後始末屋の特異点   作:緋寺

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人間の悪意

 昼過ぎからの昼目提督との対話は、深雪にとっては世界をさらに明るくするものとなった。少々荒っぽいイメージはあるものの、話してしまえばその気の良さがわかるような相手。

 特に深雪は馬が合うのか、世間話レベルでも気にならないくらいに話が出来ている。電も深雪がここまで気楽に話せているところから、大分気を許せている状態に。

 

 ここまで来ると、深雪を起点にしてうみどりの面々全員が昼目提督との対話が可能となっていた。

 伊豆提督の後輩であるということくらいしか知られていなかった謎の提督が、ここまで話しやすい相手とは思っていなかったようで、最終的には伊豆提督並みに気安い相手となった。

 他の鎮守府の提督なので少々気負っていたものの、昼目提督自身が気安く付き合ってくれと頼んでいたため、この流れとなっている。

 

「アタシが寝ている間に、随分と仲良くなっていたみたいねぇ」

 

 これには伊豆提督もニッコリである。昼目提督はそのテンションのせいで艦娘から割と一歩引かれるタイプではあるため、好かれているのなら何も問題はない。

 こうなってくれればいいけどと思っていたところで実現していたのだから、伊豆提督としても安心していた。

 

「うっす。ハルカ先輩、話せそうなことは話させてもらいました。深雪と電、調査隊としても何も問題はないと思います」

「良かったわ。どう見てもアタシ達と同じでしょ」

「そうっスね。純粋な艦娘だとしても、別に人間と変わらない。特別視する必要も無いし、阻害する必要も無い。やっぱり話さないと十割知ることは出来ないっスね」

 

 伊豆提督も昼目提督も、勿論所属艦娘も、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というのが実情である。そんな中でカテゴリーWという艦娘が現れたのだから、慎重に対話を試みて、話が出来るかを確認していた。深雪が所属してからの長門や妙高が慎重だったのはコレである。

 そしてそれなりの時間を付き合っていくことによって、うみどりの面々は深雪を受け入れ、それが出来ていたからこそ電も同じ流れで仲間としている。うみどりの経験があり、その話を聞いているから、これまで深雪達が出会ってきた人間は、純粋な艦娘に対して警戒心も持っていない。

 それは昼目提督達調査隊も同じこと。昨晩に対面した白雪と響も、事前に聞いていたからあそこまで真っ直ぐに言葉を紡げている。

 

「今日うみどりに来たのは、カテゴリーWと直接話をするためでした。充分すぎる収穫っスね」

「そう、それなら良かったわ。もしかしたら三人目が現れるかもしれないものね」

「はい。その時は同じように対処出来ますから」

 

 二度あることは三度ある。深雪、電に続いて、三人目のカテゴリーWが現れる可能性だってあるのだ。それをうみどりではなくおおわしが拾う可能性だってあるのだから、どのように話が出来るかを知っておけば、間違いは無くなる。

 

「っと、そうだ。忘れるところだった。まだここに救護された榛名達いますよね。彼女らにも話が聞きたいんですよ」

 

 チラリと食堂の外に目をやると、そこにはなかなか部屋に入ることが出来なかった榛名達がいた。伊豆提督と目があったことで、慌てて頭を下げる。

 

 伊豆提督達うみどりの面々はここがホーム。昼目提督と鳥海はすぐそこにあるおおわしから来ている者であり、今の話題の中心人物。

 しかし榛名達は、昨晩後始末を手伝ったとはいえ、ほとんど部外者に等しい。食堂で繰り広げられている対話に加わることは、少し躊躇われていた。

 

「悪ぃ、ちょっと場所を空けてくれ。榛名、そこに座ってもらえるか」

「え、あ、はい。榛名は大丈夫です」

 

 うみどりの面々に一旦退いてもらい、榛名を対面に座らせる昼目提督。念のためとその隣には伊豆提督も座って話を聞く姿勢に。

 榛名の艦隊は、榛名の後ろに立って待機。何か話せることがあったら、気にせず逐一口を出してくれればいいと昼目提督が伝えたため、少しだけ緊張感が出てきていた。

 

 今まではたわいない話で盛り上がっていたものの、昼目提督、並びに鳥海が再び仕事モードに入ったような雰囲気を出し始めたので、すぐさま静まり返る。

 

