後始末屋の特異点   作:緋寺

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目醒めるモノ

 翌朝、うみどり休暇5日目。深雪の添い寝によってニッコニコの白雲と、電の添い寝によってニッコニコのグレカーレ、そしてこの程度ではもう何も動じなくなった深雪と電は、さらっと着替えて朝食に向かう。

 今日からは遊び歩くのを控えて、そろそろ戦場に戻る準備をするために、演習やトレーニングを開始する。そのため、着替えたのも制服である。

 

「神通さんがやる気満々だって聞いてるんだよなぁ。どんな感じになるんだろうな」

「厳しい訓練になるかもしれないのです。気を引き締めて、覚悟して行くのです」

「だよな。これまで弛んでた分、今日からはグッと気合入れていこうぜ」

 

 ハードな訓練が来たところで、心が折れるようなことはない。これまでもいろいろとやってきたのだから、どんなことが待ち構えていても乗り越えられる。一人ならまだしも、仲間達もいるのだ。

 

「この後はついにあの島に行くことになるかもだもんねぇ。あたしもアレが使った忌雷には因縁あるし、やれる限りやったろうじゃん」

「はい、この白雲も彼奴等は到底許せる存在ではございませぬ。この世に生を受けたことを後悔するほどに、完膚無きまでに始末してやらねば」

「シラクモ、呪い出てる出てる」

 

 グレカーレと白雲も、阿手に対しては多かれ少なかれ恨みがある。次の戦いは、それを晴らすチャンスでもある。ならば、例え苦しい訓練であろうと自ら進んで受けに行くだろう。確実に勝利するために。

 

「ま、何をやるにしても腹拵えは必要だよな。食い過ぎはやべぇかもしれねぇけど」

「食べ過ぎたら動けなくなっちゃうのです。程よく、でも力をつける感じで」

「セレス様ならば、その辺りも配慮してくださるでしょう。まこと、食の探究家は素晴らしくも恐ろしい」

「ここのマミヤとイラコも、腕上げたらしいよ。凄いよねセレス」

 

 そんなことを話している間に、食堂付近に到着。既に美味しそうな匂いが漂ってきており、空腹感が刺激される。

 そんな食堂の前に人影が。

 

「あれ、榛名さんじゃん。今日で休暇終わりだし、最後にここで飯食ってから出ていくってことだよな」

「でも、お一人なのです?」

 

 そこにいたのは榛名。しかし、本来なら他の友軍艦隊の者達も一緒にいてもいいはずなのに、そこにいるのは榛名だけ。しかも、帰投するのならば制服姿であるはずなのに、何やら着ているのはそれではなく、どちらかと言えば寝間着のような浴衣。しかし、腕や脚にはそれには合わない機械的な意匠が見て取れた。

 

「アレってもしかして……いや、もしかしなくてもハルナじゃないよ」

「そもそも髪の色が違います。それに、肌の色も」

 

 つまり、そこに立っていた榛名は──

 

「まさか」

 

 振り向いた()()は、深雪達の姿を見ると、笑顔でお辞儀してきた。非常に礼儀正しい、深々としたお辞儀。だが、どう見てもそれは──

 

「艤装人間!?」

 

 つい昨晩まで処置を受け続けていた艤装人間の1体、榛名顔の個体だった。

 

 

 

 

 食堂は食事をする場所ではあるが、今は別の理由で少々騒がしかった。艤装人間が動き出し、自らの意思でここまで移動し、艦娘達に恭しく頭を下げていたからである。

 出入り口で屯するのはよろしくないので、一旦足を止めずに中に入れと保前提督が命じる。そして、この処置を施した定係工作艦をすぐにでも呼びつけた。

 今では榛名顔の艤装人間は食堂の隅に配置され、遠巻きに眺められていることで落ち着いている。当人は穏やかな笑みを称えたまま。

 

「あー、つまり、お前らの実験は見事に成功したということか」

「うむ。時間はかかったが、視覚と聴覚への刺激が有効であることの証明となった」

 

 保前提督に問われたため、嘘偽りなく全てを話す冬月。この成果にはドヤ顔と同時に上手くいってよかったと安堵の表情も見え隠れ。

 

