昼食時。トレーニングに参加していた者達は各々食堂で休憩中。深雪達も例に漏れず、戦闘訓練による消耗を食で回復していた。栄養価の高い食事を用意してもらい、失われた分をすぐさま補給。更なる力に繋ぐ。
3つのコースを全て回っていた深雪は、午前中だけでもかなりの消耗を見せており、身体が鈍っていたことを実感しつつ、トレーニングが有効的に働いていることも実感出来た。
「つっかれたぁ……」
今は艦娘姿の深雪は、その疲労を口に出しつつ、食べながら身体をほぐしていた。心地よい疲労とは言えないものの、強くなれていると思える疲労であるため、これもまた喜ばしいモノ。
大人の姿を見せたことで、神通からもう一度オールラウンダーのコースに来いとお呼びがかかり、そこからその身体に合わせた戦い方を教えると、更にハードな訓練を施されるに至っている。
また、神風からもまた違った戦い方を学んだことで、覚えることが非常に多かった。頭がこんがらがりそうになりながらも、その全てを吸収しようと躍起になり、今は心身共に大疲労。
「お疲れ様なのです、深雪ちゃん」
「電もお疲れさん。そっちだって疲れてるだろ。神風にもいろいろ教えてもらってたの、チラッと見てたぜ」
「はい、電も、少しは叩く方の攻撃を覚えた方がいいということで、棒を使った方法を教えてもらったのです」
白雲と同じ、警棒を使った攻撃方法。白雲のように前に出るのではなく、電に関しては自己防衛、護身術くらいの感覚で学んだ方がいいと神風にオススメされた。それによってヘトヘトと言えるくらいには疲労を感じている。
実際、グラップラーな電にそちらは少々微妙だったというのが神風の言葉。しかし、攻撃方法を知ることで、それから身を守ること、仲間を守ることに繋がられそうであるため、自分でも知ってもらうためにも時間がある時にはしっかりと刻ませた。
優しい電は、敵を棒で叩くなんてことには誰よりも抵抗を感じそうである。だが、敵から同じことをされた時に、確実に避けることが出来るようになる。覚えないよりマシと、電は選択肢を拡げることとした。
「白雲から見て、ではございますが、電様は自衛に長けているのではと思う所存でございます。白雲と同じ武器を持つこととなりそうではありますが、いつも通りの振る舞いが、最もお姉様のためになるかと」
「電のアレは、神風ちゃんも念のためって言っていたのです。電の戦闘知識は、どちらかといえば自分でやるより仲間に伝えた方がうまく扱える気がするのです」
拡がった選択肢を使い、いざという時にその知識によって策を練ることもあるだろう。そちら方面で伸ばしていく方向。護身術は当然知っておいた方がいいだろうが、ムキになって自分から殴りかかるようなことは絶対にしないと言い切れる。
「知っとくだけでも充分活かせるってことだな。ちょっとあたしも安心しちまったよ」
「いくら敵さんとはいえ、そんなことを考えていない人間さんも、洗脳されてそうなってるなんてことがあったらすごく嫌ですから」
そういう輩には、確実な手加減を出来るように、主砲はもう持っていかなくてもいいのではと思い始めているほど。自己防衛をするなら水鉄砲くらいは持っていくべきだとは思うので、流石にそこまで大胆な装備配置にはならないだろうと苦笑した。
昼食も終え、少し休んでから訓練をまた再開するということになっているのだが、その前に気になることがあった。
「そういや、ハルカちゃん達はまだ昼飯に来てないよな」
組織のトップ陣の姿を、これまでにまだ見ていない深雪。電達も、朝に工廠の奥には来ないことと念を押された後から、一度も顔を合わせていなかった。
工廠の奥で何かをやっているのは間違いなく、それが今も長引いてしまっていると考えるのが妥当だろう。
心配なので工廠の奥に行きたいところではあるのだが、最初から来るなと言われているため動くことは出来ない。邪魔になるだろうから、呼ばれることは無かったのだろうと解釈する。
「何してんのかわかんねーけど、とにかく苦戦してるみたいだな」
「なのです……心配ではあるのですけど」
「流石にあっちにゃ行けねーな。余計なことして何も出来なかったなんてことがあったら困っちまう」
こればっかりは仕方のないこと。自分の知識欲より、伊豆提督からの指示が優先される。来るなと言われれば行かない。絶対に行かない。
「あたし達は何もしないってのが、一番の手伝い方になってるわけだもんな。じゃあ、こっちでやれることをやろう。午後も強くなるための訓練だ」
「なのです。もう少し休んだら、またやりに行くのです」
疲労はしっかり取ってから、次の訓練に挑む。ただ、神通曰く、疲労を残した状態で身体を酷使することも必要。敵が休憩をさせてくれるとは限らない、というか間違いなくさせてくれない。長期戦も視野に入るなら、疲労状態でも戦えるようにしておくべき。
そもそも疲労を抑えるために、なるべく消耗しない戦い方も教えられているのだが、それでも消耗はしてしまうモノ。十全の状態で戦えなくても勝てるようにしておくことも大切。
「っし、じゃあ次は……っと、あ」
そんなことを話している内に、かなり疲れた顔の伊豆提督達がぞろぞろと食堂に入ってきた。冬月と涼月だけはピンピンしているが、丹陽ですら消耗が見える。
「お、おう……お疲れ様……」
「お疲れ様、アタシ達も今回は流石に疲れちゃったわぁ」
笑顔を絶やさない伊豆提督だが、顔には誰が見てもわかるほどに疲労の色が見えた。