「大物との戦闘があったってのは聞いてる。後始末でその片付けもしていたともな。長門、お前さんがうみどりに運んだのか?」

「ああ、それは私がやっている。激戦が繰り広げられたのがわかるくらいに損傷が激しかった」

 

 深雪達は広範囲の残骸を集めることに従事していたが、その間に大物の亡骸は長門達大型艦が処理している。

 大物──戦艦水鬼の亡骸は、榛名達との戦いによって大きく欠損があったが、以前の姫とは違って頭は残っていたため、見た目だけならば相当キツイ状況にあった。これは新人には見せられないなと、早急に片付けたようである。

 

「榛名、その大物に何か違和感は無かったか」

「違和感……ですか?」

「ああ。今まで戦ってきた深海棲艦とは、何処か違うみたいなことだ」

 

 後始末中に乱入してきた深海棲艦との共通点がないかを探っている昼目提督。その戦艦水鬼にも何かしらの改造の痕があったならば、姫すらも人の手が加わっているということになる。

 

「違和感……違和感ですか……榛名にはあまり感じませんでしたが、皆さんはどうですか?」

 

 随伴艦達に話題を振るが、みんな当時のことを思い出すも違和感にはなかなか辿り着けない。

 だが、一人の艦娘があっと大きな声を上げた。その艦娘は、駆逐艦朝霜。今回救護された中でも相当重傷だった、()()()()()()()()()

 

「お、何かあったか」

「そん時にはおかしいって思わなかったけど、冷静に考えたらおかしいぞアレ。戦艦水鬼って、()()使()()()()()()?」

 

 自分の脚を噴き飛ばしたのは魚雷だったと確信している。さらには、戦艦水鬼の随伴艦には、軽巡洋艦や駆逐艦もいたため、そこから喰らったものだとばかり考えていた。

 しかし、今この場でゆっくりと考えてみたら、何かがおかしい。軽巡洋艦や駆逐艦がいた方向ではなく、戦艦水鬼がいた方向から魚雷が向かってきていたのだ。

 

 魚雷に関しては当然ながら注意はしている。殆ど一撃必殺に近い火力を叩き出すのだから、当たるわけにはいかないからだ。そのため、それが扱える艦種に対しては、否が応でも警戒する。

 逆にいえば、扱ってこない艦種……今回は戦艦水鬼のような戦艦には、魚雷を警戒することはない。それ故に、雷撃をまともに喰らって脚を失う羽目になった。

 熟練者であればあるほど、その罠に引っかかるタイプだ。同じ個体が何度も現れる深海棲艦だからこそ、警戒が薄れる。

 

「んなわけがない。そりゃあ戦艦でも姫なら稀に使ってくる輩はいる。だが、戦艦水鬼ってわかっているのなら、魚雷はあり得ねぇ」

「だ、だよな。アタイの頭がおかしくなったわけじゃないよな」

「大丈夫だ。むしろ思い出してくれてサンキューな。とんでもなく有用な情報だ」

 

 つまり、その戦艦水鬼は、乱入してきた駆逐艦と同様、()()()()()()()()()()ということに他ならない。

 

「長門。運んだ戦艦水鬼の亡骸、魚雷発射管は無かったか」

「……すまない。それらしいものは確認出来なかった。奴らが扱う生体艤装に忍ばせていたのかもしれないが、戦いの末にほぼ全壊だった。申し訳ないが、私は破片からそれが何処のパーツかを判断出来る能力は持っていなくてな」

 

 亡骸を運んだ長門としても、違和感を持つことが無かった。それくらい、巧妙に隠されていたのかもしれない。

 そういう意味では、今の朝霜の証言に全てかかっているようなものではある。とはいえ、その場でそれを喰らったのだから、信憑性はどちらかと言えば高い方だろう。実際に普通では無い改造がされている深海棲艦がいるのは確かなのだから。

 

「イロハ級だけじゃなく、姫も改造しているということよね」

「うす。姫の方は確定ではないですが、朝霜の証言は確率高めだと思っています。その線からも調査は続けていきたいと思います」

 

 この話は、艦娘達からしてみれば初めて聞くこと。調査隊の調べ上げたことは、すぐに全鎮守府に展開されることではあるのだが、先行して聞くことが出来るというのは今この段階、昼目提督がいる状況でしか起きない、レアな時間。

 人の手が加えられている深海棲艦という、今までにない存在が現れたことは、軍としても由々しきことだ。早急に対処したい事件でもある。

 

