後始末屋の特異点   作:緋寺

731 / 1164
出洲と阿手

「さて、では午前中に手に入れた情報を纏めていこうか」

 

 昼食を終え、一度落ち着いた提督陣は、この鎮守府の長である保前提督を中心に、原の生首に対しての尋問(拷問)によって手に入れた情報を纏めていく。

 今後の作戦に役に立つ情報がどうかも、ここにいる者達で精査していきたいところ。

 

 その情報を吐いた原の生首はというと、未だに冬月が実験台として弄くり回している。

 最初の澄ましていた表情は何処にも無い。心が壊れてしまったかのように虚な表情となり、弄られる度に、小さく呻くくらいしか反応もない。冬月が施した尋問(拷問)によって、プライドも何もかもをぶち壊されてしまっていた。

 

「死ねない身体を恨むんだな。まぁ殺してやることは出来るんだが、こんなに都合のいい実験台(モルモット)は他に無いのでな。貴様らがやってきたことなのだから、当然貴様らも受け入れて然るべきだろう」

 

 話しながらもまだ脳に手を突っ込んでグリグリと捻り、さらに情報が引き出せないかを確かめているが、流石に搾り出したかと冬月もそろそろ弄るのを止める。

 元帥からの指示でリミッターが外れた冬月は、ここまで残酷になるのかと、保前提督も呆れている程である。しかし、ここまでやったからこそ情報は手に入ったし、ここまでやられてもいいくらいにこの生首の罪は重い。第二世代の大本営にも少なからず恨みを持っている丹陽や明石は、原のこの末路を見て同情すらしなかった。

 

「まず明石、主任にも調べてもらった、ソレの中に仕込まれていたモノのことだが」

「はい、主任と調査したところ、成分は見た目通りに深海棲艦の艤装の一部、しかも核に近い部分でした。身体を深海棲艦に変えるための触媒と見て間違いないでしょう」

 

 明石と主任、2人のプロフェッショナルによる調査により、原の頭に埋め込まれていた物質は、深海棲艦の核とも言える部分に近いモノであった。意匠は忌雷に近くなっており、()()()()()()と見てわかるような品である。

 そこから考えられたのが、原を深海鶴棲姫の姿に変化させるための触媒であること。忌雷に侵食されて深海棲艦化するモノのプロトタイプだと考えれば、おおよそ辻褄が合うような構造をしていたという。

 忌雷そのものを調査することは出来ていないものの、今は特機がある。それとの共通点がいくらか確認出来たことが、変化を促すための物質だと決定づけた。

 

「コレ自体は、かなり過去からあったモノみたいですね。それこそ、30年前……は言い過ぎかもしれませんが、それに近いくらいには」

「となると、それと同じモノが平瀬さんや手小野さんの頭の中にも」

「入っていると考えられます。しかし、ご覧の通り、抜き取ったところで身体が元に戻るわけでもなく、力すら失われていない。一度変えてしまえばお役御免なのでしょう。それに、これをもう一度埋め込んだからと言って同じ効果が得られるわけでもないでしょうし」

 

 壊れているというわけではなく、()()()()みたいなモノだと思えばいいと、明石は説明した。一度その効果を及ぼしてしまえばそれでいいので、1回分の力を使ったらそのまま底を尽きるというだけ。片道切符を渡されて、身体を変化させたら終了。

 出来損ないとなるリスクもあるので、本当に片道切符だったりするのだが。失敗したら命も尽きる。成功したところで戻ってこれない。

 

「特異点の力が必要とはいえ、忌雷が可逆性になったのは……まぁ今はまだわからないことですね」

 

 少しだけ言い淀む明石。主任もそこについては何も示さず。だが、2人はそうなっている理由が何となくわかっていた。忌雷の原材料──妖精さんの()()()()()であろうと。

 特異点が妖精さんの色──カテゴリーAも含んでいることから、その性質に紐付いて、特異点の色に染まったのではないかと仮説を立てている。だが、今はまだ公表はしない。覚悟が決まっていない。

