後始末屋の特異点   作:緋寺

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三者三様の鍛錬

 深雪達が志願したことで始まった、休暇での身体の鈍りを取るためのトレーニング。次の戦いに参加するであろう者はおおよそ自主参加を決めたこの企画、トレーニングを施す側もノリノリである。

 次の戦いは島への襲撃。陸戦がまたメインとなりそうなその戦いのため、艦娘達は格闘戦の技術も取り入れながら、練度ではなく技術を学んでいく。

 

 主に3つのスタイルに分かれているわけだが、ちょうどその3つにトレーナー達が分かれることが出来た。誰がどのスタイルを選んでもいい。既に自分がどのスタイルが得意であるかわかっている深雪や電は、それを伸ばすために担当者との実戦訓練に励んでいた。

 

「なるほど、確かにキレはいいですね。特異点ということを省いても、艦娘としての腕はかなり高いと言えるでしょう」

「そんな評価してもらえるとありがてぇよ!」

 

 オールラウンダーである深雪の相手をしているのは、調査隊の神通。トレーニングがしたいと深雪が伊豆提督に漏らした際に、すぐ近くにいたことで何やら()()()()()と言われた者。

 響曰く、彼女の前で訓練したいは失言だそうだが、深雪はまだそれを理解していない。

 

「駆逐艦ではどうしてもリーチが短いですからね。懐に潜り込もうとするのはいい考えです。捻りながら掴みに転じようとする身のこなしも素晴らしい。過酷な環境を乗り越えてきただけのことはあります。ですが」

 

 身長差は如何ともし難く、そのハンデを覆すべく、素早さから自分の間合いに持っていこうとする深雪。だが神通はそうされることを最初から読んでいるため、危険な攻撃だけを打ち払うように攻撃を繰り出す。

 グローブを着け、かつ身体中を保護するサポーターも身につけているため、攻撃を受けてもそこまで痛くはない。しかし、重さは当然その身にダイレクトに伝わる。

 

「近付くということは、さらに反射神経を研ぎ澄まさなければ、こうなるということです」

 

 深雪の攻撃が届く前に避ける暇も与えず、スパーンと身体を払われていた。やろうと思っていたことが出来ず、接近したはずなのに、痛みと共に神通が遠ざかっていた。しかもそれは、神通が引いたのではなく、深雪が移動させられていた。

 

「見てから避ける、ということをするにも、近いなら相応に反応を速くしなくてはなりませんから。もっと集中して、もっと速く」

「これ以上に速くか、了解!」

 

 ダメージはあっても、深雪は前進をやめない。即座に切り返して、突撃を再開する。

 

「今は互いに徒手空拳で戦っていますが、敵は武器を持っている可能性もあります。それこそ、砲撃をこの距離から撃ってくることだって考えなくてはいけません」

「わかってる。その分、あたしは反射神経をもっと磨かなくちゃいけねぇってことだろ」

「理解が早くて助かります。貴女には煙幕があるかもしれませんが、それを使わずとも制圧出来るようにするためにも、見てから避ける、見ずとも避けられるように、神経を鋭敏にしていきましょう」

 

 深雪の猛攻を軽くいなす神通。時々掴みに入ってこようとするところも見越して、掴もうとするタイミングで身体を捻り、逆に深雪の腕を取ってロックする。綺麗に決まったアームロックは、体格差もあるため、深雪には抜け出すことが出来なかった。

 

「無闇矢鱈では無かったですが、少しそちらに意識が行きましたね。それではこうなります」

「くっそ、うまく紛れ込ませたと思ったんだけどな」

「私が主砲を持っていたら、このまま貴女の頭を撃ち抜いて終わりです」

「だよな。武器持ってるヤツ相手に掴みかかるのは無謀かな」

「状況次第ですね。私なら、まず武器を壊しますので」

「あー、なるほど、それが一番手っ取り早いのか」

 

