艤装人間3人の処置が成功に終わったことをギリギリで見ることが出来た榛名達友軍艦隊の者達は、これにて帰投となる。陸路ではなく海路を使っての帰投となるので、一同は工廠へ。
「休息の時間をいただき、ありがとうございました」
「あのまま帰れという方が間違っている。それに、軍港はそのために存在していると言っても過言ではないからな。この数日で十全に戻っているのなら、俺としても安心だ」
「お陰様で、心身共に全回復です。重ねてありがとうございます」
軍港鎮守府の長である保前提督と、その秘書艦である能代が代表して見送り。また、今この鎮守府に留まっている伊豆提督と昼目提督も、今回の戦いでの犠牲者の回復を見届けることが出来たということで、見送りに参加していた。
「次の戦いに参加出来るかはまだわかりませんが、何かあればお手伝いさせてください」
「ええ、その時は是非お願いね。人手が足りるかもわからないんだもの」
「調査隊からも頼むかもしれねぇから、その時はよろしくな」
「はい、榛名の鎮守府も、きっと大丈夫です」
これまで数度、助け合っているだけあって、榛名友軍艦隊との絆は固い。あちらの提督も、何かあった時はまた部隊を優遇してくれることだろう。あの海賊船での戦いの時のように。
「うわ、今度はあたいの顔したヤツがやられてるぜ」
「私のもね……」
などという朝霜と満潮の視線の先には、意思を持った艤装人間達に施された処置を受けている別の艤装人間。その中には、朝霜と満潮の顔をした者もおり、顔を使われている者は少々複雑な気持ちになっている。
映像と音声による刺激を与える時間は、どんなモノを見せても変わらないということが3人の艤装人間で判明しているため、あとは何を見せるかになる。思考と思想に影響を与えることもわかっているため、その辺りの選択はある程度慎重に。響が進言した最恐ホラー映画はノータイムで却下されている。
「それでは帰投します。ありがとうございました」
最後は揃って敬礼し、友軍艦隊一同は海からの帰路についた。もし何かあった場合はすぐに連絡するようにと、明石謹製の妨害を受けない通信機を持たされて。
「今ごろアイツらも帰ってんのかな」
海の向こうに進んでいく友軍艦隊を眺めながら、深雪は呟いた。アイツらというのは、昨日出会った自分の別個体と、その相方である雷。2人揃って方向音痴というのが割と怖いが、流石に帰ることくらいは出来ていると信じた。
「また会えますよね」
「多分な。アイツらも、今の敵の連中のやり方が気に入らないっつってたんだ。あたし達と思ってることは同じなんだよな。なら、また顔を合わせる時も来るだろ」
今回の戦いで友軍として来てくれる、なんてことは難しいかもしれないが、また何か苦しい戦いに巻き込まれた時に手助けを求めることもあるかもしれないし、あちらは規模が小さい鎮守府だと言っていたので救援に向かうこともあるかもしれない。
どうであれ、ここで出来た縁は、また別のところで出会うための絆になりそうであった。
「その時に不甲斐ないところを見せないためにも、今日からは勘を取り戻すことを始めようぜ。陸戦か海戦か、どちらをやるかは任せちまってるけど」
「なのです。どちらにせよ、次の戦いにはどうしても必要になるのです」
深雪達は今日から遊び歩くのではなく演習や訓練で次の準備を始めることになる。休暇で鈍った身体を動かし、勘を取り戻しつつ、更に練度を上げていくため。
次の戦いはついに阿手の本拠地であろう島。海戦もそうだが、乗り込んで直接叩くことになることも視野に入れ、陸戦の訓練も必要だと、深雪自身も感じている。
最初から抜擢されている睦月や梅も、大発動艇の扱いを磨き、更に得ることとなったカテゴリーWとしての曲解もより使いこなせるようにと日々勉強している。どちらの力も適材適所、後始末にも戦いにも使える力であるため、何処でどう使って行くかを今のうちから作戦として立てていた。
「砲雷撃戦ってわけにはいかないかもしれねぇよな。この前のトーチカみたいに」
「アレはアレでキツかったのです……電はあまりお役に立てなかったですし」
「殴り合いは電は苦手なんだから仕方ねぇよ。電の本領は
「なら、電は基本演習弾を使うことにするのです。島にいる敵戦力って、命を奪いたくない相手ばかりだと思うので」
そこは深雪も同意。深海棲艦が相手ならまだマシ。最初から阿手を心酔しているような輩でも、これまではその命を以て償わせたこともある。だが、本当にただ利用されているだけの島の住民とかは、まだ説得の余地があるかもしれない。
それを考えると、敵とはいえ何も考えず鏖殺というわけにはいかないと考えている。甘い考えかもしれないが、救える者は救いたいという考えの中では、これが当然のやり方。なるべく命を奪わず、戦力だけを削ぐ。
「そのためには、相手より強くないといけねぇよな……。あたし達は、全力で殺しにかかってくる連中相手に
「なのです……弱かったらその段階にもいけないのです」
「故に、私達が貴女達を鍛えるのです」
