深雪達がトレーニングを進めている裏側。工廠の奥では、各組織のトップ陣と、工作艦達が集まり、瀬石元帥から託された原の生首と対峙していた。
何をしてもいいという許可は既に貰っているため、ここでやれることは全てやる。本来ならば倫理的にやることを躊躇うことであっても関係ない。理性が止めていたことも、リミッターを外して全てを施す。
「一応聞いておくが、本当に、何をやってもいいんだな?」
念のためもう一度確認する冬月。やることをやり始めて、やっぱりダメだったと言われても困る。そのため、最終確認。
「ああ、何をしてもいい」
対する保前提督は、躊躇なく許可を出した。尋問という名の拷問でも、むしろこのまま極刑を下してもいいとまで。
冬月はわかったと頷くと、涼月と共に多種多様な器具を用意し始めた。艤装の整備に使うようなモノから、どう見ても整備とは関係ないモノまで、本当にあらゆるモノを。それも全て、原に見せるように並べていた。今からこれらをお前に使うぞと言わんばかりに。
「情報を引き出すことが出来ればいいな。ならば、
早速とんでもないことを言い出す冬月。リミッターを外されたとはいえ、急にアクセルをベタ踏み。
相手は首だけになっても死なない、深海棲艦とすら思えないバケモノである。これまではそれでも元々は第二次深海戦争の際の元帥であり、人間であったという事実もあるので、そんな状態でも弄るのは抵抗があったのだが、冬月にはそんなモノ最初から存在しなかった。やめろと言われていたからやめていただけ。それが無くなったらもう止めておく必要すらない。
そして、この冬月の言葉に殆どの者がそこまでやるかと驚くものの、それを部下として持つ保前提督だけは、好きにしろと驚かないどころか、肯定すらしかねない勢いだった。
「だが、この生首、手に入れたのは前回のここでの戦いよりも前だったはず。それからずっと調査隊が持っていたのなら、それ以降のことは何も知らないということになるのではないだろうか」
「確かにな。忌雷が出てき始めたのは、あの海賊船の時からだ。そもそもソレが忌雷をまともに知ってるかもわからねぇよ」
昼目提督が原から聞き出せたのは、米駆逐棲姫のような人生を捻じ曲げるような教育を施された者が存在することくらい。わざわざ手駒を作るようなやり方を是としている胸糞の悪さを知っているくらいである。
原がこの
「まぁ聞いてみなくてはわからないことです。お冬さんの言う通り、脳を捌いてみれば何か話してくれるかもしれません」
「だよな。涼なら同意してくれると思ったよ。では早速始めていきたいと思う」
相変わらずの全肯定な涼月。冬月もその言葉を受けてより前に進むため、準備した器具からいろいろと選択して使っていく。
「どうせこのまま動くことは出来ない。だが、深海棲艦の頭というのは、まともにメスを入れるだけで開くことが出来るのだろうか」
「まずは試してみてはどうでしょう」
「それしかないか。刃が通ってくれればいいが」
そこから、一切の抵抗なく、原の後頭部にメスを突き刺す。伊豆提督が息を呑む声が聞こえた。
頭に刃が突き立てられたことで、原の生首は小さく声を上げる。ここまでされていても痛みを完全にシャットアウト出来ているわけでもない。これまで一度も崩れなかった表情も、痛みで歪んだ。生首状態で直接触られるのはケースに入れられて以来だろう。
「ふむ、肌はまだまともに刃は通るな。黒い血が邪魔ではあるが、頭蓋骨まではアッサリだ。だが、やはり骨は硬い。深海棲艦と戦っても軽々粉砕出来るのは、艤装があってのモノだと実感させられるよ」
「肌から硬い深海棲艦は今のところいないようですからね。イ級などは肌というよりは甲殻ですから」
「ああ、柔らかいところは我々と同じということで良さそうだ。ならば骨はどうかな?」
流石に深海棲艦の骨はメスでは刃が通らない。その上で、原の自己修復の速度は異常であり、処置している間も修復が始まっており、常に切り続けないとすぐに閉じてしまう。
そのため、傷口を強引に固定するために、かなりの強硬手段に出た。
「ふむ、釘は通るな。傷口を無理にでも押さえつけて、処置を続けよう。まぁ
傷を押さえるように釘打ち。頭蓋骨に食い込ませて修復を邪魔し、さらに頭蓋骨を切り開くための足がかりとする。
「流石は人間も深海棲艦も超えた存在だ。処置も苦労させられる。だが、骨に穴は空いたぞ。なるほどなるほど、脳も黒いじゃないか。こんな状態でも脈を打っているのは、どうにもこうにも気味が悪いな」
頭蓋骨を大きく切り開き、内部の脳を空気に晒した。ここまで来るのには想像を絶するほどの痛みがあるだろうが、原はそれでも顔を顰める程度で終わっている。ただひたすらに耐えているのか、それとも本当に痛覚が鈍くされているのかはわからないが、後者である可能性はかなり高め。むしろ自分で痛覚もコントロール出来るのではとも考えられる。その割には完全なシャットアウトが出来ないのは欠陥では無いかと思ってしまうモノなのだが。
「さて、では自己修復もしてくれることだし、脳を直接触ってみようか。深海棲艦も人間と同じかどうか知っておきたいから、な」
言いながらもすぐに脳に指を突っ込んだ。
「ぎひっ!?」
ついに原が声を上げた。これまでとは違う、外傷では起き得ない、普通では無い痛み。脳自体に痛覚は無いが、その下側にある大動脈まで的確に指を入れたことで、極大な痛みを与えた。
その状態で脳内を