 神通の戦い方を学び、実践し、失敗も次の成功の糧にする。神通も深雪を()()()()()()()()()として認識しているか、伝えられることは訓練を通して次から次へと呑み込ませていた。その分、痛みも伴うのだが、深雪は簡単にはへこたれないので、神通もノリノリである。

 

 響は堪能するといいと脅していたが、深雪はいい意味で堪能していた。こんなことでは折れず、さらに強くなりたいという願いもある。多少の苦しい特訓ごときで、簡単にはへこたれない。

 

 

 

 

 一方、電はグラップラーとしての技術を磨くために、相手をしてくれているのは伊203。こちらは神通の痛めつけて教えるというスタイルではなく、技の掛け方を見せて教えるというスタイル。入り方から抜け出せなくする手段まで懇切丁寧に。

 かけられる側は痛みを伴うが、逆にそうされた時の対処法を学ぶことになるため、Win-Winの関係が成り立つ。

 

 そして、かけられる側を自主的に希望する者もいるのだから、やりようはいくらでもある。

 

「お、おおーっ、抜け出せないよコレ」

「なのです? 電だと手が届かないかもと思ったのですけど」

「脚使ってるから力も入ってるし大丈夫だと思うよ。あーでも相手が戦艦とかだとかかりにくいかもしれないね」

 

 電から技をかけられるということで、ニコニコしながら志願したグレカーレが、今かけているのはオモプラータ。肩甲骨から絞めあげるブラジリアン柔術の関節技である。相手がグレカーレだからこそ電でも平気でかけられるが、相手が大柄の戦艦だったりした場合は話が変わるかもしれない。

 

「その場合は変形させればいい。とにかく締める。肩に入れながら、首も入れる。こう」

「お゛っ!?」

「グレカーレちゃん!?」

 

 説明しながら伊203は電の脚を上手く食い込ませて、グレカーレの頸動脈をグリグリするように体勢を変形させた。

 酷い悲鳴が聞こえたが、電にやられているということで、グレカーレの表情はどちらかといえば緩い。恍惚としていると言ってもいいほどである。彼女がこうなった理由を久しぶりに受けているのだから、痛みと同時に幸せでもあるのだろう。

 

「力を入れればそのまま()()()。私なら折るし、腕も引きちぎる」

「フーミィちゃんならそうかもしれないのですけど……」

「敵に情けは無用。死ななきゃ安い。判断が遅いと、自分も仲間も苦しくなる。戦いはルール無用だから、迷ってるのは遅い。だから、基本的に躊躇はしちゃダメ」

 

 グレカーレも流石にキツイと思ったが、まだ動く手でギブアップを示すタップを繰り返した。これはまだ訓練のため、それを見た電は拘束をすぐに解くが、これが戦場の場合はタップされても解くなと伊203が念を押す。

 優しさを見せたらそこに付け入るような輩ばかりなのが敵だ。降参したと見せかけて背後から撃つ。騙し討ちも当たり前。それくらいズル賢い連中だと認識しておいた方がいい。

 

「出来れば、最初から全力で締めて落とす方が早い。余計な戦いを続けたくないならそっちの方がオススメ。代わりに、今よりももっと容赦なく行ってもらう」

「……難しいところなのです」

「ゆっくりやれば、敵も苦しい。拷問をかけるならゆっくりがオススメ。私は遅いから嫌いだけど」

「拷問って……」

 

 電にはそんなつもりはないので、一気に力をかけて瞬殺が最も適している手段かと思われる。しかし、電はどちらかといえば非力な方だ。駆逐艦であること、小柄なこと、そして優しいこと。その全てが、敵に対して力を入れることを阻害する要素。敵は電を殺そうとしてくるのだから、そんなことを躊躇してなんていられないのだが。

 

「ぜぇ……ぜぇ……えらい入り方した……息完全に止まった……」

「止めるために入れた。本来ならこのまま落とす」

「だよね……三角絞め喰らった時思い出しちゃったよ。一応外そうとしたんだけど、イナヅマのロック綺麗に決まってたし」

 