「でしたら、昨日突然現れたあの姫は……」

「実験的……性能試験的にぶち込まれたかもしれねぇ。誰かが、意図的に」

 

 昼目提督に突きつけられて、榛名は大きくショックを受けた。ただでさえ今の戦いは深海棲艦に加えて呪いによる憎しみを植え付けられたドロップ艦までいるのに、そこにさらに新勢力まで出てこられたら、いつまで経っても戦いは終わらない。

 榛名だけではない。そんなことをする輩がいるというだけでも、気分がいいものではなかった。

 

「質問。それって、どんなヤツがやってるのかってわかるのか?」

 

 ここで躊躇いなく質問をしたのは深雪だ。疑問に思ったことを率直に聞く。

 

「流石にまだわからねぇ。改造されているってことだけしかわかってないからな。ただ、そういう技術を持っているのは……()()()

 

 艦娘や深海棲艦をバカにしているわけではないが、兵装の改修や艤装の修理などは行なえても、艦種を超えた装備などは出来ない。ここまで出来るのは、()()()()()()だ。

 勿論例外はいるだろう。人間の下で学んだ艦娘などであれば、同じように技術力を持っていてもおかしくない。しかし、それはやはり()()()()()である。

 

「お前さん達が一番許せない人間が、まだこの世界にいるかもしれないってことだ。第二次の時にやらかした阿呆共は全員いなくなったと思ったんだがな」

 

 その考えに辿り着いたことで、昼目提督も気に入らないと言わんばかりに大きく舌打ちをした。

 過去にドロップ艦相手に散々なことをした悪辣な人間は、当時不審死を遂げたと言われているが、その時の人間が生きていた、もしくは遺志を継いだ者がいる。これが一番考えられることだ。確証は無くても、確率は高い。

 

「深雪、お前さんは言ったな。そういう連中は許せねぇって」

「……ああ、言った。あたしの目の前でそんなことやったら、躊躇せずに手を出すと思う」

「今は止まっていてくれ。お前さんにそんな罪を犯してほしくねぇからな」

 

 真剣な眼差しで深雪を見つめる昼目提督。

 

「罪って言い方は違うかもしれねぇけど、んなことでお前さんの手を人間の血で汚してほしくねぇ。これがオレの本心だ。人間の尻拭いは人間がやる。艦娘は、少しだけ手伝ってくれればいい。これは、人間の問題だからな」

 

 その言葉には、昼目提督なりの優しさが含まれていた。深雪や電に、これ以上辛い思いをさせたくない。ただそれだけを考えた言葉だった。

 

「いいか深雪。被害者は、加害者になっちゃいけねぇ。間違いなく歪む。世界の平和のためには必要のない阿呆共については、オレ達が絶対に制裁を与える」

 

 真っ直ぐすぎる言葉と瞳に、深雪は一瞬気圧されそうになった。伊豆提督とはまた違った説得力を持っていた。

 伊豆提督は柔らかく包み込むような優しさ。昼目提督は障害を破壊するような力強さ。相反しそうな二人だが、向いている方向は同じ。

 

「わかった。あたしはそれで納得しておく。それが信じるってことだよな」

「そうだ。それに、オレがこんなこと言わなくても、ハルカ先輩ならお前さんに過ちなんて犯させねぇよ。そうっスよね?」

「勿論。この世界にあるほんの一握りの醜悪な部分になんて、触れない方がいいわよぉ。穢れよりばっちいんだもの。アタシだって触りたくないわぁ」

 

 伊豆提督も少し冗談交じりで昼目提督の言葉に応えた。

 

「アタシが思うにね、この世界で一番汚いモノは、()()()()()だと思うのよ。それが穢れや呪いを生み出しているんじゃないかって、アタシは考えているのよね。人間の一番ダメな部分よ」

 

 自嘲気味に溜息を吐きながらも、その目には芯を見据える光がある。

 

「だから、アタシ達はそんな悪意すら片付ける。それが過去の過ちの後始末よ」

 

 この言葉は、深雪にも電にも強く突き刺さった。伊豆提督は、この世界を平和にしたいと心から望んでいることがわかる言葉だったから。

 

 

 

 

 この事件の裏側には、間違いなく人間が関わっている。今いる人間か、過去の人間の残滓かはわからないが、だとしてもこれは人間の問題。

 




この世界の工作艦は、基本的には修理と改修をするところに留まっています。やりたい放題する工作艦ではありません。覚えたら何かするかもしれませんけど。
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