 

「ともかく、どのように深海棲艦化させたのかはひとまずコレと考えます。それを踏まえて、カテゴリーYを人間に戻す手段を研究していきたいと思います」

「お願いね。とても難しい、特に負担がかかる研究だと思うけれど」

「やらせてください。これもまた、奴らに対しての私達の出来る反抗ですから」

 

 これには明石も主任もやる気充分。少しだけでも手がかりになりそうなモノが見つかったのだから、それを足がかりに先に進んでやると燃えていた。

 

「では次、奴らの組織図についてだ。これはその頭がゲロってくれたな」

「うむ。緩急をつけたことが功を奏したようだ。おそらくだが、私のこの弄くり回したやり方、忌雷のやり方に近いのではないかと考えている」

「見てるこっちは頭が痛くなったけどな」

 

 その緩急をつけたやり方というのが、冬月が運良く見つけた脳内のツボ。少し特殊な入れ方をすることで、激痛が途端に()()()()()()()。脳内物質を異常なカタチで出す特殊なやり方だったようで、それを見つけた冬月は、うわとドン引きしていた。

 だが、それが忌雷のやり方、自らの侵食を受け入れさせるための手段だとわかると、冬月はコレでもかと言うほどに多用した。お前達がやってきたことだぞとわからせるため。緩急をつけたというのはそこである。激痛と快楽を波にして使ったことで、ついに原の心を折ることに成功した。

 

 敵と同じ手段を使うことに抵抗がある、なんて考えは冬月には無い。使えるモノは全て使う。代わりに、キッチリ理性が働いているため、それがダメだとわかっているなら二度と使わない。使()()()()()()()()()()使()()。それこそ、不死身の敵なんて存在は格好の餌食である。

 一般人に使おうなんて絶対に考えないし、普通の深海棲艦にも使わない。原や阿手のような、明確な敵、かつ今まで外道な行いをし続けていた者にのみは、倫理観を捨てて実行する。やりたいと思っても、その欲を解放することは絶対にしない。

 保前提督はそこだけは安心している。それはそうとちゃんと寝てくれとは思っているが。

 

「やっぱり、内部で派閥が出来ていたみたいね。で、原さんは阿手派……無理矢理にでも成果を出すために一般人を巻き込むことも厭わないタイプだと」

「というよりは、オレ的には出洲の方がちょいと驚きやしたぜ。アイツ、コレまでずっと無理矢理やるなんてことは無かったってことですからね」

「ええ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……だものね」

 

 ここが出洲派と阿手派の完全に違えている部分。

 阿手は自分の欲望をカタチにするため、その成果を見せつけるため、嫌がる者でも無理矢理捕え、洗脳を施すように自分の手駒へと変えていく。その中で出来損ないになっても使えないゴミくらいに考えつつ、それを有効活用するように更なる改造を施したりとやりたい放題。

 だが出洲は、改造を施す相手は自己申告をした者のみ。嫌がる者には何もしない。それで出来損ないになってしまったら、それはそれで仕方ないと次の研究に行こうとするのは、やはり倫理観が欠如しているとは思われるが、阿手とは考え方がまるで違うと言える。

 

「平瀬さんや手小野さん……それに桜ちゃんやそのお姉さんの春ちゃんは、阿手に捕らえられて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことで改造された……とも考えられるのよね」

「つーか、その生首がそんなこと言いましたね。()()()()()()()()()と」

 

 出洲一派の内部事情がコレである。人間だった頃、第二次深海戦争の時の立場からして、元帥だった原、提督だった阿手と比べると、一介の研究者だった出洲は2人よりも数段落ちる位置にいる。故に、艦娘から目をつけられる矢面に立たされて命を奪われているとも。原や阿手の隠れ蓑にされていたようにすら感じた。

