後始末屋の特異点   作:緋寺

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新たな生き方

 原の生首への尋問(拷問)から、ある程度の情報は引き出すことが出来た。そのうちの1つが、出洲と阿手は明確に平和へのビジョンが違うだけでなく、阿手のやり方があまりにも酷いことに出洲も気付いており、完全に派閥として内部分裂していたこと。

 これから島への襲撃をしようとしている面々からしてみれば、阿手を助けるために仲間である出洲含む純粋なカテゴリーKが乱入してくるようなことが無くなったと考えられ、余計な苦労をさせられずに済みそうだと安心出来るようになった。

 

「島の内部構成は、聞いたところで情報が古過ぎるわ、どうせソレがここにある時点で、あちらもいろいろ変えてることでしょ」

「最新の島を知っているのは、特異点Wでの戦いで仲間になった3人じゃねぇですかい?」

「そうね。それでもそこそこ時間は経っちゃってるし、この情報から対策を練るのは難しいかもしれないわ」

 

 原は海賊船で首を捥がれてから、阿手の現在を知らない。万が一頭だけでもあちらに情報を送り続けるなんてことがあったら困るため、ずっと情報規制もかけられていたのだ。こちらのことがあちらに漏れないようにしているなら、逆も然りであろう。原自身に何も教えないことで、漏洩を防いでいるはずだ。そもそも通信しているかもわからないが。

 

 ともかく、原の持つ情報は古い。出洲一派の成り立ちや方針、知る限りの規模はわかっても、今どうかは知る由もなかった。吐かせる分は吐かせたとしても、これ以上はもう役にも立たない。

 

「尋問はもうおしまい。あとは元帥の言う通り、好きにしていいと思うわ。うみどりはパス。それを持っていったところで悪影響しかないもの」

「おおわしもパスっすね。これまで持ってたんスから、もう嫌ッスよ」

「……だったらココに置いておくしかないだろうが」

 

 伊豆提督も昼目提督もパス、むしろ()()と明確に拒否したことで、結局原の生首は軍港鎮守府に置いておくことになってしまう。とはいえ、もう役に立たなそうな呪いのオブジェ。冬月は未だにグリグリしているものの、もう本当に不必要なため、命がどうとか関係なしに、廃棄してしまってもいいのではと思い始める。

 

 憂さ晴らし用のサンドバッグにはなるし、砲撃訓練用の的にすることも出来るが、あまりそういうことばかりやっていると、性格が歪みそうで嫌だと、保前提督も溜息。

 

「冬月、そいつの研究に飽きたら、もう捨てるからな」

「それで構わない。だが、少し置いておかせてほしい。今でこそこうしているが、今は調べなくてはならないことが山ほどある。コレに関しては、もう後回しでも良くなったが、後でもう少し確認したい」

「任せる。だが、何かする時は報告しろよ。捨てる時も、調べる時も」

「了解した。()()()ちゃんと伝える」

「いつもちゃんとしろ。特に徹夜する時だ」

 

 善処すると言う冬月だが、これはもう守る気ないなと最初から諦めていた。明石ですらお手上げ状態。やる気があることはいいことなのだが、それで体調を崩されても困る。

 

「なら、ひとまずこれで終わりでいいな。いい加減、アレも長く見ていたくない」

 

 冬月が脳の奥で指をグリグリとするたび、生首が異様な反応を示す様は、正直見ていて気持ちのいいモノではない。いくら恨み辛みが溜まっていたとしても、気の毒とは思わずとも嫌悪感はどうしても湧いてくる。

 元元帥で第二次深海戦争を終わりに導いた功労者かもしれないが、欲に塗れた結果がコレかと呆れて、この結末を与える。人間も艦娘も深海棲艦すらも好き勝手に扱い、それを是とする組織の元トップなど、この世界にいてもらっては困ると。

 これは特に優しく世界のことを考えている伊豆提督ですら同じように思っている。かつては全人類の救世主であった大本営の元帥は、今や全人類の敵。コレまでやってきた数々の罪を償うため、極刑に処するべきであると。