 などと話しながらも、グレカーレは笑顔である。推しからの絞め技は()()()()()()と公言するほどには。

 

「戦場で余裕があるかはわからない。あちらは電が絞めてる間に仲間ごと撃ってくるような連中。だから、絞めてすぐ落として次に行く方が早い」

「かもしれないのですが、電に出来るでしょうか」

「出来る。そのためには、もう少し速くなってもらう。基礎は大事。フィジカルをもっと鍛える」

 

 速さ重視であっても、基本をしっかり刻んでおかねば、やれることもやれない。伊203はそれも込みで電を鍛えようとしていた。

 海中での動きは海上艦には不可能ではあるが、そこでやることを海上でやることは不可能ではない。

 

「最低限、敵の首をもげるようにはなってもらう」

「あ、アレは流石に……」

「あんなことするのフーミィだけだよ」

 

 しかし、首四の字から敵の首のもぎ方に関しては、電にも伝授されることとなる。

 

 

 

 

 オールラウンダー、グラップラーとくれば、ストライカーの訓練も勿論行われている。深雪組の中では白雲がそちらに近く、それ以上にそのスタイルを使いこなしているのが、今回の訓練に自主的に参加を表明した時雨だ。

 そして、その相手をしているのが、神風。

 

「刀無しでもここまで出来るのかい?」

「艦娘になる前にちょっとね」

 

 今回は神風も徒手空拳での訓練。駆逐艦の中では比較的小柄な神風は、逆に大きめの時雨相手でもリーチの差を感じさせないくらいの実力で圧倒する。

 その神風の動きを、一挙手一投足見逃さないように観察している白雲。師として仰ぐ神風の技を、見て盗めるようにと真剣な眼差し。

 

「貴女、本当に身体が硬いわね。切り返しが遅いわよ」

「仕方ないじゃないか! これでも毎日柔軟はしているさ!」

「あら、それは結構なことね。でも、簡単には柔らかくはならないか」

 

 時雨の拳を軽々と回避しながら、綺麗なステップを踏んで踊るように時雨の腹に蹴りを食い込ませる。だがかなり加減をしているのがわかる一撃であり、食い込んではいるが、蹴りというよりは押しているだけ。

 

「時雨、格闘訓練よりも先に、無理矢理にでも身体を柔らかくした方がいいわよ。後から股割りしておきましょうか」

「ちょっ」

「まずは敵の頭に届くくらいに脚を上げられるようにしなさい」

 

 言いながら、神風の足が時雨の顔面に突きつけられる。しかもそのまま静止して、いつでも踏み抜くことが出来るぞと言わんばかり。

 時雨の硬さは折り紙付きで、脚は腰より上まで上がらない。それを自覚しているため、相手の頭を蹴る時は前転や側転を多用する。だが、その分隙は出来るのは当然のこと。夕立相手の時はそれでも充分だったが、次は殺し合いの場だ。そんな隙は見せていられない。

 

「別にI字バランスが出来るようになれとは言ってないわ。ただ、貴女の場合、Y字バランスやれと言って、カタカナの『ト』になってるじゃないの」

「そっ、それはっ」

「陸戦で身体の硬さは致命的よ。砲撃だけしかやらないにしても、回避に柔軟性は必須なんだから」

 

 そこからは神風の一方的な試合であった。身体の硬さを指摘するように、柔らかければ避けられるような攻撃をこれでもかというほど打ち込み、むしろ叩いて柔らかくしているまであった。

 

 それを見ていた白雲曰く、艦娘は攻撃を受けて浮くこともあるのだな、と。

 

 

 

 

 各々の訓練は続く。戦いの時は近い。

 




今はこの3人をピックアップしていますが、自主的に参加表明をした艦娘達はこの後に同じようなことをやってます。例えば、神風と長門とか、神通と子日とか。みんなやる気充分です。
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