「彼女らが自らの意思で動き出したのは今朝だ。おおよそ総員起こしと同時というくらいだったな」

「はい。私達が仮眠を終えた後くらいですので」

「仮眠てお前、また徹夜しようとしたのか」

「してないしてない。明石に諭されて、作業効率のために睡眠を挟むようにしたんだ。だから、あの時はちゃんと寝ていた」

 

 とは言っても眠っていたのは2時間ほどであることは語らない。嘘はつかずとも、隠し事はする。

 

「動き出したと言っても、自分でゴーグルとヘッドフォンを外して、周囲を見回していたところに出会したというくらいだった。そこで我々が話しかけたら、とても穏やかに受け答えをしてくれてな。無論、言葉は介してはいないが」

「ある意味、()()()()()()()と見てもよろしいかと。こちらの言葉は理解してもらえるようなので」

 

 曰く、映像と音声を聞かせ続けた時間は約50時間。延々と頭に刺激を与え続けたことで今に至る。

 昨晩、丹陽が触れた時に肌が温かいと話していたが、実はそれが目覚めの前兆だった。明石達はそう触れることは無かったのだが、あの身体の熱は、昨晩になって発せられたモノだったりする。冬涼もそれを聞いたことで少し注意深く観察を始めようとしていたところだった。

 

 涼月が妖精さんと同じと語るのは、その言語について。あちらも直接話すことは出来ないが、こちらの言葉は理解し、身振り手振りでの意思疎通が可能であるということ。

 そういうところは、うみどりでも非常にわかりやすい例がある。

 

「ル級さん、やっぱり何か感じるモノあるかもですか?」

 

 それが、ムーサと共にうみどりの一員となっている副官ル級。こちらもイロハ級であるため話すことは出来ないのだが、意思疎通は可能。伝えたいことはジェスチャーを使う。高波はそれをすぐに判断出来るくらいまで慣れていた。

 姿形は艦娘に近いモノであれど、雰囲気はイロハ級。ル級には榛名顔の艤装人間が同胞であると認識出来る何かがあるようである。興味があるようで、高波と共にいながらも、チラチラと意識をあちらに向けていた。

 

「生マレ方ハ違ウケド、自分ト近イナッテ察シテルミタイダネェ。私トシテハ、セレス様ニ近イノカナッテ思ウケド」

「私モヨ。アノ子、()()()()ガ貰エタンデショウネ」

 

 姫であるムーサやセレスからしたら、艤装人間には序列的なモノを感じ取れた。そして、境遇がかなり近いセレスには、自分と同じ匂いまで感じられるほど。

 空っぽの状態から刺激を得られたことで、それに準ずる思考と思想を手に入れることが出来た。セレスは最初に得られた刺激が食だったため、今のような探究者となっているが、榛名顔の艤装人間は見せられていた映像と音声が自然のモノ。この世界に無くてはならない大自然の刺激を常に受け続けたことで、今の穏やかな性格が形作られていた。

 

「榛名は……うん、榛名はこれなら大丈夫です。榛名の顔で悪事を働くようなことも無いでしょうし」

 

 顔を使われた榛名本人は、艤装人間に近付いて、小さくお辞儀。対する艤装人間は、相手が自分の顔と同じと気付いたか、深海棲艦とは思えないくらいなパーッと明るい笑みを浮かべると、恭しくお辞儀をして、握手を求めた。

 

「とても明るい方なのですね。帰投前に見ることが出来て本当に良かったです。これでまた事件を起こすかもと不安が残っていたら、正直気が気で無かったですから」

 

 その手を握り返して、笑顔で応対。ここまで穏やかに、敵意などが全く感じられないのならば、深海棲艦が素体となっていたとしても受け入れることが出来た。

 

「おそらくだが、長い時間刺激を与え続けたことで、脳が活性化され続けたんだと考えている。頭を使い続ければ、身体も熱を帯びることになるだろうさ。それが限界にまで達するのにアレだけの時間がかかったんだろう。おそらく映像による差は無い」

 

 深海棲艦とて、身体の構造自体は生物として人間や艦娘と同じモノ。後始末屋が最も理解しているが、内臓から脳まで、作り自体は全く同じと見て差し支え無い。

 脳があるということは、五感からの刺激を受けとることが出来るいうことに他ならない。今回の刺激は、脳をしっかりと動かし続けたことによる成果だと判断した。

 