 

「ハルカ、お前傷の具合はどうだ?」

 

 ここで話を変え、うみどりの休暇のことに。

 

「そうねぇ、もう随分と良くなったけれど、杖がもう少し必要なの。明日までは様子見して、早ければ明後日で出ることになるかしら」

「ちょうど一週間になるな。区切りとしてもちょうどいいだろ。まだ厳しいって言うなら早めに言ってくれ。滞在期間を延ばしておくから」

「ごめんなさいね。お願いするわぁ」

 

 現在が五日目。今日は既に半日過ぎているが、翌日も休息に使い、これで大丈夫だと感じたら、さらにその翌日に出港と考えている。

 来港してちょうど一週間。ここまで長々とただ休息のために滞在するのは初めてであろう。前回は軍港都市が戦いに巻き込まれてしまったために滞在が長引いてしまったが、今回はそれもなく、調査などはあったが艦娘達は全ての時間を休暇に充てられている。長過ぎて訓練を始めてしまったくらいだ。

 

「ハルカ先輩も、たまにはコレくらい休んでもバチ当たんないですぜ」

「そうかしらねぇ。後始末も大分休んじゃってるし、身体だけでなく仕事もリハビリが必要な気がするわ」

「まぁ気を張りすぎるのも考えモノってことだな。ハルカ、今日か明日の夜、ちょっと外で呑もう。俺も今回に関しては気晴らししたい」

 

 生首への尋問は、それを見ているだけでメンタルを消耗する。それを発散するために、先日元帥達としたように、上位陣だけで呑み会を開こうと提案した。伊豆提督もそれには賛成。せっかくなのだから、休息の時間を堪能して終わろうと考えた。

 

 

 

 

 この尋問、神風や伊203が訓練の最中に微かにだがその悲鳴が聞こえてくるくらいのことをしているため、近くに置いておくわけにはいかないと、艤装人間達は全員、少し離れたところに置かれている。

 悲鳴を聞いたことが刺激となり、それをきっかけに意思を持たれたら困るからである。それが刺激となった場合、邪悪な存在になりかねない。

 

 その離れたところというのが、工廠からも離れた別室。本来なら宿泊用に用意されている場所だが、今は緊急事態だからと、詰め込むように配置されていた。

 だが、その尋問ももうおしまい。冬月はまだ生首を弄ってはいたが、刺激になるようなことはもうしない。

 そのため、再び工廠の奥へと移動させる必要がある。それを行なっていたのは──

 

「おお……なんかすげぇな」

 

 既に意思を持つに至った艤装人間の3人。特に特撮ヒーローにより刺激を与えられた蒼龍顔が率先して動き、慎重に歩かせて工廠奥へと入っていく。見た映像がそれだからか、リーダー気質を発揮しているようだった。

 訓練休憩中の深雪もその光景には目を奪われてしまう。艤装人間であっても、意思さえ持つことが出来れば、自分達とは何も変わらない。共存が可能であることがよくわかる。

 

「3人には3人の役割が与えられるらしい」

 

 そう話すのは同じように訓練休憩中の響。調査隊として、意思を持った後の艤装人間に対しての調査もしたらしく、その際に少し話を聞いたとのこと。

 

 今は鎮守府内で働いているが、それだけでは留まらず、鎮守府に所属する艦娘達と同様に軍港都市に貢献する役割も与えられるという。特に蒼龍顔は、そのような仕事を与えられると聞いて、言葉は無くてもやる気満々だったらしい。

 

「まだ名前はつけられていないから通称で話すけど、ヘイウッド顔は昼の、蒼龍顔は夜の軍港都市警備に回されるそうだ」

「ああなってるとはいえ、あたし達より身体出来てるし、もし何かあった時もすげぇ力を出しそうだ」

「身体そのものが艤装だからね。加減してもらわないと街を壊しかねない。そこはちゃんと教え込むそうだ」

 

