くらいですね」

 

 ニコニコの丹陽。明石ですらいつの間に工廠に入ってきたんだと驚いたくらい。艤装をチェックしていた艦娘達も、知らない間にそこにいた丹陽に驚くどころか唖然としていた。

 

「明石さんがなかなか戻ってきませんでしたからね。カテゴリーWになったことも相まって、何か楽しいことをしているのではないかと勘繰ってここまで迎えに来ましたが」

「何もしてませんよ。工作艦としてやれることをやっていただけです。あとはまぁ、アレのことを少々」

「なるほど、コレですか」

 

 徐に艤装人間の方へと近付く丹陽。それを眺めて、少々複雑な表情を見せる。

 

「深海棲艦とはいえ、コレもまた犠牲者なんですよね」

「あたしはそう思ってるぜ? 勝手に生み出されて、好きに弄られて」

「本当にやりたい放題なんですね」

 

 阿手絡みになると、どうしても感情を抑えることが出来なくなる丹陽。実の姉が犠牲になっていることから、深い深い憎しみを胸に秘めており、その犠牲者には強めに同情してしまう。それが深海棲艦相手であっても。

 

「意思を持ち、私達に協力してくれるのなら、仲良くしたいですね。うみどりではなく軍港に所属することになりそうですが」

「だな。それこそ、セレスとかムーサとかみたいになってくれりゃいいんだけど」

「この方達はイロハ級みたいですし、どちらかと言えばあのル級さんみたいになるんじゃないですかね。話せないのは残念ですけれど」

 

 眺めながら話していると、時折小さく動く。刺激に対して身体が反応しているということに他ならない。

 

「でもなんだか、上手く行きそうな気がするんですよね、コレ」

「そうなのか?」

「はい。これもまた洗脳教育みたいで嫌なんですけど」

 

 洗脳教育は丹陽が最も憎むところ。とはいえ、改善のためならばそれを否定することは今のところしない。ここから冬月と涼月がどういう考えを起こすかで態度を変えようとは思っているようだが。

 

「本当に意味がないなら、身体がこんな感じに反応することはないと思いますから。それに、少しですけど身体が熱を持っているように思えます」

 

 言いながら榛名顔の艤装人間の肌に触れる丹陽は、うんやっぱりと頷いた。人肌のように温かくなっていると。

 

「刺激を与え続けられたことで、身体に熱を持ってきています」

「最初は深海棲艦らしく冷たかったんです。言い方は悪いですが、死体のように」

 

 その話に明石も参加。そして、グレカーレもその話に覚えがあった。

 

「そうだそうだ。あたし、これのおっぱい揉んだんだけど」

「何してるんですか貴女は」

「まあまあ、その時はさ、なんかマネキンみたいなイメージがあったんだよね。柔らかいより硬いが先に来るし、艤装だからやっぱり冷たいしで、生きてる感しなかったんだよね。あ、でも生身のところからは脈を感じたんだ」

「それが今は、温かくなっています。いい影響は与えられていますよ」

 

 

 

 

 そして、その結果を知ることになるのは、そう遠くない話である。

 




深海棲艦って冷たいイメージがあるんですよね。血は流れているけれど、熱を持つイメージではない。でも、艤装人間達は熱を持ち始めた。ということは、もうまともな深海棲艦ではないということにも。
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