そこに割り込んでくるように話し出したのは、準備を終えたのであろう調査隊の神通。いつもの制服姿ではあるのだが、今回は艤装無し。代わりに、グローブや膝当てなど、間違いなく格闘訓練を意識した装備を身につけていた。その手にも深雪や電のためのサポーターを持ってきている。
「貴女達の考え方はとても高潔で褒められるべきモノでしょう。ですが、力を持たねば実現出来ない。自覚出来ているようで何よりです」
「ああ……全力で立ち向かっても厳しいっつーのに、加減してやろうだなんて無理だ。なら、あたし達はもっと強く……いや、多分技を身につけないといけねぇ」
「ただ強いだけではダメなのです。手加減で戦えるくらいに自分を守らなくちゃいけませんし、もう戦いたくないと思わせるくらいの何かが必要だと、電は思うのです」
それが最終的に敵をも救うための力になるのならばと、深雪だけでなく電もやる気満々だ。優しく、戦いを避けたいと思っていても、今回ばかりは避けられないとわかっているため、強くなることを目指した。
「では、本日は我々調査隊が、責任を持って訓練を施したいと思います。互いの提督からの了承も得ていますので、安心してください。この訓練、受けたいと申し出たのは深雪さん達だけではありませんよ」
「え、そうなのか?」
深雪達が鈍った身体を鍛え直したいと伊豆提督に話し、それを昼目提督と計画している間に、同じ考えをした者達が他にも現れたという。
「あー、うん、そりゃあやるよな」
「当たり前じゃないか。今回は総力戦、僕達だって島に乗り込む可能性はある」
その筆頭が時雨。この軍港都市では、基本的には深雪達とは別行動。夕立や子日、Z1などと共に散策を続けていたが、5日目ともなると回れる場所も少なくなってきており、かつ夕立が身体を動かしたいと言い始めたため、都合がいいと今回の訓練に乗った。深雪が提案したというのも、自分を置いて強くなられたら困るというライバル意識を刺激するには充分だった。
時雨の戦い方は、電よりも陸戦では都合がいいだろう。そのうえ、改三となったことで内火艇まで運用出来るのだから、陸戦を意識するならば適性値は非常に高い。
時雨の他にも、時雨と共に軍港都市を散策していた夕立や子日など、身体を動かすのが好きなタイプや、明らかに戦闘狂に近いタイプは、率先してこの訓練に参加表明をしている。休むこともいいが、動くことも必要だと。
結果的には、島での戦いに参加する者の半数以上が訓練を受けることになる。残りの者も、遊び歩くために参加しないのではなく、鎮守府内でやるべきことをやる。
遊びはもうおしまい。決戦のための準備の時間である。
「人数がいるのなら、やれることも沢山あります。それに、私も学ぶことがありそうですしね」
チラリと目を向けた方には、この訓練を受ける側ではなく
「私達も参加よ。鈍ってるのは貴女達だけじゃないからね」
「早く復帰するためには必要なこと」
「こりゃあ、面白いことになりそうだぜ……」
神風と伊203からの直々の訓練に、深雪は楽しみだと言いつつ冷や汗も流れていた。勿論やるならば勝つ気で行くが、その実力は異常と言っても差し支えない。恐ろしいことに、神通もそちらとの訓練を楽しみにしていたようである。
「海と陸、どちらもやれることはやらねばなりません。調査隊は陸での戦いを。軍港の方々に海での戦いを鍛え上げてもらいます。無論、鍛えると言いつつ、我々も鍛えてもらいたいので、互いに教え教わる気持ちでやりましょう」
「うす。こりゃあ一筋縄ではいかねぇな」
「なのです……でも、やってやるのです!」
深雪のみならず電も気合が入っていた。仲間達と生き残るため、敵であっても救うため、今以上の力を手に入れようと、心は燃え上がっていた。
「悪いわね、マークちゃん。アナタ達にも手伝ってもらっちゃって」
「構いませんよ。他ならぬハルカ先輩の頼みとあっちゃあ、オレも断ることなんて出来やしませんぜ。つーか、アイツらもそろそろ慣らしが必要でしたからちょうど良かったっス」
工廠の隅、深雪達がやるぞと気合を入れているのを眺めながら、伊豆提督と昼目提督はこちらはこちらでやることをしなくてはと動き出していた。
「あちらは神通達に任せて、オレらは
「ええ……元帥からも許可が下りているもの。非情とか言っていられなくなったわ」
話しながら工廠の奥に向かうと、既に保前提督も準備済み。丹陽も待機しており、その更に奥には明石と主任、そして定係工作艦の冬涼コンビも今か今かと待ち構えていた。
「揃ったな。んじゃあ……やるか」
保前提督が床に置いてあった
「本当に好き勝手やっていいんだな?」
「ああ、元帥閣下から許可を貰った。命令はたった一つ、『好きにしていい』だ」
「了解した。こんなモノを研究出来るだなんて、予想だにしていなかった」
冬月は既に興奮を抑えきれないようで、机の上の
そこにあったのは、元帥が大本営に持ち帰ることをせず、倫理など気にせずに好きなように研究していいと命じた、原の生首である。
「さぁ、尋問を始めよう。とは言っても期待はしていない」
救うための戦いが出来るように訓練しようとしている深雪達の裏側では、非人道的な尋問が始まります。