 人手が足りないというわけではないが、人が多いなら多いに越したことはない。その警備員に2人が加わる。

 見た目は生身であっても、実際は艤装人間──艤装装備中の艦娘と同じである。やろうと思えばそのまま敵と全力で戦うことすら出来てしまうのだ。艤装を装備していない艦娘よりも普段から強い。

 そんな2人を警備に置くため、まず教えなくてはならないのは手加減。生身の人間相手にその力を全力で出してしまったら、間違いなく命を奪う。軽々と建物を破壊することも可能であろう。それは保前提督が許さないし、万が一のことがあった場合、綾波がスクラップに変えてしまうだろう。

 

「夜の部は川内さんが調きょ……教育するらしい。昼の部はそれこそ綾波が教え込むのだとか」

「今調教っつったか」

「教育だよ教育。その時間のスペシャリストを使うんだ。良い成果が期待出来るだろうさ」

 

 夜の人気者、夜戦忍者の川内に相棒が出来るということで、蒼龍顔が新たな人気者になるのは別の話。

 

「ん? 蒼龍さんの顔の奴とヘイウッドの顔の奴はわかった。榛名さんの顔のは?」

「あちらは警備というよりはサポーターだね。事務処理だとか、そういうことをさせるらしい。それこそここの秘書艦である能代さんの補佐をすることも視野に入れているらしい」

 

 榛名顔は警備ではなく事務員。軍港鎮守府で手が足りないところを全て補う、万能な補佐官となることになる。当然ながら力仕事もこなすことが出来、見せられた映像から非常に穏やかな性格となっていることから、食堂の手伝いや、書類仕事の手伝いまで、幅広くサポート出来るように仕込まれるとのこと。

 それを教えるのはやはり能代となるようである。秘書艦2人体制となるのは、保前提督としても助かる部分が多いのだとか。

 

「ここから意思を持つ艤装人間達にも、それ相応の役割を与えるらしい。基本は警備に回すらしいけど」

「なるほどな。それこそ適材適所か。でも、見た目深海棲艦っぽいのはどうすんだ?」

「それはメイクやら何やらで誤魔化しが利く。髪も染めてしまえばいいし、艦娘なら特殊な髪色の者もいくらでもいるじゃないか」

「まぁ、うん、確かにな。桃色とかまでいるくらいだから、白髪なんて今更か」

「君のすぐ隣に白雲がいるんだ。それでも後ろ指を指されるようなことはなかったろう。この街は、良くも悪くも艦娘に慣れているんだよ」

 

 なるほどな、と深雪は納得した。それなら外を出歩こうが関係ない。軍港に貢献してくれるのなら、どんなカタチであろうと問題ない。

 流石に深海棲艦であることを全面に出すようなことをしていたら大問題だが、多少隠すようにしておけば問題は起きない。ただでさえ、セレスやムーサ、むしろ副官ル級が街中を歩いていても騒ぎにならなかったのだから。

 

「ただ、話せないことがどうしても厳しいから、そこの改善策も考えてはいるようだよ。意思を言葉にして出力する装置、なんてモノが作れれば御の字だね」

「確かに。常に身振り手振りじゃあな」

「ああ、今は冬月や涼月も忙しいようだから手を付けることが出来ていないようだけど、そろそろ考え始めるんじゃないかな」

 

 言葉がわかるようになれば、また話が変わるだろう。うみどりでもル級にそれを使えれば、これまで以上に仲良く暮らすことが出来るはずだ。

 

「さ、休憩は終わりだ。また神通さんに扱かれてくるといい」

「お前が堪能しろって言った意味がわかったよ。あたしは良い方に捉えるけどな」

「それはそれは。楽しめているならそれで良いと思うよ」

 

 よしと深雪は気合を入れて休憩を終えた。ここからまた自分を鍛える時間だ。

 

 

 

 

 艤装人間達も、新たな生き方を与えられていく。解放されたのだから、好きに生きればいい。

 




艤装人間達は多分すぐに街にも溶け込むことが出来るでしょう。いろいろありすぎて、街の住人の耐性が凄い。
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