「そうなると、うみどりのセレス嬢の覚醒には疑問が残るモノではあるが、まぁあちらには例外中の例外である深雪(特異点)がいるからな。正直何が起きてもおかしくはないことだ。私達が出来ることを、その力で超加速させたと考えてもいいかもしれない。そこの追求は今はやめておこう」

「今はこの方法で意思を持たせることが出来るということが重要ですからね。残りの艤装人間の方々にも同じ処置をしておこうかと思います。それでよろしかったですか?」

「ああ、そうしておいてくれ。既に意思を持った艤装人間は、俺達の鎮守府の所属として元帥に伝えておく」

 

 これにより、艤装人間の処遇は確定。意思を持たせた後、新たな仲間として軍港鎮守府が引き取り、新たな仲間とすることとなる。

 見た目は深海棲艦かもしれないが、うまく見た目を変えてやれば、軍港都市の警備や雑用なども不可能ではないだろう。

 

「……ところで、だ。榛名の顔をした艤装人間がここまで穏やかになったのはわかった。なら、残りの2人はどうなった」

 

 そんな保前提督の言葉に大きく反応したのは、顔を使われていた蒼龍とヘイウッドである。それがわからなければ、帰投することもままならない。

 

「それは見てもらった方が早いな。明石が主任やイリスの力も借りつつ、()()()()()服装を用意してくれている。特に蒼龍顔の方は……まぁ見せた映像が映像だからな」

「ちょっとちょっと!? 何か酷いことになってないよね!?」

 

 声を荒げる蒼龍を余所に、冬涼が食堂から顔を出すと、ちょうどいい感じにその2人がこちらにやってきているようであった。

 

「いいタイミングだ。榛名顔は正直どうするか迷うレベルだったが、残りの2人はわかりやすかったから、すぐに決まった。ではご覧いただこう!」

 

 まず食堂に入ってきたのはヘイウッド顔の艤装人間。見せられていたのは恋愛ドラマであるため、本来のヘイウッドよりもかなり少女らしい性格に仕上がっていた。

 着せられている服も非常に落ち着いており、しかしどうしても目立つ艤装部分をしっかり隠すため、袖やスカートは長めのモノ。その上でインナーなどで肌を見せないように配慮している。

 

「Wow……very cute. これなら私、受け入れられそうです」

 

 ヘイウッドもこれには安心した。ヘイウッド顔の艤装人間がスカートを摘んだ挨拶、カーテシーをさらりとこなすと、その礼儀正しさも絶賛。

 

 それを見せられてからの蒼龍である。特撮ヒーローを見せ続けられていたことを考えると、それの影響を受けているということは、相応の姿を希望しかねない。

 

「まともで、少しはまともでお願いします……全身タイツとかレオタードとかだけは勘弁してください……」

 

 縋るように願う蒼龍。そして現れた蒼龍顔の艤装人間はと言えば、

 

「お、おお……なるほどそう来たか……」

 

 ライダージャケットを着こなすパンツスタイルで、可愛いよりはカッコいいを前面に出してきているのがよくわかる。

 特撮を見せられていたことで、思考と思想が少し少年に近くなっているが、身体が身体だけあり、そこはイリスが完璧にコーディネートしていた。

 

「これならオッケー、かな、うん」

 

 蒼龍もこれなら安心して帰投出来ると安堵の息を漏らした。

 

「榛名顔は今はこうだが、和服を用意しようかというのがイリスの考えだ。私もそれでいいと思う。普段も巫女服のようなものだし」

「はい、榛名もそれで大丈夫です。本当に、本当に安心しました。処置中のあの姿を考えると、どうしても不安で不安で」

「私としてはもう少し深海らしさを出してもいいと思うんだが」

「大丈夫じゃありません!」

 

 食堂は笑いに包まれた。ともかく、艤装人間達への処置が成功したのは非常に喜ばしいこと。無益な殺生の必要もなく、共存の道が取れるようになったのだから。

 

 

 

 

 艤装人間の件はこれで目処がついた。不安要素はさらに取り払われ、次の戦いへの準備が始まる。

 




だが忘れてはいけない。特撮ヒーローというのは、変身前の私服と、変身後のバトルスーツがあることを。今は変身前だからこの姿だけれど、もし変身するようなことがあったなら……?
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