「何してたかは聞かないけどさ、まぁその、ちゃんと休んでくれよな」
「ありがとう深雪ちゃん。ちゃんと休むわ。
やっていたことはほぼ終わったらしく、提督一同は椅子にどっかりと座り、いつもよりも多めの食事を頼んでいた。セレスだけでなく間宮や伊良湖もその要求に即座に応え、とびきりの食事を提供。その美味しさに満足感を得て、大きく息を吐きながら疲労を癒していった。
「疲れた時にゃあ、やっぱ美味ぇ飯っスね」
「本当にな。今までも良かったが、殊更に美味くなった気がする」
昼目提督のみならず、この食堂を多用する軍港鎮守府の長たる保前提督すら味が更に良くなったと絶賛。セレス効果であることを給糧艦から伝えられ、なるほどと納得。食の探究者の影響力は、とんでもなく大きい。
実際に作業をしていたのは冬月くらいなのだが、その光景──悲鳴がわずかに工廠に漏れるほどの処置──を責任を持って間近で見ていたら、精神的な消耗は計り知れない。それを癒すにはやはり食であると、その絶大な効果をコレでもかというほど披露していた。
「用意してもらえた夜食も素晴らしかった。これで夜通し調査が出来るな」
「お前はマジでいい加減にしろ。寝ろって言ってんだろうが」
「本当ですよ。徹夜は良質な思考能力の低下に繋がりますから、最大のスペックで調査したいなら睡眠は欠かしてはいけません。そう説明したはずですが」
保前提督と明石からそう言われても、冬月は素知らぬ顔。涼月もニコニコしているだけ。これは徹夜での調査を一生やめる気は無いなと察せられる。
「もう殆ど終わったってことなら、ハルカちゃんもそろそろお休みか?」
「ええ、ちょっと疲れちゃったし、今日はもう少しやったら休ませてもらうわ。一応は休暇のつもりでここにいるんだもの。脚も良くなってきたし、あと少しよ」
それでも杖は使っているため、完治とは言えない。コレも無くなれば、伊豆提督は完全復活と言えるだろう。
脚を撃たれたことを1週間で治しているのは相当早い。やはり妖精さん治療の賜物。
「ここまで後始末にも参加出来ていないから、他の後始末屋には多過ぎるくらいに借りが出来ちゃったわねぇ。どうやって返そうかしら」
「菓子折りでも持っていきますかい?」
「それは必要かもしれないわねぇ」
冗談めいた話ではあるが、ここで休ませてもらっている間、本来この海域の担当では無い者達がずっと後始末をしてくれているのだ。感謝してもしきれない。菓子折りだけでは足りないくらいである。何かあったら、いの一番に手助けするというくらいで無いと割に合わない。
伊豆提督達は知る由もないのだが、この海域での作業量などから、他の後始末屋もうみどりに一目置いている。これだけの仕事を、敵に狙われながら、そしてその全てを迎撃し、返り討ちにしながらも完璧にこなしていたのだから、部隊としての力も凄まじいモノだと感心している者までいる。
そのうみどりに貸しが作れるのなら、喜んで手伝おうと打算的に考えている者も。そう思いながらも後始末屋に所属しているのだから根は悪い者ではないが。
「深雪ちゃん達はどう? 鈍ってたって思う身体、慣らすことは出来てる?」
「ああ、勘は戻ったよ。その上で新しい技とか戦い方とか教えてもらってる。次の戦いはまた陸戦だろ?」
ええ、と伊豆提督も頷く。島に乗り込んでの戦いになるのは誰が考えても明確。なるべく家屋などを破壊しないように立ち回りたいならば、徒手空拳による制圧は必要不可欠。それも見越した訓練を半日続け、そしてここからもそれを進める。
伊豆提督達も、次の戦いの参加メンバーを既に考え始めていた。トーチカの時のように総力戦になるのもわかっているので、どういう分配をするか。誰を陸に置き、誰を海に置くか。調査隊の事前調査も踏まえて、完璧な作戦を現在考案中である。
「深雪ちゃんには、おそらく陸での戦いに参加してもらうわ。申し訳ないくらいに頼りにしてしまってごめんなさいね」
「大丈夫大丈夫。あたしもそうなると思ってたし、だから今頑張ってんだ。次の戦いも絶対に勝つ。勝って、あんなことをやる阿手とかいう野郎をぶっ飛ばしてやるってな」
やる気満々の深雪。伊豆提督もそんな深雪を応援したいと思えた。
「アタシが治ったら、また直接教えるわ。時間はまだもう少しだけあるもの。それくらいは出来るはず」
「ハルカちゃん直々か!? そいつは願ったり叶ったりだぜ。前もいろいろ教えてもらったけど、それだけでかなりやれるようになったもんな!」
そんな約束をして、深雪達は次の訓練のために先へと進んで行った。
「……はぁ、アタシ達も終わりに向かわないといけないわね」
「うす。冬月のおかげで、ある程度は知ってることを漏らさせましたしね」
「見た目は最悪だったけどな。二度とあんなことさせない」
「何を言う。今回はアレが最善だったんだ。また似たようなことが起きたなら、率先してあの手段を使わせてもらうぞ」
「不死身の敵なんてもう出てこないだろ……」
冬月が指をグリグリする仕草を見せると、提督一同は頭を抱えるように項垂れた。
冬月の施術は、原の生首から情報を聞き出すことに成功していたのだ。脳に直接触れることで、そこまでやってしまった。
外道な手段かもしれないが、だからと言って躊躇しない。冬月ならではのえげつない手段は、ここで確立された。
ついに冬月はやりやがりました。脳クチュによる情報漏洩。原の生首、折れた。