「ふむ、直に触るとこんな感じなのか。決して何度もやりたいような感覚では無いな。だが、今は心を鬼にしてやらせてもらおう。私もそこまで痛みを与えたいわけでは無い。貴様が知っていることを素直に話してくれれば、こんなことをする必要はないんだが、貴様にもプライドやら何やらがあるだろう。第二次の元帥ともあろうものが、この程度の痛みから逃れるために素直に話すなんてことはあり得ないだろう。私も心が痛いものだよ」
話しながらもより奥に手を突っ込む。生首の表情は、明らかに変わった。
「この辺りなんてどうだろうか。素直な言動になったりするツボではないだろうか」
奥深くで指を曲げ、滅茶苦茶なところを刺激する。その度に、生首は大きく反応し、悲鳴すら上がる。頭の中を直接弄られる感覚がどういうモノかはわからない。しかし、見た目からして想像を絶することがやられているのは明らかにである。
「ん? 何かあるな」
そんな中、冬月は原の脳内に何かがあることを発見した。柔らかいはずの脳に、明らかに機械的な物質。
「とりあえず引き摺り出してみようか。忌雷ではないだろうから、少しは安心だな」
まるで引きちぎるように接続されていた何かを引っ張り出した冬月。手に握られていたのは、小型の艤装のような物質。忌雷とは思えないが、意匠だけで判断するなら、艤装のプロトタイプとも思える物質。触手を持たない忌雷の頭のように見えた。
「ほう、これを脳内に埋め込むことで身体を変化させていたのかもしれないな。流石に頭から全身に影響させることは難しいとは思うが、あの忌雷が小さなモノなのに身体を書き換えることが出来るのなら、これも近しい効果があると考えられる」
だが、忌雷と違うのは引き抜いたところで身体が元に戻っていないところ。完全な不可逆な変化にされている。この物質が身体の変化を制御しているわけでもないようである。
ともかく、これが何かはわからない。だが、原なら何か知っているかもしれないと思い、冬月は眼前に持っていく。
「これが何かわかるか? 貴様の脳内に物理的に埋め込まれていたモノだ。貴様がそれを許可せず埋め込ませるようなことは無いだろう」
それを目にした原は、痛みで顔を顰めながらも、無言を貫いた。息はしているようなので、抜いたところで不死身のような身体は失われてはいないようである。
「おお、流石だ。プライドだけは高くて素晴らしい。より一層、尋問を激しく出来そうだ」
少しだけ楽しそうな素振りを見せる冬月は、再び脳内に指を突っ込む。
「一部の機能を破壊すれば、修復されるまでは素直になってくれるかもしれないな。だが、コイツを引き抜いてしまったし、もしかしたら修復が遅くなるかもしれない。コレが何かわからないからな」
引き抜いた物質は、一旦主任に渡した。サイズで言えば、主任の方が小さい分、細かく確認出来るだろう。明石もそちらのサポートに。
「この辺りとか」
「ぎっ!?」
「違ったな。なら、この辺りとか」
「がっ!?」
「ここも違うか。脳は専門外だから、手当たり次第になってしまう。その分苦しめてしまって申し訳ない」
グジュグジュと嫌な音が響く。その中でも、まだ脳の傷は修復されていることがわかるので、先程の物質が曲解能力の制御をしているというわけでもなさそうだった。
ならばなんだったのか。カメラや集音の機材だったとしたら、今こうしている様子を阿手に伝え続けている、なんてことも考えられる。もしくは、これ自体が遠隔操作のために必要なモノであり、
「お、ここなんてどうだ」
「ぎゃっ!?」
グリッと捻るように指を曲げた時、原は明らかに違う反応を見せた。再現性を調べるために、同じところを何度も抉ると、同じように反応を続けた。
凄惨な光景に、見ているのも辛くなる。だが、責任者として、ここに同席するトップ陣一同。
冬月は暴走しているわけでもなく、ただ情報を手に入れるためだけに非情になっているだけ。研究のためという免罪符も手に入れているため、やりたい放題しているようにも見えてしまうが、だとしても
「素直に話す気になってくれただろうか。それだけでこれは終わる。楽にしてやれるんだが」
「……この……外道が……」
ついにそんな言葉が原から出た。出てしまった。
冬月の脳弄りによって、その辺りの我慢が出来なくされたか、それとも心の底からそう思ったか、それはわからないが、言ってはならないことを言ったようなもの。
「外道、外道か。なるほどな。そういう考え方もあるか」
冬月は何も動じない。
「さんざん人間を弄くり回しておいて、私のやることが外道と言うのか貴様は。貴様に正義の免罪符があるのと同じように、私にも正義の免罪符があるんだ。何が違う。違わないよな? まさか痛みを与える拷問が倫理的に良くないと説教するつもりでいるのか? ならば貴様は自身が人間であると認めることになるが良かったかな。人間を超えたんだろう? 高次の存在になったんだろう? これくらい耐えてもらわねば困る。人間には拷問だが、それを超えた貴様には、ただの尋問だ。私が弱く、低次元な人間で申し訳ない。こんな手段を使わねば、高次元の貴様と対等な場所に立てないものでね」
さらに指を曲げたことで、原の悲鳴がさらに溢れる。
「高みにいる者は、相応の責任を持つがいい。ノブレスオブリージュと言うだろう」
そういう意味では無いと総ツッコミを入れたかっただろうが、誰も何も言えなかった。涼月に至っては、お冬さんは賢い言葉をご存知ですねと相変わらずの全肯定である。
「さぁ、尋問は続くぞ。根比べと行こう」
冬月はまだまだ止まらない。それが非道なことであっても。
お冬さん、今この時だけは非常にマッド。