 だが、一度死に、そしてカテゴリーKとして蘇り、全ての要素を取り込んだ異常な力を手に入れたことで、一派の中のパワーバランスは完全に崩れた。しかし、出洲自身の研究者気質は何も変わっておらず、狂った思想を持ちながらも、研究は最低限の倫理観、嫌がる者を無理矢理被検体にするということだけはしていない。

 

 故に、阿手はその出洲の力を有効活用し、かつ自分の役に立てようと、ハメながら協力関係を続けてきたのだ。気を失わせた者を自己申告したと偽って改造を施させ、そのやり方を自らの者とし、さらに改善、いや、()()を続けたことで、曲解能力や忌雷などを生み出していった。

 ある地点から、出洲と阿手はその思想が完全に別モノになっていると言っても過言では無い。

 

「阿手も原も、出洲を飼い慣らしてきたつもりなんでしょうね。自分達の利益のために、その思想を狂わせて、研究だけさせてその手柄を掠め取ってきたようなモンですぜ」

「平和のための選民思想は許せるモノではないし、自己申告したからと言ってやっていいことと悪いことはあるけれど、出洲もそういう意味では被害者と言えるのかもしれないわね……何一つとして許されはしないけれど」

 

 平和のためには特異点が不要だとか、人類には戦いが必要で成長が必要だとか、そういうところはやはり狂っている。どれもコレも許される思想では無い。

 だが、そんな思想すら私利私欲のために利用していた阿手は、それ以上に邪悪な存在だと誰もが理解した。

 

「忌雷もそうだし、島を占拠しての研究も、ほとんど阿手の独断……暴走とも言えるでしょうね。出洲も最初はそこが全員自分の思想を受け入れて自主的に協力しているモノだと思っていたんでしょうけど、次第に阿手のやり方が明るみになって、しかもかなり強引なモノにもなってきたから」

「出洲的にも阿手が邪魔になってきたと。ハメられていたことにも気付いたんだろうな」

 

 出洲自身、自分の研究について一定の理解を示してくれていた阿手には感謝の気持ちもあっただろう。しかし、そのやり方──非検体を無理矢理作り、人類のためではなく自分のために研究を続けることが、どうにも気に入らないと感じてもおかしくない。そして、出洲の研究を邪魔するかのようにその存在が露呈し、今や協力者すら募ることが出来なくなってしまっている。これでは百害あって一利なし。

 

「出洲は敵よ。人類の平和を脅かしているのは間違いない。でも、阿手はその上を行く邪悪な存在ね。だから、今は出洲とすら協力関係を結べるかもしれない」

「協力というか、お互い利用し合うだろうな。出洲自体は動いていないだろ。俺達が阿手を始末することに対して、何も邪魔をしないってだけだ。むしろよろしく頼むって気持ちさえありそうだな」

「ええ。阿手を庇って妨害に来るということも無いなら、まだマシよ。充分過ぎるわ」

 

 正直なところ、島では阿手派の連中以外にも、出洲一派の何者かとの交戦も視野に入れていた。あの小柄と中柄のカテゴリーKが現れてもおかしくないと。

 だが、今ならばその心配も無いのではと考えられる。何せ、出洲派は阿手派のことを完全に見捨てているのだから。

 

「オレ達が島に襲撃仕掛けた時に、あのK連中が手伝ってくれたりして」

「そんなことあったら笑えないわよ」

 

 昼目提督が冗談交じりに話すが、伊豆提督は勘弁してと苦笑した。いくらなんでもそこまではしてこないだろうと。

 

 

 

 

 現在の出洲一派の内情はひとまずコレで把握出来た。詳細はまた違っているかもしれないが、阿手との戦いに出洲が乱入してくるようなことは無いだろうと確信が持てるくらいには。

 




割と早い段階で顔見せだけはした出洲。でも、その後からしばらく……というかもう年単位で暴れていたのは阿手だったという事実。正確には海賊船の辺りからですね。
出洲ってもしかしていい奴なんじゃないか?(錯乱
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。